その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2017年10月

 美優はもう覚醒し始めているのかも知れない。
 お尻をつく寸前、亜夢には美優の体が浮いたようにみえた。
「美優、今の……」
「みーつけ」
 男の声だった。
 視線をむけると、空き地の端にバイクに乗ったロン毛の男がいた。つづけて、バイクのエンジン音が聞こえてくる。
「おっ、いるいる。女子四人だぜ」
 そいつは腹にさらしを巻いて、上半身裸だった。
「ちょうどいいな…… って、一人足りねぇじゃねぇか。一人連れてこいって、呼び出させるか」
 半帽に黒いマスクをした男はそう言った。
「ひと|気(け)のないところで見つかるとは都合がいいな」
 そう言ったのはバットを持っている男だった。
「気を付けろ、土管の近くに立ってる女だ」
 その声は灰色のつなぎを来た男……
「……小林」
「えっ、変態とか、痴漢だっていう人?」
 亜夢の声に、美優は慌てて立ち上がる。
「ここに何しに来た」
「わかるだろ。何度も馬鹿にされたままじゃ済まねぇんだよ」
 次々とバイクから降り、男五人は空き地に入ってくる。
「まったく、ヒカジョとは言え、こんなガキどもにビビるなんて」
 バットを持った男が言った。そいつが体つきも一番大きく、態度も大きかった。
 亜夢が男たちの方へ近づいて、左手を伸ばす。
「この|娘(こ)達に手出したら承知しないよ」
「ああ。まずはお前で徹底的に遊んでやるから安心しな」
 バットを振り出して、両手で竹刀のように構えた。
 そして、顎をクイッと動かすと、残りの連中が突っ込んできた。
 さらしを巻いた男が、しゃがんで手を開いて地面に着けていた。
「くらぇ」
 バカは行動する前に声にだしてしまう。
 亜夢は|念動力(テレキネシス)で風を起こし、土埃をそのまま相手に返した。
「ぐはっ、何しやがる」
「バカ、やる前にしゃべるからだ」
 半帽に黒マスクの男は、そう言って棒を突き出してくる。
 亜夢は左右にステップしながら避けると、今度はつくのではなく、水平に振り回し始めた。
 今度は後ろに下がって避けるが、後ろにはアキナや奈々、美優がいる。
 続けて踏み込んで振り回す棒を、亜夢は片手で受けにいく。
 一瞬、手のひらの手前で棒が止まった。
「なにっ?」
 そのまま亜夢は棒を掴んで引き、半帽の男が倒れ込みながら突っ込んでくるところに、右こぶしを振り下ろした。
「ぐぇ……」
 亜夢の拳が当たったか、当たらないかのあたりで男は、地面に突っ伏して、動かなくなった。
「やるね」
 バットを持った男は姿勢を保ったまま、亜夢との間合いを詰めていた。
「くらぇ」
 さらしを巻いた男が両手で土を放った。
 空に飛散した土は、再びさらしを巻いた男の顔面に返された。
「ぐはっ、何しやがる」
「だから、やる前に言うなよ」
 そう言うと、バットを持った男が、次の男に指図した。
 ロン毛の男が、ファイティングポーズをとって前に出てくる。
 フットワークの感じから、ボクシングの心得があることが分かる。
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 そして私の手を掴むと、アリスは自らの胸の上に引き寄せた。
「えっ、えっ!?」
 私は「ぐー」のままだと不自然だから、と思い、手を開いた。
 ぺたり、と手の平がアリスの胸を包むように置かれる。
 暖かい。
 いや、それより柔らかい。
 手の平に伝わってくる感触が、脳を溶かすようだった。
「アリス? 何、これ?」
「白井! お前何やってんだ?」
「!」
 私は慌ててアリスの手を引っ張って、先生に見られないよう、階段側へ引き込んだ。
 倒れかけたアリスは私にしがみつくように抱きついてきた。
 ぎゅっと包まれる感じが、なんとなくマミと抱擁した時に似ている。
 胸やお尻のサイズも……
 いや、全体的にマミに似ている。
 チアキがミハルに似ているような、入れ物が同じで中身が違うものみたいな……
 気が付くと、私の唇とアリスの唇が近づいていた。
 鼻をぶつけないように、お互いが首をかしげている。
 こ、このままじゃ……
「白井?」
 男の人の声。
 私は慌てて体を突き離す。
「さ、佐藤先生」
「そっちは例の転校生のきたじま……」
「アリス」
 急にそう言った。
 アリスは、今の今まで声を出さなかったのに。
 佐藤がまるで思い出したように手のひらを叩いた。
「そうだったな。北島アリス。うん。おぼえてるよ」
「……」
「しかし、白井はここで何してたんだ。北島を見つけてくれたんだったら助かったが」
「いえ、私は……」
 言いかけている私を制して、佐藤はアリスの手を引いて階段を下り始める。
「まあいいか。教室に戻ろう」
 何か、変だ。
