その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2015年11月

 冗談ですまそうと思っていたあかねは、唇への感触で目を開けた。
 目の前には、まぶたを閉じた香坂の顔があった。
 そう。
 間違いなく唇を重ねている。
 舌は入れていないが、あかねは香坂のした唇を少し吸うような、噛むような感じにはさんでいた。重ねながら、すり合わせて、少し美々の様子を伺った。
 香坂の手があかねの頬を撫で回している。
「ちょっと……」
 あかねは香坂の顔を引き離した。
「鼻血がでちゃうかもよ?」
「もう止まっていますから、大丈夫ですよ」
「もう一回してもいい?」
 美々が目を閉じたのを、合意と受け取って、そのままあかねは唇を重ねた。
 唇どころか、舌を差し入れていた。美々も、積極的にからめてきていた。
 あかねは椅子から腰を上げて、美々の体を引き寄せていた。華奢なからだの割には、女性らしい柔らかさが手と体で感じられ、気持ちが上がっていった。
 あかねは、そのまま美々を抱き上げるようにして、そのまま後ろのベッドの方へと歩いていた。あかねの唇は美々の細くて白い首筋に吸い付いていた。
「!」
 押されるばかりだった香坂の足がとまった。
「(誰か来ます)」
 あかねはその言葉に反応して美々のお尻から手を離した。
 二人は少し距離をとって、それぞれが別の方向を向いていた。あかねは何度か鼻を抑えて、血が出ていないかを確認する仕草をした。
 扉が開く音がして、保健室の先生が入ってきた。
「あ、香坂さん…… 何か探しているの?」
「先輩が顔をぶつけてしまって鼻血が出たんです。止血の方法がないかと」
「? それ、どれくらい前?」
 香坂は時計をを振り返って、時間を告げた。
「岩波さん、ちょっと見せて」
 先生はあかねの様子をみると言った。
「もう大丈夫じゃない? 岩波さん、しばらくは暴れないことね。塞がって血は出ないけど、傷口が治ってるわけじゃないから」
「はい」
「大丈夫でしょうか?」
「そうね。いいんじゃない?」
「先輩、それでは教室に戻りましょう」
 二人は会釈して保健室を出た。
 廊下には誰もいない、それを確認するように前後を見回すと、美々があかねの手を握ってきた。
「先輩」
 香坂が微笑んだ。
 あかねは微笑みに対して、何が返せるのか、ふと考えてしまった。自分の好きな人は美沙であって、香坂ではない。確かに容姿は好みで、香坂も自分を好いてくれる。
 ただ、キスは出来ても、あかねの中で美沙への気持ちを変えることは出来ない。
「どうしたんですか、先輩」
 この微笑みにどう応えるべきなのか。
 むっとしたり、怒った顔で反応することは出来ない。普通の顔でいるしかない。気持ちは変えられない……
「美々ちゃん……」
 あかねは言いかけてやめてしまった。
 その上に下手くそな作り笑いを返してしまった。変に引きつったような、いびつな笑顔。
 ごめんね。
 あかねは心の中で何度もそう言っていた。



 土曜の練習は、何かとても静かに進んでいた。全員の声が出ていないとか、そういう静かさではない。何か、自らが動いて部員をたきつける笹崎先生が、やたらテンションが低いというか、低い声で叱るばかりだった。いつもなら、盛り上げて、叱り、また上げていくように、練習を盛り上げていたのだが、今日の練習では盛り上げる方がひとつもない。盛り下げる方向ばかりなのだ。



