その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2015年12月

なんだろうな…
ふと、寂しくなりました。
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年末、年始となる来週は、掲載をお休みいただきます。
今年も一年ありがとうございました。
『ユーガトウ』を完結することが出来ました。
もしかして、自分はお話をくくることができないのかな…… となかば自信を失ってましたが、なんとか形にはなったのではないかと思っています。
これも読んでくださっているみなさんのおかげです。ありがとうございます。

新年は1月4日から再開します。
新しい話も展開出来るか…… は まだ未定です。よろしくお願いいたします。
※ ひっぱるだけひっぱって何も出てこなかったらすみません
 
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「(薫の家なんてこんなに使用人がいて、結局他人同士で住んでるのと変わらないじゃん、気まずいなんて考えてんの真琴だけだよ。とにかく、いたずらなんだから、家に行くの!)」
 まず、前提としていたずらしようとして薫の格好になっているわけではないのだが、涼子としてはイタズラする気満々のようだった。
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 涼子はスマフォの『リンク』で薫にメッセージした。
『地下駐車場にきて、待ってる』
 真琴も、自分のバッグの中からバイブ音がしたのに気づき、ポケットに入れていたはずのスマフォが無くなっていなくてホッとした。
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「ちゃんと見せてよ」
 こっちはカードの裏を見ているのだろうか?
 真琴はゆっくりとカードを返した。
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『僕の頭痛、君のめまい』を月水金の朝 06:00 となります。
自分の気持ち的には、二つ別々の話を書いていた方が気分も変えられるので良いのですが、まだ準備が出来てない状況です。
話が始まる時にはまたご案内いたします。 
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当初ホラーを書くつもりでストーリーを計画していたのですが、書いても書いてもホラー的な雰囲気が出ず、どうしてこうなった……というような展開になってしまいました。
途中お休みも頂きましたが、みなさまの応援のおかげで物語を終えることができました。
一年ちょっとの掲載でしたが、ご愛読、ありがとうございました。 
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 美沙が先生の側でなければ……
 たった一つ残るはずだったものまで、あかねは、すべて失ってしまった。あかねは、笹崎の手を離した。
 壁に腕をついて、そこに頭をつけた。
 めまいがするようで、目を開けていられなかった。
 あかねは、色んなことを思い出していた。
「体育館でWiFi探すの手伝ってくれたじゃん」
 美沙が言った。
「私が誘導すれば、あかねにWiFi装置は見つけられないでしょう」
「尾行するの手伝ってくれたじゃん」
「タブレットであかねの位置をしる為よ」
 そうなのか、何もかも、笹崎の為だというのか……
「バカな女……」
 笹崎がそうつぶやいた。
 あかねは先生を引っ叩く衝動に駆られたが、笹崎先生も誰に向かっていったのでもないようだった。まるでここにいる全員に向かってそう言ったようにも聞こえた。
「私と寝たのも? それも笹崎先生の為なの?」
「そうよ……」
 そうだ、あの時、美沙の家でBITCHが表示されたのはどこかで検知されたのが残っていたのではない。あそこで検知されたのだ。
 あかねはその日、美沙のスマフォで見たことを思い出した。
「笹崎先生、スマフォ見せて、先生のスマフォ」
 笹崎が睨みながらスマフォのロックを解除すると、あかねは奪うように受け取り、アプリを探した。
「『ペアペア』やっぱりあった」
 地図にはピタッたり重なる相手のアイコンがあった。
「美沙と同じアプリ、なのね」
 何もここまで知る必要はなかった。
 もう帰ろう。
 知れば知るほど、自分が傷ついてしまう。
 ……いや。
 BITCHだけでも壊して。壊してから去りたい。
 二度とこんな被害を出したくない。
「BITCHを見せてよ」
 笹崎先生が、美沙のナイフを受け取ろうとしていた。
 美沙の手は、固まったようになっていて、なかなかナイフを手放せないようだった。それでも指を少しずつ引き剥がして、笹崎先生はナイフを手にした。
「BITCHを見せて、の答えがそれなの?」
「このままナイフを持っていたら、美沙が傷ついてしまうでしょ。それだけ」
 笹崎はそういうと、ナイフをもったまま部屋に引き返していった。
「BITCHを見せてよ。私それを見るまで帰れない」
「私が見せてあげる」
 美沙が言った。
「BITCH自体は、ただのスマフォのテザリング機能よ」
 美沙は出てきた部屋のドアを開けた。
 そこにはデスクトップのパソコンが置いてあった。誰も触っていないのに、やたらファンの音がうるさかった。
「私が作ったんだよ。このシステム」
 美沙が微笑むようにそう言った。
「これであかねのスマフォをハッキングして、変なメッセージを送りつけたりしたの」
 狂っている……
 興奮の度合いが大きすぎたのか、あかねは妙に冷静な自分を感じていた。
「そう、これなの……」
 あかねは、美沙を突き飛ばしてからパソコンを横倒しにした。
 飲みかけのペットボトルのキャップをはずし、そのパソコンにジュースをかけた。
 熱のせいか、ショートしたせいか、小さい火花が散って、シュウシュウと音と煙があがった。
「なんで! なんで壊してしまうの」
「もうこんなもの作らないで」
「……今度はクラウドサービスを使って作るわ」
「作らないでよ! もう嫌よ、こんなこと二度としないで!」
 あかねは叫んで、そして部屋を出た。
 開けっ放しのドアを抜けて、笹崎の家からでると、その後は良く分からない。ただ、何度も笹崎の言葉を思い出していた。
『あんたら皆へんなのよ。遠山先輩遠山先輩って。勝手に寄ってきて、知らないWiFiに接続してさ。だから利用してやったのよ』
 私たちは皆、バスワードを掛けていないネットに、勝手に近づいてしまった。だから罰を受けただけなのかもしれない。
 あかねはふと、コンビニにある青白い光を眺めていた。季節外れの虫が寄ってきて、パチッっと音を立てた。
 目を閉じると、涙が頬をつたった。



