その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2016年12月

明日から、年末・年始の一週間をお休みさせていただこうと考えています。
具体的には12月28日〜1月3日を休み、新年は4日から掲載(4日は水曜なんでTTBですね)とさせていただきます。
今年は、『TTB』が終わり、2になり、『水晶のコード』が始まり、終わりました。
そんでもって『非科学……』が始まりましたね。

『ツインテールは……』は元々、虎の刑事の話をずっと考えていたんですけどね。
自分を殺しかけた犯人?(組織?)への復讐もので。(まだ考えているので、いつか書くかも知れません)

『ツインテールは……2』は、1であまりに色々語れていなかったので絶対やらなきゃと。

『水晶のコード』ですが、もう少し派手な異能バトルへ持っていけばよかったのかも??? 地味過ぎました。主人公とかの年齢を書いていない(書いたっけ??? 自分でも忘れてる)んですが、高い年齢な感じがしますか? どうですか? 

そんでもって途中まで全然違う話を書こうと思っていたのですが、こっちになってしまった、って感じの『非科学……』です。サムスンのスマフォが航空機に持ち込み禁止になったところをヒントに、もし、超能力者がいたら、その人は航空機乗れないよね、とか思って色々考えている内、超能力ものを書こうと思いました。
本当はこれの代わりに、人工知能少女と男の人の恋愛? 話を書こうとしていたんですね。ファブレス企業とかもあるので、人工知能の発注で色んな製品が出来たりするんじゃないかと…… それで大金持ちの人工知能少女とチャットで知り合い…… 的な。まぁ、もっと発想が熟成されたら書こうかな。


今年もおつきあいいただき、ありがとうございました。

よろしくお願いいたします。


「警察のヘリだからいいんじゃない? それじゃね」
 亜夢は立ち上がって両手を小さく振った。
 食堂を小走りに抜けていく時に、ざわざわと声がする。
「あれが乱橋亜夢」
「亜夢よ。バツとして警察に力貸すことになったっていう」
「乱橋亜夢」
 亜夢の頭の中には、そういった音声以上にさまざまな悪口が、テレパシーで送られていた。
 それでも表情には一切出さず、逆に少し笑みがこぼれるくらいだった。
「喧嘩の女王。乱橋亜夢。さすが」
「ホラ見て、亜夢のやつ、笑ってるよ……」
 食堂を抜けると、急に生徒の数が減った。
 走るのをやめ、ゆっくりと歩き始めると、表情から笑みも消えた。
 廊下の先に、黒いコートの男が立っていた。
「君が乱橋亜夢」
 うなずいて、そのまま歩いて近づく。
「乱橋亜夢です。よろしくお願いします」
「悪いけど今、君の能力を計測させてもらった」
 コートの男の後ろに、ノートパソコンを持った男が立っていた。
 ノートパソコンのバックパネルには、色んなシールが乱雑に貼ってあった。
 どれもアニメのような女の子が描かれている。
 小柄な男前に出てきて、コートの男の前に立ち、パソコンの画面を見せた。
「ほお……」
 コートの男は、パソコンを手で押しのけると、亜夢に向かって右手を出した。
「加山翔だ。こっちは中谷三郎。ちょっとの間だが、よろしく頼む」
 亜夢も右手を出して握手をした。
「!」
 亜夢の表情が強張ったように見える。
 加山が手を離すと、亜夢は右手を左手で抱えるように、そっと胸に戻した。
 小柄な男は、パソコンを閉じて脇に挟むと右手を出した。
「亜夢ちゃん、よろしく」
 声が裏返っていたせいか、亜夢が怖いものをみるような目で中谷を見て、恐る恐る手を出す。
「きゃっ!」
 右手で握手した瞬間、亜夢の手を中谷が左手で包み込んできたのだ。
 ゴンっ、と音がして、中谷の頭に加山の拳が振り下ろされた。
「そういうのはヤメロ」
 手を離されると、亜夢はパッと引っ込めた。
「すまんな。さあ、それじゃ、行こうか」
「まだ、どんなことをするのか……」
「ここでは説明出来ない」
 三人は校舎の外に出ると、ヘリのプロペラが再び回り始めた。
 落ち着いていた校庭に再び砂埃が舞い上がった。
 しかし、ヘリに近づく三人にはまるで見えないトンネルが出来たように砂が近づかない。
「おいっ! これ君のしわざか!」
 ヘリの出す騒音のなか、加山が大声を出す。
 亜夢はうなずく。
「大したもんだ……」
 三人がヘリに乗り込むなり、パイロットが怒鳴った。
「ここ、非科学的潜在力女子学園じゃないですか!」
「言って無かったか?」
「通常、そういう人物を乗せる場合は国の許可が」
「機にするな。この娘は悪さしない」
 亜夢の方を向き、同意を求めた。
 亜夢はうなずく。
「ほらみろ」
「あの|娘(こ)ゴーグル、ゴーグル付けといてください」
 パイロットは何か慌てて座席の下の箱を指さす。
 窮屈な格好で加山がコートを脱ぎながら、下にある箱を取り出す。
「すまんな、飛行に影響が出ては困る。これを付けていてくれ」
 箱から取り出されたのは、前方が不透明になっているゴーグルだった。
「VRゴーグルだ」
「?」
 亜夢はキョとんとした表示で、シートに座ると、頭に太いバンドでゴーグルを付けられた。
 加山がゴーグルのスイッチを入れる。
「わっ!」
 目の前の闇が一転して、別世界が広がった。
 南の島の海。無限にくりかえす穏やかな世界。
 右を向けば、右側の映像が、上を向けば空。まるでそこにいるかのような錯覚に陥る。
 体がシートベルトで抑えられていなければ、もっとリアルに思えただろう。
 誰もいない空間に向かって、亜夢は問いかける。
「加山さん…… これなんですか?」
「超能力者を護送する時につける規則になっているんだ」
 中谷も同じようなゴーグルを取り出すと、亜夢の足元にあるボックスと自身のパソコンを繋いだ。

