その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2017年01月

「今の映像を見る限り、この人、カメラに気づいています。通るとしたら、一つ反対側とか」
「……」
 四人はビルの外に出て、あたりをぐるっと回り始める。
 清川が口を開いた。
「あっちもこっちもカメラがついてますね」
「この周辺のカメラの全てに気づいているとしたら? どうしますかね」
「あのカメラの位置からして、大通りに向かおうとしているわけだ」
「可能な限り別の道を行きたいんじゃないですか?」
「何個仕掛けられますか?」
 亜夢が中谷に言う。
「持ってきているのは三個だけど、あのビル以外だとオーナーに許可を取る必要があるね」
「地下とかを通って、カメラを避けることはできないでしょうか?」
「大通りまで出れば地下通りがあるが、こっち方向はない。だいたい、そこは川だし」
「川? ちょっと行ってみませんか?」
「亜夢ちゃん何か気づいたの?」
「中谷、『乱橋さん』だ」
「川なら、橋の数には限りがあるから」
「なるほどね」
 全員で歩きはじめていたが、清川が立ち止まる。
「あの、そっちに川なかったですよ」
「?」
「多分、川の上はあっちもこっちもビルが立ってしまってます」
「そうか、そうだったな……」
 亜夢は、向かっていた方向に人の|意識(・・)を感じた。
「!」
「どうした?」
 亜夢が走り出した。
「清川巡査」
 加山が指示するかしないかのタイミングで、清川は亜夢を追い始めた。
「加山さん。何があったんですか?」
「超能力、なんじゃないか?」
 亜夢がビルの角を曲がると、先の角を逆方向に曲がっていく人影を見つけた。
『単独行動をするな』
 振り返ると清川巡査が走って追いてきた。
「急いで」
 清川の手をとると、亜夢は曲がっていった人物を追いかけ始めた。
「どうしたの?」
「おそらく、映像に映っている人物です」
「マジ?」
「だから急いでください」
 角を曲がると、先にフードをかぶった人物が走っている。
「あの人?」
 亜夢は答えない。しかし、その人物を追っている。
「ねぇ、あのひと?」
 清川は息を切らしながら亜夢に問いかける。
 亜夢は後ろを向いて口に指を立てる。
「静かにしてください」
 苛立っているようだった。
 亜夢がまた前を向いたときには、フードをかぶった人物が消えていた。
 二人はは見失ったあたりまで走り、左右の道を素早く確認した。
「ごめん、私のせいだ」
 清川巡査が息を切らせながらそう言う。
「いえ」
 亜夢もそれなりに苦しそうに答える。
「けど、あの映像で犯人はフードをかぶっていたかしら?」
「こっちに気づいて、フードをかぶった感じです」
 亜夢は左右のどちらに曲がったかはわからないが、正面の坂を見つめた。
 大通りからこっちへ向かってくると、昔あった川の上にビルが立ち並んでいて、さらにその奥に並行して道が走っている。
 その向こう側の坂は、全体に丘のように高くなっていて、住宅街になっていた。
「この通りを左右どちらかに行ったか」
「坂なので、坂をまっすぐ登っていっても見えなくはなりますね」
「つまりどの方向にも可能性はあるのね」
「この通りよりは、住宅街の方が可能性は高いですが」
「あれ?」
 清川が何か思いだしたようにそう言った。
「ここ、なんか来たような」
「思い出せますか?」
「ちょっと歩けば思い出すかも」
 清川が先になって、坂を登り始めた。

 ここで変身を躊躇することは出来ない。
 もし、このことをマミが覚えていたとしても。
 後で嫌われたとしても。
 助けるためには……
「マミ、やめて!」
 一直線にこちらに向かってくる。
 右に回り込んでいくと、そのままマミも左を向いて回り込んでくる。
 周りを壁のようにE体が囲んでいく。
「じゃま!」
 逃げ場に困った私は、正面を塞ぐE体に、|変身させた(・・・・・)足の爪を突き刺し、倒してスペースを作る。
「白井公子」
 声に振り返ると、睨みつけるマミの顔とともに一体となった〈転送者〉の腕が伸びてくる。
 左手で押さえながら避けると、腕の正面にいたE体が破壊される。
「マミ、やめて、お願い」
 マミが見る方向へ腕が動いてくる。
 マミが〈転送者〉の目と口の代わりをしているようだった。
 サーバーラックの間に入ると、マミを取り込んだ〈転送者〉は追ってこれずにそこに立ち止まる。
「やめて、お願いだから」
 ラックの間に入れる小さなE体が私を追って、間に入ってくる。
 冷静に自分の足で蹴り、コアを爪でつぶす。
「……コア。マミの入っている〈転送者〉のコアはどこ?」
 私がラックの奥に下がろうとすると、マミは叫んだ。
「逃げるなこら」
 ガツン、とサーバーラックを破壊する。
 私はまたさらに奥へ下がる。
「待てっていってんだろ」
 逆の手で、ラックを破壊する。両サイドのラックが歪み、私はまた一歩下がった。
「うぉらっ!」
 ガン、ガンガン、と何度もラックを叩き、ラックが扉ごと壊れていく。
 自分が身を守れるスペースはあとわずかだ。
「出てこい、お前が出てこい」
「マミ、やめて」
 マミの顔があって、その下の、体が入っているだろうところを蹴ったら、マミを傷つけてしまう。
 どこにコアがある?
「白井公子、これで終わりだ」
 両脇のラックがすべて破壊され、私に向かって〈転送者〉の腕が振り下ろされた。
 私は一か八か突っ込んだ。
「ぐわっ」
「いたっ……」
 自分も痛みで声がでた。
 しかし、私がマミに頭突きをすると、〈転送者〉の振り下ろしてくる腕が止まった。
 これはコアを探し当てたわけじゃない。
 これ以上、マミを傷つけるわけにはいかない。
 私は飛び上がって、マミを飛び越し、〈転送者〉背中を切り裂いた。
「コアはどこ?」
 黒い殻が開き、赤黒い中が見える。
 コアはない。背中側にはコアがない……
「あとは?」
「白井ぃぃ~」
 マミが叫びながら体を回転させてくる。
 私はそれに合わせるように同じ側に回り、背後を取り続ける。
「ちっ」
 E体が、私の動きを察知して、間に入ってきた。
 すばやくE体のコアを蹴り割るが、マミに回り込まれてしまう。
「公子ぉぉ~」
 両腕を同時に私に向けてくる。
 叩き壊すほどのスピードはない。
 どっちに避けるか決めかねていると、ようやく意味が分かった。
「ゆっくり、つぶしてやる!」

「この中の扉を……」
 いくつかの扉だけでも減らしておけば、次に来た人間が、少しだけ楽になる。
 また次も頑張ってフロアの扉を破壊して、と少しずつ減らしていけば……
「木更津を取り返すことが先だ」
 頭の中にマミの姿が浮かぶ。
 友達以上、恋人未満…… いや、そう言っていいのかも分からないが…… とにかく大切な人。
「はい」
 上のフロアへ向かう通路を急ぐ。
 〈転送者〉の増殖スピードも遅い。
 そのまま階段を上がると、上のフロアが見えた。
 同じつくりだが、サーバールームへの扉が壊れている。
「この中…… 〈転送者〉が……」
「すごい数だな」
 こちらに気付いたのか、気づいていないのかわからない。
 〈転送者〉の反応が鈍すぎるのだ。
 これだけの数がいるにもかかわらず、通路側にいないのも変だった。
「来たな、白井公子……」
 どこからか声がした。
「(おい、俺は階段に下がっている。わかってるな?)」
 鬼塚刑事の方を見てうなずく。 
「マミ! どこ?」
 階段付近から入り込んで、壊れた入り口からフロアをのぞき込む。
「こっちだ」
 通路に、新交通で戦った、あの長い髪の女が立っていた。
「私が〈扉〉の支配者だ」
 そう言って、棒状の武器で床をつく。
「違う、こっちの人の意識を、そのカチューシャで乗っ取っただけでしょう?」
「何が違う? だとしても〈扉〉の支配者の言葉だ」
「そんなこと、どっちでもいい。マミは? さっきのはマミの声でしょ?」
「フロアに入れ」
 女は棒を地面と水平にして、こっちに突きつけてきた。
「さあ、行け」
 私は手を上げてフロアの方へ進んだ。
「どうすればマミを返してくれるの?」
 ガツン、と棒を床に叩きつける音がした。
「さっさとフロアへ入れ」
 中にいる〈転送者〉が下がって道を空ける。
 ゆっくりの中へ進んでいくと、大量にあるサーバーラックの中の一つの扉が開き、光を発するとそこから〈転送者〉がこちらに出てくる。
 こうやって少しずつ〈転送者〉が増えていくのだろう。
「木更津マミ!」
 後ろで女が叫んだ。
 たくさんのE体が下がっていくのに逆らって、真っ黒い大の字のような〈転送者〉がこっちに出てくる。
 前を塞いでいたE体が避けると、私は思わず走り出した。
「止まれ!」
 その大の字形の〈転送者〉の頭部分から、マミの顔だけが出ていた。
 〈転送者〉に体が埋め込まれたようだった。
 マミは目を閉じていたが、急に眼を開いた。
「来たな、白井公子」
 感情のかけらも感じない声だった。
 カチューシャでコントロールされているより酷い状態なのかもしれない。
「お前はこれと戦うのだ」
「えっ?」
「戦うには木更津マミごと倒すしかないな」
 振り返ると女は笑っていた。
「お前にマミを助けられるかな」
 女の両端にE体が立った。
「やれっ、白井公子を倒せ!」
「はい」
 そう言うと、マミを取り込んだ〈転送者〉が私に向かって動き始めた。