 昨日の不思議な人影と、北島アリスの転校が、何か関連しているような気がしてならなかった。
 誰かが、何か学校に仕掛けている。
「佐藤先生」
 階段を下りている途中で尋ねた。
「警備員さんがいっぱいいるって聞いたんですけど、本当ですか?」
 佐藤先生が、頭の後ろを掻きながら答えた。
「そうみたいだな」
「何があったんです?」
「昨日、学校に侵入者がいてな」
「……」
 一瞬、アリスが佐藤先生の顔をみたようだった。
「いや。いなかった。そんなことはなかったんだ」
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 予想に反して、その人影は〈転送者〉ではなかった。
 昨日の小さなE体のような、人ではない人型ではない。百葉高校の制服を来て、頭の先から、つま先まで完璧な女生徒だった。私のように何かを探しに教室を出たか、おトイレの為に教室を出たのか。
 私は階段のスペースから、少しだけ顔を出してその人影をじっと見つめた。
 教室の扉に手をかけて、しばらくすると手をひっこめた。
「!」
 気づかれた? 私は慌てて顔をひっこめ、背中を壁にぴったりとつけてから、再び覗き見るためのタイミングをまった。
 しかし、何も音がしない……
 待っていると、階段側から先生が上がってきた。
「……白井?」
 私は慌てて指を一本、口の前に立てる。
「?」
 先生はそのまま人影がいる方の廊下へ曲がっていってしまう。
 すっと顔を出して廊下を見つめる。
 女生徒は先生の顔を見ても何も言わない。
「ん? 君は……」
 先生が何か女生徒を見ている。
「教室が分からないの?」
 先生が、くるっと振り返り私を指さす。
 私は慌てて体をひっこめる。
「白井! 何隠れてんだ。お前のクラスだ。連れてってやってくれ」
「?」
 私は階段のスペースに引っ込んだまま、首をひねった。
「あんな|娘(こ)いたっけ?」
「ほら、白井…… 頼んだぞ」
「!」
 横をみると、その女生徒が立っていた。
 まゆのちょっと上で綺麗に切り揃えられた髪。産毛すらないように整えられた白い肌。何か作られたような完璧さを感じてしまう。
「は、はじめまして」
 聞こえたのか、聞こえていないのか分からない。女生徒はあまりに無反応だった。
「あっ」
 その胸元を見て、なぜ先生が私のクラスだと言ったのかが分かった。
 名札をしていたのだ。そこにはクラス名とともに氏名も書いてある。
「北島アリス?」
 バチバチ、っと大きな瞬きをした後、女生徒はうなずいた。
 そんな名前のクラスメイトは知らない。
 大体全寮制なのだ。転校してくる前に寮で知ったり、会う可能性だってある。一切、そういう情報がない時点で……
「(それだけの理由なら、ミハルやチアキだって……)」
 そう、突然の転校生という意味だと、ミハルやチアキが来た時もおなじように突然だった。
「白井? そこにいるのか?」
 先生が廊下から叫んだ。
 アリスだけが先生から見える位置に立っていたから、不自然に思ったのだろう。
「ちゃんと連れて行けよ」
「今日転校生がくるなんて聞いてませんよ」
「佐藤さんに確認してくれ…… 俺も分からん」
 そんないい加減なことがあか。職員全員が集まったところで話しがあるはずだ。
 そう思っていると、突然、アリスが私に微笑んだ。
「えっ?」
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「まるで反重力を使って浮いているように見えた」
「超能力もそういう奇跡の力を使えるわけじゃないの」
 美優は奈々がいないことに気が付いて、あたりを見回した。
 奈々は亜夢の前で腕を合わせ、何かアピールしているようだった。
「すごいよ亜夢、なんかキレが増したみたい」
「そうかな」
「すごいよ、すごい。まるで飛んでいるようだったし」
「ん~、けど。もっと長く遠くとべるよう練習しないとね」
「えらいなぁ、亜夢は」
 美優の視線に気づいたのか、アキナが言った。
「あの二人は、いっつもあんな感じだ」
「あの二人って、出来てんの?」
 美優はアキナを睨みつけるように言った。
「|デキテル(・・・・)って?」
「あそこまでなのか、一線を越えているのか、ってこと」
「えっ? そんなの…… そんなこと…… どんなこと? あるわけないじゃん」
 アキナは視線が定まらず、足がバタバタしている。
「アキナ、女の子同士でも肉体関係はアリだと思う?」
「……そ、そんなこと聞かれても」
 美優はニヤリと笑った。
「私はアリだと思う。現に私、亜夢とラブホに入ったし」
「ラっ……」
 アキナは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
 美優はアキナをほったらかして、亜夢のところに駆け寄った。
「亜夢、すごいね。もう一回見せてよ」
