「今の映像を見る限り、この人、カメラに気づいています。通るとしたら、一つ反対側とか」
「……」
四人はビルの外に出て、あたりをぐるっと回り始める。
清川が口を開いた。
「あっちもこっちもカメラがついてますね」
「この周辺のカメラの全てに気づいているとしたら? どうしますかね」
「あのカメラの位置からして、大通りに向かおうとしているわけだ」
「可能な限り別の道を行きたいんじゃないですか?」
「何個仕掛けられますか?」
亜夢が中谷に言う。
「持ってきているのは三個だけど、あのビル以外だとオーナーに許可を取る必要があるね」
「地下とかを通って、カメラを避けることはできないでしょうか?」
「大通りまで出れば地下通りがあるが、こっち方向はない。だいたい、そこは川だし」
「川? ちょっと行ってみませんか?」
「亜夢ちゃん何か気づいたの?」
「中谷、『乱橋さん』だ」
「川なら、橋の数には限りがあるから」
「なるほどね」
全員で歩きはじめていたが、清川が立ち止まる。
「あの、そっちに川なかったですよ」
「?」
「多分、川の上はあっちもこっちもビルが立ってしまってます」
「そうか、そうだったな……」
亜夢は、向かっていた方向に人の|意識(・・)を感じた。
「!」
「どうした?」
亜夢が走り出した。
「清川巡査」
加山が指示するかしないかのタイミングで、清川は亜夢を追い始めた。
「加山さん。何があったんですか?」
「超能力、なんじゃないか?」
亜夢がビルの角を曲がると、先の角を逆方向に曲がっていく人影を見つけた。
『単独行動をするな』
振り返ると清川巡査が走って追いてきた。
「急いで」
清川の手をとると、亜夢は曲がっていった人物を追いかけ始めた。
「どうしたの?」
「おそらく、映像に映っている人物です」
「マジ?」
「だから急いでください」
角を曲がると、先にフードをかぶった人物が走っている。
「あの人?」
亜夢は答えない。しかし、その人物を追っている。
「ねぇ、あのひと?」
清川は息を切らしながら亜夢に問いかける。
亜夢は後ろを向いて口に指を立てる。
「静かにしてください」
苛立っているようだった。
亜夢がまた前を向いたときには、フードをかぶった人物が消えていた。
二人はは見失ったあたりまで走り、左右の道を素早く確認した。
「ごめん、私のせいだ」
清川巡査が息を切らせながらそう言う。
「いえ」
亜夢もそれなりに苦しそうに答える。
「けど、あの映像で犯人はフードをかぶっていたかしら?」
「こっちに気づいて、フードをかぶった感じです」
亜夢は左右のどちらに曲がったかはわからないが、正面の坂を見つめた。
大通りからこっちへ向かってくると、昔あった川の上にビルが立ち並んでいて、さらにその奥に並行して道が走っている。
その向こう側の坂は、全体に丘のように高くなっていて、住宅街になっていた。
「この通りを左右どちらかに行ったか」
「坂なので、坂をまっすぐ登っていっても見えなくはなりますね」
「つまりどの方向にも可能性はあるのね」
「この通りよりは、住宅街の方が可能性は高いですが」
「あれ?」
清川が何か思いだしたようにそう言った。
「ここ、なんか来たような」
「思い出せますか?」
「ちょっと歩けば思い出すかも」
清川が先になって、坂を登り始めた。