「!」
 ドアが閉まり始めるタイミングで私はドアの外にでた。
 しかし、つないでいた手が引っ張られる。
「痛い!」
 私は一瞬、手を離した。
「マミっ?」
 横にマミはいない。振り返るとドアは閉まっている。
「マミっ!」
 マミの後ろに、赤黒のカチューシャをした女性が立っている。
「マミ!」
 叫んでいるマミの声が、ドア越しに小さく聞こえる。
「助けて!」
 ホーム側のドアが邪魔して、車両のドアに手を掛けられない。
 車両は無情にも走り出す。
「助けて!」
 車両を追いかけてホームを走るが、どうすることも出来ない。
 飛ぶ、飛んで追いかけるしかない。
 幸い、こっちから先は人口も少ないし、鳥が飛ばない夜が始まる。
 夜空に人が飛んでいても気付かれないだろう。
 マミ…… どうして追い付いたかなんて聞かないで。
 私は駅の監視カメラを確認し、ホームドアの反対側へ飛び降りた。
 瞬間、翼を広げて、線路スレスレから飛び上がった。
 高く飛び上がると、すぐに列車を見つけた。問題は侵入方法だ。
 列車が停止する屋根について、駅に着くまで待つか…… ガラスを破って突入するか。
 どちらにせよ、マミに疑われるだろう。
『どうやって追いつたの?』
 なんて答える? 鳥がやってきて、連れて行ってやる、と話しかけられたとでも言うのか。
 新交通の屋根に取り付くと、足を変身させ、屋根に引っ掛け、頭を下にして車両内部を覗いた。
 どうやら、後ろの車両には誰もいないようだった。
 私は屋根を歩いて前の車両に移った。
 また屋根に足をかけ、頭を下げて中を覗く。
 マミはシートに横になって寝ている。
 髪の長い女は……
 腕に力を入れ、背筋を使って海老反る。
「気付かれた!」
 髪の長い女は持っていた棒状の武器で、覗いていた私の顔を突いてきた。
 間一髪で避けたには避けたが、入ろうと思っていた窓に気付かれてしまった。
 勢いで蹴破っても中には入れまい。
 バリンっ、と窓が割れる音がした。
 反対側だ。
 もしかして、そっちから屋根に登ってくる気か。
 私は素早く音がした方の窓の上に走る。
「おかしい……」
 後ろをみると、棒の先端がチラリと動いた。
 こっちの窓を割っておいて、そっちの窓から上に上がるつもりだ。
 私は反対側へ動いて、チラリと見えている武器をつかもうとした。
 つかもうとした瞬間、フッと水平になったかと思うと、ものすごい勢いで棒が戻ってきた。
 ガツン、と音がして、屋根に叩きつけられた。
 避けるのが精一杯で、尻もちをついてしまった。
 バタバタ、とまたその棒が動くと、もう一度それをつかもうと思って手を伸ばした。
「よし、掴んだ!」
 と思った瞬間、殺気がして、手を離した。
 やっぱりものすごい勢いで棒は水平になった。
 あのまま持っていたら、振り落とされていた……
 翼を広げて、車両と平行に飛んで、入る隙を探すか?
 もしマミにその姿を見られたら?
 屋根の上で悩んでいると、列車が減速を始める。
「あの駅で……」
 屋根から攻略するのではなく、駅に下りて、横から攻略することにした。
 先頭車両がホームに掛かるかかからないかのあたりで、列車から駅に飛び降りる。
 体勢を整えて、身構えていると列車の中の女が私を見つけて、ニヤリと笑った。
 列車が完全に止まって、ホームドアが開く。
 棒状の武器は床に付きたてたまま、車両の外に出てくる様子はない。
「違う!」
 列車のドアが開き始めると、何故女が攻めてこなかったのかが分かった。
「〈転送者〉が出てくるなんて……」
 さっきの駅寄り、ずっと百葉に近づいている。つまり、〈鳥の巣〉に近づいている。
 〈扉〉の支配者の力が強く働くことが出来るという訳だ。
 前の車両のドアから一体、後ろの車両からも一体、首無のE体が車両のドアから、ゆっくりとホームへ出てきた。
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「もうっ!」
「ごめん」
「多分、こういうのって監視カメラとか動いているでしょ」
「?」
 私は何の話かわからなかったがうなずいた。
「さっきのも録画されてるかも」
「……」
「だからこういうところではやらないでね」
「……」
 じゃあ…… 別のところならやっていいのか、な?
 思ったけれども言わなかった。
 無人の新交通の中で、二人は黙ってしまった。
 未だにこの沈黙を突破する話題に苦労する。
 自分がもっと頑張らないとマミとの距離が近くならない、それは分かっているのだけれど。
 駅に止まると、珍しく人が乗ってきた。
「ちょっと待って……」
「どうしたの?」
「向こうの車両に乗ってきた人、見た?」
「ちらっと見たけど、長い髪の綺麗な人だった」
「えっ? いやそうじゃなくて、髪に」
 瞬間、顔を見合わせ、
『カチューシャをしてた!』
 二人で声を揃えてしまった。
「(き、聞こえるよ)」
 マミは自分で言って、自分で口を手で抑えた。
「(しかも赤黒だった……)」
「確かめよう」
「(刺激しない方が)」
 マミは立ち上がろうとする私の腕を引っ張った。
「(警戒はしよ。けどこっちから行くのはよそうよ)」
「……」
 さっきの病院のように、マミを隔離出来れば変身して戦えるが……
 ここで争いになったら、マミに自分の姿を見られてしまう。
「(大丈夫、〈転送者〉じゃないから」
 夕日が差し込み車内を赤くしている。
 マミに姿を見られないため、マミを守るためにベストな場所を探す。
 やっぱり一番後ろ…… 先頭車両でもいいのだが、車両の端にある運転席部分に隠れてもらうしかない。車両自体は自動運転なのだが、手動で運転する際の運転席付近はすこし扉があって隠れることが出来るのだ。
「まだ、駅あったっけ?」
「マミ、どうしたの? 急に」
「次の駅で降りよう。じゃなきゃ、あっちを降ろしちゃおう」
「確かに、同じ車両に乗ってなければトラブルになることは無いだろうけど」
「普通の人が、ノーマルなカチューシャを付けてるだけかもしれないけど、不安だよ」
 確かにこうやって視界の端に先頭車両側をチラチラ見ていたら落ち着かないし、いざということになったら身バレずにマミを守れるか不安だ。
「ギリギリでパッと降りようか?」
「あっちも降りるようだったらどうしよう」
 駅、駅で戦いになった場合……
 高架を走る新交通は、おそらくどこの駅も同じような作りだ。だから、駅には改札へ降りる階段があるはず。マミにはそこに隠れていてもらえば、戦える。
「とにかく、降りよう。降りればなんとかなる」
 私はそう言った。
「(声が大きいよ、聞かれたらアウトだよ)」
「(そうだった)」
 大きくカーブを曲がってから、車両が減速する。
 曲がった時に、一瞬先頭車両の女性と目が合う。
 車両がまっすぐになったら、駅が近づいてくる。
「(ゆっくり立って、ドアのところで待って)」
 先頭車両の動きを見ながら、そっと立ち上がる。
「(ドアが閉まるころに一緒に飛び出すよ)」
 マミはうなずく。
 先頭車両の女性に動きはない。
「(気づいてはいないみたい)」
 マミの手を握る。
 車両が完全に停止し、目の前のドアが開く。
 ホームには誰もない。
 先頭車両の女性にも動きはない。
 駅のアナウンスが流れる。
「(行くよ?)」
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 四人は順番に食事を終えると、ウォーターサーバーから水をくんで戻ってくる。
「亜夢。皆食べ終わったし、そろそろいいんじゃない?」
「……アキナ、そんなハードル上げないでよ」
「ハードル上げてるわけじゃないから、早く話してよ」
 亜夢は顔を突き出して、集まるように仕草した。
「大きい声じゃ恥ずかしい」
 余計にハードルが上がる。
「今は違うんだけど。昔はね、男の子みたいだったのよ」
「今もそれなりに喧嘩っ早くて男らしいが」
「で、で、それでね。男の子みたいにオナラをプープー平気でしてたの」
 奈々は納得した顔をした。
「なんか一つ、華麗にスルーされたな」
「だから食べてる時に言わなかったのね」
 うなずきながら奈々がそう言った。
「女だってオナラぐらいする」
「そうなんだけど、小学校の高学年になってすごく恥ずかしく感じたのね」
「これ超能力、の話しだよね? まさかオナラを我慢する能力??」
 奈々が笑いだした。
「本村さんの今の、オナラを我慢する能力、イコール腸の能力って意味で掛けてるの?」
「あっ、そういうことなのか、亜夢」
「違う違う……」
「けど、今のままじゃ、オナラと超能力の目覚めって何もつながらないし」
 亜夢は困った表情になった。
「でね。恥ずかしかったから、なんとか臭わない方法はないかって考えたの」
「えっ……」
「じゃあ、それこそ『腸能力』ってことじゃん」
 亜夢は手を振って否定した。
「お腹の中をコントロールするんじゃなくて、出た後の空気をコントロールすることにしたの」
「マジ?」
 亜夢は鼻をつまんで手を振ってみせた。
「オナラって、結局空気中に分散するから臭うわけでしょう。分散させないまま、どこかに持っていってしまえば、自分でしたことにはならないじゃん」
 アキナが亜夢の顔を指さした。
「えっ、じゃ、自分でしたオナラの空気を他人の方へ押しやった…… ってこと?」
 亜夢は首を振りかけたが、最終的にはうなずいた。
「酷くね、それ酷くね?」
「亜夢ちゃんのオナラが凄く臭かったら傷ついただろうね」
「臭い、臭くないは関係なくね? してないひとの周辺に自分の屁の空気を流したんだよ。濡れ衣きせたんだよ」
 奈々がクスクスと笑った。
「オナラだからいいんじゃない?」
「私なら名誉毀損で訴えるよ」
「かなり家で練習したのよ」
 そこで本村が笑い始めた。
「そんなにしょっちゅうオナラでたの?」
「ちがうよ。さすがにそんな出ないもん。芳香剤とか、匂いの出るもの使ったの」
「超能力を使うキッカケがオナラ送風だったなんて」
「それに、今はちゃんとトイレ行ってするから。今はしてないから。信用して」
 奈々が急に立ち上がった。
「そうか! 今日の霧!」
 亜夢はうなずく。
「あれの原点なのね」
「そうなるわね。分子を擦りわせて静電気を発生させるのも、何度も練習したわ」
「けど、どうやって雷をコントロールするの?」
「切り裂きやすいように空気を動かして雷の道もつくるの」
「え〜 なんか凄いね」
 本村が頬杖をついてぼやくように言う。
「亜夢って、いきなり気体を動かしたのね。なんかレベルの違いを感じるわ」
「練習すれば出来るよ」
「そうそう。亜夢。今日も午後、練習しようぜ」
 亜夢は人差し指でバツ印を作った。
「知っているでしょ? 今日から数日はダメなんだよ…… 」
「えっ、今日からなの?」
 本村もアキナも驚いた声をだした。
 すると、構内放送が始まるチャイムが鳴る。
『全校生徒、教員のみなさん。至急校舎内へお戻りください。繰り返します。全校生徒、教員のみなさんは至急校舎内へお戻りください』
「なに? なにがあるの?」
「ヘリが来たのよ」
『乱橋亜夢さん、乱橋亜夢さん、至急職員室へ起こしください。繰り返します。乱橋亜夢さん、至急職員へ起こしください』
「ヘリって…… 超能力者は航空機に乗せられないんじゃ?」

