その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2016年05月

 上条くんが真剣な眼差しで各員からの結果を集めて、私に向き直った。
「先生。全員で確認を行いました。問題なしです」
 私はうなずいた。
 上条くんがハイタッチをしようとして、私はそれに応えた。
「ありがとう」
 実験室内に拍手の音が響いた。
「まだ続きがあるよ、慎重に」
 上条くんがそう言った。
「そうね。もう少しだから、皆、頑張りましょう」
 椅子を戻して、実験に戻った。
 超高速のコンピュータ。
 超高速の光通信。
 端反射しない半導体回路。
 この実験はそういった技術のベースになる。
 私は言った。
「250倍へ」
 上条くんが指示する。
「クロック上げてください」
 画面表示の波形が更に細かくなる。
 細かくなった分、綺麗な波を描かず、少し歪みがかかる。
「!」
 ファイバの中に水晶構造が入っている。
 ガラスのファイバではなく、水晶ファイバというべきだ。
「こんなに歪みが……」
「大丈夫です。想定よりは少ないです」
「上条くん、想定ってどれくらい」
「あと1〜2%は歪むかな、と思っていました」
「1〜2%ですって? そんなに? もしかして、私の計算が間違っていた?」
 上条くんは首を振った。
「納品時にファイバをチェックした時に、注文よりも質が悪かったんです。もう時間的に間に合わなかったので」
「それ、早く言って」
「結果は変わらないと思ったもので」
「けど、出力は高めに設定したままなのよ? ファイバフューズが起こったら……」
「質が悪くてもファイバフューズが起こらないのが先生の理論です。もっと自信を持ってください」
 確かに、ケーブルの質が悪くとも、水晶構造が信号のガス抜きをしてくれる予定だった。端反射も同時に軽減し、ファイバフューズがなくなる、という想定だった。
 だから、質がわるくとも成功しないと、理論が間違っていることになってしまう。
 質を高めるとケーブルが高価になってしまい、長距離に使えない。長距離ほど高速な通信がひつようなのにも関わらず、だ。
「ま、まあ、そうなのだけれど」
「言わなかったことは申し訳ありません。けれど実験の結果には影響ありませんよ」
「……」
 もうこの実験の40〜50%は上条くんのものでもある。アイディアは私のものかもしれないが、メーカーへの発注から現実化する為の調整や打ち合わせの類は殆ど上条くんに任せてしまった。
 確かに結果としてうまく行けば問題ない。
 私は決断した。
「安定した計測ができたら、そのままの状態から275倍へ移行してください。ノイズとファイバの温度については目視でもしっかり監視して」
 口頭で指示が出来ない部署には、杏美ちゃんと上条くんがそれぞれタブレットで指示を出してくれた。
「坂井先生、275倍に達しました」
「やっぱり厳しいわね。けど、これなら……」
 上条くんはうなずいた。
 イケる。これなら目標の300倍でも全く問題ないだろう。
 これが終われば、所長に報告出来る。
 長年書き上げてきた水晶の論文が出来るのだ。
「せ、先生、ちょっと来てください」
「杏美ちゃん?」
 私は慌てて近寄ると、杏美ちゃんはタブレットの画面を指差した。
「これ計測器側の問題でしょうか?」
「……ちょっと見てきます」
「実験は……」
「そのまま監視を続けて。275倍をキープしてください」
 私はそう言うと、杏美の指摘した計測器へ走った。
 とりあえず計測器をリセットして……
 けれど、それで治らなければ?
 不安定な機器のリセットは、機器を壊してしまう可能性もあり、非常に不安だった。
「大丈夫ですよ。リセットしましょう」
「か、上条くん。勝手に持ち場を離れない」
「怖かったら、ボクがやりますから、戻っていてください」

「だから、ミハル、変なことするの止めて」
「やっぱり止められないんじゃない」
「キミコ、怒るよ。キミコだってさっきミハルとキスしたでしょう?あれは不潔じゃないの?」
 あ、さっきのキスのことだ、確かにあれは唇を重ねてみよう、という意識下の欲望が働いたのだと自分でも思う。
 一方、頭のなかで、ミハルがマミの膝に手をかけ、私の方へ開脚させるという、妄想の暴走が始まっていた。
「そんな、あれこそ暴れるミハルを抑えるため、仕方なかったことなのに」
「キミコのことだから、柔らかそうだな、とかずっと妄想してたんじゃないの?だから偶然を装ってキスしたんでしょう?」
 いや、ホント、図星。
 しかし、何故私がこんなところでマミと喧嘩にならなければならいんだ。
 やっぱりこの変な妄想をやめて、普通のお風呂に戻そう。
 マミの膝に置いたミハルの手が、その足をグイっと開いた。
「ひっ……」
 その姿をバッチリ見て、記憶に刻み込むと、手で顔をおおった。
「いやぁぁぁ……」
 マミのため息のような声が聞こえた。
 慌てて股間を隠すが、私にとってはそんな仕草も今夜のオカズだった。
「だから何するのよ、ミハル」
「?」
 ミハルは相変わらず、自分が何をしているかの認識が薄い。
「キミコ見てないよね」
 いや、はっきりと覚えています。なんて、真実を言うことは出来なかった。
「う、うん。見てないよ。それより、ミハル、いい加減にしなさい」
「私はキミコのこころにしたがっ……」
 慌ててミハルの口に手をあてて塞いだが、マミがどこまで認識したのか分からなかった。
 このまま私の考えを読まれ続けるのは危険だ。
 早くお風呂を上がってしまうか、何か別の対策を考えないと。
「キミコのこころって、キミコ、もしかして、何かミハルにするように言ったの?」
「言ってないよ、だってずっと三人一緒だったでしょ?」
「廊下でもミハルの口を抑えたりしてたよね」
 私はマミの考えを読みたい、と強く思った。
 私をどこまで疑っているんだろう。
「?」
 ミハルが急に立ち上がった。
「ミハル、どうしたの?」
 私の後ろに立ち、私の両腕を抑えた。
「何するの?」
「ミハル、聞こえる?」
 私の腕を動かした。
 始めは何をしたいのか全くわからなかったが、持っていきたい方向が分かった。
 私の腕を持っていきたい先は、マミの胸だった。
 これは私の妄想ではない。
「キミコ、何してるの?」
「違うよ、ミハルが手を引っ張るんだよ」
 ということは……
 さっき思ったように、ミハルはマミの思考を読んでいるのだろうか。
 まさか。
 マミは胸を触られたい、と考えているとでもいうのか。
 ミハルは私の手首をハケのように使って、上下に左右に塗るように動かした。私は手の平をマミに向けないように、わざと手の甲を当てた。
「キミコ、キミコがミハルにやらせてるんでしょう?」
「違うよ、信じてよ、ミハル、違うって言って」
「……」
 何故、今になって無言のミハルに戻るのか……
「やっぱりキミコが考えた通りになってるのね」
「ほら、ミハル、手を離してよ」
「口ではどうとでも言えるわ」
「そんな……」
 私はそんなことを考えていない。
 確かに、ちょっと前までは考えていたけれど。
 ミハルは、私の手の平がマミの方を向くようにして、胸に押し付けた。
「ほらっ。どう言い訳するの」
「……」
 もうその感触に耐えきれなくなっていた。
 私はミハルの手がするのとは関係なく、胸の膨らみを確かめていた。指の間で挟んだり、つまんだり、引っ張ったりしていた。
「あんっ、きっ、キミコ……」
 その声に私の手が反応して、くりくりと乳首をいじり始めていた。
 避けれるはずだった。
このエントリーをはてなブックマークに追加