 終わり

 



ーーー
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「あっ出た」
 真琴の耳と口にスマフォを押し付けてきた。
『もしもし?』
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 川西先生が言った。
 壁に背中をつけ、腕を組んで立っていた。
「俺が教えたんだ。最初、岩波は俺がWiFiの主だと思ってたみたいだ。実際、俺が居た時は体育館にあったらしいし、俺が学校を変わるとなくなったから、間違えるのも無理ない」
「べらべら喋ったんだ。あ、そう、あんたのセクハラの証拠もあるから、今の学校にだって居られねいようにすることは出来るんだから」
「全部そうやって力でねじ伏せることは出来ないのよ。笹崎先生がやってきたやりかたは、全部同じようにやり返すから」
「何か証拠でも持っているの?」
「そこにいる遠山先輩からいっぱいもらえるはずよ」
 笹崎が笑った。
「バカねぇ、川西先生をセクハラで訴えるかどうか、皆で悩んでいた時、どういうことが障害になったのか、覚えていないようね」
「もう誰もあなたの脅しに屈しないわ。このまま自体が酷くなるのが目に見えているもの」
 あかねは強く言い切った。
 言ってから、周りを見回した。
 神林や、山川、町田、そして麻子に香坂も、みんなうなずいた。
「そうですよね、先輩」
 遠山も口を真一文字に結び、強い決意を示していた。そしてうなずいた。
「もう笹崎先生の味方はいない。一人きりよ」
「どうして…… どうしてお金を集めることが悪いことなの…… ガキに勉強を教えて、バスケを教えて、自分の時間をすり減らして…… 得るものが少なすぎるのよ。やりたいことやって、好きなだけ稼いで、何が悪いっての」
 どうしてここまで汚いことを話せるのか、とあかねは思った。教師はもっと理想をもって教壇に立っているものと思っていた。
「まぁ、すくなくとも、遠山には大学で遊ぶ金を出していたんだから、共犯なのよ」
「……」
 遠山先輩の顔が少し引きつった。
「さあ、笹崎先生、警察に行きましょう」
 あかねは笹崎の手を引っ張って、立ち上がらせようとした。最初は抵抗していた笹崎も、あきらめたように立ち上がった。
「そのまま警察に話したところで、何言ってるのって感じよ。どうやって訴えていいのかも分からないガキが」
 あかねは何も答えず、玄関の方へ引っ張っていった。
 玄関へ抜ける廊下の先のドアが開いた。
「やめて!」
 声とともに、美沙が飛び出してきた。
 まさか、ここにいた、なんて。
「美沙……」
 父の言葉はウソだと思っていた。
 ウソだと思い込もうとしていた。
 美沙がここにいることで、あかねは現実を受け止めなければならなくなった。
「美沙、美沙も青葉で」
「離しなさいよ、先生の手を離して!」
 あかねは美沙の手に光るものを見つけた。
 ナイフだ。
 私を刺そうというの?
「どうして美沙が? なんでこんな先生の味方をするの?」
「こんな先生……そんなこと言わないで」
 ここまでは冷静だったはずなのに、頭では可能性があることを知っていたくせに。
 知らないままやり過ごせばどれだけ幸せだっただろうか、とあかねは思った。



