その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2015年09月

 真琴は少し顔が熱くなった。
 そして今度は真琴が薫に言った。
「(ボクらが男女だったとしても駅チューは恥ずかしいからしないよ)」
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「昨日さ、どうしたの? 帰るの遅くなったらか、途中まであかねと一緒に帰ろうと思ったのに、出てこないんだもん」
「ごめんね〜ちょっと話しこんじゃって」
「ふーん、やっぱり先に『リンク』にいれときゃ良かったなぁ。けど、それじゃ驚かせることにならないし」
「脅かすつもりだったの?」
 美沙はうなずいた。
 あかねは、場所を変えたかった。
「ちょっと場所変えない?」
 階段の踊り場が空いていた。
 半階分だけおりて、二人は並んで壁に背中をつけた。窓が開いていて、涼しい風が吹き込んでいた。
「美沙はさ、あの」
「どうしたの? なんからしくないよ」
「うん。そうなんだ。なんか、心配で」
 美沙は不思議そうな顔であかねのことを見つめ返す。
 他人の悩みなんてどうやって聞いいいのか分からなかった。
 そのものズバリ、こちらの聞きたいことを聞くわけにも行かなかった。
 何を言っていいのか、どんどん追い込まれたような気分になって、下を向いてしまった。
「……心配で? あかね、こっちが心配になってきたよ」
「美沙のことが心配で」
 美沙が、見上げるようにして、うつむいたあかねの顔を見た。そのままあかねの耳元に顔を近づけて、言った。
「(また私の家にくる?)」
「え?」
 あかねは急に頭が熱くなった。
「また旅行でさー、良くお金あるよね。お金あるならお小遣い増やして欲しいんだけど」
「そ、そうだね」
「さっそく今日でもいいよ」
 あかねは顔を上げた。
「今日は部活、ある?」
 うなずくと、美沙はどこか天井の方に目をやり、何か考えたようだった。
「明日の朝練は?」
「ない」
「じゃあ、良ければ今日泊まりに来ない?」
「うん」
 あかねは、自分の中の、小さな心配が消えていくような気がした。
 美沙は、いつもの美沙に思える。
 だから、青葉で変なバイトしているなんて、父の勘違い以外にありえない。もうそんな小さなことをウジウジ悩むのはやめよう。
「急にこんなこと決めて大丈夫?」
「大丈夫だよ。部活終わって、一度家に帰ってから行くね」
「それでいいよ」
 美沙とあかねは自然と手をつないでいた。
 何が解決されたわけではないが、あかねの心は落ち着きが戻り、気持ちが安らかになっていた。
 本当にどうでもいい、たわいの無い会話が続いたが、あかねはそれが楽しかった。今日、美沙の家に行っても、核心に触れるようなことは聞かないだろう、あかねはもうこれ以上、深く触れたくなかった。
「そろそろ教室戻ろう?」
 急に廊下にいた生徒達が教室へ戻っていったのを見て、あかねはそう言った。
 美沙は、あかねの手を引いて、もう少し待って、と言った。



