その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2015年12月

「ちょっと辛いというか、苦いというか。薬っぽいというか」
「!」
 三人はお互いの顔を見合わせた。
「あ、かき混ざってないかも」
 町田がやってきて、マドラーでクルクルとかき混ぜた。
「混ざってないって、何の事?」
 町田の口を抑えて、山川が言った。
「原液を薄めて作るのよ。だから、良くかき混ぜないと元の炭酸だけの味になったりするの」
 まともに信用できなかったが、提供される情報はそれだけなので、あかねにはウソなのか本当なのか判別出来なかった。
 神林達が適当に飲んで食べ始めてしまったので、あかね達もどうしていいのか分からなかった。ドリンクを飲み、スナックを少し、また少しと口に運んでいくうち、何か酷いことをされるのではないか、というあかね達の思いは消えていった。
 ほぼ全員がグラスの三杯目に入りかけたころ、香坂が急に体を寄せてきた。
「あかね先輩あかね先輩。美々、先輩に甘えていいですか?」
「え? 甘えるの? どんな風に? 甘えてみてよ」
 あかねは自然な仕草を装いながら、香坂の髪の毛をなでた。
「いいんですか? 美々がぁ、甘えるのはぁ、こうするんです」
 髪を触っていた手を下にすり抜けて、右胸の方へ頬を寄せてきた。反対の手で、左胸の方へ触れきた。
「おっぱいさわりたかったの?」
 あかねはすり抜けられた手を、香坂の腰にまわして抱き寄せた。
 変だ。
 自分も、香坂も。
 正面にいた、麻子が、目を細くしてこちらの睨んでいた。
「な・に・やっ・て・る・ん・で・す・か?」
 麻子は言い終わると、グラスに挿していた三本のストローを一気に口に含んで、音を立てながらドリンクを飲み干してしまった。
「あまえてるんですよぉ、いいじゃないですか、先輩にはあまえるんですよぉ」
「じゃあ、私もあかねにちゅーするよ? いいの?」
 そう言って麻子は頬を膨らませた。
「いやいや、麻子がちゅーするのは関係ないよね?」
 麻子はフンと言わんばかりに横を向いた。
 ……だから、明らかに変だ。
 私達は、神林達になにかされると思っていた。
 それも、多分、理由はよくわからなかったが、暴力的ななにかをされると思っていた。
 それが、ただ呼ばれて、部屋に案内されて、ドリンクやスナック菓子を食べている……
 全部、狂っている。
 あかねの胸をモミはじめた香坂とか、何かにつけて突っかかってくる麻子とか。自分も何か、かっかするように熱い。なにか、普通の飲み物ではなかったのだろう。
「あ、これ、お酒?」
 そう言って、あかねは神林の方を見た。
 神林はニヤリと笑うだけだった。
「お酒なんでしょ?」
「お酒でもいいじゃないですかぁ。美々、とても気分がよくなりましたぁ」
「お酒だからなんだっていうの? あかね」
「麻子、私達の年齢では、お酒のんじゃいけないんだよ」
 町田が、キッチンの方へ小走りに去っていくと、山川はスマフォであかね達を撮影し始めた。
「何写真なんか撮ってるのよ」
 あかねは言った。
「あなた達がお酒飲んでいるところの写真よ」



ーーー
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 その言葉を聞いて、真琴はこのベストの男が悪党ではなく、間抜けな手下だと判断した。
 多分、本当の悪党ならこのフィールドの仕組みを言わないだろう。自分がかなり有利と思って、気が抜けたのだろうか。
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「あの……」
 座った麻子は、揃えた膝の上で手をぎゅっと握った。
「私達のスマフォはいつ返してくれるんですか」
 反対側に足を高く組んで座った神林に言った。
「まあ、落ち着きなよ。なんか飲むか、なんか食べるかい?」
 急に、町田が雑誌を閉じて、膝を揃えて座り直した。山川も何かを感じとったように、スマフォを隣に置いた。