 亜夢は両手を前で重ねて頭を下げる。
 加山の目尻が少し上がった。
「この新しいカメラにしてからの映像は見れますか?」
「中谷。頼む」
 加山は中谷の肩をポンと叩き、内ポケットからタバコの箱を取り出しながら路地の後ろへ消えた。
「お願いすれば見せてくれるはずだよ。行こう」
「加山さんは?」
「……」
 中谷は何も答えなかった。
 かわりに清川が亜夢の手を引いた。
「亜夢ちゃん、ちょっと」
 少し中谷と距離を取ると、
「あなたがさっきのことに答えないから、加山さんがすこしイライラしてるみたい」
「そうでしたか」
 亜夢は首を小さくうなずいた。
 中谷がビルの裏口から入り、警備室の人と話をしている。
 すぐに話しがついたようで、中谷が手招きした。
 小さな部屋に幾つかのモニターが並んでいた。
「椅子が足りなくてすみません」
 警備員は済まなそうに言った。
「いつぐらいの映像をごらんになりますか?」
 中谷は部屋のカレンダーをみて言った。
「新しいカメラつけたのはいつでしたっけ?」
「事件の二日後です」
「ここか」
 中谷はカレンダーの日付を抑え、亜夢の方を見た。
「じゃあ、そこから六倍ぐらいで」
「六倍?」
 警備員はリモコンを見ながらボタンを押すと、映像の再生が始まった。
 そもそも秒なんコマも撮っていない映像が、六倍で再生されると、何が映っているのかはっきり認識が出来なかった。
 朝夕や、天候の変化で、急に明るい画像になったり、暗くなったりするのがかろうじて分かる程度。
 亜夢はそれをじっと見ている。
「止めてください」
 慌てて警備員がリモコンを操作する。
「すみません、リモコン借りてもいいですか?」
「いいですよ。操作わかりますか?」
「わかりません。時刻の指定のしかただけ教えてください」
 亜夢はリモコンを受け取り、言われたとおりに操作しながら、時刻を打ち込んだ。
「ちょっとここをみてください」
 映像が再生される。
 中央に、昨日タブレットで見たような位置に人物が歩いてくる。
 中谷が気がついたように声を上げる。
「あ、こいつ、昨日の……」
「え、何なんですか?」
「清川巡査は見ていなかったか」
「ほら、カメラに気づいたようにうつむいて」
「事件の後も、ここにくる、ということか?」
 中谷は亜夢からリモコンを取って、画像をもう一度再生した。
「顔が、良く、映ってないな」
 亜夢は、後ろで見ていた警備員に話掛けた。
「あの、警備の方ですよね?」
 警備員は姿勢を正した。
「あの人、見かけたことないですか?」
 警備員は落胆したような顔になり、首をふった。
「何度か警察の人にも聞かれているんだけどな」
「そうでしたか。すみませんでした」
「何度かきている、ってなれば、話は別、ってことはないですか?」
「うーん、けどこの映像じゃあわからないね。この時間帯だとビルの中の巡回とかしているからな」
 亜夢は唇を指で触りながら、何か考えている風だった。
 清川が、中谷に話しかけた。
「これ以外の角度のカメラないんですかね」
「どうだろう。たしかこっちはこのカメラだけだったような」
「なら、仕掛けるか」
 清川と中谷が一斉に振り返り、言った。
「加山さん!」
「中谷、同じ場所の低い位置にモバイルカメラを設置しろ」
 亜夢は立ち上がる中谷を止めた。
「またここを通るかは疑問です」
「乱橋君、何故そんなことを言う」

「手早くコアを抜け」
「はい!」
 足を変身させ、正面へ蹴り込み、コアをつかんで足を抜く。
 変身した私の足。鳥の足、鳥の爪がコアをつかんでいる。
 空気が抜けるような音がして、〈転送者〉が消えていく。
 鬼塚の強烈なパンチで、腕の先にいた〈転送者〉二体が同時に消えていく。
 赤い目のような明かりがたくさん見える。
 この数だけE体が近くに存在する、ということだ。
「お、鬼塚さん! エレベータが下がっていきます!」
「そこに止めっぱなしにはできないからな」
「けど、どうやって帰るんですか?」
 エレベータのカゴが下がると、その空洞からは強烈な冷気が出てくる。
「寒い!」
 周りにいたE体も、冷気を浴びてか、エレベータの入り口から、よろよろと後退し始める。
「ほらっ! 手を抜くな、E体につぶされるぞ!」
 目の前に、〈転送者〉の腕があった。
 慌ててかがんでそれを避ける。
「やばかった……」
「早くしろ」
「はいっ」
 E体の腕を上に払いのけ、素早く正面蹴りする。
 百葉高校の周辺で出会う〈転送者〉より、何十倍も簡単にコアを抜ける。つまり、それほど動きが鈍いのだ。
 しかし、体が冷えていて、こちらも動きがにぶい。
「キツイです」
「耐えるんだ」
 しかし、何度もやっていくうち、体が温まってくる。
 単純な作業のようではあったが、残りの数も見えてくる。
「もう少しだ」
「はい」
 ここには最低限の灯りしかついていない。
 疲れてきたせいなのか、〈転送者〉がいないところに蹴りをだしてしまう。
「あっ?」
 背後を取られ、〈転送者〉の腕に挟まれそうになる。
「気を付けろ、気を緩めるとやられる」
「……あといくついるんですか?」
 息が切れてきている。
 ぼんやりとした灯りで、自分と鬼塚刑事の吐く白い息が見える。
「あと、そうだな十は切ったぞ」
「頑張ります」
「見えるか? あそこが階段だ」
 暗い通路の先に、階段らしき縞になった影が見える。
「はい」
 プスン、プスンと私と鬼塚刑事がつぶしていく〈転送者〉の音が響く。
 そして自分達の呼吸音。
 数は減ってきたが、どこのドアか、どの扉から〈転送者〉が増えているのかもわからない。
「扉は? 扉も壊しましょう」
「……」
 鬼塚は首を振って、答えなかった。
「どこなんです? 壊していけば数が減る」
「こん中だ」
 鬼塚が親指で指し示したほうに、霜のついた扉が見える。
 『データサーバー』とだけ書いてある扉。
「この中に無数の扉がある……」
「まさかサーバーラックの扉?」
「ああ……」
 プシュー、と音がして、見えていた限りの〈転送者〉を倒しきった。
 変身をといて、膝に手をつく。
 まっすぐ立っているのもきつい。
 冷たい壁に手をついてうつむく。
「ほら、早く上のフロアに行かないと、また出てくる」