ーーー
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「何すんだ」
「やめろ」
 一番後に入ってきた男が、叩かれた男の腕をねじりあげた。
「笹崎先生! 助けてください」
「……違うよ」
「先生が、先生がグルだったの?」
 男たちが道を開けた。
 笹崎先生がその間を入って丸い床の端に立った。
「さっきの映像、とるとしたら私しかいないじゃない。私も脅されているとか思ってた? それとも誰とも無関係な、ただの女の子好きなバスケ部顧問だと思った?」
 笹崎先生は目をつぶって、うつむいた。
 そこには涙がこぼれているように見えた。
「それもこれも、遠山さんの為なの…… お願い」
 笹崎先生はそう言った。
「んじゃ、始めていいのかな」
 香坂があかねの手をつついてきた。
 その時、ドアのチャイムが鳴った。
 笹崎先生が、玄関のモニターを見ながら、何か話している。
「ちょっと、あんた達、まって。なんか変だわ」
 笹崎先生が玄関先の方へと出ていった。
 あかねは、麻子の手を口で突いた。
「なんだよ、やりてぇよ。やれるって聞いてたんだ。やるきまんまんなんだぞ」
「俺はこのちっぱいがいいなぁ、ロリロリだぜ」
 一人が香坂の方へ寄ってきた。
 あかねは体をころがして、香坂を隠すようにした。
「何! なんでお前が!」
 何か、玄関先で声がする。扉が何度か叩かれたような、大きな金属音が響いてきた。
「何があったんだい先生」
 仲間の腕をひねった男が玄関先の方へ向かったかと思うと、そのまま後ずさりしてきた。
「ほらっ、早く入れ」
「下がって、この男の言うことを聞いて」
 笹崎先生の焦ったような声が聞こえる。
 あかねがじっと見ていると、玄関の方から、首にナイフをつきつけられた笹崎先生がゆっくりと進んできた。ナイフを持って後ろにいるのは、宅配便の配送員のような格好をした男だった。後ろに、もう一人女の人が見える……
「遠山先輩!」
「え? 遠山先輩?」
「先輩!」
「うそでしょ」
 神林達の声が何か変だった。
 あかねは、全員の視線がそっちに向かっているうちに足のタオルを解いた。
「うそじゃないぞ。これが本当の遠山先輩だ。元気なもんさ」
 あかねはその声で、宅配業者の格好をした男が、川西先生だと分かった。
「うそよ!」
 町田が目を見開いて叫んだ。
「遠山、ほら、言ってみろ」
「ご、ごめんなさい」
 町田や山川は本当に信じていたのだろうか。
 神林も呆然と膝をついて見つめている。
「そうじゃない。遠山。本当のことを言うんだ」