 山咲が逃げていったあの非常階段を使って降りようと考えた。
 ナースステーションの前を走り過ぎる。
「!」
 何か様子が変だ。廊下もそうだが、ナースステーションも灯りがついてる。
「君たち! 走らないで、危ないから」
 君たち、というのは私とマミのことだ。
 もしかして、看護師は全員起き上がって、通常の行動に戻っているのだろうか?
 そうだ。床に落ちていた、割れたカチューシャは?
 私は立ち止まって廊下に目を配る。
「どうしたのキミコ」
「なんか、普通に戻ってる」
 ナースステーションから看護師がボードを持ってこちらに寄ってくる。
「木更津さんよね? 退院の前にここにサインをお願い」
 マミはうなずくと、書面にサインをした。
「後はしたで支払いしていって」
 私とマミは顔を見合わせた。
「どうなってるんだろう」
「?」
 看護師は不思議そうにこちらの顔を見た。
「いえ、なんでもないです」
 これなら非常階段を使って降りる必要はない。
 私達は顔を見合わせ、笑った。
 これなら普通に着替えて、普通に堂々と病院から出ていく事ができる。
 準備が済むと、私たちは入口のオートドアから外に出た。
 マミが〈転送者〉にやられた日と同じように、二人は百葉へ行く新交通の駅に向かった。
 駅に入ると、静かに無人運転で二両編成の列車がやってくる。
 最初の何駅かは立っていたが、例によって乗っている人が私とマミだけになってしまった。
「怖くない?」
 私は〈転送者〉に襲われたときのことを思い出していた。
「あっ…… あの時と同じ?」
 私は慌てて口にてをやった。
「大丈夫だよ。気にしてないから」
 マミは私に近づくように座り直した。
「怖くない訳じゃないけど」
「私が…… 私が守るから」
 私も少しマミに寄って座り直した。
「お願いね」
 肩にほおをのせて、上目遣いにこっちを見てくる。
 さ、誘っているのか……
『魔除けのチューして』
『えっ?』
 マミが目を閉じて、口をとんがらせる。
『意地悪ぅ』
『だから、それって何?』
『なんでもいいでしょ? チューしてよ、チュー』
 頭を肩に乗せてきているのと同時に、こっちの腕をぎゅっと胸に押し当てるから、感触でぼーっとしてくる。
『ちゅ、チュー?』
 私も目をつむって唇を近づける。
 唇が触れたか、と思った瞬間。
『キミコがするのに、キミコも目をつむってるの?』
 触れたのはマミの指だった。
『えっ、マミがキスしてって言うから』
『キミコ、バッチリ目を開いててよ』
 マミは頭を上げて私の正面に向かっていた。
『!』
 鼻が当たらないよう、すこし顔を傾けて、マミがキスしてきた。
 お互い、目を開けたまま。
 お互いの唇を軽く噛むように触れ合った後、マミが舌を絡めてきた。
 キスは食べ物じゃないけど、味わったことのない食感だった。
 私の興奮は頂点に向かって急上昇を始めた。
 片腕をマミの背中に回し、ギュッと体を引き寄せる。
 もう一方の手は…… 手は……
「キミコ!」
「へっ?」
 ペチッと手を叩かれた。
「この手は?」
 柔らかくて優しい曲線の上に置かれた自分の手を確認する。
「あっ、ご、ゴメン」
 いつの間にか妄想全開になっていた。
 慌てて手を引く…… とみせかけて。
「あっ…… ちょっと!」
 ちゃんと意識をもって感触を味わっておきたかった。
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「知らない方がいいよ」
「こいつはまだ信用できない」
「アキナ!」
 亜夢は両方の手を小さく振った。
「そういう意味じゃないから、そんなこと知ってもメリットないし」
「……違う」
 奈々がうつむきながら、小さい声で言う。
「たぶん、アキナの言うことが正しいんだよ。信用出来ないんだ」
「奈々、違うよ」
「そうじゃないの。さっきの先生の話と同じ。私も無自覚なの。なんの超能力があるかわからない。だから誰も私を信用出来ないんだよ。私って超能力らしいことは何も出来ないのに、都会では眠れなくなって、測定器には値がでちゃう……」
 支離滅裂なことを話始めている、といった雰囲気だった。
 アキナも本村も亜夢の方を見つめる。
「ある日突然、私は眠れなくなった。医者に通う内、超能力計測器を持ち出して私をテストし始めたわ。けどそれが何のことか分からなかった。ネットで調べると、都心には超能力者を混乱させる為電波が出ているらしい。超能力を持った人間が要所に入り込まないようにする為みたいね。私も最初は何も記録されてなかったのに、何度か計測しているうちに段々値が大きくなってきたの……」
 奈々は机に向かって話続ける。
「ここに来ることが決まる前、医者から私の超能力の計測値を見せられた親は泣いた。一緒に暮らせなくなることを知っていたのね。それから何日もしないうち、私はここに入れられたのよ!」
 亜夢は奈々の席に近づいて、そっと抱きしめる。
「私達は孤独じゃないわ」
 奈々の髪の上に涙が落ちた。
「だから大丈夫」
 奈々は亜夢にしがみつくようにして、泣き始めた。

 その次の時間は、亜夢も奈々も目を真っ赤にしながら授業を受けた。
 先生も気づいたようだが、何もきかなかった。
 昼休みになって、亜夢と奈々とアキナ、本村の四人で学生食堂で食事をした。
 各々がトレイを持って窓際の席へ座った。
 奈々は外が見える側、亜夢は奈々の正面に座っている。
「亜夢、あなたはどうやってここに来たの?」
「私も奈々と同じ。不眠症になって…… けど、その時には簡単がことが出来るようになってた」
 アキナも本村を興味をもったように食事の手を止めた。
「何、簡単なことって?」
「他人がどうやって超能力に気付いたか興味あるな」
 急に亜夢は笑い始めた。
「どうしたの?」
 亜夢の笑いは止まらなくなってきた。
「……ごめんごめん。ちょっと私のはここじゃ話せない」
「亜夢、ずるいよ」
「食べ終わったら話す。ふふっ…… だからアキナ話して」
「私も不眠症になって、超能力の測定をしてって。流れは同じさ。列車にも、飛行機にも乗れない。こんな田舎街に車で来たんだよ。二十四時間、車の中だよ」
「ああ、私も車だった車だった。なんでだろうね?」
「それは知ってる。発火する可能性があるバッテリーとかって航空便でやらないでしょ? そんな理由らしいよ。超能力で列車や飛行機が落ちたら困るってことみたい」
 亜夢は威張ったようにそう言った。
「で、私がどんなことで超能力に気付いたかっていうと」
「アキナのことだから、喧嘩とか?」
「そんなイメージしかないのか」
「いや…… そういうわけじゃ」
「風呂上がりに、髪をふきながら、とか、おやつ食べならがら、とかのタイミングでマンガのページをめくれたんだよね」
「親が私のやってることにビックリして、逆にこっちがびっくりした」
 亜夢も本村も笑ってうなずいた。
「あるある」
「それは、どういうものを動かしてページをめくってたんですか?」
「多分、風。どうやってページとページの隙間に風を入れれたのかは分からないけど」
 亜夢は食事が終わったようで『ごちそうさま』と小さい声で言った。
「奈々、超能力は小さくて軽いものを動かす方が簡単なのよ」
 亜夢はトレイを片付けに行った。
「物理的な力と一緒、ってことですか?」
 アキナと本村がうなずく。
「そうか、ページを押さえていたのは風じゃないんだよな。あれはなんだろう? えっとね、ページとページのザラザラを合わせて絡ませてやる感じ」
 アキナはそう言う。
 本村は少し考えてから答える。
「それって圧着しちゃってるんじゃない」
「あっちゃく? ってなに? 確かに、手でめくろうとした時にページが離れなくて焦ったことがある」