 近くで見ると、すごい汗をかいていて、息も切れていた。
「美優、亜夢はすごいから楽々やっているみたいに見えるけど、これ、簡単な事じゃないんだよ」
 あんただって超能力使えないんだから、わからないだろうが、と美優は思った。
「あ、いいよ。練習だから、やって見せるね」
「ありがとう!」
 美優は亜夢に気付かれないように奈々に『あっかんべー』をした。
「行くよ」
 ゆっくり大きくステップを踏んでから、亜夢が走り出す。
 土管の近くに来ると、飛び上がって、見えない滑り台の上をスライドするように土管に入っていく。
「!」
 確かに細かく土埃が立っている。空気を操っている証拠だ。
 そして亜夢が反対側から出てくると、その周囲の草が巻き上がるように動く。
「空気の流れが……」
 美優に目には亜夢の動きの周りにある、空気の流れが見え始めていた。
 亜夢は鮮やかに空を舞い、再び二人の前に降り立った。
「すごい!」
 奈々がまた駆け寄る。
「私も……」
 美優は奈々のことが気にならなくなっていた。
 見た空気の流れを、自分も作れるかも。そう思って、土管に向かって駆け出していた。
「!」
 美優は飛び上がって、足を前に頬りだすと、そのまま地面にお尻をついてしまった。
「あれ?」
「美優、あなた何やってるの?」
 奈々が言った。
 亜夢は小走りに美優に駆け寄った。
 そして、手を差し伸べ……
「!」
「亜夢、大丈夫。痛くなかったし」
 もしかして、と亜夢は思った。
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 私は廊下を指さして言った。
「先生が追いかけていた、さっきの人影はどうなったんです?」
「……ああ。見失った。理科室の扉を入っていたところまでは見たんだが、理科室のどこにもいなかったし、出て行ってもいないようだった。以上だ。では、授業を始める」
「……」
 無言で座席に座った。
 コアが言った通りあの不自然な人影が〈転送者〉だとすれば、扉を開いてそこから向こう側へ帰ることも可能だ。扉から向こうへ帰ったのであれば、佐藤が探しても見つかるわけがない。
 もし〈転送者〉だったとして、何をしようとしているのだろう。コアは扉の支配者がテストをしているのでは、と言っていた。
「テストねぇ……」
「白井。『テストねえ』ってなんだ。テストがしたいのか?」
「い、いえ。なんでもありません。独り言です。テストはしたくありません」
 クラスの中に乾いた笑いが生じた。
 私は恥ずかしくてうつむいた。



 次の日は、校内放送がかかって、いきなり最初の授業から自習になった。
 私達のクラスだけではなく、今日は全学年の授業が止まっていた。
「何があったんだろう」
 生徒には何も情報がなかったが、学校に何かが起こっているのは間違いなかった。
「思ったんだけど、今日、警備員、増えてた」
「鶴田、お前、普段警備員が何人いるとか知ってんのか?」
「挨拶するからな。顔は覚えてんだ」
「白井、警備員が増えてるんだって」
 ガンッ、と私は佐津間の足を踏んだ。
「いてっ、なんだよ、白井。鶴田が言ったことを伝えただけだろ」
「伝えなくても聞こえてるわよ」
 私は新庄先生へ|思念波(テレパシー)で問いかけた。
『何があったんです?』
 答えがなかった。
 廊下を眺めていると、スッと人影が通りすぎた。
「!」
 立ち上がって、その方から感じる何かを考えた。
「白井?」
 佐津間の呼びかけを無視し、目を閉じて考えを集中させた。
 何か…… ある。呼びかけているような、何か。
「佐津間…… お願いがあるんだけど」
 自習中の作業を佐津間に任せ、私は教室の外に出た。
 クラスの他の連中が騒ぎかけたが、木場田が一喝すると、騒ぎが治まった。
「(ごめん)」
 そう言って教室の扉を閉めると、通り過ぎた影の方へ走った。
 廊下には警備員がいるわけでも先生がいるわけでもなかった。
 ましてや生徒もいない。
 耳をすませていると、走っているような、歩いているような音が聞こえてくる。
「……」
 階段にでると、音が混乱した。
「(どっち)」
 下のフロアからは先生方が職員室から出てくるおとが聞こえる。
 それなら、上。
 階段を音を立てないよう静かに上がり、左右廊下を見回す。
「(いた!)」
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「それっ!」
 一気にアキナの側の地面からホコリが舞いあがり、落ちていたゴミが竜巻のように巻きながら上昇する。
 そして拳を押し込まれ、アキナがしりもちをついた。
「亜夢が勝った?」
「うん」
「アキナ、大丈夫?」
 亜夢が手を差し伸べる。
 小さく咳をしながら、アキナは差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。
