その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2016年02月

「急に難しいこと言わないで」
 だって一緒にいた。
 毎朝同じ電車の同じ車両で、隣り合って学校に通っていた。
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 福原が立ち上がった。
「福原隆史です、よろしく」
 福原が頭を下げると、佐津間も軽く会釈した。
「質問は、サッカー部に入りませんか?」
「それ勧誘だろぉ」
「バスケこいよ」
「すみません、今はわかりません」
 と佐津間が言った。
「優柔不断だなぁ……」
 福原が座った。
 自分のタブレットがゆっくりフラッシュした。
 何も考えてなかった…… orz.
 どうしよう。
「は、はい。わたくしはしらいきみこです。よろしくお、おねがいします」
「なんだ、いきなり惚れたのか」
「あがりまくってんな」
「しつもんは、このこのがっこうのいんしょうを言ってください」
 クラスが沈黙してしまった。
 担任の佐藤がフォローした。
「この学校にきて、印象はどうだった?」
「別に」
「別にはないだろう。なんでもいいから言ってみろ」
「そうっすか…… 学校の印象っていうか、さっき質問したツインテールの子、声がババアですね」
 クラスが爆笑した。
 一人一人の笑う仕草が、スローモーションのように何度も自分に襲いかかってくる。
 そもそもクラスで目立つ方ではなかったのに。
 まさか、クラス全員に笑われるなんて……
 こんな注目の浴び方なんて全く想像もしてなかった。
 頭の中が真っ白になった。涙が溢れてきた。
 涙のせいか、景色が白く霞んいく。
 私、どうしたんだろう……

 気がつくと、ベッドで寝ていた。
 ふとんも違うし、天井も。何もかも違う。すくなくとも寮ではない。
 なんだろう、泣きすぎて気でも失ったんだろうか。情けない。たかが声のことを笑われただけなのに……
 体を起こすと、着ていたはずの制服ではなく、病衣を身につけている。間違いない。ここは病院なのだ。
 廊下側から視線を感じた。
「気がついた?」
 看護服を来た女性が、廊下に立っていた。私がベッドから降りて行こうとすると、押し戻すような手のしぐさをしながら、ゆっくりと近づいてきた。
 私は下しかけていた足を戻し、そのまま待った。
「具合はどう? 体温測って、血圧測るから、それまでちょっと待っててね」
 廊下にもう一人、人影をみつけると、自分の中のテンションが上がった。
「マミ!」
「ちょっと。今言ったでしょう? 体温測るのと、血圧測る必要があるから、じっとしてて。お友達だって待っててくれるから」
 女性はベッドの脇のカーテンを少し動かし、廊下側から見えないように隠した。
「安静にして数値が収まらないと、今日、入院になっちゃうよ」
「ごめんなさい」
 自分の鼓動を抑えられるのか、少し不安だった。これが数値に出てしまったら、マミと一緒に帰れない。
 看護服の女の人が、機器をガサガサと用意する時に、心の中からマミのことを消し去った。
 代わりに今日の転校生の一言が思い出された。
『あのツインテール、ババア声だな』
 そう言ったかどうかは確かでなかったが、確かにそんな、ババアと言っていた。それ自体も悔しいが、その後のクラスの反応が……
「ほら、ちょっと。腕だして」
「あ、ああ…… すみません」
 機器が装着され、腕に圧がかかる。
 音とともに圧が抜けていき、何かピカピカと光って数値が計測される。看護の方がタブレットで記録をとって、ニッコリと微笑む。
「うん、一応先生に確認とるけど、この数値なら多分大丈夫よ」
「よかった」
「気をつけてね。目の前が白くなったら貧血だから、ばったり倒れるまで我慢しないで、はやく座ったり、横にしてよ。貧血そのものより、倒れて頭を打ったりする方が危険なんだから」
「貧血? 私貧血になったんですか」
「血が足りない、という数値ではないのよね。脳貧血なんだと思うよ」
「……」
「なんかショックなことが起きると、そういうことになったりするわね。とにかく気をつけてね」
 クラス中から笑われたせいだ、それしかない。
 ちょっと注目を集めてしまうと気分が悪くなる。そんなことに負けてしまったんだ。
 弱い自分……
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 メラニーがドアを閉めると、涼子が言った。