「マミ、良かった。さ、早く帰ろう」
 うわ掛けの端を持って私はマミの顔を見ようとした。
「んっ!」
 同時に、マミは急に上体を起こしてきた。
「えっ…… なに?」
 抱きついてきたマミに、抵抗することは出来なかった。
「!」
 目の端にマミの頭にカチューシャが見えた。
 素早くマミの頭に掌底を入れる。
 パキッと乾いた音がすると同時に、自分の頭に何か違和感があった。
「……まさかっ」
 マミがゆっくりとベッドに倒れていくと、私は後ろを振り返った。
「キミコ、ほら、命令に従いなさい」
 後ろの病室から、最後の看護師が現れた。
「注意…… してたのに……」
「私やお友達のカチューシャに気を取られて、頭の防御がおろそかだったわね」
「〈扉〉の支配者の為に働きなさい」
 何か、ものすごい量の言語メッセージが頭に入り込んでくる。
 耳で聞いた声は、意味が取れないくらいだった。
 目の前の風景に、様々な言語、様々な文字、様々な音が重なっていく。
 私は後ずさりした。
「接続が半端だわ……」
 カチューシャを付けた看護師が、走り始め、一気に間合いを詰めてくる。
「キミコっ!」
「ここのつっ!」
 私はすれ違いざまに、看護師のカチューシャを蹴り割った。
 マミに見られた…… かもしれない。
 一瞬の跳躍。
 いや、その前に。
 マミが目を覚まし、私のカチューシャを取ってくれたから助かった。
 カチューシャを防衛する機能が働くほど、きっちり装着していなかったのが幸いしたようだ。
 そして、片足を変身させ、跳躍。
 看護師の頭をすれ違いざまに、蹴って、カチューシャを割ったのだ。
 それとも、私背中で足先の爪が見られてなければ良いのだが。
「キミコっ、大丈夫っ!」
「ちょっと足が痛いけど、大丈夫だよ」
 私は変身が解けていることを確認し、ゆっくりと立ち上がった。
 振り向くと、マミは上体を起こしてこっちを見ている。
「何か、見た?」
「?」
「それより、ほら、これ!」
 マミは私の頭から取り去った…… そのちょっと前にマミが私につけかけたカチューシャを持っていた。
「調べてもらおう」
「そうだよ。あの刑事さんに渡して」
 マミは立ち上がろうとして、床に看護師が倒れているのに気付いた。
「この人、ベッドに載せておこう」
 私とマミはうつ伏せに倒れている看護師をマミが寝ていたベッドに移した。
「早くここを出よう」
 廊下の灯りを付けた誰かがいることは間違いない。
 それがカチューシャを付けた看護師だったら…… 逃げなければならない。
 普通の看護師だったら? これだけ倒れた看護師をみて、私達のせいだと思うに違いない。
 どちらにせよ、早くここを離れた方が良さそうだった。
「まだ着替えてないよ」
「どこかのトイレで着替えよう。ここは危険なの」
「そ…… そうだね」
 マミの手を引いて病室のドアに行く。
 顔だけを外にだして、様子をみる。
 床に寝ているはずの看護師がいない。
「えっ、どういうこと?」
「何があったの」
 背中越しにマミも廊下の様子をみる。
「看護師さんがいない……」
「仕事してるんじゃないの?」
「違うの、さっきみたいに看護師全員がカチューシャを付けられていて……」
「全員が?」
 ともかく、このままではまずい。早く逃げ出さないと。
 正面に向き合い、マミの肩に手を置いた。
「行こう。下のフロアは普通だったから、せめてそこまで」
 マミはうなずく。
 私が走りだすと、マミもついてくる。
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 パキッとカチューシャが左右に落ちると同時に、看護師も目を閉じて、膝から崩れ落ちる。
 足の変身を解いて、慌てて抱きとめ、ゆっくりと床に寝かす。
「六つ!? んっ……」
 倒れそうだった看護師を寝かす間に後ろを取られた。
 もう人数が少ないせいか、素早いし狡猾になっている。
 最初に首を閉められた看護師より体格が小さいためか、身体が持ち上がることはなかったが、細い腕からは信じられないようなパワーが出て、首をしめている腕を引き剥がせない。
 私が身体を振ると、釣られてよろけるが、首だけはしっかりホールドされている。
「!」
 何度か身体をひねっていると、通路の角に誰かいるのが見えた。
 背中に力を込める。
 翼が飛び出し、看護師のみぞおちに入る。
「ぐへぇ……」
 首を閉めていた腕が解けると、私はそこへ走った。
「待ちなさい!」
 非常階段への扉を開け、降りていく男の影が見えた。
「あいつ……」
 砂倉署の山咲、いや山咲さんの姿そっくりの誰かだ。間違いない。
 非常階段の扉に駆け寄る。
「行かせない」
 看護師に前を塞がれた。
「あいつは誰なの?」
「こっちには行かせない」
 手を広げられ、これ以上先に行くのは無理だった。
 山咲の姿をした奴が仕組んだことなのか?
 私は鬼塚刑事を思った。
 後ろから、さっき首を締めてきた看護師が近づいてくる。
 この状態で二人同時にヤれるかわからないが、一人倒してから最後の一人を倒す方が難しいだろう。
 意を決して非常階段へ突っ込んだ。
「行かせない」
 右足を回しながら正面の看護師の首を狙う。
 これはフェイント!
 看護師はしゃがんでかわそうとした。狙いどおり!
「そこっ!」
 かかとを落として、カチューシャを割る。
 その足を鳥の足にして、看護師の頭を掴み翼を使って後方へ回転する。
 いたっ!
 パキッと割れて、後ろから近づいてきた看護師のカチューシャも割れて落ちた。
 非常階段への扉に持たれながらゆっくり倒れていくのをみて、後ろにいた看護師の背中をささえて横たえた。
「これで八つ…… 終わり、よね」
 自分に言い聞かせるように言った。
 これだけ動きまわったのだ、フロアの看護師は全員引き出せたはず。
 もし部屋に隠れていたら……
 慎重に廊下を歩く。
 さっき倒した看護師が床に寝ている。
 マミの病室の部屋番号が見えた。
 その時……
 後ろでパチっと音がして、廊下の灯りがついた。
 とっさに左右を見渡して壁に背中をあずける。
 まだ誰かいるのだ。
 ……違う、こんなことをしている場合じゃない。
「マミっ!」
 私は目の前の病室のドアを開けた。
 病室内は明るかった。
 手前の二つのベッド…… 空いているようでだれもいない。
 奥のベッドは二つともグルリとカーテンが囲っていているにせよ誰だかわからない。
 確か廊下の書いてあった番号は左…… だったはず。
 私は左のベッドのカーテンを開けた。
「マ…… ミ…… 」
 上掛けを頭まで被って、寝ている。
 私は少し疑った。
 もしかしたら、これはマミじゃない…… かもしれない。
 最後の看護師が、ここで逆転を狙っているとしたら。
 一点を見つめないようにベッド全体に気を配る。
 ベッドの横にある椅子をそっと足でどかし、マミの頭の方へ近づく。
「マミ? 起きて。迎えにきたよ?」
 何も反応がない。
 いや、うわ掛けが少し動いた。
「……キミコ?」
 くぐもった声だが、マミの声だった。
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 奈々は指を立てた。
「そうか、手を使った方がより力を使わない、ってこと?」
「まあ、まあ、そういうこと。上手く使えない力だけで何かしようとしてるより、目の前のホウキ使って殴った方が早いし確実なわけ。まあ、三つめの手としては使うかもね」
「三つめの手?」
「両手で相手を押さえつけてから、黒板消しを顔に飛ばすとか。そういうことよ」
 奈々は手の平をポンと叩いた。
「なるほど」
 奈々は亜夢の方を指差して言った。
「で、かえでちゃん。さっきの亜夢がやったのは?」
「あ、あれは……」
 ガタガタっと席を正す音がした。
 次の教科の先生が入ってきたのだ。
 奈々はそのまま席に戻った。

 授業が終わると、奈々の席にアキナがやってきた。
「あんた奈々だよね」
 小さなウエーブの髪が胸の辺りまで伸びている。黒髪というより、少し栗色に近い。足首まで隠れるかという長いスカートをはいている。
 奈々とは対照的な服装だ。
「うん。そうだけど」
「アンたのせいでな!」
 奈々は制服の襟をつかまれた。
 アキナがそのまま引っ張り上げるから、奈々も立ち上がる。
「私のせい?」
「止めなさい」
 教室の奥で亜夢がそう言って立ち上がる。
「けど、こいつのせいで」
「なに、私のせいでなにがあったの?」
 奈々には何がどうなっているのか分からない。
「先生達が、亜夢を連れてくって」
「えっ? 亜夢が捕まっちゃうの?」
「奈々、違うよ、警察の協力をしろってことみたいなの」
「何がなんだか分からないよ」
「アキナ、とにかくその手を離しなさい」
 パッと離すと、奈々は糸が切れたように席に座った。
 本村が後ろを振り向くと、説明を始めた。
「うんとね。今回の痴漢騒ぎがあったでしょ?」
 奈々はうなずいた。
「そんでもって痴漢やろうを亜夢がぶっ倒したろ?」
 奈々はアキナの方にうなずいた。
「警察が事情を話している時、計測器使ってたの覚えてる?」
 奈々は後ろからやってきた亜夢の方へうなずいた。
「亜夢が警察に目をつけられちまったんだよ」
「痴漢の容疑者を倒しちゃったでしょ? それで警察に脅されたとかって先生達が…… 」
「ほら、お前のせいじゃないか」
「アキナ。もうやめて」
 そう言って亜夢はアキナの腕が動かないように後ろから捕まえる。
 アキナをちらっとみて、本村が言った。
「これが原因で加代と喧嘩になったのよ」
「警察に脅されたって、先生が言ったんですか?」
「読めちゃうっていうか、分かる|娘(こ)がいるのよ」
「やっぱりそれも超能力ですか?」
 本村はうなずいた。
「そんな他人の考えていることが分かるなんて……」
「違うのよ。説明するけど」
 本村の説明によると、他人の考えていることが分かるのではない。
 先生からのテレパスなのだという。
 奈々は不思議そうな顔をして言う。
「この学園の先生は超能力がない、ことが条件なんじゃないですか?」
「そうよ。生徒は超能力があるから、それと共鳴したり、能力育成しないように、教師は一切超能力がないはずなのよ」
「さっき警察が持ってたような測定器にでないような力さ」
「すごく小さいってこと?」
「そう。だから、無自覚なんだ…… あっ、テメエ、これ先生に気づかれたらまずいんだぜ。分かってんのか?」
 またアキナが奈々の胸ぐらをつかもうとする。
「そういうのが聞こえちゃう人がいるの」
「誰?」
「それは……」
 本村が話しかけたところを、亜夢の手がふさいだ。