「平気平気。ちょっと油断した」
「この前のあれやろうか?」
 亜夢は空き地の端にある土の小山といくつかの土管を指さした。
 一つの土管は小山を突き通すトンネルのようになっていて、もう一つの土管は穴を縦にし、煙突のようにそびえたっていた。
 美優は奈々の袖の先を引っ張った。
「何を始めるのかしら?」
 奈々は何をやるのか知っていたが、答えなかった。
「見てればわかるわ。私、これ好き」
「?」
 アキナが小山に向かって走り始めた。
 ポンと跳ねるように両足でジャンプすると、くるっと一回転し、二メートルほどの高さの土管の端にたった。
 小山を超えて、反対の土管の先に行くと、アキナは手をついて逆立ちし、そして倒れていった。
「えっ?」
 美優は驚いたように口元に手をやった。
 しゅーという音とともに、土管の中を滑空してアキナが飛び出して、着地した。
「わっ」
「あれ、土管があるから体を浮かせられるみたいよ」
 アキナが息を切らせて、小山を離れる。
 すると、亜夢もさっきのアキナと同じように小山に向かって走り出す。  
 そして、そのまま、足から吸い込まれるように土管に入る。
 反対側から飛び出てくると、土管の縁に立ち、跳ねるように飛び上がる。
 オリンピック選手が床で跳躍する高さを軽く超えている。
 そして、いつの間にか半回転して、足を空に向けている。
「あっ……」
 奈々がつぶやくようにそう言った。
 アキナが学校で見せた跳躍と同じ……
 亜夢は飛び上がった頂点でひねりながら、ゆっくりと半回転して、足を下に向けておりてくる。
「スカートはめくれないのね」
 奈々にその声は届かなかった。
 ただうっとりとその跳躍をみていた。
 すぽっ、という擬音がピッタリくるような感覚で、亜夢は縦に向いている土管に収まった。
「えっ? 何、大丈夫?」
 そう言って美優が奈々をつついた。奈々はまだうっとりとした表情のままだった。
「ねぇ、奈々?」
 言った瞬間、亜夢が縦の土管からロケットのように発射された。
 高く高く舞い上がり、何度かひねりこみながら、着地した。
 体操選手のように両手を広げてから、上に掲げた。
 奈々は一人で拍手していた。
 美優はどうしていいかわからず、その光景をみつめていた。
「すごい…… ね」
「綺麗よね」
 アキナが二人のそばに来て、言った。
「説明するけど、私達だって、空を飛べるわけじゃないの」
「えっ、ほぼほぼ飛んでたけど」
「空気の粗密を作って、高く、落ちずに長く、ジャンプしているだけなのよ」
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 私はうなずいた。
 しばらくして、私達はゆっくり体を離すと、新庄先生が『戻っていいわ』と言った。
 寮監の部屋を出ると、私まマミの部屋に戻った。



 翌日、私は百葉高校の授業を受けていた。
 父が死んでから、欠席したり、マミが休んでいたりしたせいで、久しぶりにまともに授業を受けている気がした。タブレットがフラッシュして、何度か質問を当てられたりもした。
 三時間目が始まるのを待っていた。
「来ないね」
「佐藤の授業なんか短くてもかまわないさ」
「けど、なんの連絡もなしに遅れると困る……」
 すると、廊下から大きな声が聞こえてきた。
「待て!」
「!」
 クラスの全員がその声に反応した。
「佐藤先生!」
 その時、廊下を不思議な人影が通過した。
 人が走っている影ではなかったのだ。人が歩くなり走る時、腕を振るし体が上下するはずだった。その人影は、走っているほどのスピードなのにも関わらず、腕を振る様子も、体が上下することもなかったのだ。
「何? 今の」
「君、待つんだ!」
 佐藤の声がして、影が走っていた方向へ追いかけていく。
「先生! どうしたんですか?」
 佐藤は立ち止まらず、大声で答えた。
「自習しててくれ」
 言い残すと、そのまま去ってしまった。
『今の見たか』
 私は周りを見回した。
『ここだ』
 コアがマミの頭の上空にうっすらと形を現した。
「あっ!」
 思わず声を出し、立ち上がってしまった。慌てて口を手で覆った。
「ごめん、なんでもない」
 コアが消えていくのを横目で見ながら、席に座りなおした。
『出てきちゃダメよ!』
『それより今の影見たか?』
『見たけど、なんなのよ』
『みるからに動きが不自然だったろう? あれは〈転送者〉だ』
「えっ?」
 また口を手で押さえた。委員長が注意する。
「キミコ、自習中だよ」
『学校に〈転送者〉が出たっていうの? もし出たとしたら…… 扉の数が尋常じゃなくあるのよ。手に負えない』
『さっきの感じだと、扉の支配者は、何かテストしているみたいだな』
『どういうこと』
『大量に送り込むならとっくにやっているってことさ』
 なんのことか分からないまま、時間が過ぎた。