 困惑する亜夢肩を叩き、振り向かせ、両肩に手をかけエレベータの方へ押しはじめた。
「……」
 亜夢は洗濯場を振り返りならがらも、押されるがままにエレベータに向かった。
 亜夢は準備を終えると、清川に連れられて加山と中谷の待つ会議室へ行った。
 加山から、今日調査する場所と方法について語られた。
「……ということで、この地区を捜査する。乱橋くんがもし映像の人物を特定した場合は、一人で追いかけたりしないように。必ず私か中谷に言うんだ」
「清川さんは?」
「むろん、清川巡査に言ってもらっても構わん。とにかく乱橋くんの単独行動は厳禁だ」
 亜夢は「はい」と言ってうなずく。
「では出発だ」
 四人が立ち上がると、亜夢の正面にいた中谷が話しかけた。
「昨日は寝れた?」
「はい。このキャンセラーのおかげです。これ、どっかで売ってないんですか?」
 中谷が何か話だそうとしたところを、加山が手で口を抑えた。
「乱橋くん。悪いが、このキャンセラーについては他言無用だ。捜査時は中谷に方で預からせてもらう」
 亜夢は清川にたずねる。
「(他言無用ってなんですか?)」
「絶対、言っちゃダメってこと」
「なるほど」
 四人は警察署の裏手の駐車場に移動し、一台のパトカーに乗り込んだ。
 清川巡査が運転し、亜夢は後ろの真ん中に、両脇に加山と中谷が座った。
 亜夢はあることに気がついた。横に並ぶ車のドライバー、乗客がこちらをチラチラみてくるのだ。
「加山刑事、何故皆こちらを見るんでしょう」
「警察車両が珍しいんだろう。気にするな」
「……」
 中谷の口元が動いたが、何も言わなかった。振り返ると加山が中谷をにらんでいた。
「とにかく気にするな。すぐに慣れる」
 車が大通りを外れて路地に入ると、加山が言った。
「そこらへんでいったん下ろせ。ここらだと、あのお寺さんに言ってとめさせてもらえ」
「わかりました」
 清川が返事をする。
「さあ、降りて」
 亜夢は周りをみながらパトカーを降りた。
 高層ビルとはいかないが、路地側にもビルが並んでいるオフィス街だった。
 車が走っていた表通りとは違い、人影もまばらだった。
 加山について歩くと、路上の隅でタバコを吸っている男たちがいた。
「あ、あの、こっち睨んでます……」
「気にするな。パトカーから降りると目立つから見ているだけだ。お前、ヒカジョじゃ喧嘩の女王らしいじゃないか。何ビビってんだ」
「ビビってません」
 ムッとした顔つきになり、加山の前をすたすた歩き始めた。
「そっちじゃない」
 加山に言われて道を戻り、またその後ろをついてあるいた。
 そのまま裏通りを歩いていると、見たことがある風景が目に入ってきた。
「あっ、ここ」
 亜夢の声に、加山が答える。
「そうだ、昨日の映像の場所だ」
 しばらく歩くと、道を撮っている防犯カメラも見えた。
「なんとなく焦げ跡がありますね」
「カメラは交換してつけなおしているんだが、周りまではきれいにならなかったようだな」
 亜夢は映像の中心に映っていた人物が立っていた場所に進む。
「ここから……」
 カメラの側を振り向く。
「ということは」
 そう言って、カメラの向こうを見ている。
「何か見えるの?」
 中谷が亜夢の後ろに回る。
「遅くなりました」
 清川巡査がやってきて、加山に頭を下げる。
「寺の住職には言ったか?」
「はい」
 加山はその場で真上を見上げる。
 亜夢が見ていると思われるところを見つめるが、何があるのかわからない。
「何を見ているのか、言ってくれるか?」
「……」
 亜夢は何も答えない。
 場の全員が亜夢の答えを待っていた。
「捜査の協力をしてもらうために来てもらったんだが」
「まだぼんやりしたイメージだけなので。すみません」

 らせんの通路を、どんどんと降りていく。
 以前来た時よりももっと奥深く下がったところに、最後の警備が立っていた。
「ごくろうさまです。身分証を拝見します」
 鬼塚刑事は、警察手帳と身分証を出すが、私は何も提示しない。
 警備の人が、こちらを睨む。
 意図が分からなかったが、自然と私もにらみ返していた。
「気を付けて」
「ああ」と言って鬼塚が敬礼をして返す。
 私も見よう見まねで敬礼をする。
 正面の穴にエレベータのカゴが降りてきた。
「これ? ですか?」
 鬼塚が乗り込むと、大きくカゴが揺れた。
 続いて私が乗り込む。
 警備の人が近づいてきて、何か操作した。
 再びの敬礼。
 鬼塚刑事は背中をまげて、相手に見えるよう敬礼する。
 ゆっくりとカゴが上昇しはじめる。
 時折通過するフロアにも扉はなく、ただ真っ暗な空間が広がっている。
「あそこ、どうなっているです?」
「データセンターとしては動いているよ。よく見てみるといい。サーバーやスイッチのLEDが見えるはずだ」
 確かにデータの送受信やストレージのアクセス、電源、といった類のLEDが点灯、点滅している。
「な、何か動きました」
「ここは、ロボットが管理しているからな。そいつが動いてるんだろうさ」
「ロボット?」
「テープメディアの定期交換や、壊れた電源やストレージユニットを交換しているのさ」
 真上には〈転送者〉がうようよいるのに、〈某データセンタープロジェクト〉は止められないというのか。
 フロアはどんどん上がっていく。
「もう始まって止められないからな。中国はこの塔と同じ規模のものが三基稼働していて、四基目を建ているところだそうだ。もっとも、データ密度が基準に達していないらしくて、ドイツに作られた最新の一基と同じ容量らしいが」
 フロアの様子をもっとみたくて近寄って眺めていると、景色が一瞬で床の断面に切り替わった。
「おいっ、ぼーっとしていると、危ないぞ。うっかり首を出したら、切られて死ぬんだからな」
 危ない。自分でも危なかったと思う。
 私は上を指さして言う。
「鬼塚さん、こんな状態で、ここまでデータを収集する必要ってあるんですか?」
「なにしろ〈某データセンタープロジェクト〉は人類の未来をかけたプロジェクトらしいからな」
「そうじゃなくて」
 鬼塚刑事は両手を広げ、肩をすくめた。
「俺に理由がわかると思うか?」
「……」
「その通りだ。俺に聞いたって答えば出ない」
 床を過ぎると、またフロアの様子が見える。
 フロア表示を見ると『B3』となっていた。
「おお、そろそろだな」
「これ、どこまで行くんですか?」
 急にフロアから流れ込む空気が冷たくなってきた。
 私は上着の前を合わせ、ジッパーを締めた。
「一階で止まる。そこからは階段だ。一階から上は極寒だからな、〈転送者〉の動きも鈍い。鈍いが、パワーは一緒だぞ」
「はい」
 正面を見つめる。
 次は床、次がフロア、床、フロア、ときたら停止する。
 数えながら、待つ。
 真っ暗なフロアが見え始める。
「出るぞ!」
 鬼塚が言った。よくみると、そこは真っ暗なのではない。〈転送者〉のE体がこの中に入ろうとしているのだ。
「〈転送者〉をカゴ内に入れるな」
「はい!」
 動きは鈍いが、どんどんこっちに押し寄せてくる。

「待ってて、マミ。必ず助けるから」
 鬼塚刑事の背中にしがみつきながら、私は何度もそう言った。
 何が見えて、何を判断しているのか分からなかったが、鬼塚は跳ねるように素早く林を駆け抜けた。
 セントラルデータセンターが見えてくると、舗装された道に近づき、急に二本足で立ち上がった。
「ほら、白井」
 挟んでいた足をはなし、肩を掴んでいた手を離した。
「もう着いたの?」
「後は歩けるだろう」
 私はその塔…… セントラルデータセンターを睨みつけた。
 〈扉〉の支配者が、マミを連れて行った。
 罠かもしれないが、空港の時のように約束を守ってくれるかもしれない。
 〈扉〉の支配者の意図がなんなのか、私にはわからない。
 けれどマミを救い出すためには、〈扉〉の支配者に従うしかなかった。
「はい」
 地下へ入るための入り口前に、警備が立っている。
 鬼塚刑事が、手帳を見せ、あらかじめ連絡済みであることを念入りに確認する。
「その女の子が……」
 私はその警備の男をにらみつけた。
「!」
 急に敬礼をして返した。
 鬼塚が、警備に見えないようこちらにだけ微笑んだ。
『すごい殺気だ。それに、冷静だ』
 バーを開けると、鬼塚刑事と一緒に地下へ続く通路へ入った。
 新庄先生も一緒だった時に比べ、道ががたがたになっていた。
 おそらくこの前のドラゴンーー私が勝手にドラゴンだったと思っているだけだがーーを軍が処理したときの跡なのだろう。
 道だけでなく、壁も、天井も、簡易な補修がしてあるか、補修の途中のような状況だ。
「さっき警備の男をにらんだな」
「だって『女の子』の言い方が……」
「別に責めるわけじゃない。伝わったと思うが、すごい殺気だったし、かつ冷静だった。今日はこの後もそれが必要だ。強い闘志と冷静さだ」
 歩きながら私はうなずいた。
「闘志が萎えればやられるし、冷静さを欠くと友達を取り返すことができない。二つがバランスしていないとまずい」
 鬼塚がこの上に立つ、セントラルデータセンターを指さして言う。
「この上には、まだ無数の扉が存在する。つまり、〈転送者〉はいくらでも出てくる。そこでは倒しきる、勝ち切るなんてことはありえない」
「はい」
「友達を取り返す。これが一番重要なんだ。取り返して、自分自身も帰ってくる」
 何度もきいた、と私は思った。
「くどいが、忘れてはいけない」
 こっちの心理が読めるのか、と思ってドキッとする。
 私と鬼塚刑事、そして、たぶん新庄先生。
 この三人は、同類なのだ。
 人ではない遺伝子を持ったキメラ。変身する怪物。
 私たちは互いにテレパスのように、音波ではない信号で意志を伝えることができる。
 私が鬼塚刑事に出会った最初のころ、『おれを呼べ』と言っていた意味がそれだった。
 けれど、伝えようとしなければ、心は読まれないはずだ。
 私は試しにあることを考えた。
「白井、時間がない。すこし走るぞ」
 車が事故を起こした関係で、つくのが遅れた。
 鬼塚はそのせいで、少し走ろうと言っているのだろう。
 私はさらに試しつづけた。
「だから、早くいくぞ」
 よかった。
 私の考えを読まれていれば、こんな受け答えにならないはずだ。
 叱られるか、ぶん殴らている。
「……安心しました」
「?」
「いえ、なんでもないです」

