その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2015年06月

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ユーガトウを止めたのですが、『僕の頭痛……』の方を5日連続で掲載出来る筆力もないので、月水金でいく予定です。
ユーガトウを楽しみにしていた方には申し訳ありません。
掲載が出来るぐらいタメができたら再開します。
今はとにかくそうとしか言えません。
今後ともよろしくお願いします。 
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 全校集会はそこで解散となったが、下級生達が何かを見つけたらしく、一人を囲んで騒ぎ始めた。
「見てよ、さっき先生が言ってたのってこれじゃない?」
「何それ」
「あ、私のも表示される」
「なにこれ?」
「さっき先生が言ってたじゃん、つないじゃダメよ」
「変な名前〜」
 あかねはそれが『BITCH』のことだと思ったが、確かめて見ようと思い、その集団に割り込んで画面をチラ見した。
「やっぱり……」
 あかねはその画面に表示されているのが、美樹先輩の動画が見れるという、例のWiFiスポットであることを確認した。
 これが、今日川西がいなくなるのと同時になくなれば、すべては終わる。もうスマフォを初期化しなくて済むのだ。
 あかねは体育準備室の方をじっとみてから、教室へと帰った。
 放課後、女バスの練習が終わると、あかねは体育館へ行ってみた。今日は体育館が使えないため、校舎横のスペースで基礎練だけだったのだ。まだ明るい学校内を歩きながら、もう川西が来たのか、それとも帰ってしまったのかを考えていた。
「あ、岩波さん」
「部長…… あっ、もしかして」
「ん? 川西先生? もう片付けて出てったって」
「そう、なんですか」
「岩波ってさ…… 何でもない」
 部長は手を振って廊下を校舎へ戻っていった。
 あかねは、いなくなったのが確実なら、これで確かめられる、とスマフォを取り出した。
 設定画面を開いて、WiFiを表示させた。
 体育館に近づくにつれ、すこし緊張してきた。
 体育館の入り口では、全く反応がなかった。中では別の部が活動をしているため、あかねは外を回って、一番反応が強かった隅の方へ歩いた。
 WiFiのリストが少し書き換わる度、足が止まった。しかし例の『BITCH』は表示されなかった。
あかねは、もうこの場所が体育館の隅に位置することを確認すると、もう何度か画面が更新されるまでじっとスマフォを見つめた。
「……やった」
 あかねは、小さくそうつぶやいた。
 川西とともに、あの忌々しいWiFiスポットが消え去った。おそらくなんらかの機材を引き上げたに違いない。
 すでにスマフォにあった様々なものを失い、BITCHが無くなったところで、あかねは得るものは何もなかったが、何か清々しい気持ちになっていた。
 あかねは嬉しい気持ちが顔に出てしまうことを抑えられなかった。
 走りながら校舎に戻ると、外履きに履き替えて外に出た。校門を出るまでに何人にも声をかけられた。『あかね、何かいいことあったの?』あかねは、それにうなずいて応えるだけで、それがなんだったかは言わなかった。
 すべてが終わった。
 川西が去って、何もかも平和になる。
 あかねは学校の角の交差点の、公園が目に入った。
 一瞬、何が見えているのか、分からなかった。
 笹崎先生がいるのが分かった。
 もう一人。
 微笑みながら楽しそうに、笹崎先生と会話する人がいた。
 ただ、先生と生徒が楽しそうに会話しているだけだった。それだけなのに、何か、理由のない嫉妬があかねの心を暗く覆った。
 笹崎先生の反対側にいた生徒は、あかねが一番よく知る人物、安村美沙だった。
 あかねはバッグを抑えていた自分の手が、震え始めたのを感じた。



((『ユーガトウ』はしばらく休載します))


ーーー
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 そうして何事もなく数日が過ぎた。