 佐藤が疲れ果てた様子で教室に入ってきて、授業を始めた。
 私は立ち上がって質問した。
「授業の前に質問していいですか?」
「ああ、なんだ手短にな」
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 その時、いきなり部屋の扉が開く。
「新庄先生」
 まっすぐ私のところにやってきて、私の胸倉をつかんで引っ張り上げた。
「ちょっと来なさい」
 厳しい表情にチアキやミハル、マミは呆然とした表情をしていた。
 私は黙って先生の後をついて行った。
 寮監の部屋に入ると、さらに奥の部屋に入って鍵を閉めた。
「あなた何をしたのかわかっている?」
「……」
「あなたが放置した〈転送者〉が民間人を襲ったのよ。誘導していた警察官は襲われて重体なのよ。平気な顔して笑ってるんじゃないわよ」
「……平気じゃないです」
 私を追ってきた〈転送者〉撒いたせいで、目標を見失い住宅街へと進んだ。そのせいで〈転送者〉の被害が広がった。それは十分承知している、けれどマミを放置することもできなかった。
「鬼塚から聞いた」
「マミが!」
 こぶしを握り締めて言った。
「マミが危険な状態だったんです。死ぬかも知れなかった」
「木更津さんがあなたにとって大事な人だ、というのはわかる。けれど、それは他の人に頼むべきだった。あなたが優先すべきは〈転送者〉の……」
「違います」
 新庄先生を睨み返した。
「……」
「〈転送者〉は国が、つまり警察や軍が処理すべきものじゃないんですか?」
 言い終わった瞬間、頬を叩かれていた。
 最初からそうするつもりだったに違いない。
「あなたは、実際、警察や軍が〈転送者〉とろくに戦えないことはわかっているはず」
「だいたい、私、新庄先生も呼びました。どうして返事してくれないんですか?」
「たぶん、その時は研修で都心に出ていたわ」
「私が〈転送者〉を放ってしまって許されないなら、先生のそれもただの言い訳です…… 結局、私達が〈転送者〉を処理する義務はない。警察や軍はもっと強い武器を使わなきゃいけないんです。国民を守るためにも」
「だからって、〈転送者〉放置していい理由にはならない。他の人が死んでいいわけないでしょう!」
「だって…… 私だって、戦えば死ぬかもしれないのに……」
 私は耳を押さえて床を見つめた。
 新庄先生が私の肩を叩いた。
「落ち着いて」
 先生は私を抱き寄せて、言った。
「あなたのお父さんが見つけたアンテナ、あれを早く探して、壊しましょう。そうすれば、せめて〈鳥の巣〉の外で出現し無くなれば…… 私達が戦う必要はなくなるでしょう?」
「……」
 何も言わずにうなずいた。
 外で戦わなくなっても、〈鳥の巣〉の中に呼ばれることはあるかもしれない。しかし、何が起こるかわからない外よりも避難区域である〈鳥の巣〉の中での戦いの方がましだった。
「それまでの間、〈転送者〉を絶対倒せとは言わない。けれど放置してはいけない。わかったわね」
 私は答えなかった。
「わかった?」
「はい」
 新庄先生が私をぎゅっと抱きしめた。
「お願いよ」
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 放課後、学校と寮の間にある空き地に、亜夢たち四人が立っていた。
「アキナ、今日は私達だけ?」
「……まあ、いいじゃない。ごちゃごちゃいたって面倒なだけだし」
「……」
 辺りを見て、亜夢は何か考えているようだった。
 アキナは髪を後ろでゴムで止め、鍛錬の準備をした。
「亜夢。ほら、はじめよっか?」
「うん……」
 アキナが右の拳を後ろに引き、左足を踏み込む。
 美優はビックリして叫ぶ。
「亜夢! 危ない!」
「!」
 亜夢は左の拳をアキナに合わせる。
 バン、と派手な音とともに、閃光が走り、二人の姿が見えなくなる。
「亜夢!」
 美優はその光の方へ走り出していた。
 光がおさまると、アキナは突き出した右手をゆっくりと戻す。そして亜夢の姿がないことに気がつき、左右を見回す。
 美優はアキナの前で訴える。   
「アキナ、何したの? 亜夢はどこに行ったの?」
 美優がうつむいて泣きかけた時、アキナは何かを感じて空を見上げた。
「!」
「美優」
 背後から目隠しをされ、ビクッと反応する美優。
「亜夢? 亜夢でしょ? どこにいたの?」
 そっと手を離すと美優は後ろを振り返って亜夢に抱きつく。
 亜夢は指を突き立てて空を見上げる。
「空?」
「アキナの力を利用して自分の体を跳ね上げてみたんだ」
「びっくりしたよ…… もう、倒れたのかと思っちゃった」
 アキナが美優の背中を叩いて、奈々の方を見る。
「あっちに戻ってな。ここにいたら危険だから」
 美優は慌てて奈々の方へ走り去る。
「ちゃんと力比べを見せようよ」
「不意打ちしようとしたのは誰よ」
「……」
