そして抱きついてしまう。
『くすぐったいよ、キミコ』
『だって嬉しんだもん。良かった、マミが目覚めて』
『そんなに寝てたの?』
私はうなずく。
『あっ、ここキミコのベッドじゃない』
『ごめん。今日は上のベッドはチアキに取られているの』
『?』
『チアキが何者かは後で話すね。今日はここで寝て』
マミはぼんやりと上のベッドの方を見つめる。
『こっちを見て』
マミの顔に触れ、こっちを向かせる。
『ようやく一緒になれるね』
『……』
唇を近づけていくと、マミは瞳を閉じた。
唇が触れると、お互いに形を確かめるように唇を動かす。
『マミ……』
『キミコ』
二人は何度も何度もキスをしながら抱きしめあった。
「キミコ」
「えっ?」
「どうしてここに寝てんの?」
「マミの看病をしてたんだよ」
「あっ…… えっ? あ、頭がいたい……」
マミが頭を抑える。
「大丈夫? お医者さん、呼ぶ?」
「そこまでじゃないよ。大丈夫…… けど。なんだろう…… なんか頭に付けられたか、叩かれたか、そんな感じ」
「どこまで覚えている?」
「背中になにかモノを突きつけられて。ゆっくり振り返った時にミハルがいたような気がしたけど、頭に何か…… そこから良く覚えていない。もうその先は夢を見ていたみたい」
ミハルではない。おそらくそれがチアキだ。
部屋は暗く、これ以上説明も難しい。
「本当に具合は大丈夫? 大丈夫だったら、明日、朝説明するよ。出来ればバスの中で」
「うん具合は大丈夫よ。ミハルの尾行は?」
「心配しないで。全部明日話すよ。今は寝よう」
「あ、で、どうしてここなの? 私上の段だよね?」
「んと、今違う人が寝てるから。私と一緒に寝て」
「……うん。それも明日話してくれる?」
私はマミの髪を撫でながら、うなずいた。
そして髪をかきあげて、おでこにキスをした。
「おやすみ、マミ」
「フフッ」
「?」
「お母さんを思い出しちゃった」
「マミのお母さんって、どんな人」
マミは仰向けになって目を閉じた。
「ナイショ。おやすみなさい」
「おやすみ」
私も仰向けになって目を閉じた。
自分は母の記憶はない。
あるはずなのだが、目をつぶっても、父と、継母のことしか思い出せない。
空港の記憶と同じに、どこかに封印されてしまっている。
空港で掴んだあの映像から、失われたものを取り戻せるはずだった……
なみだが耳に入った。
体を横にしたりしている内に、疲れが私を眠りに引き込んでいた。
私が寝返りをうつとマミにあたり、マミが寝返りをうつと私にあたった。つまりかなりの頻度で体が触れ合ってしまい、夜中に何度も目が覚めた。朝が近づいたころ、ようやく疲れから熟睡したのだが、そう思ったのもつかの間で、今度は目覚ましに起こされた。