その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2016年10月

 私は道路に座りこんでしまった。
「滑って落ちたよぉ」
 自分がドジなせいだとはいえ、涙が出そうだ。
 濡れたお尻と背中が冷たい。
 おそらく雨水が溜まっていたのだ。だから穴を隠しておけ、ということだったのかも知れない。
「我慢し……」
 鬼塚はそう言いかけてから、スマフォを取り出し、何かを探し始めた。
「あいつに頼りたくは……」
「……」
「分かった、そういう目でみるな」
 鬼塚は誰かに電話しているようだった。
『ああ…… 頼みがある…… 女性ものの服を借りたい…… 当たり前だが俺じゃないぞ…… お前よりひと回り小さいかな…… わかった、わかった……』
 スマフォを切ると、車のドアを開けた。
「とにかく乗れ。服を借りにいく」
「ありがとうございます」
 濡れた服のまま座席に座る。お尻と背中が気持ち悪かった。
 新しく買ったばかりの服なのに……
 泥だらけになったら、繊維も痛むし、染みになってしまうかも知れない。
「ちょっと変わった奴だからな。持っている服も変な服かもしれん。我慢しろよ」
 ルームミラー越しにうなずいた。
「よし。行くぞ」
 車が加速した。
 学校のマイクロバスが通る道ではなく、〈鳥の巣〉から遠い側、一本西側の道を走った。
 学校付近の人気(ひとけ)のなさとは違い、店の灯りも時々見え、生活可能なエリアであることがわかる。
 小さな門があり、何軒かの家が集合しているのが見えた。
 鬼塚が電話すると門が開き、車をそのエリアに入れた。
「ここだ。急げよ」
「はい」
 インターフォンを押すと、いきなり玄関ドアが開いた。
「急いでるんでしょ? 早く入って」
「?」
 聞いた声だった。
「ああ、この子だ」
 私は中に入ると無意識に頭を下げていた。
「すみません。服を貸してください」
「うちの生徒じゃない」
 その声…… まさか……
 顔を上げると、思わず声が出た。
「保健室の……」
 舐めてDNAが分かるという、あの先生だった。
 さすがに部屋着は露出度は低めだったが、体のラインが分かる、薄手のものを身に着けていた。
「本当に、泥だらけ。上げる訳にいかないから、ここで脱いで」
 私は鬼塚刑事を見た。
「お、俺は車に戻ってる。いいか、早くしろよ」
 指揮棒のように指を何度も振りながらそう言うと、鬼塚は扉をくぐるようにして出ていく。
「あの感じだと、お風呂に入る時間はなさそうね」
「そこまではいいです」
「じゃあ、そこで脱いじゃって。今、着替えとタオルと服を入れビニール袋持ってくるから」
 保健の先生が戻ってくると、脱いだ服をビニールにいれ、汚れた手足の汚れを軽くはらってからタオルで拭いた。
「えっ?」
「服、そこに置いてあるよ」
「そうじゃなくて」
「何?」
「先生何故服を脱いでいるんですか?」
 うすい布の、体にピッタリした部屋着をまくり上げていた。
「何って、着替えてるのよ」
「……どこか出かけられるところだったんですね?」
「違うわよ。引き継ぎしなきゃって。そう思ったの」
 ……引き継ぎ? 何のことだ、何か考えようと思った矢先に、先生は着替えを再開した。
 私の意識は先生の体に集中してしまった。
 部屋着を脱ぐと、上半身には下着などつけていなかった。
 きれいな形の胸が、柔らかそうに揺れる。
「ほら、手が止まってるよ。早く行かないとトラちゃんに怒鳴られるよ」
 先生は水着のような色と素材のブラを付け始めた。
「と、トラちゃん? 鬼塚刑事が?」
「あなたは分かるでしょ?」
 虎。鬼塚刑事の変身した姿…… そうか。停まっていた思考が動き出した。引き継ぎという言葉もつながる。この人も私や鬼塚刑事のように変身する、ということか。
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 私はそそくさと階段を下り、トイレで素早く着替えた。部屋着は袋にいれて下駄箱に突っ込んだ。
 そのまま寮の端にある通用口を出て、カメラの死角を回って近くの林に抜けでた。
 このまま壁まで進むと、土がえぐれている場所がある。

『ここの壁、お前の寮の壁だよな』
 鬼塚は車を止めたかと思うと、私にそうたずねた。
『そう…… みたいですね』
 車を降りると、鬼塚はスマフォで地面を照らした。
『何か落としたんですか?』
『以前、ここを通り掛かった時、動物の飛び出しがあった』
『それがどうかしましたか?』
 こっちは早く帰りたいのに。
『お前を呼び出す時、いつも学校を通していたら面倒だからな』
『えっ? 残念ですが私、鬼塚刑事には興味ありません』
『期待していたのかも知れんが、そういう呼び出しじゃない』
 暗くなりつつある中で、鬼塚の目は虎のようだった。
『〈転送者〉関係での呼び出しだ』
『ああ…… そうですね。けど、鬼塚刑事のお役にたてるとは』
『お前には高さがある。危険なことはさせられないが、いつもいつもドローンが用意出来るわけでもない』
『はぁ…… 私は予備のドローンですか』
 鬼塚は急にからだをかがめた。
『そういう言い方をするな。お前だって〈鳥の巣〉に入りたいんじゃないのか?』
『……はい』
 鬼塚は、急に犬のように穴を掘りはじめた。
 雑草の上にどんどんと土が盛られていく。
『うわっ……』
『これなら人でも通れるだろう。こっち側は枝とかで適当に隠しておくから、お前も暇な時に反対側を隠しておけ』

 そういえば、鬼塚刑事に穴を隠しておけ、と言われていたのだ。今の今まで忘れていた……
 そもそも壁のこちら側から穴を探せるのか?
 壁が見えてくると、私は土の見える部分を懸命に探した。
「見えない……」
 壁の近くにくると、外灯が届かないせいかあたりは一層暗かった。 けれど壁伝いに歩けば絶対に見落とすはずはない。
 しばらく壁沿いにあるくが何も見つからない。
 壁は高く、手が届くとは思えない。
 翼を使えば、あるいはと思うが、低木が邪魔で羽ばたけるスペースはない。
「どうしよう……」
 スマフォで時間を確認する。
 鬼塚刑事はそろそろ来ているだろうか……
「……」
 その時、何かが変わった。
 穴の位置がこの先にあると確信した。
 ただ、何故かがわからない。
 記憶が戻ってきたわけではない。壁の逆側からみた記憶しかない。
 だから、それは記憶ではない。
「……呼ばれたのね」
 鬼塚刑事が言っていた『呼べ』という感覚が、少しわかった気がした。
 鬼塚は穴の反対側で『呼んで』いるのだ。
 私は呼ばれている方向へ走った。
 ここらへんのはず。
 確信はある。けれど地面の様子がよく見えない。
「!」
 しまった……
「何やってるんだ」
 見上げると、目の前に鬼塚刑事がいた。
「早くしろ」
 手を伸ばしてくる。
 私はその手に両手でつかまった。
 まるで機械のように軽々と引き上げられる。
「うわっ…… なんだ? 泥だらけじゃないか」 
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『何も言わずに、まず研究室にきなさい。会って話したいことも色々話もあるの』
「はい」
 逆にいえばこの世を離れることが分かっているのだから、研究室にいったとしても問題はない。杏美ちゃんに何を思われようが……
 すこし、この世界でやって置かなければならないことを思い出した。
 研究室に行こう。
 行ってはっきりさせよう。



 私は研究棟に着くと、入り口で立ち止まった。
 オートドアだが、近づいても開かない。
「どなたかお約束ですか?」
 警備員から声をかけられる。
「いえ」
 言いかけたところで、警備員が話しかけてきた。
「すみません、坂井先生でしたか。カードをお持ちではありませんか?」
 カード…… そう言えば、テレビニュースが来た日に渡されたような……
「そう言えばそうでしたね」
 バッグを探すと、カードが見つかった。クリスタルが描かれたデザインのカード。
「これですか?」
「そうです。仕組みもご存知ですか?」
 仕組み、仕組みって、何か、ああ、操作抜けをすると出入り出来なくなるという話のことか。
「操作しないと出入りできなくなるという?」
「そうですそうです。扉が開いていても、かならずこのカードリーダーにかざしてください」
 この棟が出来る前に打ち合わせで聞いた話だ。
 操作抜けしてしまったら…… パソコンでロックを解除するか、警備員に連絡しないと出られなくなるのだ。
「はい。大丈夫です」
 私は入り口のオートドア横にあるリーダーにカードをかざして開けた。
 振り返ると、警備の人が微笑んでいた。
 問題は、ここから自分の研究室までのルートを思い出せるかということだった。
 入り口から中央奥のガラスの階段を上がっていくと、突き当りにフロアの案内図を見つけた。
 ここはツインタワーの中央にあたる部分だ。
 水晶のクラスターを模した建物は大きく西と東に分かれている。
 私の棟は左、西の棟のはずだった。
 エレベータを見つけて歩いて、上へ上がるボタンを押す。
 エレベータが下りてきて、ドアが開くと私は中へ入った。
 しかし、上のフロアのボタンを押すのだが、全く反応がない。
 変だと思って、今度は1階のボタンを押すと光った。
 更に下のB1Fは行けない。
 私は一階と二階を何度か行き来した。
「!」
 警備員から言われたことを思い出した。
『行けても行けなくてもカードをかざしてください』
 もしかすると、カードをかざすところがあるのではないか。
 そう思ってエレベータ内を見回すと、それらしき部分を見つけた。
「ここ?」
 カードを当てると音がなった。
 そして、目的の11Fを押すと、ボタンが光った。
「ふぅ……」
 私はため息をつき、エレベータの中を見回した。
 天井部分にカメラを見つけた。
 きっとあの警備員が私がカードを当てるまでの顛末を見て、笑っていたかもしれない。
 そう考えると、恥ずかしくてカメラ側を見れなくなった。
 エレベータは静かに止まり、ドアが開いた。
 ガラス張りで明るかった一二階の印象とは違い、11階は窓もなく暗い印象だった。
「坂井先生」
 丸い廊下を歩いていると声をかけられた。
「どうしたんですか? ずいぶんと研究室には来られていないし。もう忘れてしまったんですか?」
「そんなことないわよ」
「研究は順調に勧めていますよ。もうすぐXS証券の光ファイバーケーブルは、全部光学異性体ケーブルに置き換えます」
 話しかけてくるせいで、私は足がすくんでしまった。
「本当にどうしたんですか? 何か気になることでもありますか? 坂井先生」
「なんでもないわ、上条くん」
 私の研究を一番理解し、考えに賛同してくれていた、と思っていたのに。
「この棟が立ってから、研究室来られてませんでしたっけ? こっちですよ」
 上条は振り返って歩きだす。
 私はそのまま動くことが出来ない。
「本当にどうしました? 体調でも?」
 足が震えてきた。
 この人には言って置かなければならないことがある。
「杏美ちゃん」