「?」
 神林が指を差しながら何かボソリと言うと、山川と町田がキッチンの方へ向かった。
 しばらくは、誰も何も話さず、ただ神林対あかね、麻子、香坂の三人という配置の緊張感だけが続いた。
「お、来た来た。ほら」
 神林が立ち上がって、山川からトレイを受け取った。町田は持っていたものを山川に渡し、町田はまたキッチンへ言った。
 神林のトレイの上には様々な色のコールドドリンクがのっていて、山川が持っている分も含めると、人数よりも数が多いようだった。
「好きなのを選んでいいよ」
 あかねはなんだか分からず、後ろにいた山川のトレイから、トマトジュースのような赤いドリンクを選んだ。
 手に取って、匂いがするのか確かめてみたが、入った時からずっとしている、甘い香りのせいで、飲み物の匂いは分からなかった。
 麻子は緑のものを、香坂は黄色のものを取って、神林も黄色のものを取った。
「ほら、ミチ、エリ、戻ってきて。乾杯にしよう」
 神林がキッチンの方を向いてそう言った。
 乾杯? なんでそんなふざけた言い方をするんだ、とあかねは思った。あんたたちとは仲間でも何でもない。今、ここにいるのは、スマフォを取り上げられて、強制的に連れてこられただけだ。
 神林が言った。
「あかね、怒るなよ。仲直りしよう、って言ってるんだよ」
 山川が小さいトレイを全員分配って回った。スナック菓子とコースターがのっていた。
 町田が小分けにしたスナック菓子を大きな皿に入れたものを持ってきて、床の中央あたりに置いた。
 山川と町田も揃ったところで、神林が言った。
「本当だよ。これから私達は仲間になるんだから、仲直りだ。これは仲直りの為の乾杯なんだよ」
「……」
「その前にスマフォを……」
「それは仲直りの後」
 神林は指を立てて口の前につけた。
「いい? 全員飲み物持ってる?」
 お互いが全員の顔を見渡す。
「乾杯!」
 神林達はグラスを掲げ、それぞれグラスを合わせたが、あかね達はそんな気分ではなかった。それでもドリンクに口をつけ、一口二口飲んでいた。
「美味しいね」
 ストローを外すと、麻子がにっこりしてあかねに言った。
「そっちはどう?」
「トマトなのかと思ったけど、別にそういうわけじゃなかったみたい。甘くて美味しいよ」
「ちょっと頂戴。こっちも飲んでいいよ」
 あかねは緑色の液体を飲む気はしなかったが、麻子の手前があるので、少し口に含んだ。
 変わった味だが、不味くない。
「私も混ぜてください」
 香坂もドリンクを差し出したので、あかねも麻子も黄色いドリンクを回して飲んだ。
「ちょっとだけ……」
「これ、だけじゃないよ」



ーーー
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「あんたもっと中に入りなさいよ」
 あかねと香坂だけが入り口付近にいたせいで、入り口のオートドアが開いていたのだ。
「どういうこと?」
「あんたがそこにいるせいで、そっちが閉まらないのよ。閉まらないと内側は開かないの!」
 それを聞いて町田が言った。
「私何回もやっちゃって……」
「そうなんだ」
 あかねはそう言って後ろを振り返った。
「!」
 宅配業者のような格好の男が、息を切らせながら入ってきた。大きな荷物を抱えていて、顔は見えなかった。
 その場に立ち尽くしていると、神林が言った。
「ほら、あんた邪魔よ!」
 あかねはようやく入り口ないのスペースに入り、外側のドアがしまった。
 神林はもう一度部屋番号を押して『来ました』とだけボソリと告げると、内側のオートドアが開いた。
 六人はそのままマンションの奥に進み、エレベータを使って八階に上がった。山川が先頭になり、あかねの後ろに神林が回った。
「あんたがキョロキョロしながら遅いから、見張ってなきゃね」
「キョロキョロするよ。初めてくるところなんだから」
 山川が部屋のチャイムを鳴らすと、扉の錠だけがあく音がした。