ーーー
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『ボクが殺されるところを耐えたこと?』
 ヒカリは口のあたりに手をやり、何か考えているようだった。
『そう…… ヤツは真琴を殺そうとしてきたのね』
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 遅い時間のせいか、いつもなら女性店員のところが、男の人がそう言った。
「?」
 薫がメニュー表を開いて何か読んでいた。
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 目覚めない意識のせいで、体を動かすこともできなかった。
 自分の体に布団がかけられ、そのままその人影は扉へ戻っていった。
 小さな声で、おやすみ、の声が聞こえた時、それが母だと気付いた。
 目は開いていなかったが、温かい母の笑顔が心に浮かんだ。その光景に、起きようと思っていた体の緊張感が全部抜けていってしまった。
 意識は再び寝具の底へと潜った。
 けたたましい目覚まし時計の音がなり、止めた数秒後にスマフォが鳴った。あかねはスマフォを止める為にベッドを出た。
 アラームを止めると、画面に『リンク』に新着表示があった。開けてみると、美沙からのメッセージだった。
『昨日はいつの間に学校から帰ったの?』
 それだけだった。
 美沙はあそこでずっと、あかねを待っていたのだろうか、と思った。笹崎先生とのことを勝手に想像して嫉妬して、逃げるように帰った、とは返せず、自分のしてしまったことを悔やんだ。
 それと同時に、笹崎先生と何か関係があるのではなく、美沙は純粋に私を待っていて、たまたま出会った先生と話していた、と思って、気持ちが上がってきた。
 しかし、そんなことも美沙に返すことは出来ない。
 いつもの校門を通らないで帰った、とメッセージを送らなければならなかった。
 何通りかの理由を考えたが、アリバイを作ってくれる誰がひつようだった。反対側の出入り口を使う友達と一緒に帰った、そういいわけするしかない。言い訳に使う友達は、美沙とは顔見知りでないことが条件だった。
 必死にひねり出したウソを、あかねは『リンク』に書き込んだ。学校に言ってから、一応、一緒に帰ったことにしてくれ、と頼んでおこう、あかねは思った。
 少し気分がスッキリして、学校の準備をすると、一階に降りた。
 あかねは会社に出かける父とすれ違った。
 父は目が合うと、視線をはずして、少し頭を下げたようだった。
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
 あかねは答えたが、父の態度の意味を思い出してしまい、再び心のなかにもやがかかり始めた。
 朝食をすませ、玄関に行こうとすると、後ろから母がついてきた。
「どうしたの?」
 あかねは、一瞬立ち止まったが、余計な心配をかけたくなかった。だから気にしないフリをしてそのまま玄関に向かって言った。
「どうもしないよ」
「そう」
 一瞬止まってしまったことを気付かれたのか、それとも気にも止めなかったのかは分からなかった。振り返り、母の顔をみるのが怖かった。
 顔を見たら、何もかも話してしまいそうだった。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
 あかねは学校へのいつもの道を歩き続けた。
 絶対に誰にも聞くことが出来ないモヤモヤを抱えて、気持ちは冴えなかった。
 何か、ぼんやりと青葉の通りで、歩く人に声をかけている美沙の姿を想像していたら、いつの間にか学校についてしまった。
 何か事情があるから、ああいうバイトをするのだろう。
 事情を分かってあげるのが友達じゃないのか。
 そうだった。もしそうなら、美沙のことをもっと分かってあげないといけないんじゃないのか。
 教室でバッグをしまってから、あかねは美沙の教室をたずねた。
 窓際で背中を預け、二三人と話しをしている美沙を見つけ、あかねは手を振った。
 すぐに気がついた美沙が、手を振り返してくれた。何か、周りの子に話しかけると、そのままあかねの方へ来てくれた。