「そだね」
「とりあえずメールで、提出するだけしてみる?」
「なんて書くの?」
「今の話を総合して、後で原案作って送るから見といて」
 原案をマミが作ることになった。
 部屋を拡張してもらった上に、マミと二人っきりの部屋になったら良いのに。

『抗議のメールして良かったね』
『そうだね。マミのおかげだよ』
『これで放課後は二人きりになれるね』
 自然とマミは、覆いかぶさってくる。
 私が目を閉じると、頬が重なった。
 キスは? と思って目を開けると、ピントが合わない距離で目があった。
 そして唇をかさねる。
 それが、スタートの合図のように、二人を燃え上がらせた。
 互いの体をギュッと引き寄せ、お互いの一番柔らかい部分に指を這わせる。
『んっ……』
 耳に吐息がかかる。

「一人ハグごっこ?」
 そう言われ、ビクッとして目を開けるとチアキが立っていた。
 頬が熱くなる。
「な、何でもいいでしょ」
「ほら、引っ越しの挨拶よ」
 突き出した手には蓋のついた瓶が握られている。
「コ、コーヒー牛乳?」
「苦手なら取り替えるよ」
「大丈夫。ありがとう」
 私とチアキは食堂で先に引っ越しのコーヒー牛乳を手にしている二人のところへ向かった。
 全員がそろうと、マミが『乾杯』と言って皆で飲みはじめた。
「あれ? チアキあんたさっきもコーヒー牛乳飲んでなかった?」
「飲んでたけど」
『お腹壊すわよ』
 チアキ以外が全員声を揃えた。
 その勢いにチアキは椅子を引いて斜に構えた。
 私は続けた。
「それに…… 太るわよ」
「ニキビでるよ」
「むくむ」
「なによ、全員で。別に平気よ。いつも寝る前にこのくらいの量、二本ぐらいは飲むもの」
『えっ』
 また声を揃えてしまった。お互いの顔を見て少し笑った。
 スマフォの呼び出し音がなった。
 私は画面を確認すると、立ち上がった。
「ごめん。ちょっと」
 玄関の方へ出て、通話ボタンを押した。
「なんですか」
『これから〈鳥の巣〉に入る。悪いが協力してもらえないか? 協力といっても〈転送者〉とやり合えって訳じゃない。危険はない』
「……」
『〈鳥の巣〉の中には、お前が知りたい情報もあるはずだ。どうだ』
「……行きます」
 私はそのまま自分の部屋に戻った。
 部屋の扉は開いており、扉にもたれ掛かるように寮監が腕を組んで中を見ていた。
「まだ終わってないの。もう少し待って」
 私に気付いたようだった。
「えっと、どうしたの?」
「あ、えと。服を取りに中に入っていいですか?」
「服?」
 寮監は部屋の壁掛け時計にめをやる。
「あっ、べつに外出とかじゃなく……」
「何も言ってないわよ」
「友達に服を着て見せる約束なので」
「ふうん。別にご自由に」
「すみません」
 私は寮監の前をくぐるようにかがんで通った。
 出来れば汚れても良さそうな服にしたかったのだが、今言ったウソのせいで、新しくて見栄えのする服を選ぶハメになった。
 丁寧に折りたたんで、大事に抱えるように服をもつと、また寮監の前を通った。
「終わったら連絡するわ。どこにいるの?」
「食堂にいるマミ達に伝えてください」
「わかった」
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 ようやく小さい音が聞こえると、顔に液体をかけられた。
 顔を拭って目を開けると、突っ伏すように殺し屋が倒れていた。
 よろよろと刀を使って立ち上がると、もう一度私に向かって刀をついた。
 その時。
 また大きなドンッ、という音がして、殺し屋はベッドの方へ吹き飛んだ。
 ドアが開いて、そこには長い金属の筒が出ていた。
『誰に雇われた?』
 筒が降ろされると、ドアから現女王が入ってきた。
『お前は誰に雇われた?』
 殺し屋が握っている刀に向かって、金属の筒を振り下ろす。
『グアッ……』
 たまらず刀を離すと、その筒で刀をころばした。
「女王……」
『分かっている。見当はついているが、証拠がないのだ』
 足の根本に向けて筒を構える。
『誰に雇われた? 言わねば撃つぞ』
 数字を言うと、容赦なく撃ち抜いた。
『さあ、もう一本やるのか?』
 反対の足を向けて構える。
「も、もう意識がなくなってます…… 死んでしまったのかも」
『……あなたに引き渡す世界で誰に狙われているのか。それは判ったわね?』
 私はうなずいた。
『ここで証拠を得て、裁いてしまえば簡単だったのですが』
「私と女王しか聞いていないですよ」
『それで充分だったんです』
 気づくと、ドアのところに甲冑の男が立っていた。
 ゆっくりと扉を開けると、片手に人を引きずっていた。
 さっきの殺し屋の片割れだ。
『そちらは何か話しましたか?』
『いいえ』
『これではこちらの世界にきたくなくなってしまいますよね』
 女王は私の方を見て言った。
「けれど、元の世界も死とは向かい合わせなのは変わらないから」
 いや、どうなんだろう…… 同じくらい? こっちの方が良い死に方ではないかもしれない。
『この世界に来る前に、先にこの筒のさばき方を教えておきます』



 目が覚めた。
 そこは見慣れた自分の部屋だった。
 しかし、この世界で、私は後はもうコードを読むだけの存在になっていた。
 こちらの世界がどうなってもいい、そんな気がしたのだ。
 あの後、女王に筒の使い方を教えてもらった後、私達は街や旧市街を回った。
 向こうの世界で、女王が必要とされていた。
 多くの民が女王の体を気遣っていた。
 なんとなく、もう長くないことが民衆には分かっているようだった。
 そして、迫りくる恐怖も見せられた。
 黒い血を流す、灰色の肌の生き物達がいた。
 幾重かの壁の向こうにいる連中だった。
 ドラゴンの背中から見下ろしてみると、まるで見えているかのように睨み返してくる。
 尽きない憎しみが渦巻いている。
 女王の力が弱まれば、世界は争いに巻き込まれる。
 女王は未来を読めた。しかし、私は……
『あなたの力は、私の代わりができるはずよ』
「コードを読む力?」
『あなたがこちらにくれば、世界のコードを読むことが出来るはず。それは未来を読むに等しい力です』
「世界のコードを読む」
 旧市街や都市部はこの世界のほんの一部だという。
 私の世界と同じような命がここでも生きているのだ。
 もう自分一人の命ではなくなっている。
 私がここで死ぬ訳にはいかない。
 コードを読み、向こうの世界へ行かなければ……
 けれど、すぐにコードが頭にうかんでくるわけではなかった。
 それがいつ浮かんでくるのかが分からなかった。
 現女王が出すタイミングなのか、私の心の整理がついた時なのか。
 何がきっかけで読めるようになるのかは分からないが、次に読めるようになったら、迷わず読まなければならない、と心に決めた。
 数日を家から出ずに過ごしていると、所長から連絡があった。
『光ファイバーのプロジェクトも最終段階なのよ』
「分かってます」
『分かっているのに研究室には出てこないのね』
「それは……」
 私はもうこの世を離れる準備をしているのだ、とは 言えなかった。カウントダウンしているのに、研究に関わったらそれこそプロジェクトの為にならない。