 いまこの瞬間なら変身しても問題ないが……
「狭すぎるっ!」
 近寄ってきた一人の頭を素早く叩いたが、割れもしなかった。
 幸いカチューシャをした看護師軍団は、動きが遅かった。
 二度目に叩いた時は、クリーンヒットし、『パキッ』と乾いた音が響いた。
「二人っ!」
 後何人いるか数えているわけではないが、対処が終わった数を叫んで自分を鼓舞していた。
「キミコ」
 振り向くと、その看護師はさっと後ろに下がった。
「?」
 どうしてなのか、一瞬考えていると、後ろに気配を感じた。
 振り返ると、背後にいた看護師がまさに襲ってくるところだった。
 突いてくる両手を抑えると、全力で足を振り上げて、カチューシャのポイントを叩く。
「パキッ!」
 面白いほど良く当たる。
 まるで自分が強くなったような錯覚に陥る。
 カチューシャが割れると、看護師は、糸が切れた操り人形のように床に崩れ落ちる。
「三人」
「キミコっ!」
 周りの看護師は猫背ではなくなってきている。
 それにさっきより動作が機敏だ。
 『キミコ』と叫ぶ役も、どこから言ったのか分からないように、隠れた上に壁とかに音を響かせているようだ。
「何…… どうなっているの?」
 もしかすると……
 人数が減ってくると、コントロール能力が上がるのかもしれない。
 同時に二人割れば、スピードアップを体感出来るかもしれない。
 看護師の攻撃を避けながら、両手で二人の頭を叩けるタイミングを狙った。
「キミっ」
「こっ」
 看護師は連携して攻撃をしかけてくる。
 右をかわすと、今度は左が攻めてくる。
 右が上体を狙っていると、左は足を狙ってくる。
 必死になって避けながら、少しずつ観葉植物の近くへ誘導する。
 パッと鉢の後ろに隠れると、二人の看護師は一度に左右から顔を出してきた。
「そこっ!」
 同時に放った拳で二人のカチューシャを同時に割った。
「いつつっ!」
 はやり最初に予想した通りだった。
「キミコ…… キミコ……」
「マミっ?」
 まるで声真似をしているようだった。
 看護師の動きが早くなった。
 何人かが、床運動の選手のように倒立回転をして廊下を行き来しはじめた。
「やっぱり……」
 コントロールする電波が干渉するのか、人数が多すぎると単に処理が追いつかないのか、カチューシャの数が減ってくると、看護師個々のスピードが上がってくる。
「ってい言うか、本人の能力以上のことをさせてるんじゃない?」
 私も倒立前転なんて無理だ。
 変身する翼のちからを使えば何か出来るかもしれないが……
「キミコ…… キミコ…… 助けて……」
 もう、その声が看護師の声真似なのか、マミが言っているのかわからなくなっていた。
 私は声がした方へ急いだ。
「マミっ! いるの? 大丈夫なの?」
 視野の隅に何かが映った。
 慌てて上体を反らせる。
 空気を切り裂く音がした。
「!」
 一人の看護師がモップを振り回し始めたのだ。
 鼻先をモップが通り過ぎていく。
 カッ、カッ、カッ、と私の脳天を目掛けて振り下ろし、床を突く音がする。
 この棒を操る相手にどう対処してよいのか分からない。
 こっちの手が頭に届く前に、棒が振り抜かれてしまう。
 これ以上後ろに下がれば、後ろにいる看護師も捌かなければならない……
「まずいっ!」
 マミが見ていないことを祈りながら、足を蹴り上げる。
 もちろん、変身した姿の。
 ボキッ、と音をたててモップが割れる。
 看護師はまだ長いモップを持っていると思っているのか、その短い棒でついてこようとした。
 蹴り上げた足でそのモップを捕まえると、逆足で脳天のカチューシャを叩く。
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「はぁ…… 長かったね」
「同じことを何度も話すのがこんなに面倒だとは思わなかった」
「亜夢も大げさね。何度もって言ったって警察と職員室の二回じゃない」
「こっちでさ……」
 亜夢は自分の頭を指でつつく。
「テレパシー? ってこと?」
「うん。あっちからこっちから聞かれてやんなっちゃった」
「全員に同時には伝えられないの?」
「出来るのかもしんないけど…… 私はまだ出来ないから」
 奈々は何か気付いたように手を叩いた。
「だから職員室であんなに無駄なくスラスラ話せたのね」
「そうかもね」
 奈々は亜夢の背中をやさしく叩いた。
「亜夢、おつかれさま。私は大した超能力じゃなくて良かった」
「……」
 亜夢は突然立ち止まった。
 そして奈々が一人でスキップしながら教室に戻っていくのを見つめていた。
「この学園にいるってことは、能力がない…… 訳ないよね」
「?」
 奈々は聞こえなかったようで、不思議そうに亜夢の方をみる。
「なんでもない」
 亜夢にテレパシーが入る。
『喧嘩になった…… 加代とアキナ。教室の後ろで、お互いモップを持ってやりあってる。亜夢止めて!』
「奈々、教室は前の扉から入って」
「なんで?」
「教室の後ろで喧嘩してる。後ろから入ったら巻き込まれる」
「うん」
「先に行く」
 そう言うと、亜夢は急いで教室の後ろへ走った。
 扉を開けると、アキナが加代の頭にモップを叩き込むところだった。
 加代はモップを横にしてそれを受けようとしている。
「やめなさい!」
 ガツン、とモップがぶつかった直後、アキナは亜夢の方を振り返る。
「!」
 加代は防いだモップをそのままクルリと回して、アキナの脇腹を目掛けてモップを振った。
「危ない!」
 アキナのモップがするっと動いて、加代のモップと十字にぶつかる。
 勢いでアキナのモップは弾かれ、床に転がってしまう。
 加代のモップも、ぶつかったショックのせいか、弾かれて床に飛び、クルクルと回る。
 アキナの顔が、何かを我慢するかのようになって、額から汗が流れてくる。
 加代も歯を食いしばっている。
 教室の前の扉から、奈々が入ってくる。
「どうしたの?」
 奈々は状況が分からず、後ろの騒ぎを見ている生徒に尋ねる。
「亜夢がめっちゃ怒ってるのよ」
「?」
 振り返って、質問をしたのが奈々だと知ると、女生徒は言った。
「そっか、奈々は分からないんだっけ」
 見ていると、まずアキナが倒れるように膝をついた。
「ごめんなさい」
 しばらくすると、加代も手をついて床に膝をついた。
「ご、ゴメンナサイ……」
 奈々がもう一度その娘の袖を引っ張ってきく。
「何があったの?」
「亜夢が強力なテレパシーで思考を押さえつけたのよ」
「へぇ……」
「いやいやいや…… やる方も簡単じゃないし、亜夢にやられたらたまったもんじゃないんだから」
「そ、そうなんだ」
「見たでしょう、あの汗……」
 亜夢がアキナの手を取って引っ張り上げるように立ち上がらせた。
 確かにアキナの額から激しく汗が流れている。
 加代も立ち上がったが、こっちも体中に汗をかいている。
「超能力を使った喧嘩って、モップを飛ばしあったり、黒板消しやチョークが飛び交うんだと思ってた」
「あっ、やっぱり……」
 奈々に説明していた|娘(こ)は肩を落とした。
「あなたもそうだと思うけど、この学園の生徒でそんなことしているの見たことないわ」
「そうなんだ…… えっと」
「あっ、私はかえで。|本村(もとむら)かえで。えっと|奈々(なな)ちゃんっ… で良かったっけ?」
「|八重洲奈々(やえすなな)です。よろしくお願いします」
「奈々ちゃん。超能力を意識して使ったこと無いかもしれないけど、凄く力をつかうのよ。手でモップを投げるのと同じだけエネルギーがいるの。わかるでしょ?」