ーーー
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「今話聞ける?」
 涼子がバッグの中を見つめながら返事をした。
「ちょっと今話すには面倒くさい話かな」
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 あかねは、鼻を抑えていたティッシュを離してみた。血は止まったようだった。
「美々ちゃん、もう血は止まったみたいだから、大丈夫よ」
「まだ完全に止血するには時間が短いです。一緒に保健室行きましょう。念の為ですから。五分ぐらいです。じっとしているのがつまらなかったら、お話しましょう」
「……」
 美々はあかねの腕を離さなかった。
「そうね、スマフォもないし、血が止まるまでお話ししましょう」
 保健室には札が掛かっていた。
 不在の為、痛み止め等、薬は使えないけれど、包帯やベッドは使える、と書かれていた。
 香坂は何もためらうことなく保健室の扉を開けて中に入った。
 あかねは導かれるまま椅子に座った。
 香坂はあかねの正面に座って、間を詰めてきた。
「先輩、ちょっとお顔みせてください」
 膝がぶつかるほど近くにいたが、あかねは顔を前に出すように屈んだ。
「酷いですよね。肩をぶつけてくるなんて」
 香坂の顔が、目の前スレスレを通り過ぎていく。学年がひとつ違うだけだが、まるで肌のはりつやが違う気がした。
 これは若さではない、個人差なのだろう。
 あかねはふざけたフリをして、そのまま唇を奪ってしまいたい、という気持ちになった。
 けれど、真剣に見つめる香坂にそんなふざけたことは許されない。
「私の顔、なんかなってる?」
「見た感じはなんともないです。痛みはありますか?」
 小さなか細い声でそうたずねてくる。
 あかねも小さい声で答える。
「痛みはないわ」
「……」
 部屋の時計を
「触ってもいいですか?」
「え?」
 あかねはビックリして上体を引いた。
「そんなに激しく動いたら、また鼻血がでちゃいますよ」
「ど、どこ触るの?」
「触ったら痛いかもしれないじゃないですか?」
「え、えっ、だから、どこ触ろうとしてるのよ?」
「さっき肩をぶつけられたところですよ?」
 あかねは自分の心のやましさを反省した。
「あ、ああ、いいわよ」
 もう一度、顔を前にだして香坂の顔に近づけた。
 頬をそっと触りながら、香坂は小さい声でたずねる。
「痛いですか、ここは痛いですか?」
「やさしいんだね。そんなにそ〜っと触ってもよくわからないよ」
「……じゃ、すこし強くいきますね」
 もう一度、感覚を確かめるような感じに少し押し込むように触ってきた。
 それでも本当に軽く触れる程度だったが、これで痛ければ怪我をしているのだろう。このくらいの触り方なら判別出来る。
「……目をつぶってもらっていいですか?」
「え? いいけど」
 あかねは何も考えず目を閉じて、唇を付き出した。
「え? あの、先輩」
「チューじゃな……」



ーーー
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『涼子!』
『無理……』
 壁が砕け、涼子は見えないほど遠くへとばされてしまった。部屋はそこから漏れ出した光りでどんどん白く染まっていき、眩しさで何もみえなくなっていった。
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 あかねは鼻血がとまらくて、まともに話せなかった。
「とにかく全員出なさい! こんなところに入って何しているの。今何の時間なのか、わかってるの?」
 全員が出口へ歩くと、どうやら外にはそのやかましい教師以外にも何人か立っていた。
「ここはいつも鍵が掛かっているはずだ。清掃の加藤さんが掛け忘れたんだろう。じゃなきゃ、警備の人が点検した後、だ。私から言っておくよ」
 男の教師が私達の前に立って、怒りまくっている女性教師へそういった。
「あなた達、入っただけの問題じゃないですよ」
 避けるように体を乗り出して来た。
「騒いでいましたね」
 あかねは頭を下げたが、神林達も、麻子も香坂もただじっとして黙っていた。
「一人であんな大声出すわけ無いでしょう。全員同罪です」
「まぁまあ……落ち着いて」
 何を根拠にかばっているか判らないが、男の教師は再び間に入ってきた。
「あと、岩波がちょっと怪我しているみたいだから、保健室に連れて行ってくれ。香坂は手当の方法分かるよな」
 香坂はうなずいた。
「じゃ、岩波は香坂と一緒に保健室にいって手当してもらって」
「あ、あんた達バスケ部ね? なんか最近女バスは悪い娘(こ)ばっかりって噂よ」
「部活の生徒が全員同じ訳ないでしょう」
「大体顧問が気に食わない」
「そういう個人的な話しを生徒の前で」
 あかねは遠くその場を離れながら、そんなやり取りを聞いていた。
「神林さん、あなたが顛末書書いて。何してたのか順番に全部書くの。他の娘は反省文」
「生徒に何をやらせるんですか。起こりますよ」
「中村先生も、女バスだからって変に優しいじゃないですか! なんですか笹崎先生のご機嫌とりたいんですか!」
 ひぃ…… あかねはぞっとした。
 何か笹崎先生は恨みを買うようなことでもしているんだろうか。それとも何の根拠もなく、勝手に妬んでいるのだろうか。
 ただ若くて綺麗なだけでこんなに恨みは買わないだろう。何かよっぼどのことがあるんだ、とあかねは思った。
「笹崎先生、嫌われているんですか」
 香坂がボソっとそう言った。
 香坂は、あかねの腕を抱えて、そっと引っ張っていた。
 あかねはティッシュで鼻を抑えて、声の聞こえてくる後ろの方を見ながら答えた。
「(なんか、そうみたいね)」
 と小さい声で言った。
「(教師間でどんなことがあるのか知らないけど)」
「私も嫌いです」
「(笹崎先生のこと?)」
 香坂を見ると、ちいさくうなずいた。
「(昨日、昨日の事?)」
「……もありますけど。それだけじゃないです」
 そう言った香坂の表情が変化した。何か、ゾクッとするものを、あかねは感じた。それは暗く、冷たい感情に思えた。