 私は思わず突っ込んだ。
「そんなことあるかい!」
「けど、あれやこれやをそういう誤解のしかたするんだ、って少し関心しちゃった」
「心配したんだよ」
「ありがとう」
 ミハルは嬉しそうだった。
 その顔を見て、私は心配が無駄ではなかったと思って嬉しくなった。
「そういうことは絶対しないから。今度からは私を信用してね」
「うん、約束する」
 私とマミとミハルはお互いの小指を絡めて指切りをした。
「もういいかしら?」
 そう言ったのはチアキだった。つまらなそうな表情でこちらをみている。
「何、チアキ?」
「私がここにいること知ってる?」
「知ってるよ?」
「何も疑問に思わないの?」
「どうして? 転校生なんでしょ?」
 つまらなそうな顔が、起こったように変化してきた。
「私がここにいる訳は……」
 コンコン、とノックの音がした。
「はい」
 マミがむかえにいき、ドアを開ける。
「えっ? 業者? なんですか?」
 私はチラッとチアキを見た。
 体が反り返るぐらいに胸をはり、両手を腰にあてていた。
 今にも鼻から『ふんっ』と息をはきそうだ。
「みんな、部屋から一旦出てだって。業者の方が作業するそうよ」
「どういうこと?」
「私のベッドを入れるからよ!」
 皆の視線がドア方向に集まった時、満を持してチアキが発言した。
「この部屋に決まりました逆井(さかさい)千秋ともうします。今後ともよろしく」
「なんでこの部屋にばっかり転校してくるのよ。他の部屋はまだ二人部屋なのに!」
「寮監に抗議しよう」
 マミが言った。
「ムだよ」
「何よ。あんた狭い部屋が好きなの?」
「寮監とか佐藤先生とかよりずっと上からの指示なのよ」
「理事長とか?」
 チアキは反り返った態度を崩さなかった。
 まさか、本当に理事長の娘とか、親戚とかそういう感じの……
 生まれつき威張り散らすような感じは、そういう血筋だからだろうか。
「理事長の娘とかなの?」
「言うわけないでしょ?」
「そうなんだ」
「だから抗議しても無駄よ」
「すみません、作業始めるんで」
「分かりました」
 四人は素早く最低限の片付けをして、食堂へおりた。
 チアキを先に入らせて、三人は食堂の入り口で話しはじめた。
「本当に理事長の娘なのかしら?」
「ハッタリかもよ? 虚勢を張るのがすきな人いるじゃない」
「確かに理事長と言えば抗議を抑えられるかも。だとしたら頭良いわね」
「逆井とか、名字が名字なんだから、理事長と同じかそうでないかなんてすぐ分かるよね」
 私はスマフォを使って検索を始めた。
「ほら、うち理事長とは名字違うもん」
「けどキミコ。父は理事長の友達、とか言われたら検証できない」
「ミハル鋭い。ハッタリかますならそれぐらいのこと出来るんじゃない」
「じゃあ、どうしたら良いの」
 私は対応に困ってしまった。
 抗議をしても、本当に理事長関連からの指示なら抗議は黙殺されるか、何か適当な理由で言いくるめられてしまうだろう。
 けれど私達だけ部屋が狭いのは納得行かない。
「じゃあ、逆に。チアキが理事長関連に顔が利くなら部屋を広げてもらおうか?」
「えっ……」
「キミコ、そこがポイントなの?」
「えっ? マミは狭いのはイヤじゃないの? それなら何も言わないけど?」
「狭いうんぬんより、チアキと一緒なのが問題じゃない」
 たしかにそこが問題なのかも。
 そう思って食堂をのぞきこむと、チアキは販売機で買ったコーヒー牛乳を飲んでいる。
「キミコ、見ない見ない」
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 授業の準備というのは、配布する紙のテキストが入ったダンボールを運ぶことのようだった。
 何個かのダンボールを台車に載せると、佐藤に礼を言われ、教室へ帰って良いと言われた。
 ミハルと教室へ向かう途中、私はたずねた。
「本当に佐藤の言うとおりだったの?」
「さっきのこと?」
 私はうなずいた。
「そうよ。別に変だとも思わなかったけど、確かに壁沿いを触れば灯りをつけることは出来たわね」
「佐藤に変なことされてない?」
「?」
 今回はこっちの思い過ごしか。
「何か、疑ってる?」
「え?」
「私、疑われているよね」
「ミハル、何言っているの?」
「言葉で言って」
「急に言われても」
「キミコ」
 ミハルは立ち止まった。
 真剣な顔で見つめられ、これをごまかすことは出来ないと思った。
「疑っているよ。何か変なバイトしているんじゃないかって」
「バイト?」
「だって、急に色んなもの買ってるじゃない。お小遣いの範囲じゃないくらい。なんかヤバいバイトしているって」
「ヤバいバイトって何」
「その…… 何ていうか。援交的な?」
 ミハルは呆れたような顔をした。
「親のカードで買っただけよ。転校してくる時にロクな着替えも持ってこなかったから」
「……」
 佐津間がズボンを直す仕草をしていた時のことがきになっていた。
「佐津間達と渡り廊下に居た時とか」
「……あ。ああ」
 厳しい顔のミハルが、急に笑いだした。
「佐津間がばズボンをこうやった話?」
 私はうなずいた。
「佐津間のベルト、買ったまま切ってなかったのよ。切って使うこと知らなかったみたいで」
「へ?」
「だから、金具のところがこうやって外れるって説明してた
 ミハルは、また笑った。
「寮に帰ったら、そこを開いてベルト切りなさいって」
「本当?」
「こんな嘘言わないわ。なんなら本人に聞いてみたら?」
 佐津間ならありえるか、と思えた。
 教室にもどると、タブレットで佐津間にたずねた。
『佐津間はベルトを切って使うってミハルに教えてもらったの? 別にあんたを笑おうと思って質問しているんじゃないから。真剣に答えて』
 直接聞くと周囲の目があって、言わないか、否定すると思ったからだ。
 送ったメッセージに気付いた佐津間がチラッとこっちを見た。
 私はふざけていない、という顔をみせた。
 すると、メッセージが返ってきた。
『その通りだよ。ミハルに教えてもらった』
 メッセージだけを読むと意味深だったが、単にベルトの使い方を教えてもらったのだ。
 なんだ…… そんなことだったのか。
 私はさっきのミハルの笑い顔を思い出して、笑ってしまった。
「どうしたのキミコ、急に笑いだして」
 マミが不思議そうにきいてきた。
「なんだよ、面白がるためじゃないって書いてあったじゃないか」
 佐津間が立ち上がって怒ってやってきた。
「ごめん、佐津間を笑ってるんじゃないの」
 そう。安心したから。ミハルが変なことしてないって安心したから笑っているの。あなたを笑っているんじゃない。
 しばらく、私は一人で笑いつづけていた。



 寮の部屋に戻ると、マミとミハルにそのことを話し、三人で笑いあっていた。ラブホに入った理由もお互い、おなじような理由だった。ミハル達は服を汚してしまったからだった。私達の理由もミハルに話した。
「そんなに巨乳に変われるの?」
「ほら、こんな感じ」
 マミがスマフォの写真を見せる。
「こんなだったら肩がこりそう」
「ニセモノだけど、たしかに肩はこったよ」
「胸も腫れたしね」
 マミが付け加えた。
「それを繰り返せば、本当に胸が大きくなったんじゃない?」
 ミハルが笑いながらそう言った。ミハルの冗談を初めて聞いた気がした。
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 遠くで微かな声がする。
『いや、ですから』
 さっきの老人の声だろうか。
『とにかく探しなさい』
 なんだろう、どこで話しているのだろう。
 飛行機ではなく、ドラゴンが空を支配する世界。そのドラゴンを自由に使う人たち。
 本当なら街中に出て他に何が違うのか見たかった。
「しかたない……」
 城の中を見て回るので良しとするか。
 街中をみるのは、女王になってからでもいいだろう。
 ドアを押し開けようとすると、逆に引っ張られてしまった。
「おっと……」
 ドアの把手(とって)を離し、転ぶ寸前で持ちこたえた。
 引いた先には身をかがめた男が見えた。
「?」
 何か光るものを持っているのに気が付き、後退りした。
 はじめて感じる感覚で、なんと表現していいのかわからなかったが、おそらく殺気というものだ、と感じた。
 壁に背中を付けながら、さらに奥へ戻った。
 男は扉にくるりと前転して入ってきた。
 もう一人、同じ格好をした男が、扉を回り込むように反対方向へ入ってくる。
 そして、入ってくるなり、静かに刃物を構えた。
「殺し屋?」
 ベッドの方を見て、一人が首をかしげた。
 やばい。ベッドで寝ていないことが判ったら、今度は部屋中切りつけてくるかも。
 私は慌ててドアを開けた。
「しまった、開けない方が良かったか?」
 独り言を言ったが、おそらく殺し屋には聞こえていない。
 ドアを出るべきか、出ないべきか悩んだ。
 あっという間に、殺し屋はドアに戻ってくる。私はもう一度さっきと同じく、壁づたいに戻った。
 ものすごいスピードで剣がドア付近をかすめた。
 手応えを感じなかったのか、一人は扉から出ていった。
 もう一人はドア付近から振り返って、部屋の中を睨みつけた。
 出ても出なくても殺られてしまうのか……
 足がふるえるのが判った。
 見えない、聞こえないだけで物理的にはこの世界に割って入っているのだ。
 城の人間とぶつかったように、城のある世界から、私を破壊することも出来るのだろう。
 殺し屋と思われる人物は、部屋の中央でブン、と刀を振った。
「わっ……」
 聞こえないからいくら話しても問題ないはずだが、思わず口を抑えてしまった。
 何かを感じたのか、ベッドに行くと、ベッドを端から突き刺し始めた。
 ドスドスと音を立てて、端から刀を突きたてていく。
 半分ほど終わった後、殺し屋は枕を手に取った。
 ベッドの支柱をつたって、軽々と天蓋の上立つと、枕を切り裂いた。
 枕からは大量の羽根が広がり、床に落ちはじめた。
「!」
 見えないけれど物理的にはぶつかる、例えば粉をまけば体が浮き上がって見えるはず。そういうことだった。
 男は右に左に枕を振り回し、さらに羽根を撒き散らした。
 私が移動すれば、羽根が動いてしまう。
 どうしよう…… さっきの老人は私を殺そうとしているのだ。
 女王が居なくなって、ドラゴンの統率ができなくなり、ドワーフやゴブリンが人に台頭してくる世界を望んでいる。
 そうでなければドアを締めるなり、閉めれる部屋に通すはずだ。
 羽根が床いっぱいに広がり、男はじっと床を観察している。
 ドアから少し隙間風が拭いてくると、羽根がそこで舞った。
 男は何を考えたのか、その隙間風に近づいていく。
『……』
 私は何かが鼻に入って、ムズムズしはじめた。
 ここでくしゃみをしたら、羽根が舞ってしまうかも……
 止めようと口を手で覆うが、余計にムズムズが止まらなくなった。
「クシュン!」
 指の隙間から、しかも床に向かって飛び出た息が、部屋の床に散らばっていた羽根を舞い上げた。
『そこかッ!』
 ドアに向かっていた殺し屋は、私が舞い上げた羽根に気づいて振り向いた。
 ダメだ…… 殺し屋は刀を振りかぶった。
 私は目を閉じていた。
 ドンッと大きな音が聞こえ、何も聞こえなくなった。
「……」
 何も起こらない。
 さっきの音のせいか、何も聞こえてこない。
『ヴゥッ……』