「ちょっと話があるから、私真琴の家の前で一緒に降りる」
「車の中で話せば?」
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 構内に入ると、校舎の端で担任教師の佐藤が出迎えていた。佐藤先生は、車を降りた私の横に立ち、刑事に頭を下げた。
「白井、お前も」
 背中を押され、頭を下げる。
 刑事も頭を下げた。
「捜査協力ありがとう」
 言い終わるや否や、刑事は踵を返して車へと向かう。私は急いで追いかけた。
「あっ、あの、すみません。刑事さんお名前聞いていいですか」
「鬼塚(おにつか)だ」
 右手を差し伸べてきたが、その大きい手に圧倒された。
「それと…… もう危ない真似はするな」
「なんのことですか?」
「こんなことを続けていると命がいくつあっても……」
 無意識に刑事を睨みつけていた。
「そうか。本当にやる気なんだな。助けが必要な時は、迷わず俺を呼べ」
「呼べっていったって」
「……そのうちわかる」
 鬼塚が乗り込むと、そのハイブリッド車は音もなく、すべるように走り去っていった。
「ほら、教室に戻れ。すぐにホームルームするぞ」
 余韻とか、そういうものはないのか……
 担任の佐藤の後について教室に戻ると、教室の中はざわざわしていた。
「あっ、廊下にいないと思ったら教室の中に入っていたのか…… まあいい。ここに立ってろ」
 担任の佐藤がそう言った生徒は、見かけぬ顔だった。
「あなたが転校生?」
「白井、そういうことを言うな」
 担任は、パンパン、と手を叩いて皆を座らせると、ホームルームを始めた。
 木更津マミが〈転送者〉に襲われたこと。だから他のみんなも、登下校時の〈転送者〉に注意をすること、という話があった。
 続けて、期末テストに向けての課題について。
 そこまで終わって、やっと先生の隣に立っていた転校生の話しになった。
「さっき、ちょっと話しに出たが、木更津がきてからこのクラスには転校生が入ってこなかった。が、今日は、久々にクラスの仲間に加わる生徒を紹介する」
「さつまりょうくんでぇ〜す」
 おどけた声で、男子が言ってしまった。
「ほら、黙って。自分で言って」
「さきほど紹介された佐津間(さつま)涼です。まだ説明してなかったけど、こういう字だから」
 転校生は教壇にある教師用のタブレットにさっと書き込む。
 すると、教室のサイドにあるディスプレイがパッと映って文字が表示された。
 転校生にしては、この学校の仕組みに慣れすぎているような気がする。
 おお、とかへぇ…… とか、そんな声が聞こえる。
 どこかで見たような気もする。
「何が得意なの?」
「部活とか入る?」
「ちょっとまて、質問コーナーじゃないぞ」
「転校生なんて珍しくない、って聞いてたんだが」
 佐津間がそう言った。
 担任の佐藤よりは大きいが、背の高さは男子としては平均的だ。もしかすると、このクラスだと小さい方になるかもしれない。
「もう一ヶ月も入っていないから、ちょっと新鮮なんだよ」
「だから静かに。佐津間、自己紹介つづけて」
「もういいよ」
「じゃー質問コーナーにしてよ先生」
「そうだ、佐藤、そうだ」
 騒ぎが止まらない。
 今回の転校生が女の子で、私の部屋にさらに相部屋になるならよかったのに。私の、私の為の、私だけの小さな女子ハーレム……
「うるさい、他のクラスは授業時間なんだぞ」
 急にマミの顔が浮かぶ。
 そうだったマミ…… マミ、大丈夫なのかな。
 もう一緒には戦えない、かな……
「質問だらけになったら収拾つかないから、一人質問はひとつ。代表して何人か選ぶからそいつらだけ質問な」
 佐藤は佐津間から教壇のタブレットを取り返し、ランダムで生徒を選んだ。
 急に生徒が一人立ち上がる。
「はい。あ、私は鈴木葵です。よろしくお願いします。質問…… わ…… 質問は……」
 なんでもいいから早く学校終わってマミに会いたい。
「好きな食べ物はなんですか?」
「小学生かよ」
「たこ焼き」
「佐津間も小学生かよ」
「いいだろ」
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「何? なんなの、どうしたの、なに、これ」
「気持ち悪(わる)」
 いや、本人が一番今気持ち悪いのだ、と真琴は思った。
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