「何その目。木更津マミに言ってもいいのよ」
 そうだ、この人には逆らえない。
 小さいバッグの中から鍵を渡す。
「当然だけど、さっきのこと、先生や他の生徒にバラしたらどうなるか…… わかってるわね」
 私のマミに対する思いをバラす…… そういうことだ。
 私はそのままうなずいた。
 市川先輩は脱衣所からお風呂場へ入っていく。
 一人残った私は、悔しくてないた。
 泣きながら服を着て、戻る部屋もなく食堂に向かった。
 食事を続けている者、お菓子類をほおばっている者、お茶をしている者が残っている。
 私は奥の人のいない場所に座り、食器を返していく人を見ていた。
 繰り返し、何度もみた風景のはずだったが、そこに今日の出来事が重なって思い出される。
 体はそれを見ていたが、心はマミに言われたことや、三年の先輩たちにされた仕打ちが何度も再生されていた。
 顔を伏せて、泣いた。
 どれくらい泣いていたのか忘れたころだった。
 顔を上げ、また返却口のあたりを見て気づいた。
 食器は下げられた先から、新庄先生が浸かった水の中から取り出している。
 軽く水を切って、食洗機にセットするのだ。
 水の中には、まだ溜まっている食器もあるらしく、下げられないときも水から取り出して、軽く水をきってセット、を繰り返している。
 もう、お風呂に入れるタイミングはないし、あの感じなら、先輩は私を部屋に入れるつもりはないのだろう。
 なら、私のいる場所は……
 返却口から声をかけた。
「新庄先生、そこ入っていいですか?」
「ダメよ。片付けしているところなんだから」
「片付けがしたいんです」
「……どうしたの?」
「ダメですか?」
「怪我されたら困るから」
「……」
 新庄先生が、返却口からのぞき込んできた。
「何かあったの?」
「……別に何もありません」
 見つめてくる新庄先生から目をそらした。
「わかりやすいわね。そんなに言うなら、いいわよ。自己責任で」
「ありがとうございます」
 裏に回って、調理室へ入った。
 新庄先生が立っている返却口へ向かい、そこへ立った。
「ほら、これ貸したげる」
 新庄先生が前掛けを付けてくれた。
「軽く汚れをはらって、食洗機に入れて。これいっぱいになったら、私を呼んで。機械を動かすから」
「はい」
「私は洗い終わった食器を並べる方をするわ」
 新庄先生は食洗機にかけた後の食器を、棚にしまい始めた。
 私は使っている水に手をつっこで、食器を取り出し、汚れを水ですすぎ、食洗器にセットした。
 単純な作業の繰り返し。
 取って、水の中で振って汚れを落とし、食洗機にセット。
 十数回で食洗機いっぱいになった。
「先生、いっぱいになりました」
 先生は無言でこちらにきて、ボタンを押して食洗機を動かした。
「じゃ、こっちを手伝って」
 食洗機から出た食器を、棚へしまう。
 食洗機にいれるケースが空になったら、また返却口に持っていき、そこに食器をセットしていく。
 無心になって、その単純作業に没頭した。
 単純判断と簡単な決断。
 短い作業の繰り返し。
 何度もやっているうち、返却口の底が見えた。
「これで最後です」
「ありがと。あとはやっとくから」