ーーー
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 この声は神林みく、だった。
 あかねは立ち上がって静かに歩いて行った。
「ついてきな」
 廊下へ出ていく神林の後ろ姿を追って、あかねも歩きだした。
 あかねは心配そうに見つめるアッコに、小さく手を振った。
 廊下に出ると、麻子と香坂がそこで待たされていた。
「美々…… 今日、学校来てたの? 朝居なかったよね」
「すみません……遅刻しました」
「すみませんとかはいいんだけど。体調はだい」
「うるさい! 早くこっちにこい」
 神林が呼びつけた。
「とっととあるいて」
 町田愛理が後ろから背中を押した。
「うあっ」
「ちょっと押さないでよ。歩くから」
 階段下の物置場の扉を開けて、神林が入っていく。麻子が入るのをためらっていると、神林が戻ってきて、腕を引っ張って連れ込んだ。
 香坂が続いて入り、あかねは山川の後、町田に押し込まれながらその中に入った。
 中は小さく暗い場所で、空気が冷えて、湿っていて、変な匂いがした。
「土曜日の練習の後、あんた達に来てもらうんだけど、なんにもしないと逃げちゃうでしょ」
「美々もなの? 私と上条さんだけだと思ってた」
「黙れ」
 神林は腕を組んで睨みつけていた。
「今のままじゃ、土曜の練習から休みそうだから、あんた達のスマフォを預かっておく」
「へ?」
「いいから出しな」
 今までは三対一だったが、今なら三対三だ。香坂はともかく、私と麻子で神林と山川とは互角になりそうだ。引っ叩いで騒ぎまくれば逃げれるかもしれない。
 しかし、麻子はすんなりとスマフォを取り出して、山川に手渡してしまっていた。香坂も抵抗など端から考えてないように、すんなりと町田にスマフォを渡している。
「後はあんただけね」
「イヤ!」
 無理やりポケットに手を突っ込んできた。
 あかねはくすぐったさに体をよじると、神林が悲鳴を上げた。
「どうしたの、みく」
「何しやがりますか」
 山川と町田がすぐにフォローに入った。
「痛っ、痛い!」
 あかねのポケットから腕は抜けない。
 あかねはあかねで、変に体を曲げたせいで、余計にくすぐられているような感じになり、どんどん腕が変な方向にねじ曲がって行った。
「折れる、折れるよ!」
 あかねは右頬に何か重くて硬いものがぶつかった気がした。
「ざけんな!」
 うつむくと、床に赤いものがたれた。
 あかねは手を顔にもっていき、口か、鼻かを確かめた。
「何、この騒ぎは!」
 一年生の担任教師が、物置き場の入り口からこちらを見ている。
 神林があかねのポケットにさっと手を入れてスマフォを取ってしまった。
「(あっ)」



ーーー
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『僕の頭痛、君のめまい(50)』更新が遅れましてすみません。
完全に勘違いしてました。目で見えているものが読めない(頭で読み間違える)というのは、本当に不思議ですが、申し訳ありませんでした。

