「行くぞ」
 二人は通路を奥へ進んでいった。
 らせん上に下っていく通路には、ところどころタイヤ痕があり、薬きょうが落ちていた。
 そして、何人か兵士の死体もあった。
 車にひかれたのだろう、壁にぶつかった時の血がついている。
「敵の車にひかれてしまうから、この中まで車で追いかけるべきだったんじゃ……」
「おっ、聞こえてきたな」
 連続的に発射される弾丸の音。
「軍に間違って撃たれなように、ゆっくりと近づくぞ」
 私はうなずく。
 らせん状の通路の壁にそって進み、少し顔をだして先を確認する。
 そしてまた進んでいるうち、銃声が止まった。
「銃声がとまりました」
「軍がやられたような感じでもないな」
「慎重に進もう」
 さらに奥へ下っていくと、車の後部が見えた。
「あ、あれが父の車?」
 鬼塚はスマフォでナンバーを撮影し、照会する。
「そのようだな」
 車の後部タイヤがパンクしている。
 通路に金属性の星形をしたものが撒かれている。
「まきびしを使ったんだな」
「その星形のもののことですか?」
「ああ。結構な数があるぞ、ふむなよ」
 足をするようにしてまきびしを避けながら前にすすむ。
「何か見えますか?」
「いや」
 車の近くに行くと、運転席の正面のガラスが割れているのがわかる。
 運転席には誰もすわっていない。後部座席には…… 人が横たわっている。
「オレーシャ?」
 私はまきびしをどかしながら車への道を作る。
 鬼塚刑事はもっと先に見える明かりを追って奥へ進む。
 車の横にたどり着いた瞬間、顔の正面に銃口が見えた。
「両手を車にのぜろ」
 こっちに銃口を向けた男は、シートにうずくまっているオレーシャの横を、するするっと抜けてこちら側に出てくる。
 その間も銃口はずっと私を狙っていて、今は後頭部に向けられている。
 背後に回った男は、鬼塚に向かって言う。
「止まれ、止まらないとこいつを撃つぞ」
「鬼塚刑事、こいつが山咲です」
 鬼塚はこちらを振り返って、まきびしを避けた道をゆっくり戻ってくる。
「そっちの男、止まれって言ってるんだ、こいつが死んでもいいのか?」
 鬼塚は止まらない。
 まさか、撃てるものなら撃ってみろ、というつもりなのか。
 私の反応速度が間に合うかは分からない
『タイミングは俺が指示する』
『やっぱり撃たせるつもりなの?』
『ちゃんと見えているから安心しろ。この男より白井の方が速い』
 と、頭の中に鬼塚の言葉が伝わってくる。
『さん』
「お前がやる気なのはわかったが、俺は容赦しないぞ。こいつを撃って、次はお前を撃つ。俺の方が速い」
『にい』
 鬼塚が立ち止まった。
「そうだ、それが利口なやりかただ」
『いち』
 鬼塚は手をついて、四つん這いになった。
「それはなんの真似だ?」
『いまだ!』
 鬼塚の顔はトラに変わり、手も、足もトラそのものだった。まきびしのよけてある細い道を山咲に向かって、駆け戻ってくる。
 私は背中の翼をまっすぐ後ろに向かって伸ばし、頭を前に落とす。
 山咲を騙るその男は、引き金を引くが、翼が一瞬先に当たって通路の壁に跳弾する。