「……」
「けど、扉がついているものはことごとく破棄されているか、そこから〈転送者〉が出てきて酷いことになっているはずよ」
 私は今まで見てきた現実から、水をかけるようなことを言ってしまった。
「まあ、けど……」
 マミが言った。
「まあ、けど、何?」
「宿泊させるつもりなんだからある程度のレベルは保っていると考えてもいいとおもうけど」
 私達は、そんな感じに、〈鳥の巣〉の中にある豪華なホテルと、プールのことを話しながら教室へ戻った。
「館山、ちょっと」
 廊下を歩いていると、ミハルが担任の佐藤に呼び止められた。
「……」
「時間がない」
 佐藤は、急にミハルの腕を取って、教室でも、職員室へ行くのでもない渡り廊下へミハルを引っ張っていった。
「ミハル!」
「……」
 私がミハルが行ってしまった方を見ていると、マミが言った。
「何をしているか、見てくる?」
「……」
「なんか怪しい。そう思ってるんでしょ?」
 私はうなずいた。
「それ何の話し?」
 チアキが言った。
「関係ないから、教室に帰ってて」
「関係ないけど、キミコが教室に案内してよ」
「ここまで来たんだから分かるでしょ?」
「私が一緒にいくから大丈夫でしょ?」
 マミがウインクした。
「キミコは用事を思い出したのよ」
 マミはチアキの手を引いて教室へ歩いていく。
 私は渡り廊下の金属の扉をゆっくり開け、様子をみながらミハルと佐藤の行方を追った。
 渡り廊下にはすでに人影はない。
 反対の校舎の扉まで走り、ドアノブをゆっくり回して扉を開ける。
 暗い。渡り廊下と明るさの違いで何も見えない。
 渡り廊下の先には、階段の踊り場があると思っていたのだが、もしかしたらここは特別な部屋でもあるのだろうか。
 もう少し扉を開けて、こちら側の光を入れる。
「はぁはぁはぁ……」
 中から吐息が聞こえる。
 ミハルのもののようにも思える。
「どうだっ!」
 佐藤の声だ。
「はぁっ、はぁっ……」
 佐藤の呼吸も荒い。
 いや、どんなことになっていてもこれはマズいだろう。私は意を決して中に入った。
「何してんの!」
 扉を閉めてしまって、部屋の中は真っ暗になっていた。
 そうだ、壁沿いに歩けば……
「!」
 灯りのスイッチを入れた。
 目の前には、肩車をした佐藤、乗っているミハルの二人がいた。
 完全に男女の交わりをしてしまっていると思っていた私は、自分が恥ずかしくなった。
 しかし、暗闇で肩車する先生と生徒も充分怪しい。
「何やってんですか?」
「次の授業の準備を館山に手伝ってもらおうと思ったんだが、なぜか防火シャッターが閉まっていて」
「解放するためのスイッチが上にあるからって」
 ミハルの上の方を見ると確かにスイッチボックスのようなものはある。
「あれ?」
「そ、そうだ…… 館山、下ろすぞ」
 ミハルを下ろすと、佐藤が改めてそのスイッチを見つめた。
「蓋があるのか」
「その前に灯りをつけるべきでしたね」
 私が言うと、佐藤は項垂れた。
「その通りだな」
「防火シャッターなら事務室から遠隔で開けられそうだし」
「そうか」
 慌てて佐藤は連絡をいれる。
 すると、モーター音がしてシャッターが巻き上がっていく。
「白井も手伝ってくれ」
「はい」
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『相互に移動するような特性があれば…… それも出来たのでしょう』
 お互いに世界を行って返る力はないということか。移動してしまえば、そこまで。
 帰り道をすすめる能力はないか、消えている。
 それが出来れば、世界を牛耳るというか…… それはそもそも次元の違う生き物だ。
「そう……」
『あなたのそのコードを読む力はまさに女王の力です。ドラゴンの王を御する力』
「ドラゴンの王?」
『それだけではありませんが、最も強力な王を抑えられないと、ゴブリンも、トロールもやってきます。均衡は崩れ、争いが始まります』
 部屋にいたオペレーター達が全員立ち上がった。
 老人が頭を下げた方向に向かって、頭を下げた。
 見えない私に向かって、女王になってくれと言っているのだ。
 ドラゴンを抑えろと。
 もう、引き返せない状況があった。
 自分の世界側の犠牲と、こちらの世界の犠牲。
 私の命と女王の命。
 何が重くて、何が軽いとか、そんなことは言っていられない。
『さあ、次はどうなさいますか?』
「帰ります」
『少し時間がございます。それまで、女王の城でおやすみください』
 別のドラゴンが待機していて、そのかごへ乗った。
 水の上でスピードを上げると、今度は羽根を広げ、水の上を助走した。
 勢いがついたところで、大きく何度か翼を動かすと、フワッと空中に上がった。
『インターセンと旧市街の間の川岸、岸壁の上に城はあります』
 老人が指さした。
 小さく城が見えた。
 灰色のような、黒のような、重量感のある建物だった。
 形は西洋の城のようだ。
 上昇したドラゴンは、城の上をクルクルとと回りながら下りていった。
 止まり木のような太い梁の上に、狙いすまして止まった。
 背中のカゴにも、相当のショックがあり、もう少しで飛び出しそうだった。
『大丈夫ですか』
「ええ、なんとか」
 ドラゴンが太い梁を横に移動すると、城から人が出てきて背中に階段をかけた。
 老人がまずそこに降り立ち、私を受け止めてくれた。
 階段を降りると、城の中へ入った。
 誰にも私の姿は見えていなかった。
 侍従なのか、城の使用人が、老人を避けた後、すぐに歩き出そうとして、見えない私と何度かぶつかった。
「いて」
『?』
 見えていないだけで、物理的には存在する。そうでなければこの床を抜けてどこまでも落ちていくか、天井を関係なくどこまでも空へ登れるはずだ。
 つまり、ロジック的に認知されないと言った方が正しいのかもしれない。
『申し訳ございません。後で気をつけるように言っておきます』
「私は見えないんだし、狭いところを進むのだから、しかたないですよ」
『おっしゃる通り、広い通路を通れればよかったのですが。なるべく人に会わないためにはこの通路しかなかったので。重ね重ねすみません』
 そうやって曲がりくねった通路を通り抜けると、天井が倍になり、幅が五倍はあるかという廊下に出た。
 そこを渡ると、大きなドアを開けた。
『こちらでお休みください』
 天蓋のあるような大きなベッドだった。
 この寝室だけで自分の家と同じくらい広い。
 その何もなさ加減に落ち着かなかった。
『お着替えが必要でしたらこちらで』
 そこに着替えやタオル類を並べてあった。
「ありがとう。ところで帰れるような時間になったことはどうやって知ればいいの?」
『そこの鐘を鳴らします。その後、私がこちらに来て声をかけますので』
「わかりました」
 頭をさげると、老人は出ていった。
 ドアのところに行って鍵をかけようとしたが、ロックらしいものがなかった。
 押してみると、さしたる抵抗もなく開いてしまう。
「どうしよう……」
 この世界の人から認識されないのであれば、鍵かかかってようと、なかろうと変わらない。
 透明人間というわけではないが、認識されなければいたずらし放題のはずだ。
 ベッドに戻って休みたい気持ちと、この部屋を出て世界をもっと見てみたいという気持ちがせめぎ合った。
 老人は何も警告しなかった。決して部屋を出ないでくだい、とは言わなかった。
 何故だろう。もうそういう歳ではない、と思われたのだろうか。
 このドアに鍵がかけられたら、あるいは老人が鍵をかけて行ったらこんなことを考えず、そのままベッドで寝てしまっていたろう。
『どういうこと?』

 振り返らず厳しい声だけが響く。
「は、はい!」
 中里先生、違うんだよ、チアキが悪いんだよ、チアキが。見ればわかるのに……
 そんな感じで、午前の授業はずっとチアキに翻弄されてしまった。