『いや、よく分からない。上着脱がないし、汗もそんなにかいてないし…… あと、なんとなく』
『映像を見て?』
『判らない。ただ、そういう風に頭に浮かんできたのよ』
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 正確には少し戻ろうとするのを思いとどまった。
 川西の目からは、女バスで顧問をしていた時のような、ギラギラした感じや、尾行がバレた時のような感情が感じられなかった。しかし、そのどんな時より、怖い感じがした。
「どうなさったんですか? 私に何か用ですか?」
 川西はうなずくと、何かボソボソと話始めた。
 あかねは最初の内は何を言っているのか全く聞き取れなかったが、この気力のないしゃべり方に慣れると、川西が何を伝えたいのかが分かってきた。
「……先生。ごめんなさい。もう一度、始めから話してもらっていいですか?」
 話しの内容に興味を持ったせいで、川西に対して恐れの気持ちが無くなっていた。あかねは、肩が触れるほどの距離に近づき、川西の話しを聞き始めた。

 

 翌日、あかねは学校に着くなり、下の学年の教室をたずねていた。
「ちょっといい? 香坂さんって来てる?」
「え……」
 女性徒が振り返るが、その視線の先には一つだけポツンと空いた机があり、香坂はいなかった。
「まだ、来てないみたいですけど」
「まだ、ってもう始まる時間だよね。いつもそんなだっけ?」
「いつもなら来てますよ」
「そう。ありがとう」
 あかねは香坂は休むのだろう、と思った。
 自分の教室に戻った時には、廊下に担任が来ていた。担任は、早く教室に入れというような仕草をするので、あかねは慌てて教室に入った。
 香坂はおそらく麻子が考えていたようなことをされたに違いない。
 笹崎先生は笹崎先生で、川西とやり方は違えど、同じセクハラ教師だったということだ。
 オープンにやるのも問題だが、逃げれない、誰にも言えない状況にしてやるだけたちが悪い、とも言える。
 何か仕返しをしなければ。
 笹崎をこのままにして置くわけにはいかない、けれど、どうしていいのかわからなかった。
 麻子が協力してくれるとは思えなかった。自分が何をされたか、知られてしまうことになるからだ。誰にも知らせず、こっそりと仕返しする方法。
 授業はロクに頭にはいらず、かと言って何かいい方法が浮かぶわけでもなかった。自分がされたことは別にいい。その時は笹崎先生が好きだったのだから。けれど、麻子や香坂はどうだったのだろう。無理やりだったのではないか。
 自分が嫉妬しているのか、そうでない理由をさがしているだけなのか、わからなくなってしまった。単純にした事実だけを見れば、笹崎は許せない行為をしている。そういう意味では川西と全く変わらない。
 しかし自分が仕返しする理由は、麻子や香坂の為なのか、それとも自分自身の為なのか。
 もやもやとする気持ちが心を覆っていて、そこから何も進まなかった。
 部活の時に先生の前にでて、平手打ちしたら気が済むかしら、と何度も想像して、それをかき消した。部長が飛び出してきて、何するの、理由を言いなさい、そこで終わってしまう。何かセクハラではない何かを理由にしなければならない。
「あかね、お弁当食べよ」
 前の席のアッコが振り向いてそう言った。
 ああ、もう三時間目が終わったのか、と思った。取り立てて食欲はわかなかったが、あかねはバッグからお弁当を取り出した。
「良かった」
 お弁当の蓋を開けながら、あかねはアッコの顔を見て言った。
「良かった、って何が?」
「あかね、ちょっと様子が変だったから」
「え? そんな変な感じだった?」
 アッコは口いっぱいに頬張りながら、笑顔でうなずいた。
「ごめんね、心配かけちゃって。もう大丈夫だから」
 やっぱり仕返しなんて、考えるのはやめた。
 ただ、これ以上被害が広がらないようにしよう。顧問と部員という関係を利用されないように、単独での居残り練習をやめてもらおう。それぐらいなら部長だってかけあってくれるだろう。
 あかねはそう考えて、お弁当を食べ始めた。
 目の前でアッコが名残惜しそうにお弁当の蓋を閉めた時、急に名前を呼ばれた。
「あかね」
 声で誰かが分かった。
 だから慌てて振り返らなかった。
 あかねはゆっくりとお弁当をしまっていた。
「何無視してんだよ。呼んでるだろ?」
 神林と山川と町田がいた。