 川西がいなければ、仲間がいがみ合うこともなかった。塾の帰りバクバクバーガーで美佐と話したり、早弁をしたりする平凡な日常だった。
 部活に顔を出す顧問が笹崎先生に代わったが、川西の話が終わってしまえば、あかねと先生の接点はないも同然だった。先生が直接ボールを使って指導することもなく、部活内の萌え要素は香坂の姿を見るぐらいだった。ただ、例の理科室から飛び出してきた時以来、あかねと香坂の間に挨拶以外の会話はなかった。
 あかねは、また退屈な学校生活が始まる、と思って登校してくると、構内放送があった。
 どうやら全校集会をするから体育館に集まれということだった。
「川西先生のあれかな?」
「……そうかもね」
 あかね達には、全校集会をする理由が他に想像つかなかった。
 副校長が壇上に上がると、ざわつく体育館が急に静かになった。
「本日は、先生の異動について発表があります」
 川西の異動のことだ、とあかねは思った。
「みなさんもご存知かとおもいますが、保健体育の川西祐介先生が、急遽、一身上の都合により、上黒郷高校へ異動なされました。なお後任の先生は探しておりますが、まだ決まっておりません。しばらくは体育の時間割を変更して、いまいる先生方でやりくりしますので、しばらくの間は時間割に注意してください」
 一身上の都合、という言い方をすると、まるで川西が望んで異動したように聞こえる。果たして川西がこんなに慌てて異動する意味があるのだろうか、とあかねは考えた。
 場所が悪いとしても、上黒郷は県の北側とはいえ、そもそも川西の自宅は東西に伸びる路線の沿線沿いだ。上黒郷に通うほうが無理がある。
「上黒郷高校って、確か男子校だよね」
「知らねぇけどワルの多い学校だろ、あそこって」
 小声で話しあっている。
 あかねは上黒郷高校がどんな学校かは知らなかったが、周りで話している通りだとすると、わざわざ異動を希望するような学校ではないようだった。副校長の説明は何か隠しているように思えた。
「急である関係で川西先生の挨拶はありませんが、今日荷物をとりに来られることになっております。もし時間が合ってお会いしたのであれば、恩師に感謝とお別れの挨拶をしてください」
 恩師? 感謝の言葉? あかねは思った。
 出ていってくれてありがとう、とか言っていいってことだろうか。
「副校長先生のお話を終わります。気をつけ、礼」
 皆が頭を下げた。
 ここまで話しで、あかねはふと川西が何かの処分を受けたのではなく、単に急な異動、それも一身上の都合による、として片付いていることに疑問を持った。
 当初、何かの理由で処分された、という話だった。
 だから笹崎先生からのセクハラ問題のリークを疑ったわけだし、みんなが女バスのセクハラ事件がおおやけにならないか、と心配していたのだ。
 今、副校長の話から聞こえてくるのは、単なる異動、それだけ。
 本当にこんな簡単なことだったのだろうか。
 あかねは腑に落ちないことだらけだった。
「次に生活指導の鈴木先生からお話があります」
 壇のしたに鈴木先生がマイクを持って現れた。
「すぐ済ませるから静かに聞いて。学校にスマフォを持ち込んだりスマフォの使用は許可されてはいます、ただ、最近使い方で、不注意が多いようです。むやみに知らないWiFiスポットに接続しないように気をつけてください。パスワードのかかってないところは、無料かもしれませんが、内容を盗み見ようとしている罠かもしれません。よく分からないWiFiスポットに気軽に接続しないように。何件か被害も報告されているようです。細かい内容は県の教育委員のホームページにPDFで載せていますので、よく目を通しておくように」
 鈴木先生が、進行役の先生に何か合図した。
「終わります。気をつけ、礼」
 皆が礼をした。


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ユーガトウの方を今週でお休みにさせていただくかもしれません。
実は、まだ決めかねていて、例によってあいまいな感じの表現となっており、すみません。