 昼休み、チアキを連れて皆で購買へ行って、パンやらおにぎりを買った。
 校庭を眺められるいつもの木陰で、ごはんを食べていた。
「夏の合宿だけどさ」
「オレーシャが言っていた〈鳥の巣〉でやるっていうあの合宿」
 マミが説明を加えるように言った。
「うん。みんなは行く?」
「成績が関係するんじゃないの?」
 マミの発言は、ミハルやチアキに言うかのようだった。
「ソフトウェアが出来なきゃいけないんだっけ」
 マミはそう付け加えた。
「それなら私はバッチリね」
 チアキは自慢げに言う。
「選ばれるかな」
「両親は〈鳥の巣〉に行くのに反対しないの?」
「言わないけどね」
「無理だよ、両親の同意書がいるはずだもん」
「……」
 マミはまるで今聞いたかのようにショックを受けていた。
 さっきまでの流れからすると、本当に知らなかったのかもしれない。
「私は大丈夫」
 ミハルが初めて口を開いた。
 チアキが続いた。
「みんな行くの? 行くなら許可取ってみようかな」
「私は行く。行かなきゃならない」
「キミコ。あんた、そう言うけど成績が関係するんでしょ? ソフトとか出来るの?」
「キミコは大丈夫よ。一度〈鳥の巣〉に入ったこともあるし」
「えっ…… 危なくないの? 〈転送者〉って〈鳥の巣〉の中だとまだ出るって」
「〈鳥の巣〉の外でも出るよ」
 ミハルがボソリと言った。
 チアキが少し震えたように見えた。
「チアキ、怖いの?」
「キミコが入れるんだもの、大して怖くないんでしょ? 両親が許してくれれば入れるわよ」
 チアキは逃げを打ったのだ、と思った。自分は怖くないけど、両親が止めた、とすれば行かない言い訳になるというわけだ。
 マミはさっきの感じでは、行けそうにないだろう。きっと両親を説得出来ないのだ。
 ミハルがどうするかが読めないが、おそらくいかないだろう。結局、今度は私一人だ。
 それでも行くしかない。私の止まった時間を取り戻すには、〈鳥の巣〉に入る以外にないのだから。
 昼食を終えて、皆で教室へ帰る途中、廊下でオレーシャ・イリイナ先生とばったりあった。
「白井さん。合宿参加希望でしたね」
 さっきまで話していたせいか、皆がピクッと反応した。
「水着用意しといてくださいね。プール使えるそうですヨ」
「……水着ですか」
 マミの水着はみたいが、自分が水着になるのはイヤだ。
「プールですよ? もっと喜んでください。他の人は合宿参加しないのですか?」
「……どんなプールですか?」
 そう言ったのは以外にもミハルだった。
「元は国際空港の近辺では一番ランクの高いホテルのプールだったようですヨ」
「宿泊もそこですか?」
「扉がないように改造はしてますけどね。そのホテルと聞いています」
「!」
 それを聞いてチアキの表情が少し変わった。マミも何か考えている風だった。
「まあ、ドアがない時点でどんな酷い部屋かは想像付きますけど」
「そんなことないんじゃない? きっと素敵な部屋に違いないわ」
 私の言葉にチアキが反論してきた。
「チアキ、建物にドアがないって状態分かる?」
「キミコは、元が超一流ホテルってことを分かってないのよ。どんだけ凄いんだってこと」
「とにかく、合宿には水着持ってきてくださいネ」
 オレーシャは手を振って去っていった。
 チアキが言った。
「すこしやる気が出てきた」
 マミが興味をもったようにチアキに言った。
「そんなにいいホテルなの?」
「〈鳥の巣〉でどれだけ悪化しているかわからないけど、普通ならこんな感じ」
 チアキがスマフォを見せる。
 綺麗なプール。豪華な食事、広々とした部屋、眺め、家具の質……
「すごいね。豪華だね」
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 質問する権利が回ってきた者は、タブレットの画面がフラッシュする。
「おっ!」
 まってましたとばかりに立ち上がった男子は、そのものズバリを聞いた。
「はい、私は梶原俊樹と言います。さかさいちあきさん、あなたは名字が違いますが、たてやまみはると双子ですか?」
「双子なわけないでしょ。こんなそっくりな人、初めて会ったわ」
 はぐらかすのかと思ったら、頭から否定した。
 これで今日の血液検査で双子だとでたらどうする気なのか。
 担任はスパッと次に切り替えた。
「じゃ、次」
「はい、佐々木美奈子です。なぜキミコがいいんですか? ババア声が好きなんですか? ってことは佐津間にライバル宣言したも同じですが、そこんところどう思いますか?」
 なんでそんな言い方をするんだ。
 ババア声は余計だし、佐津間の名前を出すのも余計だ。
「別に理由はないわ。知らない人に迷惑かけるより知っている人の方がよかったのよ。で、佐津間って…… あれか。白井を好きだって体中でアピールしているアイツのことね。私は別に白井を好きじゃないからライバルにはならないわよ。以上」
 指さされた佐津間はどこかあさっての方向を見ている。
「最後」
 タブレットがフラッシュする。
「あ…… す、鈴木葵です。し、質問は…… その…… あの…… すきな食べ物はなんですか?」
「でたよ……」
「またかよ」
「小学生的質問」
「しいてあげるならたこ焼きね」
「あげたよ。誰かと同じだよ」
 そうだ…… この質問と答えは記憶にある。
 佐津間の時も同じ質問で…… 同じ答えだ。
「本人すっとぼけてるけどな」
「だから小学生なのかってこと」
「以上。座席は白井の後ろ」
 言うやいなやチアキはスタスタと私の方に歩いてきて、両手を上げて止めた。
「ほら?」
 ハイタッチでもしたいのか? 私も手をあげると、バチーンと大きな音を立ててハイタッチした。
「よろしくっ!」
「あ、言い忘れてた」
 去りかけた佐藤が足を止めた。
「いままで使ってなかったけど、今日から出席と取る時にはタブレットの指紋センサー使うようにしてくれ」
 そうか、これだけ人数が増えてきて、双子のような|娘(こ)もいるのだから、代返防止としては指紋認証をするしかないんだろう。このタブレットはそもそもそういう目的で一人一人に渡しているのだ。



 とにかくチアキは落ち着きがないというか、しょっちゅう突っついてきて私の勉強の邪魔をした。
「(どうしたの?)」
「(これどうしたらいいの?)」
 タブレットをこちらに向けるが、画面が光ってよく見えない。
 頭を上げ下げして、画面を見ると、タブレットにはシステムメッセージが出ていた。
「(スワイプで引っ込められない?)」
「(それぐらいわかるわよ。ダメだから聞いてるんじゃない)」
「(内容は?)」
「(システムアップデート中って)」
「えっ!」
 社会科の教師が私を睨みつけた。
「なんですか?」
「チア…… |逆井(さかさい)さんのタブレットがシステム更新始めちゃったらしくて」
「今日転校してきたんだっけ。佐藤先生が予めアップデートして置けば良かったのに…… 予備のタブレットを持ってくるから、そっちを使いなさい」
 教師はタブレットに予備を持ってくるよう話しかけている。
「逆井さん。困ったことがあったら私にいいなさい。さっきから|白井(しろい)さんをつっついているのは見えてますよ」
「佐藤先生が白井さんに面倒みてもらえって言ってました」
「では私が訂正します。授業中は授業の担当の先生に言ってください」
「はい」
 ナイス! ナイスだよ、中里先生、これでつっつかれなくなるよ。
 しばらく先生の講義が進むと、事務員の方がタブレットを持ってきて中里先生に渡した。
 先生は軽く設定を確認して、チアキに渡す。
「アップデート終わるまではこっちを見ておいて」
「はい」
 まるで真面目な生徒のような返事をする。私をつっついてくる、ふざけた本性はどこに隠した?
 先生が前を向いて戻る瞬間、指で目と口を広げて思い切り変な顔を作ってみせる。
 一瞬、驚いてよくわからなかったが、笑わそうとしていると気づくと、それが面白くて笑ってしまった。
「白井っ」
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『……羽根が生えていて、顔や口は大きなトカゲのような、火を吹く怪物です』
「ドラゴンはわかるけど」
 確かに私が立っているカゴの床は板状のものだが、左右広がっているのはウロコのついた翼だった。
 そして、前方に伸びた首の先が曲がって、チラっとこちらを向いた。
「ドっ、ドラゴン!」
『大丈夫ですよ、完全にコントロールされていますから』
 あたりは真っ白で、寒くて、少し震えた。
『少し下におりましょう』
 老人が奇妙な声を上げると、再びドラゴンがこちらを、チラッと見た。
 すると、胃の中がふわっと持ち上げるような感覚があった。飛行機がストンとおちる時のような。
「あっ!」
 急に視界が開けた。
 どうやら雲の中を飛んでいたようだった。
 眼下には雪を冠した山々、大きな湖、そこから出ていく川の流れ、美しい木々が作り出す森。まるで地球と同じだった。
「綺麗」
『よかった』
 老人はまた奇妙な声をだした。
 ドラゴンは首を曲げて、こちらをチラッと見やる。
『しっかりつかまってください』
 ドラゴンの上に乗せたカゴにしがみついた。
 翼が風を切る音が大きくなり、顔にあたる風やしずくが痛かった。
 景色が今までに増して速く流れていく。
 雪山や湖の風景がなくなると、古い西洋の街のように、石でつくられた建物が並び始めた。
『ここは旧市街です。今も人が住んではいますが』
 更に飛んでいくと、河口近くに大きなガラス張りの建物が立っている近代的な街が広がってきた。
「海!」
『こちらがインターセンという街です。こことさっきの旧市街の間にあるところに女王の土地があります』
「人はいるの? 小さくて見えない」
『街に出てみましょう。あなたは誰からも見られてないことを意識していてください』
 海上まで出ると、旋回して陸地へ向かった。
 下がるスピードが早すぎる、と思っていると、ドラゴンは海に落ちた。
 着水は激しかったが、海上の方がドラゴンの乗り心地は良かった。上下には揺れず、大きな風切り音もしなかった。
 そのまま大きな倉庫のような建物へ泳ぎ着くと、ドラゴンは停止した。
 私達がカゴから降りると、ペタペタと登っていき、その屋根の奥へ行ってしまった。
「どこへ行ったの?」
『ご覧になりますか?』
 私がうなずくと、老人は手招きをして扉を開けた。
 扉の先には荷物ようのエレベータがあり、そこを上がった。
 そのまま長い通路を歩いていくと、再びドアを開けた。
 何人かの人が窓の方を向いて、マイクに向かって声を出していた。だが、一人が老人に気づくと、全員が立ち上がって老人の方を見て、頭を下げた。
 何か一言二言、声をかけると頭を下げるのをやめ、仕事に戻った。
『どうぞこちらへ』
 そう言うと、仕事をしていた人が老人の方を不思議な目で見た。何を言っているのか、誰に言っているのか、全く分からないのだろう。
 窓の方へ寄っていくと、ここがさっきの大きな建物の屋根のあたりであることがわかった。完全に近づいて、窓から下を見た。
「こ、こんなに沢山……」
 眼下には多数のドラゴンが羽根を休めていた。
 コンベアのようなものから流れ落ちてくる餌に顔を突っ込んで食べていたり、大型の回転ブラシで体の手入れをされているドラゴンもいた。
『ここから、それぞれのドラゴンにフライトの指示を出したり、食事や休憩のコントロールをします。ここにいるのは全て飼いならしたドラゴンですが、野生のものもいますよ』
「へぇ……」
 私が読む小説の中でもドラゴンが出て来るが、どうやってどこにいるのかまでは書かれていなかった。こんな飼育場のような建物があるとは…… というか、水に着水するとは……
『我々の世界です。この世界を守るには女王が必要です』
 ドラゴンへ指示を出すオペレータが、老人の背中をじっと見て、私の場所を推測したように見つめた。
「女王はいるじゃない?」
『女王は…… はっきり言いましょう。もう長くありません』
「あんな若いじゃない?」
『あなたも充分若い。同じことです』
「まさか」
 老人はうなずいた。
 命の交換をするのだ。
 私はこちらの世界に生き、女王は私の世界にやってくる。世界を移動するときに、病気を取り除いてしまうのだ。
「交換して、もう一度交換したら?」