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月〜金で掲載する予定です。
時刻はいずれの日も1800予定です。
明確にしていなくてすみません。
よろしくお願いいたします。

「麻子っ、目を開けて」
「あ、ゴメン……」
「私の言ったこと、合ってた?」
 麻子はうなずいた。
 そうか、とあかねは思った。もう笹崎先生が麻子にしたことについて、妬みとか嫉妬のような感情は浮かんでこなかった。
 それよりは今日、同じように何かされているかもしれない香坂美々のことの方が心配だった。
「そう。麻子も女の子好きな人だったんだ……」
「も?」
 変に冷静な突っ込みに、あかねはすこし焦った。
「……笹崎先生も、麻子も、って意味よ?」
「わ、私は違うの」
「けど、キスしちゃってるし。抵抗しないなら同じようなもんよ」
「そんな言い方しなくても」
 こういうことだったから、他の居残りした子がどんなことをされたか知りたかったのだ。
「で、あかねはどうだったのよ?」
「何も。もしかしたら、向こうはその気だったかもしれないけど、私は何かされそうになったら抵抗するし」
「バイブを押し付けられたりしなかったの?」
「あれは麻子をからかっただけよ」
 あかねはもうこの話に興味はなかった。
 笹崎先生自体への興味も無くなった。確かに綺麗であかねの好みの要素を持っていたのだが、こう誰にでも手を出すような人は相手に出来ない。
「本当に何もなかったの?」
「なかったわよ。じゃ、今日の香坂も何かされていると思うの?」
「思うわ。私からみても美々ちゃんはかわいいもの」
 あかねは麻子の顔を振り返り、じっと見つめた。
「……あっ、違う違う、違うのよ。私、別に女の子好きじゃないんだから」
 この娘(こ)は、やっぱり本当に女の子好きな人なのだ。
 二人はだいぶあるいて、そろそろ駅前に出る頃だった。
「そろそろ大きい通りに出るわ。今日は興味深い話を聞かせてもらって楽しかった」
「……言わないでね」
「麻子が女の子をす……」
 手で口を抑えられた。
「だから、言わないでね」
 あかねはうなずいた。
「絶対言わない。約束するよ」
 手を振って二人は別れ、あかねはそのまま大通りへ出ると、駅の反対側へ渡った。
 家への道を歩きながら、神林たちは何の目的で私と麻子を呼び出したのかを考えた。川西が居なくなったのだから、彼女たちは守るものがなくなったはずだった。私と麻子の共通点は笹崎先生に居残りさせられ、そこでちょっと性的ないたずらをされたことだった。けれどそんな事実を知っているのは私と笹崎先生ぐらいで、麻子は自分だけがされたと思っているはずだ。
 だから神林たちがそんな理由で二人を呼び出したりしないだろう、と思った。
 呼び出された、イコール顧問の先生にひいきされた、ぐらいなのだろう。なんて面倒な人たちなのだろう。
 あかねはそんなことを考えている内に家についた。
 玄関に入ろうとすると、あかねは家のそばに誰かいることに気付いた。少し様子を見ながら近づいた。
「え? 川西先生? ですか」
 振り返った姿は確かに川西先生だった。
 もう別の学校の先生になっているので、休み中なのか分からなかったが、口周りや顎には汚れたように髭が生えていた。
 あかねは足を止めた。



ーーー
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 本当の悪党は自分で手を下すことはしない。するだろうが、滅多にしないのだ。しかし、部下はボスより悪党度合いが落ちる。変に優しかったり、間抜けだったりするのだ。だから殺す目的を言ってしまったり、誰の命令でやっているのかを告げてしまったりする。
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ユーガトウを月→金で毎日(土日は休み)アップしてみます。
例によって息切れしたら途中で元にもどします。
可能なかぎりやってみます。
よろしくお願いいたします。 