 二人は間合いを整えると、右こぶしを引き、左足を踏み込んだ。
「それっ!」
「行けぇ!」
 拳がぶつかったか、と思う瞬間、バチン、と大きな音がして付近の空気が陽炎のように歪んだ。
「なに?」
「これ、|超能力(ちから)比べなのよ」
「押し合いをしているの?」
「実際のところはわからないんだけど、そんなようなものらしいわね」
 奈々も美優と同様に自らの|潜在力(ちから)を使う術を知らない。
 亜夢とアキナがお互い振り込んだ拳同士は、触れ合うことはなかった。
 拳と拳の間に、何か斥力のようなものが働いているようだった。
 亜夢が少し押し込むと、腕を包むようなドーナツ状の空気のゆがみが大きくなった。
「すごい汗……」
 アキナは額に玉の汗をかいている。お互い、足にも力が入っている。本当に拳を中心に、押し合っているのだ。
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「な、なに? チアキ」
「やっぱり聞いてない。あんまり無視すると、トリカラもらっちゃうぞ」
「それだけはかんべん」
 私は手を合わせてチアキに謝った。
 しかしそれでも、合わせた手の先のテレビの映像を見ていた。
『住民は避難して無事でしたが、避難誘導にあたった警察官一人が意識不明の重体ということです』
「……」
 中継の映像が消える直前、鬼塚刑事がテレビカメラの方をキッとにらんだ。
 こういわれている気がした『お前が〈転送者〉を放置したせいでこんなことになった』と。
 どうしよう…… 大変なことをしてしまった。
 画面が切り替わって、スタジオの映像になった。
『この危機に対して政府の対策が遅れているように思いますね。〈鳥の巣〉をさらに1~2キロ、拡大すべきとの声も上がっています』
 コメンテーターの言葉を受けて、アナウンサーがまとめる。
『ただ、単純に〈鳥の巣〉を拡大すると、さらに周辺まで影響が拡大するため、大規模な経済的損失となります。政府の適切な対応が待たれます。それでは次のニュースです』
 そうだ私のせいだけじゃない。国がこの〈鳥の巣〉を放置するから、〈転送者〉に対策をとらないから、こんな風に被害が拡大していくんだ。私が〈転送者〉の処理を後回しにしたせいじゃない。なるべくしてなったに過ぎないんだ……
 必死に、そう思い込もうとしていた。
 だが、そう思おうとする裏で、重体となった警察官への自責の思いは大きくなっていった。
「キミコ? キミコ?」
「……」
「ほら、キミコ、もうその皿空っぽだよ?」
 パチン、と頬を叩かれた。
「……」
「ミハル?」
「キミコが返事しないから、ミハルが心配したんだよ。そうだよね?」
「……」
 私は呆然としたまま、二人への対応が出来なかった。
 しばらくして、ようやくミハルの顔が見えてきた。
 半泣きのような表情をみて、私は頭を下げた。
「ご、ごめん。心配かけた」
 食器をかたずけると、私はチアキとミハルと一緒に部屋に向かった。
 部屋に戻ると、私はマミのベッドに腰かけた
「マミ、大丈夫?」
『目は見える?』
 |思念波(テレパシー)で話しかけたが、反応がなかった。
 そうか、コアとの一体化が解けたせいで、マミはまた普通のマミに戻ったのだ。
 私は、口にして尋ねるわけにもいかないせいで、マミの顔の前で手を動かしたりして確かめた。
 最初はマミの瞳が反応せず、少し焦ったが、私の意図が伝わったようで、マミが手の動きを目で追って見せてくれた。
 そして、私の手をパッとつかむ。
「ありがとう。もうだいぶ良くなったよ」
「そうだ。ごはん、まだあるよ持ってこようか?」
 マミがうなずく。
 私は慌てて食堂へ下り、オレーシャに言って部屋で食事を持ち込む許可をもらった。
 部屋に帰るとマミは上体を起こして、ゆっくりと食事を始めた。
「良かった」
 マミは食事をとりながら、微笑んだ。私も微笑み返した。
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「あっ、いや、ない訳じゃないんだとおもうんだけど」
「私と同じだ」
 奈々の両手を包み込むように握って、美優は続ける。
「私も|潜在力(ちょうのうりょく)がわからないの。自分では使えないし」
「マジ?」
 似たような境遇に、奈々も興味が湧いたようだった。
「けど、干渉波の中じゃ眠れなくて」
「それは皆同じだよ。非科学的潜在力女子学園(ヒカジョ)に来る生徒はみんなそうだよ」
 この国では非科学的潜在力(ちょうのうりょく)は危険なものとみなされていた。公共交通機関や都市部には、超能力者が|能力(ちから)を発揮できないように、超能力者だけに効果がある干渉波を出力していた。
 人権問題になるため、その事実は公にされていない。だが、能力を持つものは都市部で生きていけないため、自然と干渉波の密度の低いこういった田舎町に移り住むようになっていた。