「何それ、どうやってるの?」
「(もぐもごもごごもごご)」
「あ、ゴメン。後で良いから」
 おにぎりも、一口二口と消えていき、三口目には腹に収まっている。
「何なのこの|娘(こ)」
 亜夢には聞こえないよう清川は顔をそむけてからそうつぶやいた。
 しばらくその様子を眺めていたら、宣言通り、あっと言う間におにぎり十個を食べきった。
「すごいわね……」
「海苔がなければもっと食べれるんですけどね」
「何? もっと食べれるの?」
 おにぎりのむき方を聞くつもりだったが、もっと食べてれるという方に驚きがいった。
「海苔は結構口の中での抵抗が大きいんで」
 清川は自分が食べたわけもないのに満腹になった気になって、ため息をついた。
 その間に亜夢は壁際にある電子レンジのところへ、スパゲティと焼鳥を温めに行った。
 亜夢が戻ってくると、清川は言った。
「そう言えばさっきのおにぎりのむき方だけどさ」
「(もぐもごもごごもごご)」
「また?」
 亜夢は自分の胸をドンドンと叩いた。
「だ、大丈夫?」
 清川は立ち上がって亜夢の後ろに周り、背中を軽く叩く。
「ご、ごめんなさい。さっきのおにぎりのやつですけど。うちの学園で流行ってんですよ。だから練習したんです」
「そ、そうなのね。学校にいる頃って、変な事が流行るのよね」
 清川は微笑みながら椅子に戻った。
 食事を終えると、シャワーを浴びて下着を着替えた。
 亜夢は脱いだ下着を洗剤で洗って干した。
「合宿所みたいでごめんね」
 清川がすまなそうに言う。
 仮眠室に案内されると、なるべく暗くなりそうな場所を選んだ。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
 清川が仮眠室を出ていくと、亜夢は中谷から借りたキャンセラーを頭につけた。
「これ付けてたら、寝返りは出来ないな……」
 しかし、これがないと超能力干渉電波が出ている都心では、超能力者は寝ることが出来ない。干渉電波のノイズが、超能力者の脳に直接影響を与えるのだ。
 都心には、事件、事故の要因になりかねない超能力者を、都心から遠ざける為に張り巡らされたアンテナがある。携帯電波の受信アンテナに併設され、干渉電波を出しているのだ。
 亜夢はタブレットで見せられた映像を思い出していた。
 確かに中心に映っていた者にはとてもじゃないが、電撃を出すことはできないだろう。
 しかし、映っていないもう一人がいるとしたら……
 考えても答えが出ない問題で、悩んでいると、いつの間にか亜夢は目を閉じ、眠りについていた。
 
 
 
 亜夢は目を覚まし、うがいをすると、昨日洗って干した下着を取り込みに洗濯場に向かった。
 警察署内のエレベータを下りて、道に迷っていると、清川巡査が現れた。
「清川さん」
 亜夢が呼ぶと、清川は反応して背筋がピンっとなった。
「ら、乱橋さん、どうしたの?」
「えっと、昨日下着を干していたところに行きたかったんですけど、場所忘れちゃって」
「ああ…… それならこっちよ」
 清川がクルリと向きを変えて亜夢を案内する。
 洗濯機と洗濯ロープが張ってある部屋に入ると、亜夢は首をかしげた。
「……どうしたの乱橋さん?」
「ないんです。下着」
「?」
 清川もざっと洗濯ロープをみて、指差した。
「確か、ここにかけたわよね」
 その先には確かに下着が干してある。
「違うんです。それじゃないんです」
「そうかしら? 場所が同じなら、多分これなんじゃないかしら」
「……」
「もしかしたら、誰か間違えたのかもね」
「どうしたらいいんですか?」
 困った顔で清川をみつめる。
「とりあえず、これを持ってたら? 女子職員に間違えてないか、当たってみるけど」
「えっ、他の人のを持っていくんですか?」
「大丈夫、洗濯したからここに掛けてるんだから」
 亜夢はじっとその下着を見つめる。
「大きさは大丈夫そうですけど……」
 清川がパッとその下着を取って、亜夢に押し付けるように渡した。
「大丈夫、大丈夫」

 〈鳥の巣〉内は避難区域でもある。それなのに、〈某データセンタープロジェクト〉のために情報技術者が集められている。
 避難区域に住むような感覚で働いている連中がいる。
『お前は合宿には出るな』
 鬼塚が心に訴えかける。
『お前は〈転送者〉を呼び込んでしまう。合宿の他の連中を巻き込んでしまう』
 けど…… 先生が、出るようにと。
『今日のようなことを繰り返したいのか』
 したくはない。繰り返したくなんかない。
『今日、すべての決着がつけば別だが』
 すべての決着?
『何もかもが、〈転送者〉の騒ぎが今日終わるのなら』
 もしかして、私にそれが出来る、のだろうか。
 そんな力が、私にあるのだろうか。
『白井、冷静になれ。今日は友達を取り返すことだけに集中しろ。たった一人の力で決着なんかつかない。つくのなら俺がやってやる。誰にも迷惑をかけないように』
 そうだ。私に出来るのなら、もうとっくに鬼塚刑事がやっているだろう。
 今日はマミ、マミを助けることだけを考えよう。
「なんか変だ」
 山咲が叫んだ。
「天気がおかしい」
 夜の空はどうなっているのかよく見えない。
 ただ、セントラルデータセンターの方に稲妻が光った。
「降るぞ」
 言い終わる前に、激しい雨が降り始めた。
 先を走っていた車が急減速する。
 避けようと山咲が急に車線変更を試みると、車の挙動がおかしくなる。
「マズイ」
 鬼塚が言うと、車はスピンした。
 車両のよこから雨が吹き込んでくる。
 死ぬのか…… 一瞬、スピンしている車のなかで、ゆっくりとそんなことを考える。
 一周回った後、車はよろよろと立ち直ったが、激しい衝撃を受ける。
「きゃっ!」
 どうやら、後ろから追突されたようだった。
 車両のフレームが歪んでいる。
 まだ車は止まらない。
 後ろでも激しい衝撃音と、ガラスの飛び散る音がする。
「玉突き事故だ」
「まさか自分が事故の先頭になるなんて」
 山崎は路肩に車を寄せながら、悔しそうにハンドルを叩いた。
「それにしてもすごい雨だ」
「鬼塚刑事、すみませんが、この車両では送っていけません」
「まぁ、しかたない」
 山咲にとってみれば、私と鬼塚刑事を載せてセントラルデータセンターに向かうことは、本来の業務ではないのだ。
 なのに車両事故を起こしてしまえば、その処理を優先するのはしかたないことだった。
「後ろの事故の処理もありますから、歩いて行ってください。そんなに距離はないはずです」
 私と鬼塚刑事はシートベルトを外すと、高速道路の路肩に立った。
「ここを外れたら、俺が運んでやるから心配するな」
「運ぶって」
「黙って俺に乗ればいい」
 二人は、草の生えた路肩を上って、金網を乗り越えると、暗い林に入った。
 鬼塚が、唸るような低い声を上げると、四つん這いになった。
 そして…… 顔は虎に、手と足も虎そのものになっていた。
『乗れ』
 私の心に直接言葉が聞こえてきた。
 鬼塚刑事の背中にのると、膝で体を挟み、肩をつかんだ。
『行くぞ』
 その言葉が伝わると、同時に咆哮があった。
 林の中の道なき道を、走り始めた。