ユーガトウがお休みになったら、月、水、金で『僕の頭痛、君のめまい』として掲載します。
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 体育館には笹崎先生がいて、部長と同じような説明をした。川西先生の処分理由はわからないこと、今日から別の高校へ異動になっていて、もう土屋高校の先生でも、バスケ部の顧問でもないこと。
 噂話を両親に言わないこと。異動になったのは事実なのでそれは話してもいい、けれど部活であったことなどを付け加えて話すことはしないこと。
 すべては部長の言ったことの言い直しだった。
 なぜなのかは全く闇の中。
 あかねは、ふと、例のWiFiのことを思い出した。
 部活中も確かめたくてしかたなかった。川西がいなければ、例の変なWiFiがなくなるのか。逆に、川西がいる間はあるのか。
 部活をめちゃくちゃにした川西が突然いなくなることで、女バスの問題は一気に解決するはずだった。
 川西の側につくとか、反対側とか、そういう問題はなくなるはずだ。
 あかねはそれが解決しても、神林や町田、山川らのとの溝は解決しないだろう、と思っていた。川西がどこかで関係していたとしても、そうでなかったとしても。
 あかねにとっては、全部が川西のせい、と思っているが、多分それでは済まないだろう。川西がいなくなったから仲良くしよう、というのはなにかこちら側の都合だけを押し付けているようだった。
 練習の間、神林や町田、山川の顔をちらちらと見ていたが、やはり練習中は普通だった。どのみちもうこの娘(こ)らと関わることはないだろう、とあかねは思っていた。結果、こうなるなら尾行などしなかったのに、わざわざ嫌われることはしなかったのに。
 あかねは、ふと、香坂の視線に気づいた。
 どうやら、あかねのことを見ているようだった。そう思って香坂をみると、香坂は目線をそらした。なんだろう。理科準備室のことが気にかかっていた。練習中に近づいて、何か話すチャンスがないかと思っていたが、なかなか近づくこともできず話しを聞けなかった。
 集合がかかった後、練習が終わった。
 香坂はダッシュで体育館を出ていき、部員がみんなビックリしていた。
「美々ってなんかあったの?」
「なんか用事があるからって言ってました」
 あかねはそんなやり取りを聞いて、そうなのか、と思った。別に理科準備室のことと、急いで帰ることはつながりはないのだ。
 あかねは、持ってきていたバッグからスマフォを取り出し、体育館隅に行ってしゃがみ込み、WiFiチェックした。
「あった」
 例の『BITCH』だった。まだ存在する。
 川西はまだ謹慎になっただけで、学校に置いてある私物はそのままのはずだ。この後、川西先生が荷物を引き上げた後に無くなっていれば、このWiFiは川西が仕掛けたものだった、ということになる。
「何があったの?」
 笹崎先生が立っていた。 
 一瞬、話そうか、ということが頭をよぎった。
「前から欲しかったシューズです。ネットで探してたんですよ。今、在庫がありに変わってました!」
「別にこんなところで探さなくても」
「電波の入りがいいんですよ」
「こんな隅っこが?」
「それじゃ、先生、もっといい場所あります?」
「……確かに調べたことないけど、隅は鉄筋が集中するから、あまり電場状況がいいとは思えないわね」
 笹崎先生はそう言ってから、他に残っている部員を追い出すように回っていった。
 あかねは支度を終えると体育館で、笹崎先生を待った。
「先生」
 笹崎先生は消灯したのを確認してから、体育館に鍵をかけるところだった。
「何かしら」
「川西先生って片付けに来ますよね?」
「おそらくね」
「いつくるとか聞いてます?」
「最初に話した通り、まだ何もわからないのよ」
 鍵をしおえて振り返ると、先生は言った。
「退任の挨拶をするかもしれないわね。その時に一緒に持ち帰るんじゃない?」
「そうですか。ありがとうございます」
「なんでそんなこと聞くの?」
「最後、川西先生に挨拶したいんです」
 あかねは嘘をついた。
「そう……」
 先生はポンと肩を叩いてから言った。
「さようなら。気をつけて帰ってね」