ーーー
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「このままメディアに焼けば売れるんじゃない?」
 シチュエーションが分かるあかねは萌えているが、これが一般の女性に売れるか、とは思えなかった。いや、男性に売るのだろうか?
 結局、全員が笹崎先生との行為に及んでいたということが分かった。麻子が予想した通り、一人一人を呼び出しては、いけない個人授業をしていたということだ。
「ね。だから、これを買ってください。売上は、遠山先輩の募金に回すから」
 山川がそう言った。
 神林があかね達三人を見回して、何か言いたそうだった麻子の方に手を伸ばした。
「上条さん、何か質問あるかしら?」
「あとどれくらい必要なの?」
 神林は親指を折って、残りの指を立てた。
「四十万?」
 神林は首を振った。
「えっ、よんひゃくまん?」
 途方もない…… 学生のバイトで払いきれる額じゃない。いくら風俗のようなことをしたって、集まった頃、遠山先輩がまだ生きている保証があるのだろうか。
「そんなの無理、無理だよ」
 町田が言う。
「だから、この動画を四十万で買ってよ」
「合計で百二十万。その間にウチラも働くから、そのころの合計で二百五十万にはなる。今七十万はあるから、もう少しなんだ」
 山川はどれくらいでその四十万を稼げるのか言わない。どんな酷い目にあっての四十万なのか言わない。そんなお金で遠山先輩が助かったとして、それが本当に正しいのか、教えてくれない。
 とにかく……
 とにかく、このバイト話には無理が多すぎる。
 神林の口元がいやらしく崩れた。
「手っ取り早く、今日、稼いでもらっていいかしら。返事は聞かなくてもOKで決まりなのよね?」
「何いってんのよ、このタオルほどきなさい」
 あかねは体をよじりながら、そう言った。
「あんた達、このくらいじゃヘッチャラみたいだから」
 神林が指で合図した。
「おお、この娘(こ)たちがレズっ子なの……」
「いいねぇ、若い女の子の匂いは」
 玄関方向から何人かの男が入ってきた。
 首や腕に、じゃらじゃらとアクセサリをつけた者、細かく巻いたようなパーマをあて、リーゼントしている者、センスなくはだけた服をきている者…… いわゆる、不良とかヤンキーとか、そういうたぐいの人たちだった。
「やれるんだよな、金は払ってんだからな」
 麻子はちょっと前から、泣き続けている。
 美々も涙が溜まっていた。
 あかねは恐怖で体が震えていた。
 このままでは、この男たちに乱暴されてしまう。無意識に転がり、あかねと麻子と美々は床の端っこに固まった。
 あかねが見ていると、男たちに続いて、もう一人部屋に入ってきた。
「せ、先生!」
「笹崎先生」
「先生も混ざるかい」
「俺、先生ともしてぇよぉ」
「下品な冗談嫌いだっていったろうが」
 笹崎先生は、男の顔を平手で叩いた。