「えっ?」
「本当に転校してきた…… ってことなのかな?」
 そう言えば含みのある言い方をしていた。
 最初から転校の予定だったのかもしれない。
 マミがたずねた。
「どうなるの?」
「どうなるって…… 私にもわからないよ」
 昨日の今日で、いきなり仲間とはいかないだろうし。
 どう距離をとればいいのか分からない。
 いや、違う?
「転校とかそういう話じゃなかったら?」
「どういう意味? 制服着てきてるし」
「あれはミハルが譲ったものでしょう?」
「そうだけど。だから、どういう意味?」
「例えば転校じゃなくて、講師としてくるとか、副担とか」
「年齢的に教師や講師じゃないでしょう? まして副担はオレーシャがついたばかりだし、考えられないよ」
「留学生とか?」
「……いや、それならそもそも転校生とかわりないよね」
 マミのいうことはもっともだった。
 なんだろう、チハルが同じクラスに転校してくることがどうしても受け入れ難い。
「うちのクラスに来なくても……」
「それは言えてる」
 マミは同意してくれた。
 そのまま佐藤とチアキは教室に入ってきた。
 いつもの転校生とは違った雰囲気が教室に走った。
 それは先にバスでチアキの姿を見ているからだった。
「あれだ……」
「今朝、|白井(しろい)といたやつ」
「館山とどこが違うんだよ。そのものじゃね?」
「カチューシャがないだけ」
「そうか」
「有・無でよくね?」
 そう姿形、声はそっくりだ。何故か髪型も似ているせいで、見分けがつかない。カチューシャをしているのがミハル、そういう気持ちはわかる。私もまだ分かっていない。
「今日も転校生を紹介する」
「いきなり?」
 どこからか突っ込みが入る。
「今日は特に連絡事項はないから転校生を紹介する」
 佐藤はすこしいらだち気味だった。
「まずは名前、全員タブレットを確認して」
 目の前にタブレットに表示される。
『逆井千秋(さかさい ちあき)』
 また教室がざわめく。
「館山、じゃないのか?」
「ミハルの姉妹とかじゃないの? 名字違うって親戚?」
「双子の親違い…… ってありかよ?」
「ぎゃくい、とか、さかい、じゃないの?」
 教室のざわめきを予測していたように、担任の佐藤がうんざり顔で言う。
「なんでもいいからみんな黙ってくれ…… では、これから本人に挨拶と自己紹介をしてもらうから」
 チアキが真ん中へ進んだ。
「さかさいちあきです。よろしくおねがいします。前の学校ではバレー部でセッターやってました」
 なんか、昨日からの印象とは違う雰囲気だった。
 私を見つけると、一瞬目がつり上がった気がした。
「この学校で部活をやるかはまだ決めていません。よろしくお願いします」
 佐藤がチアキの様子をみながらタブレットを操作した。
「ということなので、仲良くしてやってくれ。寮の部屋はもう決まっているようなので、後で連絡する。それから、ミハルと同様、白井。面倒見てやってくれ」
「は?」
 瞬間的に湧き上がる怒りが、思わず口をついて出てしまった。
「白井聞こえなかったのか?」
 強い命令口調。
「わかりました」
「ご指名だそうだ」
「へ?」
 どういうことだ…… 嫌われるなら分かるが、チアキ本人からのご指名とは。
「よろしくぅ〜」
 チアキが媚びたような声を出した。
「ちょっとまて、質問タイムがある」
 私の方に歩きはじめたチアキを呼び戻した。
「それじゃあ、指名するから質問するように」
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『読む気になったのね』
 女性の姿は見えなかったが、ハッキリと声が聞こえた。まるで後ろに立っているかのようだった。
「そうよ。読むからにはコード管理プログラムに干渉されたくない」
『……仕掛けは分からない』
「昨日の講義室に連れて行って」
『講義室?』
「壁にコードを映し出していたあの部屋よ。思った通りに動くエディタも」
『わかった。連れて行く。目を閉じて気持ちを楽にして』
 目を閉じると、女性の姿がそこにあった。
「名前。名前があった方がいいわ」
『なんのこと?』
「あなたの名前を聞いていなかった」
『なんでもいいわ。そうね、トモヨでいいわ』
「私と区別がつかないじゃない」
 いや、明確についているのだ。私は私だからだ。
『どのみちあなたの世界では発音できない。あなたをこちらに救いだしたら、女王は交代しなければならない。私とあなたが同時に存在するのは、この中だけなのよ』
 そうか、この|女性(ひと)は女王なのだ。
 女王、と呼べばいい。
「女王、と呼んでいいかしら」
『当然、それでも良いわよ』
 女王は歩き始めた。
 何もない廊下を歩いている気がした。
 壁もないのに、廊下だというのは、なんとなくの感覚でしかない。全く認識出来ない、壁のようなところから、いきなりドアが開く。
『ここよ。ここから入って』
 昨晩見た講義室のような部屋に入った。階段をずっと下りていくと、大きな壁にコードが表示された。
「私をこの世界から取り出す時って、最上位の特権を取るのよね?」
 私は後ろにいる女王を振り返って言った。
『そうよ』
「その特権って、いつ取れるの?」
『あなたがコードを読んだ瞬間』
「今の時点で、コード管理プログラムにコードを追加出来る?」
『出来ないわ。やるとしたら、特権をとったと同時にやるしかない』
 そうか、やっぱりそうなるのか。
 私はふと、さっき女王が言ったことを思い出した。
「そういえば、この中でしか私と女王が存在出来ないって言ったでしょ?」
『……』
 女王はうつむいただけだった。
「それって、あなたが、こちら側から居なくなる、ということではないの? あるいは……」
『……』
 うつむいた顔から目だけがこちらを向いた。
「あるいは、私と入れ替わりになる」
 私が見つめ返すと、女王は目をそらした。
「そうなのね? 私と入れ替わるつもりなの? この世界に入りたい為に、入れ替わるターゲットを探していたというわけ?」
 私はどのみちそう長くなく死んでしまう。
 女王が入れ替わるといっても私と同じものではないから、この同じ病気をもったままではない。コードを読んだ混乱に乗じて、特権をとって、私を取り除くと同時に女王がこの世界の中に入るのだ。
『結果としてそうするだけ』
「こっちの世界は、さっきの廊下のように何もない、孤独な空間なんだわ。世界のシミュレータの裏側。フレームワークとでもいうか。そんな世界なのね?」
 女王は首を振った。
『それはひどい誤解ね』
 女王が何かスレートに文字をなぞった。
 講義室の入り口が開いて、黒服の老人がおじぎした。
『どこへお連れしましょう』
『世界が広いことが分かるところがいいわね。空から領土を見渡して』
『承知しました』
 老人がこちらにやってくると、かしずいてから私の手をとった。
『参りましょう。ご案内いたします』
『あなたのからだはこの世界のものではないから、ものに触れたり、触ることはできないわ。けれど、こちらの世界にきたらちゃんと実在するものなの。あとは信じてもらうしかないけど』
 私は女王を振り返り、うなずいた。
 老人が開けた扉の先に床が見えなかった。私はあっ、と思った時には落下していた。強い風に目を閉じていると、抱きとめられた。
「お、落ちているの?」
 老人の細い腕から降ろされた。
『もう落ちるのは終わりました。落ちているように感じるのは、ここはドラゴンの背中で、飛行中だからです』
「ドラゴン?」