 人気がなくなった時、麻子が切り出した。
「笹崎先生、女の子が好きなのよ」
「えっ?」
「あ、そうじゃないかって思うの」
「ど、どうして?」
 あの居残りの時の事、見られただろうか。
「あ、えっと……」
「なんか、見たの?」
「そうじゃなくて」
 あかねはほっとした。
「お、驚かないでね」
「う、うん」
 麻子は視線を落とし、ゆっくりと歩いていた。
 暗くてよくわからなかったが、少し頬も赤くなっている気がした。
「居残り練習の時……」
 えっ、誰の居残り練習の時?
「い、居残り練習って、いつの?」
「あっ、私、私が居残りさせられた時ね」
 あかねはなんとなく察しがついた。
「笹崎先生になんかされたの?」
「……なんかって」
「何されたの?」
「えっと……」
 ちょっと聞き方がまずかったようだった。
 あかねはちょっと勝手に変な言い方をしたことを謝った。麻子も気を取り直して話を続けた。
「笹崎先生に居残りさせられた時、私……」
 あかねはじっと麻子の顔を見つめて、言葉を待った。
「私……」
 麻子は両手で顔を覆った。
 あかねはイライラしてきていた。キスされた、とか触られた、とかそんなことだろう。さっさと言ってくれ。
「恥ずかしい」
 あかねは少し意地悪な気分になっていた。
「えっ、そんなに恥ずかしいことまで!」
 麻子は両手を広げてから、手のひらをクルクルと振った。
「違うの、違うの。そんな、そんなことまでしてないよ」
「けど、今、恥ずかしいって」
「あ、えっと、うんと、それじゃ、あかねだったらどんなことが恥ずかしい?」
 コレ、どこまで続けるつもり、とあかねは思った。意地悪のレベルが一段上がった。
「バイブレータをクリトリスに押し付けられた? とか」
「いやぁ〜!」
 小道を小走りに逃げていってしまった。
 あかねはしかたなく追いかけた。
 ワザワザひとけの無い道を歩いたのは、こういう話を正直に話せるからではないのか。言うつもりがないのに、こんな周り道をさせるな、とあかねは思った。
「ゴメン麻子。じゃあ、どんなことだったの?」
「いや、あねのね…… えっと」
 あかねは、麻子の方にどんどん近づいて行って、ブロック塀に手をついた。吐息がかかる程、さらに顔を近づけていった。
「こんな感じだった?」
 あかねはそう言って、麻子の耳元に口を近づけた。
「(こんな風にされた後、キスされたんじゃないの?)」
「あんっ……」
 麻子は目を閉じてキスを待っているようだった。そのままイタズラでキスしてやろうかとも思ったが、笹崎先生のそれも言い出せずにこんな感じになってしまっている麻子を、更に惑わせることは出来なかった。