 サッと身体を洗い流し、湯船に浸かって、二人と反対の方を見ることにした。妄想禁止。これがこれからもずっと続くのだろうか。
「キミコ、本当にどうしたの?」
 私は答えるときも振り向かなかった。
「本当になんでもないの」
 こうやってマミが体を洗うのと、湯船につかる時間をずらせるだろうか。
 マミと一緒にいて、妄想無しはありえないというか、避けられないものだった。
「どうしたの、ミハル?」
「ここではどうしたらいいの?」
「お風呂だよ」
「オフロ……」
「本当に知らないの?」
「……」
 なんだろう、ミハルにはまともに記憶すらないんだろうか。
 それとも、あのカチューシャのせいだろうか。
「体を洗って、湯船で体を温めるんだよ? 思い出した?」
「……」
 気になって、後ろを振り返りたくなる。
「コレ……」
「体を洗うのはこっち。これは髪を洗うの」
 大体の女子は個人持ちのを使うが、寮にもボディーソープとシャンプー、コンディショナーはおいてある。何度も入る運動部系の部活の人は、寮のもので済ませてしまうことも多いと聞く。あくまで個人の意識の違いによるらしいが。
「ほら、私の洗ってるのをみて真似すればいいでしょ?」
 いや、いくらなんでも幼稚園のお子ちゃまじゃないのだ、そんな言い方はないだろう、と私は思った。
「ぃやん。ちょっと、ミハル。私の体を洗うんじゃなくて、自分の体を……」
 えっ、何。
 最初の『ぃやん』は何だ。
 何が起こっている。
 私は妄想を止めろ、という理性の合間をぬってマミの表情や、ミハルが触ったマミの体を想像していた。
「あっ…… ダメ、ダメ、ミハル、やめて。それに私そんなところ洗ってみせてないでしょ」
 顔が半分ぐらい後ろを向きかけている。
 ほとんど想像しているのと同じような、女子同士の体の洗いっこ動画が脳内再生されていた。ヤバイ、これをミハルに読み取られると……
「マミ、体洗ったげる」
 ミハルが私の思考を読み取り始めた。
 もうヤケだ。振り向いてじっくり見てしまおう。
 自分の手を下さずにマミにエロいことをするチャンスと考えよう。
 いや、ダメだ。振り向いてはいけない。変な妄想は止めなければ。
「洗ってもらわなくて大丈夫だから」
 このやりとりを続けて、マミが怒ったらどうしよう。
 逆にマミがミハルを受け入れたらどうしよう。
 どっちも私に良いことはない。やっぱり止めに入った方がよいだろうか。
「オッパイおっきい」
「何言うのよ急に」
 マミの顔が目に浮かぶ。少し頬が赤くなっているに違いない。
「照れなくていいよ。綺麗な胸がうらやましい」
「ミハル?あなたミハルなの?」
 その通り。ミハルの言葉ではなく、私の思ったセリフをそのまま言ったにすぎない。
「触ってもいい?」
「あっ……」
 その言葉を聞いた瞬間、私のなかで何かが切れた。
 私は後ろを振り返り、ミハルとマミが何をやっているのかを確認した。
「……キミコ、違うの。はっ……ぅ……」
 ミハルはマミの後ろに回り込み、下から手を入れてマミの乳房を揉んでいた。
「違わないじゃん。感じてるじゃん」
 自分で言っていて変な気分になる。
 言葉責めというか、なんというか……
「違うよ、ミハルがふざけて……んっ……」
 私の妄想は、これを止めさせることが出来なかった。
 現実の私はこの二人の行為を止めさせなければならない。
 どうしたら良いのか、さっぱり想像がつかなかった。
 現実の自分が、正しくこの二人に対して注意できるか。
 だって本当はもっとやって、と思っているのだ。
「不潔よ。女性同士で」
 心と裏腹の言葉が出てしまう。
「……違うよ、誤解だって。ミハルが勝手に。あっ、ミハル、もう、いい加減にやめなさい」
 マミはミハルの腕を振り払った。
 すると、ミハルはマミの背中に胸を押し付けながら、上下に動いた。
「マミ、気持ちいい?」
このエントリーをはてなブックマークに追加

 私はタブレットのケースを閉じて、目を閉じた。
 今回のスクリプトが全て頭に見えてくる。
 違和感があったところが修正されていく…… これでコードの懸念点はなくなった。
「坂井先生」
「!」
 椅子を回して振り返ると、そこには杏美ちゃんの姿はなかった。立っていたのは、中島所長の姿だった。
 私はタブレットを机に放り出して、慌てて立ち上がった。
 こちらを見ると、ニッコリと微笑みながら近づいてきた。
「|知世(ともよ)、実験の進みはどう?」
「中島所長。いらっしゃいませ。実験はまだ確認事項が少しあって」
「所長ってのはやめてよ。いつもは梓(あずさ)って呼び捨てにするくせに」
 確かに呼び捨てにしていたが、それは中島所長が呼び捨てにしてくれ、というから|無理にそうしていた(・・・・・・・・・)だけだった。何故名前で呼び合いたいのか、私には理解出来なかった。
 私と所長は、ふたまわりほど年齢が離れていて、中島所長の方は長年の実績を買われて、この研究所『初』の女性所長になっている。三年間も同じ研究を続け、未だにまったく成果の出ない私とは比べようもない。
「所内ですし」
 所長は諦めたような顔をした。
「実験はいけそうなの?」
「もう少しで開始出来ます。最後の確認事項ももうすぐクリアになるところです」
「そう。がんばってね」
「は、はい」
 急に後ろにまわられて、両肩に手を置かれた。
「そんなに肩に力を入れてはだめ。リラックスして」
 所長はそのまま両肩を揉んできた。
 すこしくすぐったい。
 おじさんがするセクハラギリギリの行為に近かった。
「あ、あの、肩を揉むのは……」
「えっ、ああ、イヤだったかな。ごめんなさい。今言っていいかわからないけれど、この研究には期待しているのよ」
「……」
 私には、それがお世辞なのか、嫌味なのか分からなかった。
「この実験。ある企業から共同で研究したい、という申し出があったの」
「えっ?」
 私の表情を見てか、所長は何か考えたようだった。
「やっぱり終わってから話すわね。今は実験に集中して」
 所長は背中を向けて扉に向かい、カードを取り出すと、さよなら、という感じにそのカードを振った。同時に、その手からエメラルドのリングがチラっと光った。
「しっかりね」
 そのカードを実験室の扉に設置したカードリーダーに開けると、自動ドアが開いた。
「坂井先生」
 今度は杏美ちゃんの声だった。
「上条さんの確認終わったとのことです」
 タブレットを開いて、メッセージを確認した。
『上条くん。戻ってきて』
 書いている間に、上条くんが戻ってきた。
 上条くんは私のタブレットをちらっと覗きこんだ。
「もう戻ってますよ。さあ、どうしましょう。念の為、100倍からやりますか?」
「計画通りで行きましょう」
 私はさらに続けた。
「計画通りに、最初に200倍。安定したら250、275、300倍まで試しましょう」
「分かりました」
 上条くんがそう言うと、装置をスタートさせる指示を出した。
「200倍から」
「……」
 何度かクリアしている実験ではあったが、今回の工夫によって、より安定的な動作が出来るはずだった。そして安定することで、300倍までの性能を発揮する…… はず、なのだ。
「坂井先生、周波数確認しました。非常に安定しています。前回の実験とは……」
「待って」
「はい」
 小刻みに上下する波動が画面に描かれていた。
 クロック数は現在の上限と思われているクロックの200倍。
 計測が間違えなければ、だが。
 このクロックを回路に流せば端で反射する。
 初期の実験装置ではこの端の反射が想定より大きいせいで、マトモな結果が見えなかったことを思い出す。
「もう一度、各値をチェックして。本当に200倍出ている?」
 論文に書いてから、別の研究室で追試され、ウソだの実験結果の捏造だの言われたくない。
「各自、担当分の再チェックねがいます」
 慌ただしく確認が目視チェックを始めた。
 メモ紙の上で軽く計算をし直す者もいた。
 遠隔地にはタブレットで、再チェックの指示を与えた。