 山川がそのままドアノブを回して、扉を開け、香坂、上条、町田、と入っていった。
「ほら、やっぱり遅い」
 神林があかねを突き、あかねはビクッとして前に進んだ。
 部屋の中から甘い香りがしてきた。
 玄関も広かった。
 靴の数をパッとみると、今入っていった三人分の靴しかなかった。スリッパとか、普段履きの靴とか、何らか住人の一足ぐらいあっても良さそうなのに。
 さっと見回した部屋の清潔な感じが、まるで人が住んでいない部屋のような気がして、少し怖くなった。
「早く入って」
 山川があかねを押しやって、靴を脱いでそのまま部屋に上がっていった。神林が扉を閉めると、体を屈めて山川の靴の向きを変えて、揃えておいた。
「失礼します」
 そう言ってあかねも部屋に上がって、自分の靴を揃えながら扉をみた。神林が扉に鍵をする様子がなかったので、たずねてみた。
「部屋の鍵はしめないの?」
「ものを知らないの? ここはオートロックなのよ」
「確かめていい?」
 あかねは靴を履いて外に出ようとしたが、神林に止められた。
「ダメ」
 あかねはもう一度靴を脱いで部屋に上がり、言われるままに奥のリビングへ進んだ。
 広くて白い部屋には白くて、毛足の長いラグが床が見えないほど何枚も敷かれていた。床部分は円形に一段下がっていて、縁に背中を預けられるようソファーのように膨らんでいた。
 窓には厚いカーテンが掛かっていて、床の所々にある照明と、壁沿いに何箇所かある間接照明で照らされていた。間接照明だが、暗いわけではなく、本を読むほどではなかったが、明るかった。
 山川はそこに座りスマフォを眺めていた。町田はすでに円形の床に横になって、小さい灯りの前で雑誌を広げている。
 香坂と麻子はどうしていいか分からないように床の端に立っていた。
 神林が、例によって背中を突いた。
「何やってんの、座りなよ」
 あかねに言っているというより、私達に言っているようだった。
「フワフワだから」
 町田は誰に言う訳でなく、無邪気な感じにそう言った。



ーーー
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 ヒカリの視野の隅に映る人の行動を真琴が目で追っていたが、動きが奇妙だった。
 本当に壁ができているかのようだ。
『ヒカリ、ちょっと聞いていい?』
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 住宅地は駅周辺にあるのだが、商業地が国道沿いなため、駅の利用は通勤通学だけで、乗り継ぎや、買い物にやってくるような人は少ない。知り合いでも住んでいなければ、駅を利用することはないだろう。
「あかね、何でここに来たの?」
 そのものズバリを言ったら引かれるに違いない。だって『尾行してた』らここで降りた、からなのだ。あかねは適当にごまかすことにした。
「忘れちゃった」
「その時はこの駅で何したの?」
「来た、って記憶しかないんだよね。何か、どこかの駅とごっちゃになってるのかも」
 神林達は会話もなく、それぞれが目の前のドリンクを見つめたり、スマフォをいじったりしていた。
 以前、ここに来た時の目的と、今の目的は実は大して違わないような気がしていた。
 未知のものを確かめるため……
 単なる好奇心を満たすために、ここまで来てしまった。自分が正しかったのか、間違えだったのかはまだ分からない。
 真実が知りたい。
 ふと、美沙の顔が浮かんだ。
 いや、そうじゃない。
「さ! 連絡きたから行くよ」
 神林が突然立ち上がった。
 そう言った後も、ずっとスマフォの内容を確認している。
「早く。片付けて。さっさと出て」
「しっしっ」
 山川と町田はよく分からない感じであかね達を追い立てた。
 あかねが香坂と麻子の飲み物もトレイに乗せて運び、飲み残しや紙コップを処分した。麻子は山川に追い立てられながら、あかねの方をチラチラを振り返った。