 あかねも挨拶をして部室へ駆け戻った。



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体が悪いとかで、そういうわけではないんですが…
ちょっと話を作るのがしんどくなってきました。
休むかもしれません。
曖昧ですみませんが。
今週内になんらか判断します。
本当にすみません。
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 放課後、部活のために部室に行く途中、あかねは橋本部長達と一緒になった。
「岩波さん、川西先生のことって何か聞いた?」
「いえ。先輩は何かご存知ですか」
「ああ、あのあとね……」
 言いかけた部長は、他の先輩方と顔を見合わせてから、
「あのあと、実は、職員室に行ったの。顧問の先生が不在だと部活はできないんでしょうかって」
 あかねはつばを飲んだ。
「先生方の結論は、笹崎先生がいるからいいだろう、ということだった。そもそも先生方も川西の処分内容も、理由も、何も知らなさそうだった」
「言えないような理由だから、という感じではなかったですか」
「どう?」
 また、先輩方は互いに顔を見合わせた。
「知っていて言わないのか、本当にしらないのかは判断つかないわ。個人的には、あの感じは誰も知らないんじゃないかと」
「朝、来るなり校長が呼び出されて、ずっといないらしいから、きっと、今日、学校にいる先生は誰も川西の処分の内容をしらないのよ」
 あかねは先輩の顔を見ながらうなずいた。
 結局、処分の理由が私達のセクハラのせいなのか、それとも全く違う不祥事なのか、それが分からないと私が責められてしまう。昨日は笹崎先生が投票で処分の決定をすすめる、として、場が収まったたばかりなのに。
「岩波さんは心配しなくていいのよ」
「ですが……」
「笹崎先生がいる、という形で部活をしていいことになっているし、理由がわからないけれど、川西が処分されてしまえば、あの問題を考える必要はないでしょ」
「けれど一部の部員はセクハ(ん)」
「あ、ごめん」
 部長が、あかねの口に手を当てた。
 どうやら部員以外の生徒が周りにいたようだった。
「大丈夫。なんにせよ、岩波さんに責任はないから。可能性があるとすれば笹崎先生ね」
「え……」
「だって、川西を処分できる材料を持っているのは笹崎先生だけでしょ」
「昨日の感じだと、アノ問題はちゃんと目で見ないと、と言ってました。私達が書面で申し入れている訳でもないですし、勝手にあの問題で教育委員会に対応させるのは無理なんじゃないですか?」
「だから、笹崎先生が密告した、とは言ってないでしょ。可能性があるのが笹崎先生だけ、ということで、笹崎先生が犯人というわけじゃないわ」
 疑ってはいるが、確証は何もない、といったところだろうか。
「多分、なんにも関係ない話ですよ。単に川西が自爆したんです」
「何? 自爆って?」
「自業自得って感じで」
「あの事件以外にってこと?」
 あかねはうなずいた。
 ちょっと先生をつけたぐらいで…… あんなに怒るのだから、そういう感じに、あちこちで事件を起こしているに違いない。あかねはそう思っていた。
「例えば?」
「よくわからないですが、脅迫とか」
「何か根拠あるの?」
「いえ…… なんとなくです」
 なにか、呆れたような感じのしぐさをした。
「あまりそういうことを言って回らないほうがいいわ」
 あかねは、反省した。
 確かにひどいセクハラ男だが、他のことは本当に推測でしかない。
「はい」
 橋本部長に頭をポンと叩かれた。
 部室につくと、いつもより声は小さかったが、話し声は多かった。全ては川西絡みの話題で、なんの処分がされたとか、代わりの先生は誰なのかとか、そんなことばかりだった。
 部長が言った。
「ちょっと話を聞いてくれる」
 全体が静かになるまで、部長は間をとってから、
「川西先生の話だけど」
 部長は話し声のする方を向いて、口に指をたてて静かに、と合図した。