ーーー
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 言い終わると、そのまま切った肉を口に入れた。
「……」
「!」
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「……冗談言わないで」
 まさか、と思い、一瞬後には、絶対にそんなことはないと考えた。
 次第に、怒りがこみ上げてきた。
 父は、美沙を指差していた。
「私の親友だから、顔を覚えてるのは間違いないと思うけど、青葉で見た娘(こ)じゃないでしょ?」
「いや、間違いない、と思うんだが」
 ドン、と音が聞こえるくらい強く、父の胸を突いていた。
「ウソ! 美沙はそんなバイトなんかしない!」
 あかねの剣幕に怯んだのか、父は小さい声で言い直した。
「……そうだな。そうかもしれない。見た時はこんな感じじゃなくて、口紅をしていて、髪型も違った。別人の可能性がある」
 あかねは、画面の中で微笑む美沙の顔をみながら、完全にない、と言えるのか、何度も問いかけた。
 父が言ったのは授業している時間帯だというのに青葉にいたりした、ってそう言ってた。美沙は学校をサボったりしない。したら私が知っているはずだもの。
 いや…… そんな事言えるのだろうか。私はそんなに美沙のことを知っていると言えるかしら。美沙はとなりのクラスだし、さっき笹崎先生と、何か親しげに話しをしていた。私はそんな二人のつながりを知らないじゃないか。
「気にするな。やっぱりちょっと確信がもてないよ。いまのは全部忘れてくれ」
 あかねは、何も言わずに画像を進めた。
「ほら、もういい。このことは忘れろ」
 父があかねの肩を押して、書斎から押し出した。パソコンの画像を閉じて、父も書斎から出てきた。
「青葉の話は誰にもいうなよ。推測で他人を傷つけたらいけないからだ。わかったね」
 自分で言い出したくせに、とあかねは思った。
 確かに何をやっていたのかまでは確かめていない。いかがわしいバイトではなく、単にチラシ配りだったかもしれない。神林だったかもしれないし、違う人かもしれなかった。だから、美沙が青葉で変なバイトをしている、というのは本当かどうか疑わしかった。
 けれど一度疑い始めた自分の心が、どうやっても落ち着くことはなかった。
 全く別のことを考えたくても、信じる自分と疑う自分が上になり下になり、ぐるぐると気持ちをかき混ぜていた。
 あかねは居間に顔を出して、風呂に入ると告げて、着替えを持って風呂場に向かった。
 あかねは、いらいらしながら、指と指、爪と爪をこすりわせていた。
 体を洗っている時も、湯船に浸かっている時も、考えることは美沙と笹崎先生の事だった。考え疲れた頃には、のぼせかけていた。
 体は綺麗になったが、気持ちはまるで泥だらけだった。ぬかるみに足を突っ込んだまま、進むことも戻ることも出来ず、ただ沈んでいくだけ。
 くしゃくしゃに髪を拭いて、乾かすことをしなかった。
 そのまま階段を登り、部屋に入った。
 美沙。
 やっぱり美沙だった。
 笹崎先生はどうでもいい。
 あかねは美沙のことを思っている、それだけだった。
 美沙が笹崎先生を好きなら、それでもいい。
 どれくらい自分の心が引き裂かれそうになっても、美沙が幸せならいい。
 あかねはベッドでのたうちまわりながら、それだけを何度も考え、思い込むことにした。
 二人が幸せなら、それでいいじゃないか。
 頭ではわかっている。
 わかっているはずなのに……
 あかねは、いつの間にか寝ていた。
 部屋の扉がノックされ、静かに開いた時、あかねはぼんやりと目覚めた。しかし体も頭もハッキリしない内に、扉から誰か入ってきて、あかねの横に立った。



ーーー
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「だって真琴、ずっと動かなかったんだよ。何も言わなくなって、あいつらが言っていたように、死んじゃったかと思ったんだから」
 そう薫が言う、小さい声が聞こえた。
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 怪獣は向かってくる真琴に対し、再び青白いガスを発射した。
『燃え尽きろ!』
 真琴は下降するスピードを落とさず、さらにスピンをかけて周囲の空気を巻いた。その巻いた空気によってガスの直撃をかわしていた。
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「うん。それなら問題ないと思うんだ。けど、その制服の子はもう何度か見かけている。授業が終わっている時間の時の方が多いが、午前中にみかけたこともある」
 あかねは父の目を見ていられなくなった。
「青葉だけど、そういう子を見かけた通りは、結構ヤバイ通りで……」
 いい、その通りのことは知っている。あかねは遮るように言葉をかぶせた。
「えっ、もしかして、お父さん、そういうところ行くの?」
「いや、そこを抜けた先にお客さまのビルがあるから、しかたないのさ。あかねは、このヤバイ、って意味は知ってる? よね?」
 あかねは、うなずいた。
「たぶん、散歩だ、とか言ってるけど、絶対ヤバイんだから、あかねはそういう子にバイト誘われてもやったらダメだよ」
「わかってるよ」
 父は椅子を回して、壁の方を見つめた。
「うん。大丈夫だよな。出来ればそういうことしている子に言って、そういうバイトからやめさせた方がいいけど、それをしてあかねがクラスでいじめられたらとかも思うし。本当にそういうバイトかどうかは分かってないんだから、青葉にいたからって先生にいいつけるのも変だし。とにかく、そういうお友達とは距離をおいた方がいい」
 暑くもないのに、父は汗をかいたようで、手でおでこを拭った。
「うん。お父さん、大丈夫だよ。安心して」
 父はあかねの目を見つめ返した。
「うん。話してみて良かった。安心したよ」
 あかねはふと、妙なことを思いついた。
 クラスの子の写真を見せて、父のどの子が青葉にいたかを確認させよう。どの子と関わりになったらいけないのか、知りたい、と言えば父も教えてくれるだろう。
「お父さん。その子の顔とか覚えてる?」
「え、いや、どうかな……」
「ちょっとパソコン持ってくる」
 あかねは居間に戻ってやまとからパソコンを奪って父の部屋に持ってきた。
 そして、アップしていた写真をギャラリーモードにして見せた。
「誰と付き合ったらいけないか、わからないからさ、もしこの中にいたら教えてよ」
「お父さんの記憶力だから、過剰に信用せんでくれよ」
「いいから、それっぽい、っていうのでいいからさ」
 画像をめくって、神林、町田、山川の三人が出てきた。部活の時の写真だった。
「……なんか。みたことあるような」
「どの娘(こ)?」
 あかねは父の視線の先をみていた。
「この子はいたと思うよ」
 町田さんのことを指さした。
 ああ、とあかねは思った。
 一番インパクトがあるだろう。綺麗というか、可愛らしい。ザ・女子高生、とでも表現したくなるような感じだった。
「他は?」
「うーん、これだけじゃわからない」
 あかねは何枚か父の反応を見ながらめくっていった。
「あれ?」
「戻る?」
「うん、ちょっと今の」
 あかねは、意外な感じがした。
 体育館ではなく、校舎の中で撮った画像だった。
「この子だ。この子もいたよ」