 断る理由もないし、今日お風呂に入れる時間はここしかない。お風呂の用意をして、廊下に出た。部屋に鍵をかけて、私はいつものマミの後ろの位置で歩き始めた。私の後ろにミハルが歩いている。
 マミが後ろを振り向いて言った。
「ミハル、そのカチューシャだけど、お風呂では外すの?」
「……」
 ミハルは答えなかった。
 また例のカチューシャスイッチが入ったようだった。無駄なことに答えない。会話は積極的にしない、昼間のミハルだ。
「ミハル、カチューシャ外さないと頭痒くならない?」
 私は外さない前提でそうたずねた。
「……」
「何か答えたら? ミハル。そんな感じだと疑われるわよ」
 私はいつものようにマミのお尻からふともものラインを見ながらそう言った。
「!」
 いきなりミハルにお尻をなでられた。
「なにすんの!」
 私が立ち止まると、マミも振り返った。
「どうしたの?」
「……」
 ミハルは無言でこちらを見つめるだけだった。
 突っ立っていても仕方ないので、私達は再び歩き始めた。
 お風呂上がりの女生徒達とすれ違った。
 マミがその娘(こ)に手を振る為に、少し上体をひねった。
 私はその胸の膨らみを凝視していた。
「!」
 今度は胸を鷲掴みにされた。
「だから!」
 私がミハルの手を払いのけると、マミも今度は見ていたようだった。
「ミハル、なんでキミコの胸触るの? びっくりしてるじゃない」
「……」
 私は胸を抑えながら、マミの後ろに回った。
「ねぇ、答えなさいよ」
「……」
 ミハルは私を指さした。
「何なの?」
「……こいつが考えてることをしてみた」
「!」
 私は恥ずかしさと憤りに言葉が出てこなかった。
「何を言ってるの?」
 マミはなんのことか分かっていないようだった。
 ミハルは私の思考を読んだとでもいうのだろうか。私がしたい、と思ったことを、実行に移したとでもいうのか。
「そうだよ」
「だから何のこと?」
 マミにはわからないだろう。
 確実にこっちの思考を読み取っている。
 理屈は全く分からないが、私がマミを見て思ったことを身体で表現したのだ。
「こいつがあんたに……」
 私は急いでミハルの口を塞いだ。
 さすがにそんなことを言ってマミが気付かないわけもない。
「ミハルはやっぱり何か混乱してるのよ。ほら、早くいかないとお風呂の時間なくなっちゃうよ」
 私はミハルの手を引いて、お風呂場へ急いだ。
「あっ、キミコ待ってよ」

 私達は脱衣所で黙々と脱いで、カゴに入れていた。
 お風呂を終わって出ていく娘(こ)達は、互いにお話しをしていた。いつもなら肌艶や胸の膨らみ、お尻やふとももの曲線などを眺めながら、ゆっくり脱ぐくせがついていた。私は余計な妄想をミハルに読み取られないようにする為に、それらを見ないようにうつむき、何も考えないようにしていた。
「キミコ、どうしたの?」
 そう言って触れてきたマミの身体を見ても、欲情してはいけない。ミハルに感づかれてしまう。
「なんでも、ない」
「だっていつもと違うよ、なんでもないわけないじゃん」
「……宿題のこと考えてる」
「ミハル、突然なんのこと?」
 やっぱり私の考えを読まれている。
 胸の突端を弄り回して、悶えさせたい、なんて考えたら大変なことになっていた。
「キミコ?」
「なんでもない。お風呂入ろう。宿題あったっけ? あったならやっとかないと佐藤に怒られるし」
 私はマミとミハルを見ないように、急いでお風呂場へ入った。
このエントリーをはてなブックマークに追加

 私は時折、頭のなかにスクリプト※が浮かぶ。
 小さい頃は、それが何なのか分からなかった。
 自国語は英語ではないのに、変数や命令文はすべて英語で浮かんだ。
 まだ、誰にも言ったことはない。
 頭に思い浮かぶままをコンピュータに入れたこともある。不思議なことにそのスクリプトはバグもなく動いてしまうのだ。
 自分の中で作り上げられたものなのか、それとも本当にどこかから降ってきているのか…… それは分からない。
 大学の頃…… といってもまだ大学の研究所にいるのだから、大学生の頃というべきだ。大学の学生だった時、この世のどこにもないスクリプトが頭に現れた時に、そのスクリプトが動くシステムを組んでみたこともあった。
 私は化粧室で顔を洗ってハンドタオルで顔を拭っていた。
 今日もやたら長いスクリプトが頭に浮かぶ。
「先生ここでしたか」
「杏美(あみ)ちゃん、何かあったの?」
「実験の準備が出来ました」
「分かったわ。すぐ行きます」
 廊下を歩きながら、見下ろしているようような何千行、何万行と長く、かつ、何列にもなっているスクリプトが意識の中を流れていく。
 それは今回の実験で実際に使うものだった。
 立ち止まって目を閉じる。左下隅にあるコードが、赤く点滅している。実際に点滅しているのではない。全体を眺めていると、違和感があるのだ。
 実験室に入ると、上条くんが近寄ってきた。
「坂井(さかい)先生。実験の準備が出来ました」(坂井知世(さかいともよ))
 さっきの違和感を確かめないと、このまま実験を始めるわけにはいかない。
 共同の居室の為、今月内で一定の成果を上げなければならない。というか、予算も期待もかけられてない私の研究が、学内で別の場所を与えられるとは思えない。
 残りの数日が勝負なのだ。
 私は実験機器が並ぶ部屋を眺めた。
 測定機からのケーブルが束になってアイ・オーボードに入っている。それをコンピュータで瞬時に画像化して見れるようになっている。
 違和感のあるスクリプトが動いているのは、確か……
「今日は、何倍に設定しますか?」
「……」
「計画通り実施しますか?」
 違和感があるまま実行したら後悔する。
 一度初めてしまえば、再度準備を整えてスタートするのにまた何時間かかかってしまう。これ以上生徒を拘束することは出来ないだろう。
「ちょっとまって」
「えっ?」
 私は目をつぶって、違和感のあるスクリプトを確認した。
「測定する部分のプログラムは大丈夫? Dパートの測定機で動かすスクリプトを表示させて」
「オンラインできているものではないので、向こうに行かないとダメですね」
「分かったわ。ちょっと行ってきます」
 ケーブルの束が分岐して伸びている左の先に向かった。上条くんもタブレットを胸に抱えながらついてくる。
「担当者はいる?」
 上条くんがタブレットを確認している。
「水谷さん? ちょっとこの測定機のプログラム出して」
 私はヤニ臭い、と思いながらその水谷の頭ごしに測定機のプログラムを目で追った。
 頭の中で考えていたののと、同じ違和感。
「ここの分岐、ここの分岐の条件をちゃんと説明して。この式で判定出来る?」
「……出来ますよ」
「違うな…… 上条くん、変数の意味をもう一度正確に追って。比較演算子逆じゃない?」
「えっ……」
 水谷はムッとした顔でこちらを振り向き、上条くんは慌ててコードの前後を追いかけ始めた。
「上条くんと一緒に見て、間違っているなら直して、本当に大丈夫だったら実験を始めます」
 ああ、こういうキツイ言い方をしなくてもいいのに。自分でも思うことはある。
 けれど、余計な気遣いの言葉を言っていると時間が無駄になってしまう。
 今は時間がないのだ。
 私はそのまま実験室を戻り、もといたコンピュータの前に戻った。
「杏美ちゃん、そっちの箇所は大丈夫そう?」
「温度も安定してますし、計測には問題ありません」
「そう良かった」
「先生、上条くんが……」
 私はタブレットに目をやった。
『おっしゃられた通りでした。比較を逆にするだけですので、すぐ終わります』
 と書かれていた。
「杏美ちゃん、了解」
 私は椅子に座り、急いでタブレットで打ち返した。
『いそがないでいいから、本当に逆が正しいか、処理内容も合わせて確認のこと』
『承知しました』
 