 私も、チアキもミハルもうなずいた。もちろん、マミも。
「確度が違うからね……」
 ミハルとチアキから少量の血液を取り出した。
 二人は腕を抑えてしばらく横になっているように言われた。
「一応私の簡易検査もしとく?」
「お願いします」
「その方が早いし」
 先生はニヤリ、と笑った。
「それじゃ、頂きます」
 ミハルの目を手で抑えて閉じさせると、そのまま口づけをした。
 口元のようすから、舌が絡んでいるのが分かる。
「はい。じゃ、こんどはあなた」
 チアキに顔を近づけると、覚悟したように目をギュッと閉じた。
「いただきます」
 先生はそう言うと、みぞおちあたりにキスをしてから、首筋を舐めあげるように上がっていき、唇の形を確かめるように噛み、ようやくキスをした。
 マミが私の背中をつついた。
「(この前もこんなことしたの?)」
 私は首を振った。
 近いことはしたが、こんなことまではしなかった。
 ウソは言ってない。
 チアキはビクン、と体が動いた。
「(あれ、感じてるのかな?)」
 マミが私に体をくっつけてきた。こっちも何か変な気になる。
「プファ〜」
「わかりましたか?」
 マミが言った。
「さっきも言ったけど、確度が違うから」
「わかったんですよね?」
 私もどうしても確かめたかった。
「二人はもう少しそこで休んでて」
 仕切りを閉じると、私達に顔を近づけるように仕向けた。
 先生を真ん中に、私が左耳、マミが右耳を近づけた。
「(いい、絶対本人達には言わないこと)」
「(はい)」
 二人で声が揃ってしまった。
「(二人は全く同じ。双子の類よ。けれど生きている経過時間が違う。同じ場所で生まれていないんじゃないかしら)」
「(なんですか? それ)」
 また二人が同じことをきき返してしまった。
 生きている時間が違うのに双子? コールドスリープでもしていたというの?
「(どちらかだけ早く取り上げられて、もう一人はずっと母のお腹にいた? とか?)」
 なにを言っているのだ、破水したら中に残っていることはできない。時間差があったとしても数十分の違いのはずだ。
「(じゃ、そんなに時間変わらないでしょう?)」
「(少なくとも一週間とか、そういう単位で違うわ)」
「先生! そろそろ授業に行かないと」
 しきりの向こうからチアキの声がした。
 私とマミは、ビクッとして背筋が伸びた。
「それじゃ、皆さん、そろそろ教室に戻ったら?」
「は、はい。ミハル、チアキ、行ける?」
「先行ってて」
「……」
「ミハル、チアキは?」
「先行っててって」
「……」
 しきりの向こうを睨んでから、保健の先生を見た。
「みてたげる」
 と言って、保健室の先生がうなずいたので、私達三人はチアキを残して教室へ向かった。



 教室はまだ席についていなくて、クラスの連中は好き勝手に動き回っていた。
 私達三人はそれぞれの席についた。
 席についてふと考えた。
 マミが連れ去られるまでの事が解決していない。
 佐津間の行動も分かっていないし、鶴田の木場田がなぜミハルと一緒に行動していたのか。
 聞くタイミングはあったのに……
「(キミコ!)」
 小声でマミが呼びかけてきた。
 廊下側を指差している。
「(あれみて……)」
 担任の佐藤と…… チアキだった。
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「適当に空気って言えば伝わるとか、お前の勝手な思い込み……」
 私は佐津間の顔を叩きに行っていた。
「イテテテ……」
「(ご、ごめん)」
 私は小声で謝った。佐津間は苦笑いしていた。
「何? アンたら出来てんの?」
 チアキが言った。
「面倒くさいモノ同士、お似合いね」
 また意図せずこのアホ男と絡んでしまって、こんな茶化されかたをしてしまった。
「しかたないよ」
 マミが肩に手を回して慰めてくれた。
 クラスのみんなが座り終わると、バスは走り出した。



 ミハルがバスの後ろを睨んだ。
 また〈転送者〉かと思って私も同じ方を見るが、何もいなかった。
 チアキがたずねた。
「何やってるの?」
「別に」
 そう言うと、ミハルは正面に座り直した。
「あなたには何か見える?」
 チアキにもミハルのような〈転送者〉を予見するような力があるのかと思ったからだ。
 チアキが後ろ向きに座って何か眺めはじめた。
「……どお?」
「何も見えない。退屈な風景ね」
 チアキも前を向いて座り直した。
 バスの轟音だけが響いていた。
 何事も起こらなかった。エンジンのトラブルさえなかった。
「奇跡だよ。はじめてなんじゃない?」
 マミは何も起こらずに予定通り学校について、感動していた。
 学校の時計を見て私もうなずいた。
「これなら授業前に保健室行けるかもね?」
「チアキ、ミハル、ちょっといいかな。保健室ちょっとよって行こう」
「……」
「いいけど。私はどこも悪くないわよ?」
 教室に向かわず、校舎に入るとそのまま保健室を目指した。
 職員も生徒もあまり通らない廊下は、空気がなにか淀んでいる気がする。
「あ、良かった。先生いるみたい」
 マミがドアの札をみてそう言った。
「おはようございます」
 保健室に入っていくと、先生がのびをした。
「朝っぱらからこの人数って何事よ?」
 白衣の襟元からピンクの下着が見えている。以前来たときも気になっていたのだが、露出度の高い服ではなく、もしかすると、下着に直接白衣を羽織っているのだろうか?
「君は先生の体に興味津々なのね? 私もあなたの体には興味あるけど?」
「そ、そんなことありません。それと、今日は、私じゃなくて」
 体を引いてミハルとチアキを押し出した。
「この二人のことを」
「どうしたの? 怪我とか病気とかじゃないみたいだけど」
「先生、以前DNAが分かるって」
 マミは椅子に座ってそう言った。
「だからこの二人のDNAを」
「ああ…… なるほどね」
「双子か、他人の空似かって…… そういうこと?」
 チアキが何も話さない。少し不思議な感じがした。
「あなた達が知りたいのはわかるけど、本人達はどう思ってるの?」
「……」
 二人共何も答えなかった。
「知りたいよね?」
 マミがうなずかせるようにした。
 チアキがわずかに頭を動かしたように見えた。
「う〜ん。こっちの|娘(こ)はうなずいたけど、もう一人は……」
「ミハルはどうなの?」
「……はい」
 そう言うと小さくうなずいた。
 仕切りを開けて、奥のベッドに二人を入れた。
 マミと私もついて入った。
 先生に指図されるまま、二人は並んでベッドに横になった。
「ちょっと採血するわよ?」
「え、舐めて分かるんじゃないんですか?」
 先生は私を振り返って少し笑った。
「簡易検査はそれでもいいけど…… 本当の事が知りたいのよね?」
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「コード管理プログラムなんでしょう?」
『殺すことは出来ないの。世界に干渉するものを排除は出来る。あなたが一瞬でも水晶のコードを読もうとしたら、私はあなたを殺すことが出来る……けれど』
「?」
 女性は胸に手を当てたまま、話さなくなってしまった。
「じゃあ、コードを読もうとするから、この場で殺してよ。ほら、行くわよ?」
 自分で言っていて、自分が本気なのか分からなかった。読もうというコードが頭に浮かんでこない。
 本当に死にたいのだろうか。
 いや、死にたくはない。
 けれど世界を犠牲には出来ない……
 だから……
「だから! ねぇ! 私を殺してよ」
『私は性質上、殺すことは出来ない。何千人、何万人を死なせた国王でも、戦争を指示した大統領でも、私にこの世界に干渉する権利はないの。この世界を改変しようとする者だけが対象なのよ』
「じゃあ、何もしていない私のところに何故来たの?」
『それは……』
 もしかして、コード管理プログラムはインスタンスにマーキング出来るのかもしれない。ブックマークというか、そのマークをたどれば、一瞬で捉えることができるのだ。
 だからさっきから読んだと判れば…… と言っている。それをトリガにしてマークをたどってくるのだ。
 果たしてこのシステムをかわして私を取り出せるのだろうか?
 マークを辿ってジャンプしてくるだけの時間で、私のインスタンスを世界から切り取れないと、私はこの世界にとどまり、その中で殺される。
「さっきマグカップのコードへ干渉したのに気付いたの?」
『そうじゃないわ』
「じゃあ何故」
『読んではいけないの。世界を変えてはいけないの』
「私が読みそうだった、というの?」
『そうなるわね』
 死にたくない、と思った時に、無意識に読みかけていたのかもしない。
 読んでしまえば世界が改変される。
「あなたは世界の改変を止めないの?」
『……止めるわ』
「今あるコードを消せばいいじゃない」
『それは世界の干渉になるの』
 そうか。
 そうだったのか。
 世界に干渉しない範囲では、コード管理プログラムは手が出せないのだ。
 だから水晶のコードを『読め』と言っているのだ。
『読んではだめ』
「安心して。水晶のコードは読まないわ。だから、ここから去って」
 そうと判れば私が救われる方法があるはずだ。
「早く!」