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 様々な色の光りの輪が回転しながら、怪獣なのか再生途中なのか、不定形の物体に次々と突き刺さり、切り裂き、分断していった。
 しかし、真琴が大きく息を吸い込むと、その無限に降り注ぐかと思われた光輪が止まってしまった。
『フッ……フフフフ……』
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 いつものような会話のせいで、あかねは退屈になり、会話に加わりながらも笹崎と美沙のことを考えてしまっていた。
 窓につく水滴が、くっついて下に落ちてく。
 あれとこれを繋げて、大きな水玉にすると、大きくなりすぎて流れてしまう。あかねの大切な水玉が、となりに作ったやっぱりそれも大切な水玉と一緒になって流れてしまった。そんな気分だった。流れてしまったら、水玉ではない。
 本当に流れてしまった水玉なのか、それとも近づいたように見えただけで、まだ水玉の形をなしているのか、確かめないといけない。
「あかね? どうする?」
「えっ、なに?」
「次の分の餃子、焼く?」
「ああ、今何個残ってるの?」
「見ればわかるでしょ」
 更にはひとつしか残っていなかった。
 あかねはそれをつまんで自分の茶碗に乗せた。
「焼いて」
「了解」
 母はまた台所に戻った。
 やまとは自分でご飯を盛って食べていた。
 父はぼんやりとテレビを見ながら、ビールと小皿にとった餃子をつまんでいた。
「この人がクイズ得意なのは、いつ見ても納得いかないんだよな。キャラと違いすぎる」
 あかねはちらっとテレビを見た。
 男女で別れてチームを作って、相手にクイズを出し合う番組だった。もう何年も続いている。
「もうそろそろメンバー変えればいいのにね」
「う〜んでも、メンバー変えるとバランスが狂うよな」
 いつも同じ番組をみて同じ感想を言っている。
 父はそういう人だった。
 だからメンバーを変えるような想像は出来ないのだろう。
 あかねはご飯を口に運ぶのをやめ、母の焼く餃子がくるのを待った。
 家族の夕食を終え、それぞれが歯を磨いたり、食後のコーヒーを飲んだりしていた。
 父が自分の皿を片付けると、あかねに言った。
「ちょっと部屋に行こう」
 階段の下を周り込むと、父の小さな書斎があった。あかねは父の後につづいて部屋に入った。
「なんで居間じゃないの?」
 父は自分の椅子に座って、向き直った。そして小さい丸椅子を取り出し、あかねに差し出した。
「母さんに聞こえると変に心配かけるからな」
「え、何私悪いこととかしてないし」
「お前のことだ、なんてまだ何も話してないだろう」
「ほら、私のことじゃない」
「いいからまず座れ」
 あかねは乱暴に椅子を引くと、そこに座った。
「最近、青葉のお客様と打ち合わせをすることが多くなって、会社と青葉を行ったり来たりしているんだけどな」
「!」
「あかねの高校の制服着た子を何度か見かけたんだ」
 あかねはとっさに神林のことを思い出した。
「あかねも青葉行くよな。アイドルの劇場もあるし」
 それとも、まさかスマフォがオカシクなった日のことなのか、だとすると…… あかねは焦った。
「……休みの日とかだよ。学校帰りとかいかないし」