「川西先生の話だけど、他の人に聞かれても勝手な話をしないように。なんのきっかけでどういうことになっているのか、まだ誰も知りません。いいですか。特に学校外の人、父兄にはまだ何も話さないでください。こちらに連絡がありしだい、『リンク』等で連絡します。いいですか、まだ誰にも話さないでください。以上」
 しんとした部室で、一人が手を上げた。
「顧問いないのに部活はどうなるんですか?」
「笹崎先生がいますので、部活は続けていいそうです。他には何か質問はありますか?」
 麻子が手を上げた。
「笹崎先生は信用できるんですか」
 なんらか、アノ問題のリークがあったと考えるのが妥当だ。しかし部長は毅然としていた。
「それは個人で考えてください。部長が回答することではありません」
「それは信用できるということですか?」
 一年生が食い下がった。
「少なくとも現時点では信用できます。川西先生の処分と、バスケ部で以前から抱えていた問題は別と思っています」
「え? それマジ」
「そんなわけないでしょ」
 部室がざわついた。
「急に昨日の今日で笹崎先生が川西を処分に追い込むのは無理です。やはり何か違う理由があったと考えます。何か、確たる証拠の残ることで。たまたま処分が今日だったということです」
 あかねは部室の時計を見ると、もう部活が始まる時間を過ぎていた。
「さあ、川西先生のことはこれまで。今日も体育館を使えるから、さっさと部活を始めましょう」
 部長がパンパン、と手を叩いて部員を追い出した。もうこの話はおしまいという意味だった。
 あかねも着替え終わると、部室を出て体育館に向かった。



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 教室に戻ると皆は自習に入っていた。あかねはさっきまで抱きついていた美沙の香りで夢心地だった。美沙との別れ際、教室に戻らずにそのまま保健室へ行ってベッドで自慰をしようか、と真剣に考えてしまった。
 あかねは、さっきの国語の復習を始めた。授業中は、笹崎先生のことを考えていて、ほとんど聞いていなかったのだ。
 教科書を開くと同時に、理科準備室での笹崎先生の態度を思い出してしまった。
 あっという間に、美沙のことは忘れ、笹崎先生のことを思い出してしまう。
 つらいことと楽しいことがあるなら、楽しいことだけ続けていればいいのに。
 何故そうならないんだろう。
 理科の教科書ならともかく、全くつながりのない国語の教科書を開いただけなのに、笹崎先生のことを思い出してしまう。その理由は、あかね本人もわからなかったが、今はただ、つらくて悲しかった。
 あかねは頬杖をつきながら、ぼんやりと黒板の方を見て、そして目をつぶった。
 モヤモヤした記憶の中の、香坂美々が理科準備室から出てきた。
 確か、小さい声で何か言ったはずだ。
 香坂が飛び出してくる様子が、スローモーションのように思い起こされた。
 あかねとぶつかって、二人は扉の前で倒れてしまった。
 近づいてくる美々の顔。
 ここだ。
『ごめんなさい』
 確かにそう言った。ごめんなさい、と。
 そう言うと慌てて立ち上がって、去っていってしまった。
 香坂が慌てて飛び出してくる理由?
『ごめんなさい』
 それは素直に考えれば、ぶつかったことに対して謝っているのだけれど。
『ごめんなさい』
 それだけではないような、何か、違うような。
 あかねは何度か同じシーンを思い返していた。
「あかね、お弁当食べた?」
 アッコがそう言った。
 目の前で見えていたはずなのに、急に視界にはアッコがいた。
 あかねはビクっと驚いたように体が震えた。
「! ……ううん。まだ」
 あかねは答えた。
「食べないの?」
「うん。まだね」
「どうかしたの?」
「どうもしないよ」
「それがどうかしたの、ってことだよ。教科書なんか開いちゃってるし」
「私だってそういう気分の時があるのよ」
「ふうん」
 アッコは前を向いて、お弁当を出して一人で食べ始めた。
 弁当なんて食べる気分じゃないの。
 あかねはそう思っていた。
 けれど勉強も手につかない。
 気持ちが安定しない。
 恐れと不安と嫉妬。
 今渦巻いている感情は、皆女の子に対してのことばかり。
 男の子は出てこない。
 興味ないのだからいいのだ、と思うが、それでいいのか、という気持ちもある。