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 それでも、完全に長髪金髪の自分の姿を無視することが出来ず、何度か見てしまって泣きたくなった。
 涼子、早く来て……
 目の前の自分に耐えられない。
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 町田の笑い声が治まっていた。
「正直、誤解でもどっちでもいいの」
 神林は座って足を組んだ。
「私達はこういう映像を持っているの」
 いきなり部屋が暗くなり、またプロジェクターで動画が映し出された。
 お馴染みの体育館の映像だった。
 どこかの隙間からとっているような、汚い映像。興奮して声にならない声が流れ出てくる。
 女バス顧問の女性教師。
 もう一人は…… おそらく自分。
「やめて!」
 あかねは、光りの出処がわからず、映っている壁に立った。しかし、山川と町田がすぐにあかねを押さえ込んでしまった。
「やめてよ、本当にやめて……」
 映しだされているあかねは、先生にもっといやらしいことをするように求めていた。
「遠山先輩の為に集めているお金の目標があるの。だからこの映像を買ってくれない? バイトしても、貯金してたお小遣いで払ってくれるのでもいい。もし、どうやってお金を集めていいか分からなかったら、私達と一緒に青葉で働けばいい、ね? どお、あかね」
 押さえつけられたあかねは、手と足をタオルで縛られてしまった。
「返事はすぐじゃなくてもいいから」
 一呼吸おくと、神林は上条の方を向いた。
 麻子は、何か予感がしたのか、体が震え始めた。
「……い、いくらですか。いくらなんですか。ごめんなさい、その映像を渡してください」
 あかねは自分の映像を買ってくれるのか、と思ったが、そんな訳はない。
「何のこと」
「私の…… 私のもあるんでしょう?」
 神林はニヤリと笑った。
「察しがいいわね。次のが貴方のだったか、念の為確認するわ」
「いやっ!」
 上条もあかねと同じようにスクリーンの前に立った。眩しそうな顔をしながら、光源の方へ手を伸ばした。
「無駄よ」
 山川が体を抑え、町田が持ってきたタオルで手足が動けないようにくくってしまった。
 町田が残りのタオルを持って、香坂の方を向いた。
「美々ちゃんも、先にやっとく?」
「あら、素直なのね」
 山川は美々の様子見てそう言った。
 香坂は自ら両手を揃えて突き出していた。
 町田と山川はそれをしっかりと結んだ。
 スクリーンでは、女バスの顧問と麻子が激しく絡み合っているシーンが映し出されている。
 あかねは自分の映像ではないせいか、少し冷静になって、それを見ることが出来た。口ではブリッ子な麻子も、やることはやっている、そんな感じだった。
 短パンもスパッツも脱いでしまって、もう後はその可愛い下着だけになっている。
 顧問の指先が麻子に触れ、大きな声を出して麻子がのけぞった。
 全員が息をのんでスクリーンを見つめていた。
「んと。まだまだ激しいんだけど、ここまでね」
 神林が合図すると、今度は香坂の映像が始まった。美々の小さいが形のよい胸が、完全にさらけ出されている。教師が生徒の胸に指を這わせ、唇で挟んだり、舌でなぶったりしている。背景というか、場所が体育館であることが異様に感じる。
 あかねはつばを飲み込んだ。
 香坂は自分の映像を見ないように、縛られた手を上にあげ、聞こえないように二の腕で耳を押さえていた。
「いやぁ、こっちもかなり過激ねぇ」