「不眠症で医者に行くと、検査されて。検査の結果、この学校に転校することを勧められた」
「そうだね。みんなそう」
「だって、学校の名前が『非科学的潜在力女子』って言ってるんだから、みんな|非科学的潜在力(ちょうのうりょく)があるんだよ」
 四人は顔を見合わせて笑った。

 亜夢、美優、奈々、アキナの四人は同じクラスだった。
 |森明菜(もりあきな)はウエーブした髪が肩まであって、体つきは華奢な感じがするが、目つきは鋭く、一見、不良少女のようだった。念動力や|思念波(テレパシー)が使える。
 |八重洲奈々(やえすなな)は髪型はボブだったが首の後ろは少し刈り上げているくらいのショートボブだった。まだ、自分の|潜在力(ちょうのうりょく)が何なのか、分かっていなかった。
 |西園寺美優(さいおんじみゆ)は髪は長いが、たいていの場合、ポニーテールにしていた。都心の警察署長の娘で、都心に暮らしていたが、家族が美優の能力に気付かない時、テロリストの仲間と思われる超能力者に|精神制御(マインドコントロール)されてしまい、事件を起こした。自ら超能力を使ったことはないが、空間を歪めて銃弾を弾いたり、電撃を放ったりする|潜在力(ちょうのうりょく)があるようだ。
 |乱橋亜夢(らんばしあむ)肩のあたりで切りそろえてあり、大きい瞳は言葉がいらないほど気持ちを伝えている。空気を扱うことに長けているが、体を硬化させたり、|思念波(テレパシー)も使える。
 学校はそういう非科学的潜在力を持った生徒を集めて教育していた。
 この国では超能力者にだけ影響のある超能力干渉波を使って、都心から超能力者を排除していた。学園長がその事態を憂い、その子らに救いの手を差し伸べるとともに、教育の場を与えることが目的だった。
 学園に、|潜在力(ちから)を伸ばすような授業はなかった。
 卒業して、歳をとるに従い、|潜在力(ちから)がなくなっていくのが一般的だった。|潜在力(ちから)がなくなると、干渉波の影響を受けずに生活できるようになる。つまり、|潜在力(ちから)を伸ばすことは彼女達に有利にならないのだ。
 干渉波の下では生活できない生徒を助け、教育をする。
 卒業後もしばらくはこの田舎でくらし、やがて|潜在力(ちから)を失うにつれ様々な街へと散らばっていく。
 亜夢は言った。
「みんな、そうやって超能力が使えたことを忘れていくんだ」
 美優は不思議そうに亜夢の顔を見ていた。
「それは幸せなことじゃないの? 私、年齢が上がれば|潜在力(ちから)がなくなる、なんて初めて知った」
「そうかも知れないけど。私はイヤ」
 アキナがうなずいた。
「クラスの中でも一部の|娘(こ)は私と同じ考えを持っているの。そういう|娘(こ)達で放課後、|潜在力(ちから)を強くするために自主練してるのよ」
「美優もくる?」
「……」
 美優は奈々を振り返った。
 奈々はとまどったような表情を見せた。
「奈々も見学はしているのよ」
「じゃ、見学してみる」



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「一体始末した! もう一体をそっちにおびき出すから、全員でコアを撃ち抜け」
 鬼塚は救急車の方で固まっていた警官隊へ指示した。
 ハッチがしまると救急車は、大きなサイレンを鳴らしながら走り去った。
『白井、お前も〈転送者〉の移動方向をけん制して、警官隊の正面に誘導するんだ』
 警官隊に見つからないよう、住宅に隠れながら、私は〈転送者〉の移動方向に回り込んだ。
『いいぞ、その感じだ』
『鬼塚さん、そっちに行きました』
 鬼塚も、家の陰に隠れては〈転送者〉に直接蹴り込んだりして、銃を構える警官隊の方へ追い込む。
「今だ! 撃て」
 一斉に、拳銃の音がした。
 〈転送者〉のコアは体の中をうごめき、銃弾をかわそうとしている。
 しかし、一度に撃たれたせいで、避けきれず数発あたったようだった。
 コアの移動で〈転送者〉がバランスをくずしながら、倒れ込む。
『そっちに行ったぞ。とどめをさせ』
「……っりゃ!」
 倒れ込む力を利用しながら、ハイキックの要領でコアを蹴り抜いた。
 ガツン、と住宅の壁にコアが当たり、そして割れた。
 体が黒い霧のように広がりながら、ブロックノイズのようにチリチリと変色し、消えていく。
『警官隊がそっちに行くぞ。隠れるか逃げるかしろ』
『指示ばっかり! よくやった、とかはないの?』
 小さく見える鬼塚が、私を睨んだ。
『お前のせいで…… 避難する住民を助けようとした警官が一人、〈転送者〉にやられたんだぞ!』
『えっ……』
『なぜ、戦わずに〈転送者〉を放ったんだ!』
 頭の中が真っ白になっていた。
 今まで〈転送者〉を倒すことしかしていなかった。だから、〈転送者〉を倒さずに、放った時にどうなるか、なんて考えたこともなかった。この地域に住民が残っていたこともショックだった。