 受付の雰囲気とはまるで違う。
「マミ!」
 そうだ、マミが危ない。
 フロアの案内図をみて、マミの病室を確認する。
 曲がり角で立ち止まり、そっと顔をだす。
 何もない。誰もいない。顔を引っ込め、反対側の通路も確認する。
「……ただ誰もいないだけ?」
 壁沿いにゆっくりと歩く。フロアナンバーを間違えたのか…… 間違えて、工事中のところに入り込んでしまったとか、未使用のフロアに入ってしまったのだろうか。
 いや、さっきフロアの案内図をみたはずだ。
 しばらくあるいて、壁の部屋の番号をみる。
 やっぱりこのフロアで間違いない。
「キミコ…… キミコ……」
 姿は見えないが、マミの声がした。
「マミ? マミなの?」
「キミコ…… キミコ……」
 嫌な予感がする。
「キミコ…… キミコ……」
「キミコ…… キミコ……」
「キミコ……」
「きみこ」
 本来のマミの声をかき消すように、様々な声で私を呼ぶ。
 段々と声が重なってきて、何を言っているのかもわからなくなってくる。
「きみきみききみみこきみこきみみみこ」
 奥の病室の扉が開いた。病室の光が廊下に漏れ出る。
 何人かの人影が映る。
『キミコ……」
 異常に猫背の看護師が、顎を突き出すように前を見て出て来た。
「ひっ……」
 私は小さく声を上げた。
 看護師の帽子はなく、そこには赤黒のカチューシャが付けられていた。
 ゆっくり前に進み出ると、後ろからも体格の違いこそあれ、同じような姿勢で看護師が出て来る。
 白い制服が死に装束のようだ。
「キミコ……」
「マミっ!」
 また一つ別の病室の扉が開いた。
 同じように看護師が歩み出て来る。
「マミっ? さっきの、マミでしょ?」
 叫ぶが答えは返ってこない。
 マミを助けたい気持ちと、このままでは自分の身が危ないという思いが混じって、進むことも戻ることも出来なかった。
 どうする、このままじゃ囲まれる。
「キミコ…… キミコ…… キミコ……」
 声に振り返ると、廊下の後ろの病室からも看護師が出てきている。
 このフロアだけで何人看護師が配置されているんだろう。
 さすがに病室数より看護師が多いわけはないだろう。
 それならヤれない数じゃない。
 私は看護師の付けている赤黒のカチューシャのことを思い出した。
 白黒の模様の入ったチップが埋め込まれている場所、そこを強く叩けば、チップが割れるはずだ。
「きぃみぃこぉ…… きぃみぃこぉ……」
 野太い声が背後からした。
「しまっ……」
 背中に暖かくて柔らかい体が当たったかと思うと、あっという間に首を締められた。
 何も抵抗出来ないまま、足が床を離れる。
 踏ん張れない上に太い腕で締め上げられ、気を失いそうになる。
「!」
 両腕をつかって首を締めに来ている、ということは頭はがら空き……
 私は、逆上がりの要領で体をくの字に折って、足を振り上げた。
 そして気持ちを集中して足先だけを変身させる……
「パキッ!」
 甲高い音がして、カチューシャが割れると、締めていた腕が緩められる。
 足先の変身を素早く解除する。
 コントロールが解けたせいで、私と後ろの柔らかい肉体は床に倒れ込む。
「わっ……」
 しかし、ふくよかな体が下になり、クッションになって、どこも床にぶつけずにすんだ。
「ごめんなさい」
 倒れている看護師にそう言って立ち上がる。
 辺りは猫背の看護師達で囲まれていた。
「マミっ!」
 マミを助けなければならない、ということと、マミがいま見ているなら変身を控えなければならない、という二つの意味でマミを呼び、マミを確認した。
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人物の名前を間違えていました。

ツインテールはババア声2(74)   館山 → 木更津

自分で読み返しいて、館山ミハル で 木更津マミ のはずなのに。

すみませんでした。訂正します。


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「先生、どうやって〈鳥の巣〉で書いたコードを見たんですか?」
 ネットとか外部からは見れない。だからボランティア達が中に入ってコードを組むのだ。
 通信で送ったり取り出したり出来ればもっと復旧しているだろう。
「この前下見で〈鳥の巣〉に入って見てきました」
「えっ?」
「セントラルデータセンターも、宿泊先も見ましたよ」
「〈転送者〉は出なかったんですか?」
 オレーシャはニッコリ笑った。
「残念ですが、一度も出ませんでした。ゴメンナサイ、早くクスリを飲みたいので」
 オレーシャは足早に立ち去った。
 本当に合宿を〈鳥の巣〉内で敢行する気だ。
 私達の書いたスクリプトを見て、セントラルデータセンター、ホテルの全部見て〈転送者〉に合わないということはあり得るのだろうか。メディアに報道されている内容通りであればそれはただしい。しかし、自分の感覚に照らしてみると、それだけ長時間〈鳥の巣〉にいれば〈転送者〉の一体や二体に出くわして当然と思えた。
 私は教室に戻ると、席についた。
 タブレットに先生からメッセージが入った。
『無理に戻ってこなくても良かったんだぞ』
 私は答えなかった。
 授業は淡々と続けられ、その日の学校は終わった。
 翌日、私は学校帰りにマミを迎えに行くことにしていた。
 お昼の時に、ミハルとチアキも行くか尋ねた。
「ミハル、チアキ、一緒に行く?」
「私は放課後、オレーシャに呼ばれていて、行けない」
「えっ、私もなんだけど。ミハルもそうだなんて今聞いた」
「二人共? なんだろうね。補習じゃないよね?」
「……私が補習なんてありえないわ。きっと別件よ」
 学校の用事であればしかたない。
 そもそも最初から自分一人で行くつもりだったし、マミといちゃいちゃしながら帰れるわけだからこっちにとっても都合が良いのだ。
 チアキが怒ったようにこっちを見ている。
「?」
「あんた、顔がニヤついてるけど、なんなの?」
「えっ、笑ってないし」
「ニヤついている、って言うのよ」
 手で顔を確認しながら
「じゃ、マミを迎えにいってくる」
 ミハルが、妙に神妙な顔をしている。
「お願いね」
 私は聞かずにはいられなかった。
「ミハル、どうしたの?」
「……」
 いつもの表情に戻ったものの、何か引っかかるものがあった。
「マミの着替えは持ってきてるのよね?」
「もちろん」
「あんたのことだから、マミの身につけたり、匂い嗅いだりしてんじゃないだろうね?」
「チアキ、何いってんの! そんなことするわけないじゃん」
 マミと一緒のベッドに寝ていた一件から、私のことを誤解しているらしい。
 とんだ誤解…… でもないけれど、私がマミを好きなことがバレるのはまずい。バレたらマミと同じ部屋にいられなくなってしまう。
「力いっぱいの否定が返って怪しい」
「否定しなければ、肯定したって言うんでしょ」
「その通り」
 チアキを叩くフリをした。
「ゴメンなさいっ!」
「わかったわ。とにかく私が責任持ってマミを連れて返ってくるから」
 二人はうなずいた。
 午後の授業を終えると、私は早々に帰り支度をした。
 ミハルとチアキは教室に残ってオレーシャを待つようだった。
「マミをよろしく」
「じゃあね」
「……」
 ミハルは何も言わなかったが、特段変な様子でもなかった。
 ただ、やっぱり気にかかることはあった。
 ちょっと寄り道をしていこう。
 病院につくと、名前を告げ部屋の番号を聞いた。
 フロアを上がると、正面にナースステーションがあった。
「!」
 看護師がいない。
 それにフロアが妙に暗い。照明を間引いているどころではない。最低限の灯りというには暗すぎる。
 いやな予感がする。
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 亜夢が言うと、奈々が思い出したように言った。
「あっ、警察の人から、先生に話して貰えばよかったね」
「話はもうとっくに行っているとおもうよ」
「そんなこと警察の人言ってた?」
「奈々は分からないんだっけ?」
 亜夢には学園の何人かからの情報が入っていた。
「なんのこと?」
「奈々、テレパシー強くないの?」
 奈々はうなずく。
「なんかそういうイメージないんだけどなぁ……」
 亜夢は首をかしげる。
 超能力はテレパシーから始まる、と言われている。
 それほど基本的な能力なのだ。何かを、手足や道具を使うのではなく、考えたりするだけで動かせる力、その基本となるのがテレパシーなのだ。電子の動きを読み取ったり、考える力で電子をコントロールして、相手に考えを伝えたりする。
 次第に力が強くなるに従って、電子よりも大きいものーー陽子や中性子といったものも動かせ、さらに気体、液体…… と比重の大きいものへ影響を与えられるようになっていく。
 従って、超能力の強い者はおしのべてテレパシーも強い。
「じゃスマフォ」
 亜夢は指で四角を作って、その四角を指でなぞるような仕草をした。
「スマフォ? ……そっか」
 奈々はそう言うと慌ててスマフォを見る。
 メッセージアプリに何か入っているかを確認した。
 ひっきりなしにメッセージが入ってきて、確かに大騒ぎになっている。
「……ほんとだ」
 亜夢も自分のスマフォを見てみる。
 奈々が痴漢にあった、とか亜夢も一緒だとか、先生が向かっているとか。
「先生がこっち向かってるって……」
「……」
「亜夢、何してるの? 逃げようよ」
 亜夢は指を道路を指さす。
 小さな軽自動車がノロノロ走ってくる。
「音がしないから気が付かなかった」
 車がとハザードを出して止まると、運転席から白髪のお祖父さんが出てきた。
 目は開いているかどうか分からないほど細く、シワも多いため、怒っているのか笑っているのか判断に苦しむほどだった。
 白髪であるのは、頭髪だけでなく、眉毛や口ひげも同様に白かった。
 そんな風に肌や頭髪は老人であったが、ただ、背は高く、亜夢よりも大きかった。そこらの人より姿勢が良いため、余計に大きく見える。
 亜夢と奈々はその老人が正面に来ると、頭を下げた。
「バカもんっ!」
 声質は老人だが、音量は大きい。
 二人はビクッとして背筋を正した。
「……わかっとるか?」
 亜夢は奈々の方を横目で見るが、奈々は首を横に振る。
「わかっとるか」
「わかりません」
「わからんのかっ!」
 シワだと思っていたところが『カッ』と開き、二人を睨みつけた。
「警察にしらせるのもそうだが。君らから学校に連絡がないのは何故じゃ」
「が、学園長へは連絡していませんが、担任には連絡して」
「担任にも連絡しとらんっ! あれは君の能力で伝えただけじゃ。毎日毎日、言っとるのに。非科学的潜在力を使っている内は、社会に復帰できんのだぞ」
「(能力が消え去らなければ復帰は出来ないよ)」
 亜夢がボソリと言った。
「こらっ! そうやって諦めるな」
「……だって。社会には超能力者を追い出す為に変な電波だしてるじゃない」
「超能力干渉電波のことか」
「あれがある限り、私達は社会には戻れないわよ」
「だからといって、社会と違う世界を生き続けるわけにもいかんのじゃ。いつかは学園を出ねばならん。学園外の常識を身につけることが必要なんじゃ」
 老人は亜夢の肩に手を乗せた。
 力強い手だった。
「奈々くんも」
「はい」
「わかったかね?」
「……わかりました」
 二人は学園長の運転する軽自動車に乗り、学園へ戻った。
 職員室で一通り今朝の出来事を説明すると、二人はようやく解放されて彼女たちのクラスへと戻った。