「そうだ、ちょっと急だったんで、私、下着を持ってきてないんです。買えるところないですか?」
「そうか。だから……」
 清川はなにか気づいたようにそう言った。
「ああ、ちょっと買い物に行こうか。大丈夫よ、気に入ったのはないかもしれないけど、売っているところはあるから」
「良かった」
 亜夢は胸のまえで手を合わせるようにして、そう言った。
 警察署を出ると、二人は大通りを歩いてから、地下に入った。
 地下街の店は殆どシャッターが閉まっていて、数件ある飲み屋の客と、フラフラ歩いていく酔っぱらいのおっさん以外、すれ違うこともなかった。
「都心には来たことあるの?」
「いいえ。小学生のころは関東に住んではいたんですが、都心には滅多にこなかったんです」
「じゃあ、そのころに超能力があるって分かったの?」
「あ、あの…… そういうのは余り言わないで欲しいんですが」
「あっ! ごめんなさい」
 清川巡査は口を手で抑え、頭を下げた。
「じゃ、話題を変えよっか。さっき、加山さん達がさっさと出ていったでしょ? あれなんだか分かる?」
「終電に間に合わないからじゃないですか?」
「車で帰るんだから終電なんてかんけいないのよ。加山さんはあなたのことを考えて急いだんじゃないかしら」
「えっ……」
「あなたが下着を持っていないのを知ってたのか、知らなかったとしても何かしら女性同士で話させようと、したんだと思うよ」
「そっか。だから」
「中谷さんは何を考えてたか知らないけどね」
 亜夢は笑った。
 地下鉄の駅付近まで歩くと、コンビニが開いていた。中には会社員らしいスーツの男と、バイト帰りか大学生のような男の人が一人、本を立ち読みしている。
「(なんか恥ずかしい)」
 亜夢は小声でそう言った。
「(大丈夫。私も買ってるから。私が後ろに並ぶからなにを持ってレジに行ったか見られないし)」
 亜夢はうなずいてカゴを取った。
「あ、そうだ。乱橋さん食事は?」
「まだです」
「じゃあ、食べるものを選んで、そっちは私が買うから」
「え、遠慮します」
「そうじゃないの、お金はちゃんと署から出るから大丈夫、安心して」
「そうなんですか、何でもいいんですか?」
 清川はうなずいた。
 亜夢が手招きするので、清川が行くと、おにぎりの棚から一種類ずつカゴに入れはじめた。
「えっ…… ちょっと、何個食べるの?」
「あ、まだですよ」
 亜夢は、スパゲティと焼鳥、サラダをかごに入れた。
「おにぎりが…… 10個、スパゲティに焼き鳥、サラダ…… まあ、金額的には問題ないけど」
 亜夢が清川に向かって手を合わせた。
「スイーツも良いですか?」
「ええ。 ……けど、食べ切れるの?」
「雰囲気的には、ちょっと足らないかな、って感じです」
「マジ?」
 亜夢はニッコリ笑った。
 清川巡査はすこし呆れ気味だった。
 その後、亜夢はやっと下着を選びレジに並んだ。
 二人は買い物を終えると、地下道を着た通りに戻った。
 人気が無くなった頃、清川は言った。
「あのさ。下着を買うより、こんなに食べ物買う方が恥ずかしいよ」
「大丈夫ですよ。周りの人はこれを一人で食べるなんて思いませんから」
「はぁ…… 確かにこの量ならそうかもね」
 署に戻ると、二人は休憩室に入った。
「仮眠室は食事できるような場所がないのよ」
 清川はそう言ってテーブルの椅子を引いた。
 同じようなテーブルが幾つかあって、窓際で一人同じようにコンビニ食をとっていた。
 亜夢は清川の向かいに座ると、コンビニ袋をテーブルに置いた。
「清川巡査は食事は良いんですか?」
「私は夜勤だからね。もう少し夜が遅くなってから食べるの」
「すみません。それでは頂きます」
「どうぞ」
 すると、おにぎりのビニールをむき始めた。
 あっという間におにぎりが口の中に消えていった。
「えっ?」
 清川は亜夢の手元をじっと見ていた。
 小指を器用に使って真ん中の線を引っ張ると同時ぐらいに左右も引っ張って、ワンアクションでおにぎりが完成していた。

「上着は、今は脱いだほうがいいわね。向こうで着なさい」
「ありがとうございます」
 私はお礼を言ってから頭を上げると、急に距離を縮めてきて、キスをされた。
「大丈夫。勝てるわ」
「……」
「何がわかるの? って顔してるわね。根拠がなくても信じなさい。あなたは勝つ。それ、大事なことよ」
 よく理解できなかったが、私はうなずいた。
「行ってきます」
 私が先に立って階段を下りた。
「服、洗って返してね」
 私は小さく笑った。
 玄関の扉を開くと、新庄先生が手のひらをこちらに向けていた。
「ほらっ!」
 ハイタッチすると、私は勢いよく玄関を飛び出した。
 勝とう…… いや、私は勝つ。
 助手席に乗り込むと、鬼塚刑事が言った。
「顔つきがかわったな。ここに来るまでは後悔でいっぱい、って感じだったが」
 顔を見合わせた。
「いい顔になってる。戦う顔だ」
 車が門を出ると、緊急車両のランプを上に出すと、タイヤを鳴らして急加速を始めた。
「飛ばすぞ」
 
 
 
 〈鳥の巣〉のゲートを抜けて入ると、この前と同じように山咲刑事が車を待機させていた。
「おかえりなさい」
 鬼塚が体を折ってのぞき込むと、山咲がそう言って笑った。
「何度も悪いな」
 鬼塚はそう言って助手席に乗り込む。
 〈鳥の巣〉内では〈転送者〉の侵入口となる扉や蓋といったものは極力削除されている。
 コアが抜けられない極小のものや、セントラルデータセンター上層階を除いては。
 そんなことを思い出しながら後部座席に座る。
 やはり車の後ろにもドアはない。トランクの部分もそう。ボンネットもはずされている。
「短期間にセントラルデータセンターに二度も入るって、この|娘(こ)は何者なんですか?」
「すまない。何も言わずにつれて行ってくれ」
「上からの指示もあるから、連れてはいきます。行きますが……」
「……」
「……準備いいですか」
 鬼塚が振り返る。
 私はうなずく。
「行ってくれ」
 車が動き出す。
 破壊された街を過ぎると、かつての高速道路へ入る。この道は空港とその先のデータセンターまでつながっている。
「セントラルデータセンターですが、この前、軍が入った後、冷却層の温度が少し上がりはじめているようです」
「なにか、影響が出ているのか?」
「そこまではわかりませんが、〈転送者〉が出やすくなっているかもしれません」
「……以前聞いたことがある」
 高速で移動する車では、かなり大声を張らないといけない。
 私は流れる外の景色をみながら、体の上のシートベルトをぎゅっとつかんだ。
「冷却層の温度が影響するのは、セントラルデータセンター内の〈転送者〉の数だけではないらしい。周囲への広がりかたや、発生率にまで影響が出るそうだ」
「確かにそういう傾向があるのは聞いたことがあります。だとすると、この夏は怖いですね」
 そんな中でセントラルデータセンターで合宿をするというのか。
「そういう状況で再構築を進めている方が怖い」
「夏に百葉高校の合宿があるんです」
 鬼塚が聞き返す。
「なんだって?」
「合宿やるんです」
「ああ! なんかそんなことを聞きました。君の学校だったの?」
「大丈夫なんでしょうか?」
「聞いてなかったの? 結構ヤバいよ。警察には規制する権限はないんだけどね。何せ〈鳥の巣〉内は特区だから」