 母が心配しているから。
 私が『普通』じゃない……から。
「はぁ……」
 あかねはため息をついた。
 急にアッコが振り返った。
「ほらっ!」
 アッコはそう言うと、冷食のミートボールを小さいようじで突き刺して、あかねの口に当てた。
 あかねは最初は口を閉じていたが、パクっと食べてしまった。
「ね?」
「うん。食べよう。やなことは忘れよう」
「そうこなくちゃ!」
 アッコがお弁当をもってあかねの方を向いた。
 あかねも弁当を取り出して、机においた。
「いただきます」
 母さんの作ったお弁当は、あかねを笑顔にした。
「あかねのお母さんって、きっと料理上手だよね」
「えっ? それ、なんの話? あっ、ミートボールのかわりは、唐揚げでいい?」
 あかねは唐揚げを一つ、アッコのお弁当にのせた。



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 理科準備室に近づくと、扉が急に開いた。
 ここには誰もいない、鍵が掛かっている、という先入観もあり、あかねには何が起こったか理解できなかった。
 中から飛び出してきた娘(こ)が、ドン、とぶつかってきた。
 それは香坂美々だった。
 二人は顔を見合わせると、香坂が先に目線をそらした。すると、ごめんなさい、とだけ呟いて、そのまま立ち上がると行ってしまった。
 あかねはゆっくりと手をつき、立ち上がると、開きっぱなしの扉の中を見た。
 笹崎先生の後ろ姿が見えた。
 今の出来事に気付かなかったのか、何か考え事でもしているのか、全く振り返ろうとはしなかった。
「先生」
 あかねは沈黙に耐えかねて呼びかけた。
「岩波さん? 何のようですか」
 部屋に入ろうとすると、気配で察したのか、笹崎先生が言った。
「今は忙しいの。川西先生のことは知りません。私は忙しいのでその他の質問にも答えられません。扉を締めて、教室に戻ってください」
 なんだろう。何があったのだろう。
 言い方もそうだし、返事の内容も何かぼんやりとした感じだ。
 いそがしいからそこを締めて帰ってくれ。
 未だ一度も振り向きもしないなんて。
 私がこんなに不安なのに、そんなことは知らないかのようなそぶりだ。
 川西先生のこともそうだが、あかねに対する態度から嫌われたのではないか、という不安が沸き起こってくる。
 確かに笹崎先生に気持ちを知らせている訳ではない。笹崎先生と私は恋人でもなんでもない。そう。笹崎先生は私がどれだけ先生を好きか知らない。
 けれど……
 美々は部屋に入れたのだ。
 そこから出てきた美々とぶつかっているのだから、間違いない。
 私は入れない。
 その違いはなんなんだろう。
「岩波さん、あなたのクラスは自習の時間のはずです。教室に戻りなさい」
 扉を閉めることが出来なかったあかねに、笹崎先生は追い打ちをかけるように言った。
「先生……」
「聞こえなかったのですか」
 さっきから白衣の背中しか見せていない。
 というか、全く、いっさいの動きをみせていない。何か動いてはいけないゲームのように。
 そして、いらだったような口調。
 あかねは静かに扉を閉めた。
 理科準備室が見えている間は、我慢していたが、廊下を曲がったとたんに我慢しきれなくなって声がでてしまった。
 めいっぱい開いている目が、耐えきれずに涙をこぼした。
 上を向いていようと思ったが、伝って落ちる涙が、喉をつたいシャツに入ってくるから、前を向いて、下に落ちるままにした。
 教室に入る前に、お手洗いに寄って顔を洗った。
 けれど何度洗っても、涙が頬をつたってこぼれた。
「どうしたの? あかね」
 それは美沙の声だった。
 泣いている理由を絶対に話せない相手だった。
 あかねは手を震わせながら、美沙にすがった。
「ごめん」
「? どうしたの、あかね」
「わけはきかないで……」
 あかねは顔を押しつけた自分の手の甲に、涙が流れていくのを感じていた。
 美沙の手が、きゅっとあかねを抱きしめた。
「わかったよ。泣きやむまでこうしてる」
 授業が始まってしばらくの間、二人はそうして抱き合っていた。