※ スクリプト:ここではコンピュータ・プログラムのソースコードの意味 

「さすがに、接着はされていないんじゃないかな?」
 マミも良くみているが、私以上の見解もなかったようで、何も答えなかった。
「うん。大丈夫。ミハルは大丈夫だよ」
 何の根拠もなかった。
 けれど何か、確信していた。
 カチューシャを外さなくても大丈夫だと。
「……どうしたの急に」
「なんとなく。この寝顔で大丈夫な気がする」
「じゃ、この手足は解くの?」
 私は悩みながらも、首を縦に振った。
「よし。私もキミコの判断に賭ける」
 私達は縛っていた手足を解き、掛ふとんを直してあげた。
 食事の時間が来たのでミハルを起こそうとしたが、全く反応しないので、二人で食堂へ行った。
 おしゃべりもそこそこに食堂から戻ってきたが、ミハルは全く起きる気配がなかった。
「ミハル? ご飯だよ?」
「ミハル、お風呂も時間制だよ?」
 二人で色々と話しかけるが、寝たきりだった。
 私は時計を確認した。
「どうしよう。本当にお風呂の時間だよ」
「ひん剥いてタオルで拭いちゃう?」
「マミ、本気で言ってる? セクハラだよセクハラ」
「セクハラより酷い気がするけど」
「なおさらダメじゃない」
「一日ぐらいお風呂入らなくったって死なないわよ」
 お風呂の時間帯はしばらく変わらない。
 この前と同じ、女子寮内の一番最後の時間帯だ。ミハルが居なければマミとまた洗いっこできるかもしれない。現実的にはその方が私に取って嬉しいことだった。

『マミ、じゃあそろそろお風呂行く?』
『……』
 マミは無言で立ち上がった。
 薄くて柔らかい部屋着を着ているせいか、マミの身体のラインが目に飛び込んできた。
『行こう、キミコ』
 差し伸べられた手に触れると、私は強引にひっぱりあげられた。
『えっ……』
 立ち上がった私をぎゅっと抱きしめる。
 私とマミの間には、互いの部屋着一枚があるだけで、すぐ近くで柔らかい肉体が触れ合っている。
 気持ちいい。
 こうして抱きしめられると、全てを告げて、友達から恋人の関係に進みたくなる。けれど、マミが女性を好きなのか確証がもてない。
『キミコって良い匂いがする』
『えっ…… お風呂入る前だもん、そんなことないよ……』
『ううん、良い匂いだよ』
 首筋にマミの息がかかる。
 唇が近づいているのだ。
『舐めてもいい?』
『えっ、どうして、そんなところ、汗臭いでしょ?』
『いい? それともダメなの? 私に舐められるのはイヤ?』
『そんなことないよ…… そんなこと……』
 良い、と言う前に、マミの舌が私の首筋にふれていた。
『あっ……』
 思わず声をだしてしまった。
 自分の声の意味に気づき、顔が熱くなった。

「マミ、じゃあそろそろお風呂行く?」
「……」
 ミハルが立ち上がってマミの手を取る。
「えっ……」
「……」
 ミハルは無言のまま、私の手も握ってきた。
 なんなんだこの娘(こ)は。
「お風呂いく」
「ミハル? 起きたの?」
「起きたみたいね」
「起きたわよ。何かものすごい思念波を受けたせいで目が覚めた」
「はぁ?」
「思念波で通じないなら、言い換える。『エロい妄想』を感じたせいで目が覚めた」
 私は顔が熱くなった。
 可能なら、これが気付かれないように、と思って顔を伏せた。
「何言ってるのかわからないけど」
「分からないひとは関係ないのよ」
「なんだか失礼ね」
「それより三人でお風呂に行きましょう」
 ミハルはそう言うと、手を離してお風呂の支度をした。
このエントリーをはてなブックマークに追加