 門の前に車を回すと、新庄先生に電話した。
『ついた? 開けとくから勝手に入ってきて』
「わかりました」
 わかりました、と言っている間に通話は切れていた。
 目の前の門が自動で開くと、鬼塚は車を塀の中に入れ、新庄の家の前に止めた。
「ちょっと着替えてきます」
 急いで車を降りると、走って新庄先生の家に入った。
 さっき言っていた通り鍵は開いていた。
 入ると、そのまま家に上がった。
「先生、おじゃまします」
「上に来て」
 私はドアに鍵をして階段を上がっていった。
「とりあえず冬物をだしたわ。こっから選んで。ちょっとホコリくさいかもしれないけど」
「ありがとうございます」
 部屋の床、ベッドの上にインナー、上着、パンツ、マフラー、コートのが見えるように散らばっていた。
「セントラルデータセンター…… こんな服がいるってことは、冷却層の上に行くのね」
「……」
 これから選ぶのは時間がかかる。
「選んでいる時間に、脱いどきなさいよ」
 新庄先生が私の背後に回った。
「急に電話して押しかけてくるなんて、また鬼塚のバカが行き当たりばったりなせいね?」
「あっ、あの……」
「こんなこと気にしないで急いで服選んでよ。私だって、本当はここに居られるのはイヤなのよ」
「服なら自分で脱ぎますから……」
 私は膝に力をいれて、足を閉じた。
「ほらっ、力を抜かないと脱がせられないじゃない」
 本当に脱がせるだけなんだろうか、と思いながらも、少し力を抜いた。
 いきなり、制服のスカートからおろされた。
「かわいいパンティね」
「あのっ!」
「なに? 選び終わったの?」
「まだですけど、あのっ、今、」
 確かにおしりに唇…… というか舌で舐めてきた。
「舐めたりしないでください」
「大丈夫よ」
 だめだ、後ろにいられたら何をしでかすかわからない。
「先生、おすすめはどれですか?」
「えっ?」
「とびきり暖かいやつは?」
 私の上着を脱がせたところでやめ、新庄先生は私の横にたった。
「これと、これ。下はこれね」
 指さしたかと思うと、また背後に回って服を脱がせ始めた。
 ペロリ、と背骨に沿って舌でなめあげられた。
「ひっ……」
「緊張してるわね。緊張の『ん』がカタカナになるほど」
「ど、どういういみですか」
「私がただ若い女の子をなめたくてなめてるわけじゃないの。何を考えているのか、どういう状態なのかわかるのよ」
「……」
 確かにすごく緊張している。
 今日、これからセントラルデータセンターに行き、さらわれたマミを取り返さなければならない。失敗は許されない。
「緊張は動きを抑制するわ。完全なパフォーマンスを発揮しないと勝てない。緊張は損よ」
「けど、またこの前みたいには……」
「そうね。今日はもう時間もないしね。……だから、可能なかぎり今してあげる」
 一枚、一枚着ているものを脱がされながら、新庄先生に愛撫される。
 指のなぞり方、動きの一つ一つが無駄なく、感じるところをくまなくたどっていく。
 完全に裸になったときには、緊張感の『き』の字すら頭になくなっていた。
 そして、ぴったりしたインナーをつけると、その上からタッチされ、耳元にささやかれる。
「あなたは獣になるの」
 新庄先生からものすごくいい匂いがしてきて、このまま抱かれていたくなる。
「あっ、違う…… 着ないと」
 レギンス、上には薄いがきっちり空気の入ったダウンを羽織った。
 頭には毛糸の帽子を被った。
「ゴーグルも持っていったら?」
「スキーするわけじゃないですから」
「……本気よ。寒いなら目もあけれなくなるはず。濃い色はついてないから、大丈夫」
 新庄先生に言われるまま選んで着た服は、かなりスリムなタイプのスキーウェアだった。
 とにかく薄いレギンスのようなもので、下はすっきりしている。しかし、一番したに着たインナーのおかけで暑いくらいだ。

 映像を見ると、こんどは距離を保って警官が取り囲む。
「あっ!」
 雷のように光が走り、警官が倒れていく。
 光の枝が、その人物を中心にして、何本も放たれる。
「……」
 画像がホワイトアウトして動画が終わった。
「カメラが壊れてこれ以降は映ってない」
「その男を探せ」
 そう言いながら、梶谷署長は机の端を見つめている。
「男…… ですか?」
 亜夢の問いに、加山も中谷も答えなかった。
「……」
「いいからさっさと探し出すんだ!」
 梶谷署長は立ち上がると、怒ったような足取りで部屋を出ていった。
「何かマズいこと言ったんでしょうか?」
「きにするな」
「大丈夫だよ、確かにあの映像では男かどうかは分からないね」
「超能力者なんでしょうか? あの電撃が超能力を元にしたものだとしたら相当レベルが高いです」
「何を言っているんだ。君も電撃を使ったと聞く」
「……」
 加山は手を広げて言った。
「正直に言っていい。ここで何を言ってもあの時の罪には問うつもりはない」
「ちょっと質が違います。私は霧の水を凍らせ、それ同士をぶつけて静電気を発生させています。いわば雲のなかで行われていることをやったに過ぎません。いまの映像からすると、あの人物は直接電子を放っていた。もっと直接的に電子を取り出すような力があるということになります」
「えっ?」
 加山は今までと違う、マヌケな表情になった。
「直接的に電子を取り出す方が難しいの? なんか凍らせてぶつけて静電気を発生させるのも十分難しいと思うが……」
「確かに、私がイメージ出来ない、というだけでこの人にとっては簡単なことかも知れませんが。あと、その前の、ピストルの玉を弾くなんてもっと尋常じゃないです。どれだけの集中をすればあんなことが出来るのか、想像つきません」
 首をひねっている加山に代わり、中谷が言った。
「いままであった超能力者でこういう力を持っている人とあったことは?」
「ないです」
「ボクが超能力者だとして、イメージするとしたら、この雷の受け側に陽電子を集めるように……」
「出来ないです。出来る人にあったこともないし」
 中谷は自らの口を手で覆った。
 代わって加山がしゃべり始めた。
「出来ないって、それにしてもすぐ否定するね。それじゃ、この人物は超能力者ではない、ってことかな?」
 亜夢は何か返事を躊躇っているようだった。
「あんな電撃は出来ない、って決めつけるのは早かったのに、超能力者かどうかについてはやけに慎重なんだね」
「……」
「まあ、とにかく探しているのはこの人物で間違いない。今日はもう遅い。明日から始めよう」
 加山がまとめると、中谷も片付け始めた。
「加山さん、あの、どこに泊まるんですか?」
「ホテルがとってある…… と言いたいところだが。急だったもんでな。君は|警察署(ここ)で泊まってもらう」
「えっ……」
「大丈夫、加山さんは自分の家に帰るから。女子の仮眠室があるからそこで寝てね。あと、これも置いていくから」
 中谷はヘッドホン型の〈キャンセラー〉を差し出した。
 亜夢は会釈をして受け取った。
「俺が家に帰るから安心とはどういう意味だ? 言っとくけど、こいつも家に帰るから大丈夫だぞ」
 加山は中谷の頭に拳を立ててそう言った。
 応接室の扉がノックされた。
「どうぞ」
 加山が言うと、制服の女性警官が入ってきた。
 髪は短かったが、艶があって綺麗だった。
「こんばんわ…… あ、こちらが?」
「そう、こちらが乱橋くん、で、こちらが清川巡査。今日は仮眠室を使ってここで寝てもらうので、署内のことは清川くんに何でも聞いてくれ。悪いが、私と中谷はここで失礼する」
 加山は立ち上がると、中谷を引っ張りあげるようにして立ち上がらせた。
「じゃ、頼んだよ。それじゃ、明日」
 二人が出ていった。
「えっ……」
 亜夢はあっけにとられていた。
「あ、若くて頼りなく見えるかもしれないけど、何でも聞いてね。お風呂は使えないけど、シャワーなら浴びれるし」
 椅子に座っている亜夢は、見上げるように清川巡査の顔を見た。

 先頭車両の女性に動きはない。
『(気づいてはいないみたい)』
 マミの手を握る。
 車両が完全に停止し、目の前のドアが開く。
 ホームには誰もない。
 先頭車両の女性にも動きはない。
 駅のアナウンスが流れる。
『(行くよ?)』
『!』
 ドアが閉まり始めるタイミングで私はドアの外にでた。
 しかし、繋いでいたてが引っ張られる。
『痛い!』
 私はマミの声に、一瞬、手を離した。
『マミっ?』
 横にマミはいない。振り返るとドアは閉まっている。
『マミっ!』
 マミの後ろに、赤黒のカチューシャをした女性が立っている。
『マミ!』
 叫んでいるマミの声が、ドア越しに小さく聞こえる。
『助けて!』