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 あかねは町田のその軽い口調のせいで、余計に残酷に聞こえた。
 麻子が言った。
「募金とか、そういうこと?」
 神林は無言で首を振った。
「ダメだった」
 山川が言った。
「例えば、今いくら募金出来る?」
 美々や麻子が何となくの額をぼんやり言う。月のお小遣いをほとんど出し切っているくらいの額だ。
「そうだよね、それくらいなんだよね」
「同じ部活の人なら、それくらい。そうじゃない人に頼んだらもっと少ないし、くれる人の割合が酷い」
「どういうこと?」
「何百人と声がかかっているはずなのに、何人も通り過ぎて、このパネルを見たはずなのに」
「それだけで今言った額の十分の一とか、百分の一だと、正直、絶望というか」
 あかねは、ここへ来て、神林が、この話を何につなげようとしているのか、想像がついてしまった。
 正直、遠山先輩の事になった瞬間、すべての話を忘れてしまった。
 そして本当に神林達の話に乗って、それでもいいような気がした。
 でも違う。
 あかねの中ではやっぱり何かが違った。
 ああ、こんなことに利用するのか、遠山先輩のことそれ自体本当なのだろうか、それすら疑わしいとさえ思ってしまう。本当だったらそれで美談とかになるんだろうか。
「あのさ、バイトしようよ」
「半分でいいから、遠山先輩の役にたててくれないかな」
 神林と山川が代わる代わるそう言う。
 町田は自分の手で口を抑えている。
「青葉でバイトしようよ、私達と一緒に」
 きた、とあかねは思った。バイト先の地名まで出した。間違いない、半ば風俗のようなものだ。そんなことしてはいけない。
「イヤ。どんなバイトか知ってるのよ」
 あかねは立ち上がった。
「遠山先輩の為なんだって。動画みたでしょ?」
「どんなバイトか説明していいの?」
 あかね自身も全部を把握している訳ではない。本当にそれを口で言って、神林を言い負かせるか自信はなかった。
「どうせ、こんなのもどこかで録画しているんでしょ?」
 美々と麻子はどうしていいか分からないようだった。
「そうか、あんたが青葉に来たのは、何か勘づいたからなのね」
「そうよ、あのセクハラ体育教師と組んでるんだと思ってね」
 町田愛理が突然、爆発するように笑い始めた。山川も笑った。神林は厳しい顔を一瞬だけ崩したが、すぐに厳しい顔に戻った。
 町田の笑い声が響いている中、神林が説明を続けた。
「あの体育教師はただ利用されていただけよ。部内に揉め事を起こして、注意をそらしているだけ。あいつ、ただのバカだから。それだけ。何の関係もないわ」
 町田の笑い声がさらに大きくなった。
 ツボに入ったどころじゃない。
「川西先生のことはおいておいて、あなた達が青葉でやっているのは、売春と同じじゃない」
「うわ! すごい単語知ってるのね、あかねさん」
 山川が嫌味ったらしくそう言った。
「私達のバイトはそんな方に触れることじゃないわ。青葉の観光案内よ」
「あかね、誤解したまま私達のことを悪く言わないでくれる」
「誤解じゃないでしょ」



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今週は、月(18:00)、火(18:00)、水(18:00)、木(06:00)、木(18:00)、金(18:00) と掲載します。
よろしくお願い致します。 
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『ヒカリ!』
 次第に見えなくなったヒカリの姿と逆に、現実のトイレの様子が目にはいってきた。
「どうしよう……」
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 そして後ろで映っている美樹先輩の母親らしい人物の表情がどことなく暗い。
 あかねにはいやな予感しかしない。
『どうですか? こんどの試合は勝てそうですか?』
 友達らしき人物が手をマイクのようにして差し出す。
『もちろん全力でのぞみます。そして勝ちます』
『そうですか、試合後はいつごろ部活に復帰できそうですか?』
『一年以内…… 半年。半年で復帰します。先輩、みんな! 待っててね』
 明るく手を振った。
 映像はそこでピタリととまった。
 部屋の中で、誰も口を開かなくなってしまった。
 神林が映像の方を見ながら、話しはじめた。
「遠山美樹先輩、手術をしたの」
 え? なに、どういうこと。
「手術を始めたんだけど、お医者さん、すぐにそれを中止してしまったの」
 ちょっと待って……
「ちょっとまって」
「開いてみて、初めてわかったらしいよ」
「日本では手術できる人いないんだって」
「うそ……」
 何を聞いているのか半分ぐらいしか理解出来ていないのに、あかねの頬には涙がこぼれていた。考えてもそれ以上言葉が出てこなかった。
 まさか、この部屋……
「みんなだったら、どうする」
「……」
 全く考えられない。
 そんな感じだった。
 麻子は涙をこぼしながらスクリーンを見つめていた。
 美々はあかねによりかかりながら、涙をぬぐうことなく泣いていた。
「ちょっと考えてみて……」
 スクリーンが消え、部屋が真っ暗になった。
 一瞬の間があって、また灯りがついた。
 さっきより暗い感じがする。
 同じ照明がついているはずなのに。
 あかねは、この部屋がもしかして遠山先輩のご自宅ではないかと思って必死に表札を思い出していた。
 部屋の番号以外、ここに入るまで部屋の持ち主の名前らしきものを一切目にしていない。それに、遠山先輩の家でお酒をだしてみたり、こんな動画を見せてみたり、先輩が入院しているのにこんなフカフカのラグを敷き詰めた部屋でごろごろしたりしないだろう。
 だがそれは全部、そういう想像でしかない。
 娘が病気だから、家族は三百六十五日、ずっとお通夜のような顔をしていなければならない理由はない。だいたい、お通夜の間だって、笑ったりするものだ。
 だからこの部屋が遠山先輩の家であっても変ではない。あかねはそんなことを考えていた。
「大学に入って、バスケを続けようと思った矢先の出来事らしいよ」
 そう言って、神林は部屋の真ん中の床をじっと見つめていた。しばらくして、言葉をつないだ。
「やれることはないか、って考えたんだ」
 寄りかかっていた美々が、あかねから体を離した。
「やれることって?」
「お金よ」
 町田が軽い調子でそう言った。
「たくさんお金がかかるんだって。アメリカでは順番を待っているんだって。いっぱいお金を出せば、順番変えてくれるんだって」