 それもそうだが、私達は大丈夫なのだろうか。
「ミハルが起きたら……」
 マミも私の考えたことと同じことを考えたようだった。
「キミコ、そうだよ。私達も危ない」
「じゃあ、もっとタオルを持ってこよう」
 ミハルの手足をベッドの四隅にくくりつけるように縛った。
「これで大丈夫だね。ね? キミコ」
 私は寝ているミハルを見ながらかわいそうに思えてきた。
「これから毎晩、これをしなきゃならないのかしら?」
「それまでに、カチューシャを外そう」
「えっ? なら、今やってみよう」
 そう。今なら、縛っている為、手足が動かないのだ。今こそカチューシャをはずしてしまえばいい。
 私はゆっくりとミハルの頭に手を伸ばした。
 ビクンと腕が動いた。
 ミハルは目を閉じたままだ。
 カチューシャの何かが、私達の行動を感じ取っているかのようだ。
「私がやってみる」
 マミが身体をかがめて、頭頂方向からまっすぐ手を伸ばした。もしうす目を開けて正面をみていたとして、この角度なら見えないだろう。
 ビクン、とまた両腕が反応した。
 そのままカチューシャに手を伸ばしても良かったが、マミもそうしなかった。もっと暴れて、これが外されるほどになった時、私達もミハルもダメージを受けてしまう。
「マミ、私が身体を押さえつけるから、思い切って取っちゃって」
 私は布団の上からミハルの上にのしかかり、両腕を体重をかけるようにして押さえ込んだ。
「はい、いいよ!」
 またマミは頭頂方向からゆっくりミハルのカチューシャに手を伸ばす。
 ビクンとまたミハルの身体が反応する。
 抑えていた私が、弾き飛ばされるかと思うほどの力。マミの手は更にカチューシャに近づいていく。
 グンっ、と大きくからだがしなり、ねじられた。強い力で弾こうとしている。何度も繰り返し繰り返し動く。
「ミハルの腕が折れちゃうよ! キミコ、もっと抑えて」
「わかった」
 もっと身体を低くして強く腕を抑えた。
 私の身体は、ミハルの上を跳ねるように上下していた。圧倒的に身体の力が違うのだ。
 マミは手を引っ込めた。
 同時に、ミハルの動きも止まった。
 私は、ミハルの唇に、自分の唇を重ねていることに気がついた。
「あなた何してるの?」
 正面に鋭い眼光が見えた。
 私は掴んでいた腕を離して、重ねた唇をはなした。
「あなた、そこにいると重いからどいて。それと、さっきの質問に答えて」
「なんでもないの。単なる偶然で唇が触れてしまっただけなの」
 私は言いながら、立ち上がり、ベッドから降りた。
 ミハルが言う。
「あなた達、誰なの? なんで私は腕や足を縛られているの?」
 マミと私は顔を見合わせた。
「どういうことだろう?」
「……」
 私達の名前も知らないし、まるで状況が把握出来ていない。
 カチューシャを外そうとすると叩くとか、首を締めるような行動は、カチューシャがさせている防御行動で、ミハルの意識下の行為ではないのかもしれない。
「……頭がいたい」
「ミハル、大丈夫?」
 私は思わずミハルのひたいに触れた。
 ミハルは、すっとまぶたを閉じた。
 良く考えれば、これはさっきまでやっていた、カチューシャを取ろうとするのと同じだ。
 しかし、ミハルの身体が暴れることはなかった。
「熱はないみたいだけど」
「……」
 ミハルの反応がなかった。
「寝てしまったみたい」
「キミコ、そのままカチューシャを取れない?」
 そうか、この手をそのままずらせば頭に届く。
 私はカチューシャに触れた。
 ミハルの身体は全く反応していない。
 取れる、そう思った。
 しっかり指で触って、そのまま取り外そうとした。
「マミ、これ、なんか変」
 マミも手を伸ばす。
「本当だ、なんだだろう。接着されているみたい」
 じっと着けられている髪や、地肌を見てみるが、接着剤のようなものはないし、つながっている感じは全くない。普通に髪の上に乗っているだけだ。
このエントリーをはてなブックマークに追加


真琴の父の話とか、生徒会選挙のこととか、あれやこれや、書ききれないほど膨らませてしまっていまして。それでも終わらせなきゃと思ってどうにもならなくなっていました。
夢と現実がわからなくなる感じが書きたかったので、そこはなんとか書けたのかな、と思っています。長いこと付き合っていただきありがとうございました。

どっかで書き直したい気持ちがありますが、ちょっと今すぐ…… というわけにはいかないようです。
ということで、またいつか、このお話しの続きでお会いしましょう。さようなら。
このエントリーをはてなブックマークに追加

「もともと梓はラボのものなんだし。最近街にあらわれていた方がおかしいのよ。元の居場所に戻るだけよ」
「ラボのものって…… 梓は人だよ。クローンだけど、薫の姉妹になる訳でしょう?」
続きを読む
このエントリーをはてなブックマークに追加

 大きな変化だった。
 マミは続けた。
「ミハルは、この部屋でみんなと仲良くしたい?」
 うなずいた。
「じゃあ、なんでワザワザキミコと一緒の部屋にしたかったの?」
「……」
 何もリアクションしない。
 マミが首をひねる。
「ミハル、そのことは言葉で話せるの?」
「……」
 ミハルは首を振った。
「何で?」
 私は瞬間的に割り込んでいた。
 マミに肩を叩かれた。
 マミが口を開く。
「ミハル、それってもしかして、誰かに口止めされているの?」
「……」
 かろうじて首を縦にふったか、という感じだった。どっちとも取れるようなリアクションだ。
「ミハル、そのカチューシャ可愛いね」
 何も表情を変えない。
「ちょっとつけさせて」
 マミが手を伸ばすと、払うというより、拳法か何かのようにバッチリと叩き落とした。
「痛い……」
「ミハル、あんた何するの!」
 私は思わずミハルの胸ぐらを掴んでいた。
 ミハルの目が涙で潤んでいた。
 私はそれを見た瞬間、手を離した。
「キミコ、ちょっと私に任せて」
 叩かれた手を抑えながら、マミが言った。
「今のはミハルの意思でやったの?」
 ゆっくりだが、首を振った。
「言葉で説明出来る?」
 ゆっくりだが、同じように首を振った。
 そうしたと思うと、ミハルは自身の首を、自分の手で絞め始めた。
「く…… 苦しい……」
 何故自分で自分の首を絞められるのか、私とマミは意味が分からずしばらく様子を見ていた。
「キミコ、これ、おかしいよね」
「なんだろう、ヤバイ感じ」
 二人で急いでミハルの腕を引っ張り、自身の首を締める行為をやめさせようとした。
 ミハルはそれに抵抗し、暴れた。
 腕を引っ張っている内に、ミハルは床に倒れてしまった。何分かの格闘の後、ようやく自身の首を絞めなくなった。
 ミハルは目を見開いて天井を見つめている。
「ミハル大丈夫?」
 マミがミハルの呼吸を確認して、言った。
「キミコ、ベッドに運ぶの手伝って」
 ミハルには私達の声が届かないようだった。
 ベッドに移しても、同じように天井を見つめるだけで、私達の問いかけには反応しない。
「どうしよう、マミ。寮監呼ぶ?」
 マミはそれに答えず、ミハルのカチューシャに手を伸ばした。
 バチン、と再び大きな音がして、マミは腕を弾かれた。
「なんだろう、このカチューシャ」
「……」
「カチューシャが抵抗しているっていうか」
 マミをコントロールしたものと同じものではないか、そう言いかけてやめた。
 マミもそれは感じ取っている。
 言ってもいいが、それはコントロールされたという気持ち悪さを思い出させるだけだ。
 それより、自分の首を絞めないように、何か対策しておかないと、ミハルが殺されてしまうのではないか、と考えた。
「何かミハルの手を縛って置かないと」
「私も思った」
 マミはそう言うとバスタオルを持ってきた。
「布団の上に手を出して、両方の手をバスタオルで縛っておこう」
 私はその状態で首を絞められないか、自分でシミュレーションしてみた。手首がくっついているような状況では、よっぽど指を上手に使わないと首を絞めて殺すことは出来ない。
 しかし。
「他のやり方は考えなくていい?」
「えっ…… やっぱりそうくる?」
「どうしよう、誰か起きて見張ってないとだめかな?」
「そこまで? だって今、ねてるじゃない」
 それはそうなのだが。 
このエントリーをはてなブックマークに追加

「精神だけが存在するような世界? そんなものがあるのかな? このアンテナに呼応するような発信装置のある世界があはるはずよね」
「……なければやってこれないわね」
続きを読む
このエントリーをはてなブックマークに追加