 繰り返し繰り返し、何度も何度も、あの光景が思い返される。
 ためらわずにマミをこっちに引っ張っていれば…… もしかしてさらわれずに済んだかもしれない。
 そう思うと、余計に悔しくなる。
「聞こえてるか?」
「……」
「だから、聞こえてるか?」
「なんですか?」
「聞こえてなかったみたいだな」
「……」
「白井も見た地下のあの化物は、あの後、軍が完全に排除した。だから、連中が来い、と言っているのは冷却層である地上一階より上のことだろう」
「冷却層…… ですか?」
「一階から上は〈転送者〉の出入りが多すぎて〈扉〉を消去できていない。だから〈転送者〉を出さないために冷却層で壁をつくっているのさ」
 なんとなく、ぼんやりと想像した。
「冷却層の上のフロアも、冷却層よりはましだが相当に寒い。そもそもセントラルデータセンターはコンピュータを冷やすために冷却装置はかなり充実していたが、それが〈転送者〉が活性化しないようにする役にたっている」
「お前、寒いなかで戦えるのか?」
「知りません」
「……それもそうか」
 急に車にブレーキを掛け、道の端に出ると、ターンして、南に向きを変えた。
「自分で言ってて忘れていたよ。寒い中で戦える、薄くて暖かくて動ける服が必要だ」
「今買える訳……」
「新庄んところだよ。ほら、電話してくれ」
「私が言うんですか?」
「だれが着る服なんだよ」
 小刻みにハンドルを操作しながら、鬼塚が言った。
「電話します」
 スマフォを取り出して、電話をかける。
 何回かコールしても出ない。一旦切ろうか、と思った頃に新庄の声がした。
『白井さん? 珍しいわね』
「あの、私、またセントラルデータセンターに行かなきゃならなくて」
『えっ? なんで? けど、私行けないわよ?』
「あの、そうじゃなくて、また服を」
『服? またドロつけちゃったの?』
「……」
 スマフォを膝に置くと、鬼塚がちらりとこちらを見る。
「どうした? 早く話さないと家に着くぞ」
 スマフォを再び耳につける。
「新庄先生、私、セントラルデータセンターの上のフロアに行くんです。薄くて、暖かくて、動きやすい服をお借りしたいんです」
『今の季節ってわかってる?』
「わかってます。けど、いそいでるんです」
『……』
 通話が切られてしまった。私は膝にスマフォを置いた。
「用意してくれるのか?」
「通話を切られました」
「……あいつも短気だな。とにかく新庄んとこに行く」
 しばらく車を走らせると、小さな門があり、塀で囲まれた幾つかの家があった。

「ヘッドホンじゃなくて、干渉電波キャンセラーだね。してみてよ」
 亜夢は意味も分からず、それを頭にかけた。
「スイッチ入れるね」
 耳を覆われている亜夢には、中谷の声が小さく聞こえた。
 亜夢の中で、世界が静寂を取り戻した。
「し、静かになった……」
「そう? 良かった。これなら眠れるね?」
 確かにあんなに響いていた超能力干渉電波…… けたたましいほどのノイズが、何も聞こえなくなった。しかし……
「……」
「どうしたの?」
「なんでもありません。ありがとうございます」
 用意してあった車に着くと、加山が何か合図した。運転する人が加わり、加山と亜夢と中谷は亜夢を真ん中にして後部座席に座った。
「ゴーグルをつけてください」
 干渉電波キャンセラーの上からゴーグルをつけると、また同じような真昼のビーチが目の前に現れた。
 誰もいない、こころが乱されない映像。
「まだ時間がかかる。君は寝ててもいいぞ」
「はい」
「寝るなら肩を貸すから寄りかかってもいいよ」
「中谷っ!」
 目と耳が覆われている亜夢の口元が少し微笑んだ。
「準備できたぞ。出発だ」
 
 
 
 亜夢達を乗せた車が車回しをゆっくり入って、あるビルの正面口の前にとまる。
 中谷が出ると、ビルの正面口から制服の警官が出てきた。
「ただいま戻りました」
 車から降りようとしてた亜夢は、中谷の声と態度にびっくりした。
 あんなにいい加減だったのに、やっぱり警察官なのだと思った。
「加山…… 今日はどうする」
 制服の警官が呼びかけると、車の反対側から下りた加山がスマフォで時間を確認して言った。
「今のうちに説明だけしましょう。捜索は明日朝から」
「乱橋さん、キャンセラーもはずして」
 中谷が亜夢にそう言った。
「乱橋くん。この方が今回の捜索の責任者になる梶谷署長」
「……」
 梶谷署長と呼ばれた制服の男は、軽く会釈をしただけだった。
 亜夢は頭を下げ、挨拶した。
「よろしくお願いします」
「どれくらいのレベルなんだ」
 梶谷署長は加山に向かって言った。
 加山は中谷にパソコンを開かせた。
「……」
 梶谷署長は亜夢の方を睨みつけた。
「!」
 梶谷には、オーラというか、威圧感があった。
 ただ睨まれただけなのに、亜夢は体を突き飛ばされたように感じた。
 亜夢の頭の中には、飛行場ほどではないにせよ、かなりの干渉波が来ていて、何も集中出来なかったが、一瞬、梶谷署長の声が聞こえた。
『超能力者は敵だ』
 目の前の梶谷署長から発せられたかどうか、確かめようとするが、再び干渉電波で頭の中がめちゃくちゃになった。
「……」
「乱橋さん大丈夫?」
「中谷さん、平気ですから」
 亜夢は両手で押しとどめるような仕草をした。
 全員で応接室のような部屋に入ると、まず梶谷が奥の座席に一人座り足を組んだ。
 加山と中谷が亜夢の正面に立った。
「乱橋くん、まずは座って」
 亜夢が座ると、加山と中谷も座った。
 中谷がタブレットをテーブルに置くと、それを操作した。
「乱橋くん、これ見えるかな?」
 少し前に乗り出して、タブレットに映し出された映像を見た。
 男…… いや画像が悪すぎて性別は特定出来ないが、中心に映っている人物がフラフラと歩いている。
 何かの警官がフラフラ歩いている人物に近寄っていくと、バタバタと倒れてしまう。
「なんで倒れたんですか?」
「すぐ分かる」
 映っている人物の周りで何かが弾かれたように光った。
「弾丸を弾いたようだな」
「弾丸って…… ピストルの玉のことですか?」
 加山がうなずく。


登場人物

白井公子 ーー ツインテールの女学生。黒い翼を持つ鳥のような力を持ち、変身出来る。
木更津麻実 ーー 公子のルームメイト。公子のそばにいるせいか、〈転送者〉に狙われてしまう。
鬼塚虎牙 ーー 2m200kgの刑事。虎の力を持ち、変身出来る。


用語

〈鳥の巣〉 ーー 〈某システムダウン〉が発生し、セントラルデータセンターを中心とした円形に壁を築いて立ち入り禁止とした。壁が鳥の巣のようだったことから、そう呼ばれる。

〈某データセンタープロジェクト〉 ーー 全ての事象を情報化し蓄積することを根幹としたプロジェクト。この中心地、セントラルデータセンターが〈某システムダウン〉を引き起こした。

〈某システムダウン〉 ーー セントラルデータセンターが停止すると同時に内部に突如〈転送者〉が現れ、殺戮・破壊が始まった。〈鳥の巣〉を形成し〈転送者〉の封じ込めと、セントラルデータセンターの冷却強化により膠着状態にある。











 部活をしている学生も下校したようで、学校は職員室だけが明るく光っていた。
 鬼塚刑事の車が止まり、私は薄暗い百葉高校に降りた。
 担任の佐藤が、校舎から出てくる。
「白井、大丈夫か?」
 うなずくが、声が出ない。
「先生、白井から状況は聞きました。私から説明します」
「とにかく、中に」
 面談室を一つ開けて、私と佐藤先生と鬼塚刑事が入る。
 誰かが扉を閉めようとした佐藤先生を引き止めた。
「私も話を聞く」
「学校長…… 」
 佐藤先生は鬼塚刑事の方をみる。
 鬼塚刑事がうなずく。
「では場所を変えますか」
「ここでいい」
 そう言って学校長が入ってきた。
 横幅のある学校長と更に大きい鬼塚がいることで、狭い面談室は一気に息苦しくなった。
「刑事さん。どうぞ座ってください」
 学校長が座ると、佐藤先生も座った。
「白井くんも」
 私は座ったが、まともに先生の顔を見れなかった。
「何があったんですか」
 佐藤先生が言うと、鬼塚が話し始めた。
「白井さんと木更津さんが入院先から学生寮に戻る途中、新交通で〈転送者〉を含む何者かに襲撃され、木更津さんが〈扉〉の向こうに連れ去られたようです」
「……」
「いや、それはさっき電話で私も聞いています」
 と佐藤。学校長は、
「で、その何者かというのは、まだ判らんのですかな?」
「判ってません。ただ、周囲に〈転送者〉が出ました。〈扉〉の向こうへ連れ去れれた、という話は多くはありませんが、今までなかった話でもありません」
「〈扉〉の向こうというのは確かなんですか?」
「白井さんの証言からそう判断しています。現場は封鎖して検証していますから確実なことは言えませんが……」
 鬼塚刑事が少し間をおいてから
『それと』
 佐藤先生と鬼塚刑事の言葉がぶつかった。
「どうぞ」
 と佐藤先生が言った。
「行方不明になっている木更津さんの捜索に、白井さんをお借りしたいんです」
「……容疑者の面通しとか、そういうことですか?」
「詳細は捜査上の秘密でして答えられません」
「学校としては白井くんの両親に……」
「学校長」
 そう言って佐藤が話を止めて、学校長に何か耳打ちしている。
「わかりました。白井くんは捜査に協力してくれるかな」
「はい」
 私が行かねばマミは返ってこない。
「鬼塚刑事、よろしくおお願いいたします」
 学校長はそう言って深々と頭を下げた。
「わかりました」
 鬼塚刑事が立ち上がる。
 その影で部屋が暗くなる。
「白井、寮には連絡したのか?」
「……すみません。できていません」
「そうか。寮にはこっちで話しておくから、心配するな」
「では」
 鬼塚が部屋を出て行く。
 私は慌ててそれを追いかける。
「セントラルデータセンター…… こんなに短期間に二度もいくことになろうとはな」
 鬼塚が車にのると、グッと沈み込んだ。
 私は助手席に乗り込むとシートベルトをつけた。
「ギリギリで呼ぶなよ。木更津マミの姿が見えたら迷わず呼べ。とにかくなんとかしなければならないんだ。わかったな」
「はい」
 車は静かに走り出した。
 流れていく風景をみていた。
 いや、そうではない。それはただの光の強弱でしかなかった。

