「挟まれた……」
車両に乗り込む為には、この二体の〈転送者〉を倒せ、ということか。
いや、奴らをかわしてギリギリで車両に乗り込めば……
「隙きだらけだよ」
窓ガラスを割って、女の棒が最短距離で突き出された。
ホームすれすれに走って乗り込もうとしていた為に、左肩にもろに食らってしまう。
「ちっ……」
ホームに膝をついた私に、さらに女の棒が振り下ろされる。
「くっ」
車両から遠ざかるように体を反らせて避ける。
E体が今目覚めたかのように、私を見つけ、腕を振り下ろしてくる。
「こいつはもらっていく」
発射メロディがなり、ホームドアが閉じられる。
立ち上がろうとするところを、〈転送者〉の腕が狙ってくる。
「んっ」
腕を十字に組み合わせて、その腕を受け止める。
固い。重い。速い。
あっという間に制服の袖がボロボロになって、血が流れている。
恐怖から来る興奮のせいか、擦り傷のような痛みしか感じない。
もう一体の〈転送者〉も間合いを詰めてくる。
『鬼塚さん…… 鬼塚さん助けて……』
心のなかで呼び続ける。
もう十分に列車と離れたはず。早く変身して……
「うわっ!」
後から近づいてきた〈転送者〉の腕が、振り下ろされる。
逃げ場がない…… いや、飛び込むしかない。
正面の〈転送者〉のふところに一気に飛び込み、そのまま両足を変身させて突き立てる。
「倒れろ! 倒れろ!」
近づき過ぎた私に腕を震えなくなったE体は、両腕を使って潰そうとしてくる。
私は両腕を広げて抵抗する。
それでも足は何度も〈転送者〉の腹を蹴り続ける。
「ヴヴヴッ」
音に気づいて横目で後ろを見ると、もう一体のE体が近づいてくる。
「もうダメ……」
いや、ダメじゃない。
「ヴァヴァヴヴヴッ」
背中に力を入れ、翼を広げる。
ドカッ、と大きな音がする。
ホームの床が砕けて石になる。
「助かった」
上空から二体の〈転送者〉を見下ろす。
「けど……」
マミを追うのか先か、〈転送者〉を処分するのが先なのか。
「鬼塚刑事……」
祈ってもパトカーの音など聞こえない。
暴れだした〈転送者〉が線路に降りて、車両を追いかけ始めた。
「マミ!」
私は到底一人では倒せない〈転送者〉を無視して列車を追った。
もう、百葉まで駅はない。
女の棒を取り上げるしかない。
そうすれば、|すくなくとも(・・・・・・)入り込む前に叩き落されることはないだろう。
屋根に降り立って、足で屋根を掴んで顔を窓に下ろす。
女は気がついて棒をついてくる。
背筋に力を入れるのと同時に、変身している足の力も使って上体をそらす。
また、さっきのように上を叩きにくるはず。
棒が来ない。
……嫌な予感がする。
私は屋根に手をかけて女が割った窓から足を入れた。
なんの抵抗もなく車両に入り込めた。
「!」
乗務員用のドアが開いている。
「〈転送者〉?」
違う。
私は慌ててそのドアに手を伸ばした。
ドアが腕に噛み付くように締め付ける。
見えるはずの腕が、そのドアのガラスの先に見えない……
「マミ! マミっ!」
ドアの取っ手を引っ張って、中に向かって叫ぶ。
「マミっ! マミっ、返事して!」