「……」
「良いかしら?」
「はい」
「ここで私は食事の片付けをして、食器を洗っていたわけだけど……」
 画像が何枚か進む。
 すると、また先生がパッドをタップする。
「ほら」
「……」
「ここではもう髪留めが机の上にある」
「ミハルの影になってハッキリは見えないじゃないですか」
「もう少し進めてみようか」
 私達の位置が少しずつ変わるが、なかなか机が見通せない。
 一瞬、ミハルの体がブレたときに机の様子が映った。
「ほら、あるわよね」
「……」
「誰とは言わない。白井さんの場合もあるかもしれないからね」
「わ、私も疑われているんですか?」
「チアキは私を疑ってるんでしょ? ここに居た人全員が疑われて良いはずよ」
 私は何も反論出来なかった。
 まさかあの瞬間にこんなことが起こっていたとは。
「マミに髪留めをつけてみろ、と言ったのはミハルって|娘(こ)だったわよね」
「……」
「思い出してみてよ。誰が髪留めをつけろと言ったのか。マミちゃんがコントロールされる前から結果を知っていたような人物は誰なのか。防犯ビデオで机の上に死角を作るように動くのは誰なのか」
「ミハルは違います」
「疑うに値すると思うけど」
 ミハルは違います、と言った自分にも、ミハルへの疑念はゼロではなかった。
 何しろ〈扉〉の支配者の代弁をしたこともあるし、あのカチューシャを未だに外していない。
 コントロールされていない、というなら外してみせるのが普通だと思うのだが。
 けれど…… もう一人疑わしい人物がいる。
 ミハルを犯人に仕立てることが出来る人が。
「……」
「白井さんはどう思うの?」
 先生も充分疑わしい、と本人には言えなかった。
 こういうのは十分裏付けを取ってからにしなければ。
「……ミハルって|娘(こ)には充分注意すべきね」
 新庄先生にはうなずいてみせた。
 どちらが〈扉〉の支配者の手先でもいいように準備だけはしておく必要があった。
 立ち上がってお辞儀をした。
「マミの退院は明日、なんですね」
「明日は一緒に行きましょう」
 先生もそう言って立ち上がった。
「場所は知っています。だから大丈夫です」
 新庄先生は私の顔をみて、何か考えたように時間をおいてから、言った。
「そう? じゃあお願いするわ」
 先生は小さく手を振った。
 私は保健室をでると、チアキが付けていたカチューシャを手にとって、再びしまった。
 このカチューシャは、ミハルがチアキに取られないよう肌身離さず持っておくよういわれたものだ。いつかマミが付けたカチューシャは、砂倉署の|山咲良樹(やまさきよしき)を騙る男に奪われてしまった。
 割れた髪留めと、このカチューシャに同じ仕組みが入っているのなら、チアキも〈扉〉の支配者にコントロールされていたことになる。チアキがカチューシャを付けたキッカケを覚えていれば、もしかしたら何かつかめるかも。
「あら、白井さん」
 金髪、碧眼の教師に呼び止められた。
 オレーシャ・イリイナーー情報処理学科の教師だ。
「まだ授業中ですけど、どうしたんですか?」
「先生こそ、授業はないんですか?」
「保健室に行こうと思ってます」
「具合悪いんですか?」
 オレーシャは間を置いてから、
「具合…… わるくありません」
「それじゃあ、何故?」
「クスリをもらいに行きます」
 オレーシャはお腹を抑えた。
「それより、木更津さんが入院という話を聞きました。ダイジョブなのですか?」
「明日退院するそうです。私が迎えに行きます」
「あなたと、木更津さんはぜひ合宿に来て欲しいです。以前、〈鳥の巣〉で書いたスクリプトをみました」
「そうなんですか」
 言った後、どうやって見たのか疑問に思いはじめた。
「優秀です。合宿に必要な人材だと思います」
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「まぁ…… それくらいは」
「下半身を出したままそれに触らせようとしたんです」
「そうね。うん。それはそうね」
 女性警官は簡単にメモした。
「ちょっと分からないのは、さっきは、あなた達が被疑者を追いかけてたってことだけど」
 亜夢が手で追いかけっこの様子を示しながら話した。
「こっちが逃げてる内は、アイツは私達を追いかけてきたんですが、交番が見えると、急に逃げ出して」
「ああ、なるほど」
「捕まえてもらうから、私が追いかけて、奈々が交番に連絡に言った、ということです」
「そこで霧の中で…… いろいろあって…… 雷が落ちたってことね」
 女性警官は、小林側が訴える場合もあると言った。
「だから、念の為ね」
 そう言って、亜夢の持ち物をチェックすると言った。
「ちょっと、ごめんね」
 そう言うと、服の上からあちこちを触ってきた。おそらく何か武器を持っていないかを確かめているのだろう。スタンガンとか、そういうものがあるに違いないという考えだ。
 亜夢の体を触るだけ触って、首をかしげる。
「やっぱり雷? 気象庁の発表にはないのよね」
 小声でそう言い、ペンでメモを叩いていた。
 もう一台パトカーがやってきて、路肩に止まった。
 出てきた警官が、二人の制服をみると言った。
「ヒカジョ」
 奈々の顔が引きつったように見えた。
「あっ? なんだその顔は?」
 ヒカジョと言った警官は、奈々の表情を見て言った。
 奈々に連れてこられた、交番の警官がキョトンとした表情で後から来た警官にたずねる。
「ヒカジョってなんですか?」
「非科学的潜在力女子学園…… 略してヒカジョ」
「?」
 後からきた警官は目を閉じた。
「いくらこっちに配属になったのが三日前とは言え、ここまで言ってわからないのか?」
「はい」
「こいつら、超能力者だよ」
「えっ!」
 最初からいた交番の警官は、急に腰の警棒をとって身構えた。
「ま、マジですか」
「雷が超能力によるもので、アイツが訴えたら、お前らも捕まるぞ」
 警官は手首を揃えたような仕草をする。
「超能力なんて使ってません」
 亜夢は無表情に言い切った。
「ここでは証拠はないが……」
「使ってません」
「こちらの方が見てたじゃないですか」
 警棒を構えた警官は、急に話を振られて慌てた。
「えっ、そ、そうです。何も見えませんでした」
「霧が濃かったんだろう?」
「まぁ、そうですが、こちらの|娘(こ)は見えるところにいましたが、何もしてませんでした」
「ふん。まあいい……」
 警官はグッと、亜夢を睨みつける。
 それから警棒を構えている警官に振り向いて、
「お前もヒカジョに何か言われてもホイホイついていくな」
「犯罪を助長するようなこと出来ません」
「ヒカジョなら痴漢ぐらい自分でなんとかするんだ、こんなふうに」
「だから、何もしてません」
「どうだかな」
 後から来た警官は現場を片付けもせずパトカーに戻った。
 警棒を構えていた警官は、警棒を収めると言った。
「いいんだよ。君たちにだって平等に人権はあるんだから」
 逆に、一般的にヒカジョには人権がない、って思われているような言い方だ。
「ボクはあの交番の勤務だ。何か犯罪があったら、今日のように知らせてくれ」
 警官はそう言って奈々の方をじっと見つめる。
「はいっ!」
 奈々は、急に可愛らしい表情を作って警官の手を握ろうとする。
 警官はほおを少し赤くして、避けるように手を後ろに回した。
「さ、さあ。君たちも帰って良いよ」
「ありがとうございました」
「……」
 奈々は丁寧にお辞儀をし、亜夢は無言でその場を立ち去った。
 