 私はその後、一晩中コンピュータに向かって、少し休むつもりでベッドの上に寝転がると、昼まで寝てしまった。
「きっと、あらかじめ決めた条件で発動するようにプログラムを組めば問題ないはず」
 ぼんやりと天井を見ながら、昨晩考えていたことを口に出した。
「後は、コード管理プログラムを改変出来る権限さえあれば」
 上体を起こすと、突然お腹が減ったことを思い出した。
 何か作って食べるとかは頭になかった。
 パソコンを開いてデリバリーの中から食べたいものを見つけようとしていた。
 そのままパソコンからピザを注文し、そのままニュースやSNSを覗きはじめた。
 小さく自分のことがニュースになっていた。
 ニュースの内容は読まなかった。私の名字がたいとあるに入っていて、女性へのセクハラ、と書いてあった。おそらく昨日のテレビをそのまま記事にした程度の内容だろうが、こうやって興味もなかった人間へとあたかも事実のように広がっていく。
 中島所長は頑張っているのだろうが、広がった後で相手を裁いたところで何の抑制にもならない。
 最終的に裁判でかっても、こっちの名誉は戻らない。勝った時に流れるのは、裁判になったこととどちちらが勝ったかという内容だ。もう一度誤報内容を伝えては本末転倒だからだ。けれど、そういう刺激的な内容なしでは、何の裁判だったか、報道がどんな酷いことをしたのかなど、誰の興味も引かない。
 興味を引くためにはもう一度、誤報内容を伝えることだが、それを伝えると、事実無根のことが真実のように思われてしまう。
 刺激的なことが事実であって欲しい、という偏見が蔓延しているのだ。何も触れずに、ただ忘れ去るのを待つしかない。
 デリバリーのピザが届き、一片を口にすると、それおをコーラで流し込んだ。
「この世界の言語で、あの言語への翻訳プログラムをかけるはず」
 私は例のコードを読んだ瞬間にコード管理プログラムがやってくる仕組みを変えようと思っていた。
 私自信のインスタンスに仕掛けられたトリガーか、例のコードを読むというメソッドに、コード管理プログラムを呼ぶように記述されているのかもしれない。
 とにかくなんらかの方法で読むと、私を排除しにこれるようになっているのだ。

 食事を片付け、トレイを持って立ち上がった。
「あいつに拒否する権利はないの」
「つよ気ね」
 そう言いながらマミは微笑んでいた。
 部屋に戻ると、チアキは起きていた。それどころか、ミハルのダンボールの中から、新品の制服一式を取り出してミハルのベッドの上に並べていた。
「ミハル、これ売ってちょうだい」
「……」
「あんたもすぐにこれが必要になるわけじゃないんでしょ?」
「……」
「面倒くさいわね。私もこれを来て百葉高校へ行くのよ」
「何故?」
「いいから売りなさい。じゃなかったら、同じものを買って返すから譲りなさい」
「同じこと」
「じゃあ良いわね」
 チアキは服を着替え始めた。
「分かっているとは思うけど、制服を着ていれば良いってもんじゃないのよ?」
 そう言って、私はチアキ何か誤解してないか確かめた。
「私をバカだと思ってるの?」
「じゃあなんで制服を」
「後で教えたげる」
 何を隠しているのか得意げに微笑むと、一つ一つ確認しながら服を着替えていった。
 私達もつられて着替え始めた。
 全員が着替え終わると、部屋を出て寮の前の車回しへでた。
 マイクロバスがやってきて、クラスの女子が乗り込み始めた。
「(チアキ、本当に大丈夫なの?)」
 一緒に並んでバスに乗り込んでしまった。
 何人かはチアキに気付いたように振り返った。
 しかし気付いた連中は誰一人、『あんた誰?』とか『不審者が乗ってきた』とは言わなかった。
 私達と馴れ馴れしくはなしているところを見て、別のクラスの人間がやむなく乗ってきた、とかそいう理解をしてしまったのではないかと思う。
「(昨日の女じゃないか)」
 鶴田が慌てた感じに、耳打ちしてきた。
 クラスメイトに聞こえても問題なので、小さい声で返す。
「(学校に行ってみるみたいよ)」
「(誘拐じゃないか)」
「(本人の意思なんだから)」
「(知らねぇぞ)」
 鶴田と話していると佐津間が、苦い顔をしてこちらを見ていた。
 佐津間に向かって『何よっ』と言おうとした時、マミの言葉が頭をよぎった。
 マミが言った通りにしないと、佐津間にツンデレと勘違いされてしまう。
 それが永遠にツンだけなのだとしても、男はそう考えないというのだ。
「……」
 佐津間の態度があまりに腹立たしいから、何か一言いってやりたくなるが、ぐっとこらえた。
「良い席じゃない。男はチビ、|強面(こわもて)、デカ番長って感じてパッとしないけど……」
 鶴田が言った。
「チビだと!」
 佐津間は自分が睨み付けていることを分かっていないようだった。
「?」
 木場田はデカイことを自覚しているようだった。
「なんだデカ番長って?」
「一人以外、わかってるじゃない」
「?」
 佐津間のすっとぼけた顔を見てイラッとした。
「あんたよ」
「?」
「こわもてはあんた」
 チアキは佐津間の目の前に指を立てた。
 よかったこれだけ明確に言えば分かるだろう。
「はあ…… こわもてですか」
 何か突っ込みたくてイライラした。しかし、ツンデレになってしまうから我慢した。
「それよりあんた誰?」
 バスに乗ってここまで、全員が気になっていたけれど誰も突っ込まなかった事実をくちにするなんて。最悪。どんだけ空気読めない男なんだろう。
 私のイライラが頂点に達した。
「佐津間、あんたバカじゃないの?」
「なんでいきなりバカ呼ばわりされるんだよ」
「空気読みなさいっての」
「どんな空気だよ、読んでみろよ」
「口に出したらいけないから、そういう言い方するんでしょ。だからバカ呼ばわりしたのよ」
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『ああ…… あなたの記憶に影響する部分を動作させないようにしてから実行しないと、現実が変わった事を、あなたが認識できないのね』
「どういうこと?」
『あなたにそのものを見せるわ』
 いつものテーブルの上に、見覚えのないソースコードが展開された。
 そして、このインスタンスのコードを改変した。
 クルクルと底面で周りながら、最後は転がっていくような内容だった。
『ほら、ピンクのマグカップをそこに置いて』
 私がマグカップを手にとって、目の前にトン、と置く。すると、突然底面が机に接する為の円を使って周り始め、マグカップは横転し、机を転がり落ちて割れた。
『判った? 書いた通りのコードが実行されたことが?』
「……」
『割れてインスタンスが消えるから、コード管理プログラムもそこまで検査しないでしょう』
「私のマグカップ……」
『どうやら干渉しすぎたみたい。私は逃げるわ。しばらく一人で考えてみて』
 女性の形をとっていた、光の粒が消え去っていった。
 気づくと、床に割れたマグカップが落ちていた。
「これって……」
 私は確かに今、覚醒している。
 寝ているわけじゃないのは確かだ。
 何か不注意で割ったわけじゃない。
 確かにあの女性が書き換えたコードの通り、クルクルと底を使って回り、そして転がって落ちた。
 つまり……
 私はあの女性が示したインスタンスでしかない。
 極端に言えば、私の生死も理論上、書き換え可能なのだ。
 その女性が、私を助ける意味はどこにある?
 考えても答えは出ない。
 マグカップの破片を拾うと、それはもうマグカップではなく、世界シミュレータ内では陶器の破片というような、別のオブジェクトとしての振る舞いになっていることが読み取れる。
「コードが見えるわ……」
 まるでテレビにテロップが流れるように、拾った破片に重なってソースコードが見えた。
 もしかすると、この力が必要なのだろうか。
 この方法で、コード管理プログラムに私が触れれば、もしかして、コード管理プログラムのソースが判ってしまう。それを解析すれば、コード管理プログラムを倒せるんじゃないだろうか。
『そうよ……』
 何か、声が聞こえた気がした。
「そうなの? 私にそれをしろというの?」
 けれど、私がこの世界にいたら、カウンターが回って死んでしまう。
『時間がないの』
 かすれて聞き取れないような小さな声だった。
 そうなのか。
 けれど……
 私には、読めと言われたコードが持つ影響が判っていた。
 読めば、世界が変わってしまう。
 そうすれば私が世界から取り出され、私から病気が取り除かれる。ただ、その代償として世界を変えていいのか、と言われると、あまりに自分勝手な気がした。
 だとすれば、自分はこのまま死ぬしかない。
 双方が上手く収まる方法はないのだろうか。
 私がこの病気で死なない。
 世界も変わらない。
 双方幸せだ。
『それは無理なの』
 姿の見えない女性から、絶望的な言葉が発せられる。
 コード管理プログラムさえ止めてしまえば……
『察知される』
 なんだろう。彼女には何か見えているのだろうか。
『それは』
「!」
 おぼろげに光る煙が渦を巻き、目の前で形になった。
 女性の姿だった。
 胸の宝石がないのと、着ている服が違うくらい。
 姿形はいっしょだった。
「あなた、だれ?」
『読むな、と言ったはず』
 もしかすると、これがコード管理プログラムだったのか?
『あなたがこの世界から切り離されて、生きていける保証はないのよ』
「私を襲ったのもあなた?」
『……』
「いっそ殺してください」
『……』

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