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『!』
 何故ドアの先の光景がバレているんだ。
 真琴は歯を食いしばった。
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 目の前にドアが現れた。
 中から何か声が聞こえる。
 それも自分の声が。
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「何よ、急に」
 自慰がしたいから自分の部屋に行く、とは言えない。とにかく余計なことでこじらせないほうがいい。
「じゃ、餃子」
「昨日、餃子だったじゃない」
 しまった。
 あかねは自分にいらっとした。
 次に食べたいものが浮かばなかった。というか、さっきまでテレビに映っていた娘のことの方が気になっていた。
「……いいじゃん。食べたいんだから」
「そう……わかった」
 母はようやくテレビの方を向いて、あかねにご飯のおかずを考えさせるのをやめた。
 あかねは急いで部屋に駆け込んだ。
 スマフォでさっきのアイドルのようなタレントを検索した。番組名、レポーター、ありったけのキーワードを入れ、結果を画像で表示させた。
 画面にさっきの娘の姿がいくつも映し出された。一つ一つ気になるものを開いては閉じて、次々と確認した。
 この娘(こ)のレポートは、けっこう評判がいいようだった。
 あれだけ食べているのに、スタイルも崩れていない。
 歌も歌っていたようだが、どうもそちらでは芽が出なかったようで、今のレポートで食べているときの方がいい、と多くの人が書いていた。
 わかってないな。
 あかねは、そのタレントが食べている姿で一番惹かれる部分ことを思った。この娘(こ)は唇がとても印象的で、実にいろいろな表情を見せる。艷やかでただそれだけでエロティックな感じがする。
 この唇で、私に触れてほしい。
 あかねは部屋のカーテンを締め切ってから、部屋着に着替えた。カバンの中のノートと教科書を取り出して、机に無造作におくと、そのままベッドにもぐり込み、自分の体を慰めた。
 声が出かかるところを、無理やり抑えて行為を続けている内に、しだいに疲れて眠くなった。そうやって何もかも忘れ、半ば寝てしまっていた。
 そうやってしばらく横になっていたのだが、そろそろご飯だよ、と母の声が聞こえた。
 あかねはベッドから起きると、部屋の明かりをつけて、自己嫌悪していた。
 世界中でこんなに自慰ばかりしているのは自分一人なのではないかとか、家に帰ってくるなり部屋にこもってしていることが一人エッチなんて、最低だ、とか考えていた。
「あかね、ご飯にしよう」
 あかねは返事をして、いそいで階段を降り、手を洗った。
 テーブルには父が座っていて、母は食事を並べていた。シャワーから上がったような格好で、弟は台所で牛乳を飲んでいた。
「手伝おうか?」
「もう終わるから、座って」
 母に言われてテーブルに座ると、父が言った。
「あかね、後でいいから時間あるか?」
 気軽な気持ちで答えた。
「いいよ」
「じゃ、あとでちょっと部屋に」
 やまとが部屋着を着ると、全員がテーブルに揃い、食事が始まった。
「あれ、なんで今日も餃子なんだよ」
「いいじゃん」
「昨日餃子だったっけ?」
「同じ餃子じゃあれだから、ちょっと今日はアレンジしたから感想聞かせてね」
「おいしいよ」
「ホントだ、昨日のも美味しかったけど。なんか今日は違う」




ーーー
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「……やめて。や、め…… て……」
 真琴は薫を見つめていた。
 すると、背後からもう一人いた男が真琴に襲いかかってきた。
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最初から読みたいかたは ↓ より

ユーガトウ(1)



これまでのあらすじ

岩波あかねはバスケ部に所属していたが、顧問がセクハラが酷く困っていた。しかし、一方で理由は不明だったが顧問をかばう部員も多く、なかなか追い出せなかった。ようやくもう一人の顧問、笹崎に相談すると、理由もわからないまま、セクハラ顧問は異動してしまう。
ほっとしたのもつかの間、部活の帰り際に、親しげに話す親友の美沙と、バスケ部の顧問笹崎の姿をみてしまう。あかねはその二人の関係に不安をおぼえていた。




ユーガトウ(81)