 あかねは置いていかれたかと思っていると、後ろから神林が背中をつついてきた。
「ほら、行くよ」
 もしかしたらこのまま誰ともかかわらずにこっそりと家に帰ることも出来たかもしれない、とお思った。しかし、、それではスマフォを失うだけで何も解決しない。
「スマフォはいつ返してくれるの?」
「これから行くところにある」
「そうじゃなくて、返してくれるの?」
 あかねは食い下がると、神林はあかねの脇腹を突いた。
「痛っ……」
「スマフォは後だ」
 あかねは神林のボスがいるところへ行くのだ、と考えた。ここで答えを言わないようにしているだけではない。神林が白と言ったものを、黒という人物が現れるから、ここでは白とも黒とも言えないのだ。
「これから、どんな人に会うの?」
「……」
 神林は唇を噛みしめるように強く閉じた。
 何も言わないぞ、という意思をみせつけた。
「前の二人に追いつくぞ」
 神林に背中を押された。
 あかねは前の二人に追いつくように急ぎ足で歩いた。
 駅を超え、また例のコンビニの前を通った。
 今度は立ち止まらず、角を曲がった。
 そのまま進むと、マンションの入り口と駐車場が見えきた。神林の行動を見張っていた時の、あの場所だった。
 六人はそのままマンションの入り口に入った。
 神林がパネルに何か数字のボタンを押して呼び出している。しかし、内側のオートドアが開かない。神林は、あかねの方を振り返って言った。



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 突然敬礼するなり、警備員は出入口方向へ走り出した。
 真琴も何かを感じてその警備員を追いかけるように出入口に向かった。
 そこには涼子とその後ろに隠れるようにしている薫、追い詰めようとしている警備員がいた。
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「香坂さん、上条さん、準備出来た?」
「行きましょう」
 麻子は準備が整ったようだった。香坂はまだ途中のようで、バッグの中を出したり入れたりしていた。
「慌てないでいいわよ」
「ありがとうございます。先輩」
「なんであんたが良い悪いを判断してんのよ。香坂、早くしなさいよ。残りはあんただけよ」
 苛立つような声を聞いた周りの部員が、神林の方をチラッとみていた。
「なによ!」
 神林は誰というわけではなく、周りにそう言った。呆れたような顔をする者、怖がって見ないフリをする者、あからさまに腹を立てたような者、様々な反応だったが、神林に文句を言ったものはなかった。こういう時、何か言ってくれるとしたら部長だったが、笹崎先生への報告でまだ帰ってきていない。
「支度出来ました」
「ほらっ、行くよ」
 神林はそう言うと、香坂のではなく、あかねのバッグをぐいっと引っ張った。あかねは神林を睨みつけたが、お互い何も言わなかった。
 部室を出ると、待っていた町田と山川と一緒に、六人は学校外の公園に向かった。
 何をするのか全く分からかなった。
 公園には、小学生が二三人、鬼ごっこでもしているのだろう、互いを追い掛け回して遊んでいた。このままこの公園に入るのだろうか、と神林の方を振り返った。
「何よ、文句あるの?」
「そうじゃないけど」
「それじゃ、みんな駅に向かって。駅についたら百六十円の切符を買って」
 駅だって? どこに行かそうというのか。この三人は、この公園で何かする為に呼んだんじゃないのか、とあかねは思った。
「じゃ公園は?」
「小学生に占拠されてるから、当初の予定を繰り上げるわ」
「当初の予定?」
「いいから、駅に向かって」
 六人は駅に向かった。
 香坂と麻子はスマフォがないから現金で切符を買うと言って券売機へ回っていった。あかねはスマフォと別で、ICカードそのものを持っていたので、そのまま駅に入った。
 神林らに言われるままに電車に乗って、指示された駅で降りた。
 あかねには記憶があった。