 担任の佐藤のせいで、教室ないでもミハルの横にさせられたことを思い出した。
「そうだよ、今日なんか座席を強制的にミハルの横に」
「相当怒ってるね。部屋ではもめないようにね。頭に来ても無視だよ無視。冷静に」
「つーか何者なのよ、本当に!」
 上級生がこっちをみて口に人差し指をあて『静かに』と言って去って言った。私は口に手をあてて、小さい声でごめんなさいと謝った。
「マミ、早く部屋に行こう。先に入ってこられたら困るし」
「そうね。戻ろうか」
 私達は部屋に戻って、自分の居場所を確保する為に散らかっていたものをまとめ、しっかりと使う場所をアピールするように置き直した。
 一通りの荷物を自分のスペースに配置した頃、ノックされ、寮監の声がした。
 引っ越し業者の人がやってきて、ミハルの荷物を入れた。一つの小さなダンボールが置かれた。
 そして、ベッドが運ばれてきた。
「こっちを二段にしてください」
 マミの寝ていた方を二段にすると、業者の人たちは寮監に連れられて帰っていった。
「はぁ……マミはどっちにする?」
「上にして良い?」
「上で良いの?」
「えっ、キミコ下がいいの?」
「だって、登らなくて済むし……」
「じゃ、決まり」
「やった!」
 マミは何か嬉しかったようだ。
 自分の敷ふとんや毛布を上に運ぶと、ニコニコしながら顔を出した。
「キミコもくる? 面白いよ、ほら、こんなに天井が近い」
「そんなに面白い?」
 私は二段ベッドよりもマミに近づけるというヨコシマな目的に心を踊らせ、階段を登っていった。
「ほら、こうやって寝てても手を伸ばせば届きそう」
 私も身体を密着させるように横に寝てみる。
 そして天井に向かって手を伸ばす。
「本当だ〜」
 自分の手はとても天井に届きそうではなかったが、楽しそうなマミに合わせていた。
「初めから二段ベッドだったら良かったのにね」
 私もベッドの縁から下を見てみた。
 寝ているにも関わらず、自分の背丈より高いところから見下ろせるのは、妙な気分だ。
「ねっ、上の方が面白いでしょ?」
 マミが後ろから身体を合わせてきて、マミも部屋を見下ろした。
「なんかいつもの部屋じゃないみたい。寝るのがワクワクするなんて、小学校の頃に自分用の新しいベッドを買ってもらった時以来ね」
 そんな言葉より、私は背中にあたるマミの身体と、絡みつくふととももに気がいっていた。
 やわらかいし温かい。
 部屋の風景なんてどうでもいいから、反対を向いて抱きしめたい。
 その時、ノックの音がした。
 返事をして、慌ててベッドを降りたが、それより早く、ドアが開いた。
「ミハル……」
 赤黒のラインのカチューシャをつけていた。
 学校の制服のまま、開けたドアのところに絶っている。
「……」
 何も言わずに足を踏み入れてきた。
「なんで私なの」
「……」
 私が前をふさぐよう立ち、ミハルは立ち止まった。
 ムッとしたように口を閉じたまま、こっちを睨んでいる。いや、睨んでいるのではないのかもれ知れない。私は不意にそう思った。
「別に誰でも良かったけど、佐藤先生が指名したから」
 いや、あれは教室の席替えをしただけで、ずっとあんたのお守りを任されたわけじゃない。
「あれは教室内だけのこと……」
「もう決めたから」
「何を? 何のこと?」
「……」
 これだ。
 肝心なところで何も話さなくなってしまう。
「まあ、まあまあ」
 マミが上の段のベッドからゆっくりと降りてきた。わざと、ゆっくり降りてきてるようにすら見える。
 なんだろう、このテンポは。
「ミハルだっけ。言葉で伝えないと何もわからないんだよ、知らなかった?」
「……」
「ミハルは言葉を話せるよね? 言葉で伝えないと、わからないのよ」
「……」
 何も言葉にしなかったが、うなずいた。
このエントリーをはてなブックマークに追加

「まぁ、そうかも知れないけど」
「だって電子申請だから、これ絶対学校内で撮り直しになるよね?」
「?」
 マミも私も神代さんの言う意味が分からなかった。
「申請時に先生がチェックして撮り直しするはずだから、絶対髪にアクセサリ出来ないはずなの。キミコだって、ほら、申請の写真じゃ髪おろしてるじゃん」
「うん、学校に来た時、先生が外せって言って」
「申請は事前のはずだし、必ずチェックがあるから、普通こんな写真にならないよ」
「取り直す予定だけど、まだ直してないだけじゃん?」
 マミがそう言う。
 私もそう考えるのが妥当な気がする。
「そんなに慌てて転校させる必要があった、とかギリギリまで本人写真が来なかった、と考えるべきじゃない?」
「確かにね。キミコも面接あったでしょ?」
「私もめっちゃ長い面接あった。神代さんは?」
「当然。私はその時に書類も写真も撮り直したよ。だから覚えてる。こんな写真はありえない」
 その場で転入申請をしたとか、そんな感じにあわてて転校してきたということか。もしくは書類のチェックも、面接も受けないまま学校に入ってきたとか。
 そもそも、この赤黒のカチューシャはマミがおかしくなった時のものと全く一緒だ。いや、写真がないから本当に比べられないが、同じものに違いない。それをしてきている、ということは、私達に害をなす者かその仲間ということだ。
 害はなさないかもしれない。何か探りに来ているのかもしれない。けれど、私の何が知りたい?
「キミコ、このカチューシャ……」
「そうなの」
 私はうなずいた。
「何のこと?」
 ここで話さない方がいい。
「何でもない」
「イヤらしい」
「いやらしくないでしょ? 何がいやらしいのよ」
 看護師が入ってきて退院の手続きが済んだことを伝えた。
 私と神代さんはカーテンを閉め、病室を出て待っていると、マミが制服に着替えて出てきた。
「とにかく、寮にもどったらミハルには注意しないとダメだね」
「訳ありの娘(こ)ってだけでしょ」
「……ま、そういうことだけど」
 私達は新交通で帰った。
 マミはまだ少し警戒していたようだったけど、神代さんと木場田、鶴田談義で盛り上がって、途中からは完全に〈転送者〉のことは頭にないようだった。
 私は楽しそうに話すマミの横顔を見ているだけで心地よかった。本当なら、自分が何か話して、それでマミを喜ばせれば、もっと良かったのだけれど。
 寮に帰ると寮監が出てきた。
「白井さん、木更津さん、ちょっとこっちに」
「はい、なんでしょうか?」
 私達は部屋に戻れないまま、食堂の端にあるソファーに座らされた。
「あなた達、どっちか部屋を動いてもらっていい?」
「……」
 私は全く予想もしない内容で、言葉が返せなかった。マミが言った。
「えっ、どうしてですか? まだ全部屋二人部屋って状態でもないですよね」
「そうね。だけど、どうしても変えて欲しいんだけど」
「あの、マミとやっと友達になれたんです。また部屋が変わっちゃうと」
 そうだ。これから、これからもっと色んな思い出を残したいところなのに。
「そうね。だけど、変えて欲しいって」
「それ誰ですか」
 まさか。ミハル?
「……」
 寮監は何も言わなかった。
 私とマミが必死に話していると、寮監もあまりに強引すぎたと思ったのか、少し態度を変えてきた。
「分かりました。部屋を変えるのはなしにしましょう。その代わり、この提案は受け入れてください」
 そう言って、寮監が二人が別れ別れにならない方法を提案した。私達はそれを拒否出来ない、と寮監が強く言ってきた。
 私達はそれを受け入れた。
 寮監がそそくさと立ち上がると、スマフォでとこかに連絡していた。
 寮監は、電話の先の誰かに、一所懸命に謝っているようだった。
 私は立ち上がった。
「なんで!? ミハルって、あの娘(こ)いったい何者なの?」
 マミは意外に冷静だった。
「まぁまぁ。それよりベッドどうする? どっちか二段ベッドにするって言ってたでしょ」
「ベッドぐらい先住の私達が好きにする権利あるでしょ? マミのベッドの側を二段にして、二人で使うことにしようよ」
「そうだね。それがいいよね」
このエントリーをはてなブックマークに追加