ーーー
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 バトンの両端の宝石が光り始めたかと思うと、真琴の衣服は光とともに散り散りに広がっていき、輝きが最高になった時には完全に体のラインが浮き出ていた。
 そして光がおさまった時には、小さな帽子とセイラーカラーのワンピース、膝上のソックスというスタイルに変わっていた。
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「やっぱり! おかしいと思った。これ、お酒なのね!」
「ばっちり証拠は撮ったよ」
「写真でみたってお酒かどうか分からないでしょ?」
 山川がニヤニヤしているのに気づき、後ろを振り返ると、町田が用意したと思われるトレイに酒瓶やジュースが並べられていた。
「これが証拠、訳には……」
「証拠にならなくても、アップすれば炎上して学校の先生の目にもとまるでしょうね」
 山川は笑いながら続けた。
「そこまでで十分なの、別に退学にならなくても、罰せられなくても構わない。周りから白い目で見られるようになるだけで十分」
「こんなことをする為にワザワザこんな部屋に呼んだの?」
「そうじゃないよ」
 背中を預けて座っていた神林が、体を起こしてそう言った。
「そうじゃない。これは、仲間のしるしさ。仲間になって欲しいから、安易に抜ける、なんて考えてほしくないんだ」
 それは脅迫というのだ、あかねの怒りが増した。
「みんなと仲間になって、あることを成し遂げるため、手伝って欲しい」
「あること?」
「まずこれを見て」
 神林の横の壁に、光が当てられると、部屋は急に暗くなった。麻子の影がその壁に映ってしまって山川が「みんな座って」と言った。みんな、そのまま大人しく座った。
 映像が流れ始めると、あかねも麻子も声を上げた。
 遠山美樹先輩の伝説のビデオだった。
 香坂もあかねによりかかりながら、映像をじっとみつめていた。
「私もこの動画、知ってますよ」
 あかねは自分たちの部活の勧誘の際、エキシビションで試合をして見せたのだが、本当に可愛らしく、かつ上手い選手だった。動画は、大会の準決勝をまとめたものだったが、なかまを思いやるすがたや、汗を拭うしぐさ、レイアップシュートひとつとっても、まるで遠山先輩の為に道を開けたように綺麗にコートを走り抜けていく。可愛い、上手い、美しい。そんな選手だった。
「見たことあるひと」
 神林は手を上げろというように、自ら手を上げてみせた。
 町田も山川も、麻子も美々も手を上げた。
「あかね」
「当然あるよ」
 動画は急に白黒のエフェクトがかけられ、スローモーションになり、止まった。
「え?」
 急にカーテンがかかった、病室のベッドが映しだされた。
 まさか?
「えっ、どういうこと」
「まって……」
 映像から小さい声が聞こえてくる。
『病院だから静かにね』
『わかってる』
『いくよ』
『せーの、美樹せんぱ〜い』
 カーテンが開く。
 カメラが近づいていくと、顔まで掛かっている布団を開けて、顔を出した。
 遠山美樹先輩だった。
 コートの上と同じ、明るく、優しい笑顔。
 けれど着ているのはユニフォームではなく、病衣だった。



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