 見覚えのあるコンビニを通過して、角を曲がるとマンションが見えるはず。そこの入り口はオートドアで仕切られていて、部屋番号を入れて奥のオートドアが開く仕組みだ。
 あの時はここがどこだとか、全く分からなかった。
 だが、いまのあかねは知っている。
 コンビ二の前で突然、神林が皆を止めた。
「ちょっと待って」
 山川が何か電話をしている。
 聞き取りにくいらしく、何度も聞き返している。電話が終わったと思ったら、山川は反対方向にむかった。
「駅の反対側にバクバクバーガーがあるから、そこで時間潰す」
 無言のままの集団が、そのままチェーンのハンバーガーショップに入って、全員Sサイズのドリンクを買った。そして、一人用のスツールに六人並んで座った。
「私は初めてなんだけど、あかねはこの駅来たことある?」
「うん」
「美々は?」
「私も初めてきました」
 何があるわけでもない、つまらない駅だ。



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 あかねは香坂に付き合って、一緒にストレッチを始めた。押したり、引っ張ったりして、肌が触れ、密着したりする度、少しエッチな気分になってしまう。なんでこんな時までいやらしい事を考えているのか、そう思うと、あかねは落ち込んだ。
「練習始めます」
 橋本部長の一声で練習が再開され、全員が入れ替わったように気持ちよく部活が進んでいった。
 山川や町田、神林の表情でさえ明るくなっていた。あかねの方を見るときは、さすがに笑顔ではなかったがムッとさせるような印象はなかった。本当に笹崎先生のせいで厳しく、辛い顔になっていたかのようだ。
 部活が終わり、ボールを集め、あかね達が床をモップで拭いていると、部長は笹崎先生のところへ練習終了の報告へ行った。
 体育館の片付けが終わった頃、部長が戻ってきた。
「このまま上がっていいよ。中に残っている部員にも伝えて」
 そう言って部長はまた校舎の方へ戻っていった。
 あかねは部長の姿を目で追っていたが、突然後ろからつつかれた。
「さ、練習は終わったわ。あかね、あんた着替えたら学校出たところの小さい公園に来て」
「私だけ?」
「なわけないでしょ。当然、上条も香坂も」
「私が伝えればいいの?」
「ふん。じゃ、そうしてくれる?」
 何なんだ、この女は。
 何にも考えてなかったのか、とあかねは思った。向こうが少なくとも三人、こっちも三人で計六人だ。六人もいれば、あの小さい公園に呼び出して、リンチという訳にはいくまい。
 いよいよ何をされるのか、何が始まるのかわからなくなった。
 麻子に声をかけて、公園に集まる話しをしたら腕にしがみついてきた。そのままの格好であかねは香坂を探し、同じように告げると、香坂が言った。
「それって、あの小さい公園ですよね。何をするつもりなんでしょう?」
「分からない」
 十数メートル先の神林らの方をチラッと見やった。
「やだ! 睨み返してきた」
 麻子が掴んでいたあかねの腕をさらに強く体に引き寄せた。それを見た香坂が少し冷たい目で麻子の方を見たのに、あかねは気付いてしまった。
「先輩、私も怖いです」
 香坂もあかねの腕にしがみついてきた。
 麻子の時には感じられなかった、腕が触れた胸の感触や、直接触れる肌のきめの細さや、自ずと近づいてくる髪から香ってくるシャンプーの匂いなどで、めまいがしそうだ。
「大丈夫、私がついてる」
 あかねは香坂に向かって言った。
 すると反対側にいた麻子が言った。
「あかね、怖い」
「麻子……」
 面倒くさい、と言いかけてやめた。実際はそう思っていても、言葉にしてしまうのは悪い気がした。
 神林達が先に部室に入り、しばらくするとあかね達も部室へ入った。自然と腕は外れていた。
 神林はさっさと着替えて、あかねの後ろに立った。逃げ出さないか見張っているのだろうか。町田と山川は着替え終わると、バッグを持って部室の外へ出ていった。
「町田さんと山川さん、出てっちゃったけど?」