『やめて、ボクを助けて……』
『これは殺しているわけじゃないから。ボクには罪悪感はないよ。だらから躊躇もしない』
『真琴…… やめて、私はヒカリと関係ないでしょう?』
続きを読む
このエントリーをはてなブックマークに追加

 放課後、不安げなミハルにもう一度寮の帰り方をレクチャーし、一番簡単なのは送迎バスにのることだ、として、窓の外のバスを指差した。ミハルは小さな声で「ありがとう」と言って、去って言った。それをみていた神代さんがクスっと笑った。
 病院につくと、みなれた車が止まっていた。
 受付をして中に入っていくと、大きな男が病室から出てきた。
 神代さんはびっくりして私の腕につかまってきた。
「鬼塚刑事、いつから来てたんですか」
「木更津さんが面会出来る時間になった時だから、三十分ぐらいまえかな」
 鬼塚刑事が声を出すと、周りにいた看護師さんたちは避けるように首をすくめた。神代さんも私の後ろに隠れるように周りこむ。
 客観的にみれば、別に大きい声ではない。
「マミの病室はそこですか?」
「ああ、手前左だ。そこで手を消毒してからはいるんだぞ」
 私達は鬼塚のいう通りに廊下で手を消毒してから病室に入った。マミは横になって目を閉じていた。
 私がベッド横に近づくと、急に起きて抱きついてきた。
 思わぬ出来事に、抱き返すことも出来ず、棒立ちになってしまった。
「マ、マミ、急に抱きついたりして、どうしたの?」
「あっ、神代さん……も来てくれたの……」
「……はは。体調はいかが?」
「すっかり良くなった」
 神代さんは引き気味だった。
 いや、そんな変じゃないだろう。女の子同士、抱きついたって、別に普通だ。私の頭の中で想像したことはちょっとアブノーマルかもしれないが……
「良かったよ。もう退院できるんでしょ?」
「うん。今手続きしてくれている」
「それより、さっきの大男っ。何を聞いてたの?」
 神代さんが私が気になっていたことを先に聞いてしまった。
「昨日の事件のこと」
「えっ、で、何話したの?」
 まだ私の首に腕を掛けたままだった。
「それよりあなた達いつまでそんなことしているの?」
「えっ?」
 マミは腕を離した。
「サーバーラックから出てきたことを話しただけだよ。業者が勝手に扉をつけてしまったこととか、そこから〈転送者〉が出たとか」
「何それ。昨日の事件って、また〈転送者〉が出たの?」
 神代さんは呆れたようだった。
「神代さん、クラスの皆は知らないの?」
「事件に巻き込まれたんだろう、ぐらいのことは分かるけど、〈転送者〉が出たとか、そういう具体的なことは一切話されてないよ」
「……」
 マミはその言ってよかったのかを考え直しているようだった。
「あっ、キミコ、これなんだか知ってる?」
 マミが枕元においてあったバッグから帽子を取り出した。白い部分にピンク色で文字が書いてある、黒のキャップだった。
「あっ」
 私はマミに被せたままにしていたことを、今になって思い出した。
「あったね〜 だいぶ前に流行ったヤツ」
「そうなの?」
 マミは神代さんに尋ねた。
「何で流行ったの?」
「テレビだったかな〜 忘れたけど、私も持ってたもん。懐かしいな。思い出すよ小学校の頃のこと」
 そう、小学校の頃の話だ。
 あの空港で……
「マミ、そう言えば転校生がきたよ。なんかよく分からない、ムッとした女の子。キミコが面倒みてたけど、とにかく関わるなって感じでさ」
「へぇ、写真とかないの?」
「もう名簿に入っているんじゃないかな」
 神代がタブレットでアクセスしている。
「ほら、この娘(こ)」
 神代がマミの前にタブレットを置いた。
 黒髪ボブに赤黒のラインのカチューシャ。ムッとしたような表情。まるで今日撮ったかのような写真だった。
「へぇ」
「あれ、頭にカチューシャしてるけど」
「?」
「名簿用の写真って、入学前に撮らなかった?」
「いや、それもあるけど。カチューシャだよ、カチューシャ」
「神代さん、何? 意味が分からない」
 マミがそう言った。
「アクセサリとかしたまま写真を撮っちゃだめなはずなの」
このエントリーをはてなブックマークに追加

 だって、だって……
『結果から言えば、頭痛がすると真琴が考えなくなって、その部分をボクが使わせてもらっていただけ。エントーシアンと頭痛はイコールじゃないよ』
続きを読む
このエントリーをはてなブックマークに追加