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 真琴はスライダーを動かしながら、次に映像が変わるところを探していた。
 画像がグラグラっと揺れた。
 その途端、急に映像が暗くなった。
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「……さあ、部室に戻って。美々と帰るつもりなら、部室で待っているのね。ここではなく」
 部長は二人の肩を押しながら体育館を出た。
 体育館からのドリブルの音が聞こえなくなると、部長が言った。
「上手くない人のレベルがあがると、上手い人はどうおもう?」
「ヤバイ」
 麻子はボソリとそう言った。
「そうだよね。ヤバイ、レギュラー取られちゃう。次はどうなると思う?」
「レギュラー取られたくないから、練習する?」
 部長から見られたような気がして、あかねはそう答えた。
「あかねの言う通りね。そうやって部のレベルを上げようとしているのよ」
「けど、私は……」
 麻子が何か言いかけた。
「ちょっと居残りしても急には上手くならないわ。先生から教えてもらったように、もっと練習しないと」
「ちが……」
「?」
 目の前に、着替えた神林と町田、山川がいた。
 部長が言った。
「どうしたの、みく」
「麻子、あかね」
 部長の言葉を無視して、神林が言った。
「土曜練習の後、ちょっとツ、付き合って」
 付き合って、という感じではない。どう考えてもツラ貸せという口調だった。おそらく部長がいたから慌てて言い換えようとしたんだろう。
 町田も山川も、ずっとこちらを睨みつけていた。
「どうしたの、みく」
「部長、ただ、土曜の練習の後、五人で遊ぼうと思って」
「顔がおっかないわよ。遊ぶ、って感じじゃないわね」
「こんな顔なんです。部活の後だから別に何をしてもいいですよね」
「部に迷惑がかかるようなことはしないでね」
 急に橋本部長も厳しい表情になった。
「それは問題ないですよ」
「(だってこも……)」
「バカ!」
 山川が慌てて町田の口を塞いだ。
「約束よ」
 部長が神林と握手をした。
「さあ、二人とも、着替えて帰りましょう」
 三人が部室に入ると、入れ違いに何人か出ていき、あかねが着替えている内に皆出ていってしまい、再び三人が残された。
 一番早く着替えた上条麻子は暗い表情でベンチに腰掛けていた。
 あかねは着替え終わって、バッグにつめながら、麻子に言った。
「みくが付き合ってって言ってたけど、どこにつれてく気かな?」
「(しー)」
 麻子は部長の方向をさしてそう言った。
「あかね一緒に帰ろう」
「うん」
「部長、すみません、お先に失礼します」
「ああ気にしないで。おつかれ」
「失礼します」
 あかねと麻子は一緒に部室を出た。
 麻子はわざと住宅街の細い道を辿って行こうと言った。あかねは断る理由もないので、その言葉に従った。



ーーー
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 ゾクっと背中に寒気を感じた。
 死、そんな言葉が脳裏をよぎる。
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「(なんだろう……)」
「(謝ってるんじゃない?)」
「(謝るなら皆の前で謝るべきだよ)」
 様々な声が上がったが、二人はあっという間に戻ってきた。
 香坂もどうという感じもなく練習に戻ってきた。
 本当にただ謝っただけなのだろうか。
 出ていってから戻るまでは声も何も聞こえなかったから、誰にもそれは分からなかった。二人の表情に変化がないことから、揉めるような内容ではなく、どちらかというと和解したのだ、と思うことにした。
 数分の練習が終わり、体育館の清掃が終わるころ、笹崎先生が言った。
「ちょっと一本だけそこに残して」
 清掃用のモップを、片付けるな、ということだった。やはり今日もだれか居残りさせる、ということなのか。
「香坂は残って。みんなはこのまま上がっていいわよ」
「はい……」
「おつかれさまでした」
「(えっ)」
 あかねと同じように疑問の声を上げた部員が何人かいた。
「何かしら? 本人にも、部長にも話はしたのよ。文句無いでしょ」
「(部長は何を言いに先生と二人で体育館でたの?)」
 あかねは思わずそう口にしていた。
 しかし大半の部員は疲れた顔をして体育館を去っていった。
「先生、可哀想です」
「練習しないと上手くならないのよ。香坂さんは練習を選んだだけのこと。さあ、岩波さんも早く部室に帰ってね」
 何も聞くつもりはないようだった。
 あかねはこっそり体育館内に残って何をするのか見るつもりだったのに、先生に意見してしまった為、隠れることができなくなってしまった。
 こうなったら、体育館の外を回って、中を見れる場所を探そう、と思い、あかねは体育館の戸口で皆が過ぎ去るのを待っていた。
 どこかで視線を感じた。
 麻子だ。
 麻子も周りも見ながら、こっちを見ていた。
「岩波さん。気になるのはわかるけど、見ちゃダメよ」
 振り返ると、橋本部長が立っていた。
「先生が居残りさせるのは、イジメとかじゃないの。女バスのためなのよ」
 女バスの為に、笹崎先生の生け贄になれというのか、とあかねは考えた。そんな考えが受け入れられる訳がない。
「けど……」
「バスケのレベルを上げる為。底上げが目的なのよ」
 ん、練習なのか、そう聞いているのか、それなら問題はないと思うけど、あかねは思った。
 練習ならなおさら覗きみても問題ないと思うけど。
「練習なら見てもいいですよね」
 麻子がさっと体育館入り口の方へ寄ってくるのを、あかねはガン見してしまった。
 橋本部長も気付いたらしく、振り返ると「ちょっとここで待ってて」と言って麻子を捕まえてしまった。
 昼の話ぶりからすると、麻子も香坂がどんな練習をさせられるのかを確認したかったのだろう。
「麻子も何してたの、居残り練習は見ちゃだめなのよ」
 体育館の内側の扉から、小さくて高い音がした。
 扉にカーテンを掛けたのだろう。小窓から漏れていた光りがなくなり、三人がいる出入口は暗くなった。