『(ドアが閉まるころに一緒に飛び出すよ)』
 マミはうなずく。

そうでした。
一言書き忘れていました。
『ツインテールはババア声2』が終わりました。
ご愛読ありがとうございました。

変な終わり方ですみません。
すぐに『3』を掲載する予定です。
よろしくお願いいたします。

 スイッチが切れたようにドアに掛かっていた力が抜ける。
 同時に、自分の腕がガラスの先に見えた。
 ということは…… 転送が終わった?
「まさか、〈扉〉の支配者、に連れ去られた?」
 車両が急減速して音を立てる。
 車両が完全に停止すると、声がした。
『何かございましたか?』
 車両の各扉の上についているディスプレイに駅員の顔が映る。
「いえ…… 何も」
 自分の表情が、とても『何も』なかったような顔ではないことは知っている。
 けれど、口ではそういわないといけない。そう思った。
『関係者用の扉が開いたので緊急で停止させて頂きました』
「えっ…… あっ、な、なんか閉まってなかったみたいですよ」
 私は泣きながらそう言って顔を伏せた。
『ここに〈転送者〉を向かわせている。もう逃げられない』
「えっ?」
 もう一度、ドアの上の画面を見ると、そこに駅員が映っていない。
 さっきまで車両にいた、カチューシャの女になっている。
「あなた、〈扉〉の支配者なの?」
『木更津は頂いた』
「マミっ、やっぱりそっちに連れてかれ……」
『返して欲しければ、セントラルデータセンターに来い』
「どういうこと?」
 映像が消えた。
 駅員の画像も出てこない。
 ふと、後部車両を見ると、理由がわかった。
 止まっていた車両が、ガクン、と揺れた。
「〈転送者〉…… お前が出てこなければっ!」
 さっき入ってきた割れた窓から、高架の外へ飛び出した。
 飛び出した、というより、下の道路へ落ちていく。
 私は翼を広げ、拳に力を込めた。
「許さない。〈転送者〉も〈扉〉の支配者とかいう奴も」
 高く高く上昇し、螺旋を描きなら〈転送者〉に向かって降下する。
 羽ばたき、降下のスピードを上げたら、向きを変え、足先爪に力を込めると、体をスピンさせる。
「貫けっ!」
 二体いた〈転送者〉の後ろにいた一体の体を切り裂いた。
 E体の体から、コアがぽろりと線路に落ち、二つに割れた。
 実体が気化するように広がりながら消えていく。
「来なさい」
 E体が言葉を理解したかのように、こっちに向かって走ってくる。大きく、アンバランスな腕をブンブンと音を立てながら。
「んっ!」
 ギリギリまでひきつけ、接触まであと一歩のところで、こちらから踏み込む。
 一直線に突き出した拳が、E体の中心をえぐる。
「ヴヴヴィウヴァ……」
 コアが割れる音がした。
 まるで空気が抜けるような、間抜けな音がして、E体は広がって、消えていった。
 〈転送者〉には勝った…… けど……
「マミ…… マミ……」
 線路の上に膝をついて、座り込んでしまった。
 背中の翼で、身体を包み隠した。
 その闇の中で、私は顔を手で覆い、泣いた。
 ごめん、マミ。私のせいだ。
 ごめん。マミ。
 本当にごめん。
 マミ…… 助けるから。
 マミ、待っていて。
 お願い、マミ。無事でいて……
 マミ…… マミ……



 終わり

「……よし」
 中谷も亜夢と同じようなゴーグルを付けてシートに座った。
 ノートPCのパッドを操作してタップすると、中谷も声を上げた。
「おぉ……」
「いやぁ〜〜」
 亜夢が声を上げた。
「おいっ! どうした!」
 パイロットと話していた加山が声をかける。
「裸の男の人が現れました!」
「そんな訳……」
 加山は中谷がVRゴーグルをしていることに気付いた。
 そして中谷のVRゴーグル、パソコンと繋がっていたケーブルを引き抜いた。
「これで消えたろう?」
「あっ、消えました」
「よし。中谷、いいか、警告するぞ。二度とするな」
 それはヘリの室内でも響くような大声だった。
 中谷はゴーグルを外さず、震えながらうなずいた。
 加山は座席に戻ってパイロットに合図した。
 エンジン音が高まって、機体が浮き上がった。
 ヘリコプターは垂直に上昇続けた。
 高度がでると、今度は前傾して更に加速を始めた。
「気持ち悪い……」
 亜夢は目に見える景色と体が感じる加速度に強い違和感を感じていた。
「中谷、映像を合わせてやれ」
「……」
「中谷、聞こえてるんだろ?」
 ゴーグルをはずして、亜夢の映像の調整を始めた。
「亜夢ちゃん、こんな感じでどうかな?」
「はい…… だいぶ楽になりました」
 亜夢が見ている映像も飛行高度で海の上を飛んでいる映像だった。
 ただし、どこへも到着しない無限の映像だった。
「中谷。気持ち悪いから、『亜夢ちゃん』で呼び方やめろ」 
「……加山さんに気持ち悪いって言われる筋合いはないです」
 小さいほおを膨らませて怒った風の顔をつくる。
「加山さん、別に『亜夢ちゃん』でもいいですよ」
「いや。君が呼んでもいいとか、悪いとかという意味じゃない。仕事と私事の区別がわからなくなる、という理由があるんだ」
「じゃあ、『亜夢たん』ならいいですか?」
 加山は中谷の頭をはたいた。
「お前は、彼女のことは『乱橋さん』と呼ぶこと」
「……はい」
 声だけを聞いていた亜夢は、なんとなく加山と中谷のやり取りを頭のなかで想像してクスッと笑った。
 
 
 
 ヘリが着陸する寸前まで、亜夢は寝ていた。
 ゴーグルに映し出されている映像が、暗くなったせいもあったが、単調なプロペラの音以外に何も聞こえない影響も大きかった。
 しかし、ヘリが空港に付くかというところで、耐え切れずに目をさました。
 強力なノイズが、頭に直接放射されはじめたからだった。
 ここは、特に超能力者に侵入されては困る場所なのだ、と亜夢は感じた。
 超能力干渉電波を受けると、超能力をつかうような脳の働きが阻害される。どんな超能力者にも聞くという結果が出ている。普通の人間で言えば、ずっと隣で何かを叫ばれているような状態、なおかつその内容が自分に関係しているとしか思えない内容である、といった感じだろうか。無視しようとしても無視できないノイズなのだ。
 ヘリコプターが着陸すると、亜夢はゴーグルをはずされた。
 着陸場所は飛行場の隅のようだった。下りて、飛行場を歩いている内、ここが通常の飛行場ではないことが分かった。目に入る機体が通常の航空機ではなく、戦闘機の類や、大型の輸送機だったからだ。
 亜夢は加山にたずねた。
「ここは……」
「質問されても答えられん。ここからは車で移動する。車に乗ったらまたゴーグルを付けさせてもらう」
「わかりました」
 亜夢の頭の中に、かなり強いノイズが入ってきていた。
 もうこの周辺は大都市圏に違いない。超能力者はこの干渉電波をテレパシーとして受けてしまって、寝れなくなくなるのだ。物理的な音なら慣れで無視出来るのだろうが、超能力者にとって直接入り込んでくるこのノイズは、慣れて無視することが出来なかった。
「乱橋さん。もうだいぶ影響あるかな?」
「……」
「超能力干渉電波だよ。空港だから相当強く出ているはずだよね」
 亜夢はうなずいてから、答えた。
「何も考えられなくなるぐらいです……」
「ほら、コレをするといい」
 中谷がカバンから白い大きめのヘッドホンを取り出した。
 耳あて部分が大きく、その真ん中に赤く文字が入っていた。
「本当はヘルメットタイプが良いんだけど、持ち歩くには大きすぎてね」
「ヘッドホンですか?」
 亜夢はヘッドホン受取り、それを眺めた。

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