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 あかねは、国語の授業の最中、ぼんやりと昨日のことを思い出していた。
 笹崎先生に良いところを見せようとして張り切って練習をしてしまったこと。結局投票方法について、昨日の段階で先生の言及はなかったこと。全くセクハラの不安なしにバスケの指導が受けられたこと。
 川西がいないことと、笹崎先生がきたことで昨日の部活は、全く違う活動をしているような感じだった。
「はぁ……」
「どうした岩波。ため息をつかんでも授業は今終わるから。さっさと起立してくれんか?」
 眼鏡の大橋先生が言った。
 あかねは自分だけ起立していないことに気づき、あわてて立ち上がった。
「す、すみません」
「あ、そうだ。このクラス、次の時間は体育だが、今日は自習になった。さっきの課題でも、別の授業の課題でも、好きな勉強しててくれ。体育の時間だが、校庭や体育館は使用できないから、教室で自習するように…… はい」
 促されて、日直が言った。
「礼」
 あかねは頭を下げてから、席についた。
 川西の授業が自習……
 めずらしい、とあかねは思った。
 川西の体育の授業が自習となるのが初めてだったからだ。
「あかね、どうする? お弁当食べちゃう?」
「うん。アッコも食べるでしょ?」
 自習があればそこでお弁当を食べてしまうのは通例になっていた。で、昼は何を食べるかというと、購買でかったパンをデザート代わりにするのだった。
「自習って川西どうしたのかな?」
「え、知らないの?」
 自慢げにアッコは言った。
「え? なんかあったの?」
 あかねはびっくりして聞き返した。
「そうだよね。顧問だもんね。知りたいよね」
「マジなんなの?」
「理由はわかんないけど、謹慎らしいよ。学校もどってくるかも分からないって」
「え? どういうこと?」
「理由はわかんないけど」
「え…… ちょっとまってよ」
「そんなに動揺する?」
「行ってくる!」
 あかねは教室を飛び出して、理科準備室に向かった。私は話してはいけない相手に話してしまったのかもしれない。川西が処分されたということは、笹崎先生が、他の先生たちに話してしまったに違いない、とあかねは思ったのだ。
 理科準備室が見えたところで、あかねは準備室の前に立っている部長と先輩達に気づいた。
 あかねは、引き返そうとしたが遅かった。
「岩波さん」
 あかねは部長の声に従い、理科準備室の方へ向かった。
「岩波さん、川西の処分の話、知ってる?」
「いえ、私も川西先生の体育が自習になったので、どうなったのか聞こうと思って、慌ててここに来ただけで」
「私たちは、笹崎先生が教育委員に言ったんじゃないかと思って確かめに来たのよ」
 笹崎先生はセクハラ事件自体を疑っているふうだったのに、教育委員に訴えたりするだろうか。
「我々部員は投票、という方法で一致していたわ。被害者として問題を公表する辛さもあるから。けれど笹崎先生がそこまで理解してくれていたのかと、すこし疑問に思うところもあるのよ」
 あかねはそこで戸口の横にかかれている札に気がついた。『不在』。つまり笹崎先生は理科準備室にいない、ということだ。
「あかねなら分かるんじゃないかと思うんだけど」
 部長がそう言った。あかねは自分の考えを言った。
「セクハラ自体の存在を疑っているようでした。部活での話しもそういう感じでしたし。急に考えを変えて川西のことを訴えるとは思えないです」
「そうね……」
 先輩方も昨日の調子からすると、確かに今日のこの出来事と笹崎先生を結びつけるのには無理がある、と言った感じだった。
「川西先生自体の処分内容と理由もまだ分かってないから、せめてそれだけでも知りたかったんだけど、笹崎先生がいないとなると……」
 部長が何か小声で相談を始めると、先輩達はどこかへ行ってしまった。職員室に行く気なのか、自分の教室へ戻っていったのかは分からなかった。
 あかねは一人残され、理科準備室の扉の前に立っていた。



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