 あかねは笹崎先生と美沙に気づかれないよう、顔を伏せ、静かに自宅へと歩き始めた。声をかけて二人の会話に入る勇気はなかった。普通なら声をかけただろうか、と何度かそんなことを考えたが、やっぱり無理だった。
 そうして歩き続けて、振り返っても二人の姿が見えないところまでやってきた。
 あかねは立ち止まった。
 後ろを歩いてきた、知らないおじさんが、あかねの靴に足を引っかけ、小さい声で謝りながら通り過ぎていった。ぶつからないように、もう一度後ろを振り返ってから、道の端に避けた。
 あの二人は、何を話していたのだろうか。
 こんなに気になるなら、知らない顔をして会話に入るべきだった。あかねの知る限り、笹崎先生と美沙には、つながりなどないはずだ。考えながら、スマフォを取り出して、『リンク』を開いた。
 美沙へメッセージするか悩んだ。
 下書きアプリを使って『さっき笹崎先生と話してた?』とか、さらっと尋ねるような内容を書いたはみたが、どうしても不自然な感じになってしまう。
 いや、メッセージを出して確かめないで、このことは忘れよう。
 ただそれだけでいい。たまたま会話していただけかもしれない。無理にそこを追求しなくても、私のしらない美沙がいても、その美沙のことを私が知らなければそれでいい。
 スマフォをしまって、あかねは家へと歩きだした。忘れよう、忘れよう、もう忘れよう。忘れられなきゃ、違うことを考えよう。違うこと……
 あかねは香坂のことを考えて、結局、笹崎先生へつながってしまい、また美沙と先生のことに戻ってしまった。断ち切るためには全く無関係なことを考えなきゃ、考えているうち、あかねは家についてしまった。
 いつもの風景とはいえ、途中どんなことがあったのか全く覚えていなかった。だが、目の前は自分の家で間違いない。あかねは鍵で玄関に入ると、部屋の奥から、おかえり、と母の声がした。
 母は何かテレビを見ているようだった。あかねは最近この時間のテレビをあまり見たことがなかったので少し興味がわき、母の後ろから少し画面をみてみた。
 ニュースなのか、バラエティなのかわからないような感じだったが、良く知らないタレントが、美味しいものを食べて、紹介しているようだった。
 あかねのしらない番組だが、やっていることは変わっていないな、と半ば呆れ、半ば安心した。
「私これ食べたい。あかね買ってきてよ」
 若者に大人気、と画面文字が書かれていた。
 どうやらそれは、ジェラートのようで、確かに何回か聞いたことがあった。確か、すごく並ぶという話しだ。
「……多分、友達が言ってたやつだと思う。ここ、並ぶってよ。あと、これ持ち帰ったら意味ないよ」
「どうして」
「あそこで食べるのがいいんじゃん。持ち帰って家で食べたって、チェーン店のアイスクリームと変わらないよ。しょせんアイスなんだから」
 あかねは画面を指さしながら言った。
 テレビ局を中心にした再開発の進んだ街だった。こういうピカピカの街並みをみながら食べたり歩いたりするからいいのだ。
「けどこの娘(こ)が美味しそうに食べてるよ、きっと持ち帰っても美味しいよ」
 あかねはその娘の食べている姿をみて、どうでもいいことに気がついてしまった。
 この娘、めちゃくちゃタイプだ。
「……うん。そうだけど。演技だから」
 おそらくアイドルか何かなんだろう。
 あかねはその娘の姿に欲情していた。
 何が普通と違うのかわからなかったが、その食べたり飲んだりする様子に何か特別な感情が湧いた。
「……」
 あかねは、そのまま二階の自分の部屋に行こうと思った。
「え、あかね今日のご飯なにがいい?」
「……なんでもいい。もう部屋行くね」



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「メラニー大丈夫?」
「あ、真琴……」
「大丈夫?」 続きを読む
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ちょっと前に、こりゃ書けん…… と思った『ユーガトウ』ですが進められるかな、という感じが戻ってきたのでお試しで再開してみます。曖昧な表現ですみません。
火、木だけ『ユーガトウ』です。月、水、金は『僕の頭痛、君のめまい』です。
以前のように、隔週で逆転はしません。
よろしくお願いいたします。 
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「ああ、あっあ〜〜ぁあぉあ」
 今度は佐藤の方が人とは思えないような声を上げて、その場に倒れてしまった。
 コントロールされた男が、真琴のそばによろよろと近寄ってきた。
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