ーーー
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『うわっ!』
 いくつかのマンホールの蓋は鎖が伸び切って、その反動で地面に打ち付けられた。別の蓋はそのまま鎖が切れてコロコロと転がていった。
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 あかねは教室に戻って授業が始まると、そんなことをたずねられたことも、麻子にもっと話してあげようと思ったことも、忘れてしまっていた。
 そして午後の練習に出て、何事もなく何日か過ぎていった。
 体育館で女バスだけが練習をする日があって、その日は練習が長めにスケジュールされていた。長いだけでなく、一つ一つの練習が集中力を要するような厳しいものだった。
 そのキツイ練習のなか、あかねはあることに気がついた。
 今日の笹崎先生は、やたら香坂に厳しい。
 厳しいせいか、やたらと香坂の周りにいることが多いし、視線もほとんど香坂を中心にしている。正直香坂はレギュラーではないし、一年生の中で特に上手いということでもなかった。
 居残りさせるつもりなのだろうか、あかねは麻子と話したことを思い出していた。
 居残り練習をすると、何かあるのだろうか。
 私と同じような何か?
 麻子がされたような、何かか?
 あかねは、キツイ練習を頑張ることとは別に、練習の後のことを考えはじめていた。香坂美々(みみ)が笹崎先生のいる準備室から飛び出して来たことがあった。何か、何かがこの二人の間には何かあるような気がしていた。
 あかねは、体育館の中をずっと見渡しながら、どこかから隠れて見ることが出来ないかを必死に考えた。以前、体育館の周りを回ったことや、体育準備室とのつながりや、様々なことを思い出していた。
 練習に集中できないあかねは、よそ見をして香坂にぶつかってしまった。
「ごめん、美々ちゃん」
 あかねが尻もちをついてしまった香坂に手を差し伸べると、笹崎先生がそれを止めた。
「集中してないからぶつかるんだし、気持ちが入っていないから転ぶんだよ」
 えっ、自分が怒られてるの、とあかねは思ったが、笹崎先生は明らかに香坂に向かっていた。涙を浮かべながら、一人で立ち上がると列の最後に並び直した。
「(ひどくない?)」
「(いまのはあかねが悪いでしょ)」
 あかねも笹崎が一方的に香坂を責めるのに疑問だったが、部員からのヒソヒソ声に傷ついていた。
 しびれをきらしたのか、部長が笹崎先生に耳打ちし、練習が中断された。
 部長と笹崎は体育館の外で何やら話している。
 あかねはその様子が気になっていたが、体育館内でも騒ぎが始まった。
「美々、なんで部長はあんたなんかかばってるの? なんか理由あんの?」
 神林が香坂に言った。
「別に何もないです」
「おかしいじゃん、練習中断しちゃってるし。あんたが先生の言うとおり出来ないから問題なんでしょ?」
 あかねは思わず二人の間に入った。
「ちょっと、やめなさいよ」
「あかね? 何してんの? やられたいの」
 肩を強く突かれて、カッとなった。
「何すんの!」
「待ちなよ、二人共」
 四、五人であかねと神林の体を抑えて引き離した。神林は振り払ってあかねの方へ来ようとしていた。あかねは、振り切ろうという格好はしたものの、実際は振り切るつもりなどなかった。
 止めてくれなかったら、どうなっていただろう、と考えるとギリギリのタイミングだった、とあかねは思った。
「さあ、練習再開するよ」
 部長の声が響いた。
 笹崎先生の顔が少し紅潮していて、イライラしている感じだったが、何もないまま香坂をしかるようなことはなくなった。
 練習時間の終わりごろ、香坂は笹崎先生に手招きされて体育館を出ていった。部員全員がそれを目で追ったが、部長は何も言わなかった。



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