「あんたも早く着替えて出なさいよ」
「町田さんと山川さんは?」
「外で待ってるだけ」
 あかねはチラッと部室の扉を見た。
 なんだそういうことか。
 あかねは着替え終わると、バッグの中身を整えて、ゆっくりと背負った。



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 真琴はスマフォを受け取ると二人と反対を向いた。
『薫ちゃんから聞いたよ。とりあえず何の選手かわからないけど、がんばってね。真琴が何か夢中になっているんだったら、応援する。けど、泊まりとかになる時とか、今日みたいなときは先に相談してね』
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 たいして動いていないうちから、あかねは変な汗をかいていた。
 おかしな緊張感が部員を包み込んでいるようだった。
「あんた達、今日はなんか変ね。五分休憩」
 笹崎先生がそう言うと、あかねはあなたがこの変な状況の中心なんだよ、と、心の中で突っ込みを入れた。
 どうやら皆同じことを思っていたらしく、橋本部長が笹崎先生のところへ駆け寄って何か話し合いが始まった。
「部長、先生の様子がおかしいって、ちゃんと話すのかな」
「すごい言い出しにくいよね」
「けど、事実なんだから」
「先生に、何かあったんですか? とは聞けないでしょ」
「なんか、遠回しでも言わないと」
 皆、それぞれに考えていたことを一斉に話し始めた。
「あかね、今日なんだけど」
「麻子、あんまり今から考えすぎると」
「凄く不安よ。本当に携帯も返ってくるか」
 神林があかね達の方を睨んだ。
 あかねの様子をみて、麻子が神林の態度に気付いた。
「やだ、こっちみてた」
 麻子はあかねの後ろの隠れるように動いた。
 なんでみられているというのに、そういう目立つような動きをするのか、あなた達の悪口を話していましたと言わんばかりの態度だ。
「麻子、そんな風にしたら神林達を余計に怒らせるって思わないの」
「……けど。怖い」
 あかねはイラッとしていた。
 麻子のブリッ子は今に始まったことではない。が、まさかこんなにイヤなものだとは思っていなかった。
 加えて神林の態度も気に食わない。
 大体、いたぶりたいだけだったら、何もワザワザ日付を指定して、よく分からない場所に連れて行く必要はない。何がしたいのか、一切こちらに明かさず、じっとこっちらを観察しているだけ。趣味が悪いにも程がある。
 麻子が不安になるのも無理はない。あかねはそう考えた。
 入り口の扉が開いて、橋本部長が戻ってきた。
 しかし、笹崎先生の姿はなかった。
「まだ休憩時間だけど、ちょっと集まって。話し聞いてくれる?」
 部長は、皆がバラバラと集まってきたところで話し始めた。
 部長の声が聞こえると、雑談がピタリと止まった。
「笹崎先生は体調が悪いそうです。顧問として部活をみなければならないので、学校にはいるそうですが、今日は部活の指導はお休みになります」
 静寂は終わり、急に部員達がざわつき始めた。
「体調が悪いから当たり散らしていたってこと?」
「なんかぁ〜、一気に気が抜けた」
「ま、そんなことかと」
 あかねも、何か気が抜けた。
 いつものように指導する気に見えていたからだ。最初から体調悪いと宣言して、椅子にでも座っていれば良かったのだ。
 部長が少し大きい声を出した。
「さ・わ・が・な・い! 後、そうね……あと二分したら練習再開します。気合入れ直してよ。じゃ一旦解散」
 あかねは壁に背中をあずけて、とんとんとシューズで床を叩いた。
 笹崎先生、やはり、あなたが……
 あかねの脳裏には、川西の姿が思い出されていた。あの日、川西はあかねにWiFiのことを話してくれた。
「先輩、ストレッチ付き合ってください」
 香坂の声で、考えは途切れてしまった。



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