 私はバッグとタブレットを持って席を移動した。
 ミハルも無言のままやってきて、指定された席に座った。
「よろしくね。私の名前」
 言いかけると、手をこちらに向けた。
「白井公子でしょ。話しを聞いてればわかるわ」
「学校のことで、分からないことがあったら何でも聞いてね」
 完全に正面を見ていて、話しかけている私の顔など見向きもしない。
「館山さん。なんて呼んだらいい? 前の学校でなんて呼ばれてた?」
「……」
 やはり見向きもしない。
「私のことはキミコ、でいいよ。ミハルって呼んでもいいかな?」
 何人か、クラスの連中は奇異な目でこっちを振り返った。確かに私はわざとやっている。
「ミハルのそのカチューシャ格好いいね。どこで買ったの?」
 まだ無視している。
「ミハルはボブヘア似合うね。ここらへんは髪切るところ遠いから、寮に床屋さんが来るから、やってもらうといいよ。学割価格だし、結構上手なん……」
「(ウルサイ)」
 小さな声だったが、はっきりと分かるようにそういった。それでもこちらは向かなかった。
 クラスの人は合えてこちらを振り返らなかった。自分の声がしなくなったせいで、教室は静かになってしまった。
 担当教員が入ってきて、授業が始まり次の休憩時間にはクラスの雰囲気は元に戻っていたが、私とミハルの間は会話も視線のやりとりもなかった。
 自分でもなぜこんなに突っかかったのか、よくわからなかった。隣に座って面倒をみろ、と言われたのをこなしたかったのか、最初にこっちの名前を喋らせないような意地悪の仕返しだったのか。妙ににているカチューシャがひっかかって、何か探りを入れたかったのか。
 もう自分がどういう気持ちでミハルを怒らせたのかわけがわからなかった。
 だから、その後の時間もずっと黙っていた。
 昼の食事時になると、ミハルは机に突っ伏して寝てしまった。
 無視し続けようと思っていた気持ちが、少し動揺した。
「ミハル? お弁当とか買いに」
 そのまま机の上で横を向き、睨み、言った。
「いらない」
 そして再び腕に顔をのせて突っ伏してしまった。
 苛立ちというか怒りに近い感情が湧き上がってきたが、肩を叩かれて少し気持ちを抑えることができた。
「公子、一緒に買いに行こう」
「うん」
 購買で食事を買って、教室に戻って食事をとった。あいかわらずミハルは机で寝ている。寝ているのか、単に顔を伏せているのかは見えないから分からなかったが、殆ど動いていない様子から寝ているのだ、と勝手に思った。
 寮でも顔を合わせなければならない、と思うと少し憂鬱な気分になった。けれど、たぶん、ミハル側はそんな想像はしていないのだ、とも思った。寮生活になれてくると意識し始める話だから、転校したばかりでは気付きもしないだろう。週末は家に帰る人もいるが、学校の連中と、少なくとも週に5、6日、四六時中顔を合わせていなければならない。親とかよりも濃密な時間を過ごさなければならないのだ。
 そんな風にミハルを見ていると、神代(こうじろ)さんが言った。
「マミは大丈夫なのかな」
「うん。刑事さんに聞いたんだけど、大丈夫だよ。今日退院するし。ね、神代さんも、一緒に迎えに行かない?」
「ああ、そうだね。私もいく」
 私はミハルの方に近づいて、肩を叩いた。
「……」
 顔をあげ、ムッとした表情でこちらを睨んでくる。
「聞いてたかわからないけど、ミハルは一人で寮に戻ってね。私は神代さんとマミを迎えにいくから」
「……」
 反応がないので、神代さんの方へ戻ろうとすると、袖を引かれた。
「?」
「寮の帰り方」
「?」
 何を言っているのか意味が分からなかった。
「りょう、の、かえり、かた。おしえて」
 マジか。
 教室全体が、ざわついた感じがした。
 私は神代さんの方へ振り返って、にっこり笑って親指を立てた。そして、もう一度真顔になってミハルの方を振り返ると、パッドを使って丁寧にバスを使う帰り方、徒歩での帰り方を教えた。
「マミを迎えに行く前に、私と一緒に寮に帰ろうか?」
「いや、いい。今の説明で分かった」
 そう言ってまた突っ伏してしまった。
「(意外に良い奴なのかも)」
 神代が言った。
 そうなのかもしれない。
 けれど、本質的には他人と関わりたくないのだ。けれど、どうしようもないから、私に寮の帰り方だけ聞いた。そんな感じだった。
このエントリーをはてなブックマークに追加

 ドアを閉めると、刑事の車は静かに走り去る。
 校舎に戻りかけたところで、ものすごい音がなり始めた。学校のシャトルバス…… おんぼろマイクロバスのエンジン音だった。
 おじいさんは満足そうな顔をして、大きな手袋で額を拭っていた。
 多分、修理が上手く行ったんだろう。
 私が教室に戻ると、まだホームルームをやっていた。
「こら、白井。遅れて入っていくる時は一言声をかけ、遠慮気味に入ってくるもんだぞ」
「すみません」
 いや、やっていると思ったから、後ろの引き戸をそっと開けたのだが、どうもそれだけではダメだったらしい。
「ということで、また木更津マミがいない時になってしまったが、転校生を紹介する」
「……えっ、教室の外にも、誰もいませんでしたが」
「ああ、そうだ。実はまだ来ていない」
「……」
 クラスの雰囲気が淀んだように変わってしまった。
「いない転校生の紹介って……」
「来てから紹介すればよくね?」
「先生、一応聞きたいんですが、男ですか女ですか」
「えっ、ああ、そうだ」
 教室の扉が叩かれる音がした。
「おっと、転校生が到着したようだから、そのまま紹介してしまうな」
「おぉー」
 本当に数日おきに転校生がやってくる時があって、皆はもう慣れっこになっていると思っていた。けれどやはり転校生は特別なのだ、と思って教室を眺めていた。
 小声でささやき合う内容が、急に明るい感じ変わった。
 担任の佐藤が扉を開けて出ていき、何やら小声で話していた。
 急に佐藤の驚いたような声が響き、教室がその会話を聞こうと、しん、となった。
『届け出の名前と違う? 事前にあった写真とも違う感じがするけど……』
 佐藤の声だけが教室に入ってくるような気がする。
『あ、すすまん。失礼した。しかし、名前が…… え、家庭の事情って言えば何でも通る』
 少し扉ごしに見える担任は、なにかジェスチャーをして訴えていた。
『校長! はい。わかりました』
 校長が多分何か言ったのだろう、と予測はつくが、教室の外の会話は殆ど聞き取れなかった。
 佐藤が困惑した表情で教室に戻ってきた。
「転校生を紹介します」
 扉の方に手招きをした。
「自己紹介して」
「館山ミハルです」
 私はそのミハルという転校生が頭にしていたカチューシャに動揺してしまった。
 赤黒でラインが入ったそのデザイン。
 黒髪ボブヘアにそのカチューシャをしていた。
 まさかマミを操ったものと同じもの?
 だとしたら、こっちの様子を探るために送り込まれたのかもしれない。鬼塚刑事が狙われていると言っていた。もしかすると……
 担任の佐藤は少し間をおいて言った。
「もっと何かないの? もう少し話し出来ない?」
「……」
 ミハルは無言で首を振った。
「まあ、いいか。クラスのメンバーからの質問に答えてくれるかな」
 転校生は佐藤が見ていないのに、首を振った。
 答えないという意思表示だった。
 佐藤はそれに気付かず、そのまま質問するクラスメイトを指名した。
 持っていたタブレットがフラッシュした者が立ち上がって質問した。「どんなタイプの男子が好みですか?」ミハルは首を振った。
「え? なんて?」
 佐藤が意地悪く聞き直すが、ミハルは「答える義務はありません」と答えた。
 次の質問者は「趣味はなんですか」と問うが、同じように首を振った。担任はもうそれ以上何も言わなかった。「最後」とだけ言って、次の質問者を指名した。
「部活は……」
 言いかけた段階で首を振った。
 指名された男子は白けたように問いかけるのをやめ、ムッとしてそのまま席に座った。
 最悪の転校生紹介だった。
「席なんだが」
 佐藤は、珍しく言いづらそうに咳払いをした。
「奥机にするんだが、そこだと一人になってしまうだろ。転校生だから色々、隣の人に手伝って欲しいんだ。だから、その役を……」
 タブレットがフラッシュした。
「白井公子、君が座ってくれないか」
 転校生の指導の為だって?
 そんなことで席を変えた試しなんてなかったのに、教室に入ってくるやり取りといい、例のカチューシャといい、何かがこの娘(こ)にはある。
このエントリーをはてなブックマークに追加

『確かに、あなたのお祖父ちゃんとは違うわ。あれは精密なマップを、機械上に写しとって、本人が移動したものだしね』
 そうじゃない。
続きを読む
このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