 奈々と亜夢は学園へ向かっていた。
「もう授業始まっちゃってる」

 砂倉署に行くには〈鳥の巣〉から出た履歴が残るはずで、そう言った正式な退出の履歴はないし、ゲートの画像検索しても出てこない。つまりはあの中の山咲には、〈鳥の巣〉の外に出た形跡はないということらしい。
「……」
「後、あの髪留めのことを病院の人に聞いてみたんだけど」
「なにかわかったんですか?」
「その人、たまたま〈鳥の巣〉内で働いていたらしくて、おなじような異常行動と頭部へ接触する機器をみたらしいの」
 新庄先生が言うには、最初はヘッドホンのようなサイズだったらしくて、すぐに分かるようなものだった。中の部品も一つ一つが大型で、発展途上国が作ってもこんなにはならないだろうというものだったようだ。
「それが…… 一年、六ヶ月、三ヶ月…… と斬新的に進歩して最後は単なる模様が書いてあるだけでも動作するような小さな機器になったそうよ。この髪留めの…… ほら、ここみたいに」
 スマフォの画像を拡大すると、確かに一部に白黒で模様が描かれている。
 更に拡大するとぼやけて何かわからなくなったが、どうやらこの小さな部分を頭部に近接させて人をコントロールするらしい。
「〈扉〉の向こうの技術らしいから、その人は『似ている』以上の判定は出来ないそうだけど」
 もしかして…… 私は持っていたチアキのカチューシャを取り出した。
「何?」
 赤黒のカチューシャの内側をずっと端から見ていく。
「それって、あの|娘(こ)が、えっと、ミハルちゃんだっけ?」
「いいえ、これはミハルのものではなくて……」
 あった。
 カチューシャの一部が少し欠けていて、そこからさっきの模様の一部のようなものが見える。
「何? なんかあったの」
「先生、ここ。それと似てませんか?」
 先生が覗き込む。
「そこをもう少し割って中を見たいわね。切ってみましょうか」
 机の引き出しを開けて何か探している。
 これを割っていいか、ミハルに聞くべきだろうか。
「……」
「どうしたの?」
「割っていいかは判断つかないです」
「もう少し見れれば一致するか分かるのよ。あなたがやらないって言っても私はやるわ」
「あっ」
 先生は奪い取るようにしてカチューシャを取り、机の上で欠けた部分にカッターを入れた。
 割って取り出すわけではなく、埋められた白黒の模様部分を傷つけないよう切って広げるのに苦労していた。
「ふぅ……」
 先生はその小さな部分をスマフォで撮影した。
 すると何やらアプリを使って、一枚の半透明にし、二枚の写真を重ねていた。
「こうやって…… こっちかな? ほら。回転させれば……」
 写真の白黒の模様がほぼ一致した。
「うん。ちょっと歪みがあるから完全には重ならないけど。これもあの髪留めと同じ。〈鳥の巣〉の向こう〈扉〉から来たものね」
「……」
「で、これは誰のカチューシャなの?」
「誰というわけでは」
「ミハルちゃんのではないのね。けど、これはあの娘のしているものとそっくりだわ」
 新庄先生はカチューシャを返してくれた。
「〈扉〉の向こうの連中が作ったものと思って間違いない」
 私はカチューシャを眺めながら、その白黒の模様がある部分を覚えた。
 またこれが使われた時、どこを破壊すればいいのかが分かるからだ。
「ずいぶんそのカチューシャが気になっているのね?」
「えっ…… まぁ……」
「白井さんに言っておきたいことがまだあるわ」
 新庄先生はパソコンを広げ、パッドで何か操作した。
 画面に保健室の様子が表示された。
「今日の防犯ビデオを見返したの」
「えっ……」
「ちょっとみて見て。これが朝。私が来る前」
 保健室の机が映っている。
 ちょうど、私の真後ろから取っている感じ。
 振り向くと、部屋の内側に突き出た柱にビデオカメラが付けられていた。
「そうね。あれで撮影している映像ね」
 新庄先生はまたパッドに指を滑らせると、映像が進んだ。
 私達が部屋に入った。
 画像は、連続した動画ではなく、切れ切れの写真がスライドショーのように切り替わるものだった。
「なんか人がピョンピョン動きますね」
「秒一コマぐらいだから、どうしてもこういう映像になるみたいね」
 先生はカーソルを机に合わせ、パッドをトントンと指を叩いた。
 すると画像が拡大された。
「ほら。まだ机の上には髪留めがない」
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 さっきと同じように、先生は私を制した。
「髪留めは預けます。そのまえに写真だけ取らせてください」
 先生は髪留めの割れたところの断面や、裏、表をスマフォで撮った。そして、チアキの手に渡した。
「これは警察に持っていきます」
 新庄先生はうなずいた。
「さ、授業がはじまるわよ」
「いいえ。救急車がくるまで私達はここにいます」
 その場にいる全員がうなずいた。
「先生を疑っている訳じゃないです」
「いいのよ」
 そう言いつつも、新庄先生は落ち込んでいるように見えた。
 先生は机に戻って、スマフォの写真にメッセージを付け、どこかに送ったようだった。
 しばらく沈黙が続くと、保健室にも救急車の音が聞こえてきた。
「来た」
 チアキは窓の外を見やりながら、救急隊員がくるのを探していた。
 先生のタブレットが鳴って、新庄先生が応答した。
「……はい。保健室で寝かしています。……はい。」
 救急隊員が学校の受付から話しているようだった。
 廊下にカラカラとストレッチャーが運ばれてくる音が聞こえた。
「急患はこちらですか」
「はい」
 先生が状況を的確に説明していく。
 マミをストレッチャーに移すと、救急隊員は受け入れ先の病院を探した。
「誰か付きそう方は」
「私が」
 新庄先生が手を上げた。
 チアキは気に入らないとばかりに『私がつきそう』と言ったが、私達が引き止めた。
 ゆっくりとマミは救急車に乗せられ、走り去っていった。
 私達三人は重苦しい雰囲気になり、言葉もでなかった。
 教室にもどると、授業はすすんでいた。
 当然のように授業には身が入らず、ただぼんやりと窓の外を眺め、マミのことを考えるだけだった。
 髪留めといい、カチューシャといい、ここまでくると直接マミを狙っているのは間違いなかった。
 もし、昨日の夢遊病の相談をすると分かっていたのだとすれば、ミハルかチアキ、あるいは寮でのマミの行動を監視できるような人物…… ということになる。
 チアキはまだ出会ったばかり…… そもそもカチューシャで操られていた可能性も高いが。ミハルもカチューシャで操られていた、と言われればそうだし、今現在もカチューシャを付けているわけだから、まだ【〈扉〉の支配者】の指令を受けている可能性はあった。
 けれど…… 二人を疑うためには証拠が少なすぎる。
 突然、目の前のタブレットがフラッシュした。
「白井くん…… は答えられそうにないね」
 髪の長い、男の教師は私の顔見て廊下を指差した。
 すると再びタブレットがフラッシュした。
『新庄先生が廊下でお呼びだ』
 とタブレットにメッセージが送信されていた。
 私は立ち上がって、教室を抜け出した。
「新庄先生…… マミは?」
「悪いところは無いわ。意識も戻った」
「退院してこないんですか?」
「一日様子を見るようよ。退院は明日の午後ね」
 教室の扉に目をやり、新庄先生が近づいてきた。
「(あの髪留めだけど)」
「えっ! 何か分かったんですか」
 教室側からざわざわと声が聞こえる。
 新庄先生は口に手を当て、保健室へ行こうという仕草をする。
 私はうなずき、先生の後をついていく。
 保健室に入ると、先生が言った。
「あんな大きい声を出すとは思わなかった」
「ごめんなさい」
「マミさんはなんどかこういう意識を乗っ取られることがあったみたいね」
「えっ?」
 新庄先生は手を上に伸ばして言った。
「あの大男から聞いたのよ」
「鬼塚刑事ですか」
「山咲とかいう刑事にカチューシャを調べさせたけど山咲がニセモノだったんじゃないか、とかね」
「山咲刑事は偽者だったんですか?」
 新庄先生はスマフォを眺めながら言った。
「らしいわ。昨日〈鳥の巣〉で運転をした人が山咲本人で間違いないらしい。|砂倉(さくら)署には顔を出してないって話よ」
「けど…… 顔がそっくり」
「そこなんだよね…… そこは鬼塚刑事も分かってないみたい」
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