『後だ。とにかくお前はこの場を去れ』
 鬼塚は顔を伏せた。
 警官隊の前に『私が倒した』と名乗り出るわけにもいかない。
 気づかれないように隠れながら、私はその場を離れた。



 マミは疲労の為か、ぐっすりと寝ていた。私は夕食を取るために食堂に下りた。食堂では、テレビがついていて、夕方のニュースが流れている。
 食事を取って、ミハルやチアキたちと一緒に夕飯を食べていると、ニュースが中継に変わった。
『今日は〈転送者〉が出たという住宅街に来ています。もう日も暮れてあたりは暗くなっています』
 あっ…… さっきいた、あそこだ。
 私はテレビにくぎ付けになった。
『住宅街へはこのように立ち入り禁止のテープが張られており、警察の現場検証が行われています』
「どうしたのキミコ?」
『〈転送者〉により、全壊となった家が三軒、損壊がみられる住宅は十数軒あるとのことです』
「えっ? ああ、ほら、ニュース。住所的には近いよ」
 チアキとミハルもテレビを見るが、あまりピンとはこないようだった。
 と、思うと中継の画面にかぶせて、隅の方に地図が表示された。
「へぇ、学校よりも〈鳥の巣〉から遠いじゃん」
「そうだね」
「ってことは、キミコ。ここらへんにも〈転送者〉がでておかしくない、ってことだよね?」
「そうだね」
 私は映像の奥に映っている巨大な人物を見ていた。
 知る限り二メートル・二百キロの人物は一人しかしらない。
「キミコ! 聞いてないでしょ?」
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『出産…… マミをそんなに苦しめたの?』
『……』
 私はコアを両手でしっかり持ち、マミの顔の正面あたりでゆっくり動かした。
 ゆっくりではあるものの、瞳が動きを追っていることがわかる。
 完全にみえていないわけでもないようだ。
「マミ、聞こえる?」
「うん」
 そう答えるマミは私を見ているのではなく、天井を見ているようだった。
「……」
 私は手に持っているコアに『消えなさい』と言った。
 手の上の|球(コア)は、弱く光ると、スッと姿を消した。
『白井!』
 強い|思念波(テレパシー)が頭を貫いた。
 私は直感的にその|思念波(テレパシー)の元の方を振り返った。
『〈転送者〉を放置したのか!』
「あっ!」
 私は慌ててバスタオルを布団の上に投げ入れ、マミの下腹部を綺麗にぬぐった。
「マミ、ゴメン。私、行かなきゃ」
「うん。わかってるよ。〈転送者〉が出たんだね」
「……」
 やはり見えていないのか、私の声に反応はするが、どこにいるかは分からないようだった。
 ゆっくりと伸ばしてくる手を両手で握り返すと、
「すぐもどってくるから」
 扉を塞いでいる机を元に戻し、扉の鍵を開けた。
 飛び出すように寮を出て、走り続ける。
 周りを確認すると、翼を広げて、〈転送者〉を撒いた付近へ向かう。
「いない……」
『こっちだ!』
 鬼塚刑事が呼ぶ。
 その方向へ向きを変え、様子をみる。
 鬼塚刑事だけではない。
 警察官が集団で〈転送者〉を囲んでいる。
 私は慌てて翼を収め、無人の住宅街を走り始める。
『どうしたらいいんですか?』
『死角を作るから、足先だけ変身するとかで倒すしかない』
『そんな……』
 遠くに鬼塚の顔が見えた。
 激しい怒りの表情を向けている。
『お前のせいで』
「!」
 銃を構える警官隊のところへ、救急車が到着する。
『今だ! 青い屋根の近くの〈転送者〉を仕留めろ』
 警官隊の意識は救急車へ向かっている。そして、もう一体の〈転送者〉には鬼塚の蹴りが入った。
 翼を広げて、一気に加速する。
 体を伸ばして、右足の爪でコアを突き割る。
「んっ!」
 私の足元で、〈転送者〉のコアが割れる。
 黒いガスが広がっていくように、〈転送者〉の体が分解していく。
 何人かの警官が、気づいて鬼塚の方を見た。
 鬼塚は拳銃を持った腕を上げて、アピールした。
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あらすじ

乱橋亜夢は超能力が使える女子高校生だった。都市部では超能力者にのみ影響を与える干渉波で守られており、超能力者は地方へ追いやられていた。地方には、そんな超能力者を集め、教育をして社会に送り出そうという非科学的潜在力女子学園(略してヒカジョ)に、ある事件をきっかけに、都市部からの転校生、西園寺美優がやってきた。


登場人物

乱橋亜夢 : ヒカジョの生徒
八重洲奈々 : 亜夢の友人。超能力が使えるらしいが、どんなことができるかわからない。
西園寺美優 : 都心での事件に巻き込まれた亜夢の友達。超能力はあるが、自らは使えない。
森明菜 : 亜夢と一緒に超能力の訓練をしている。





 非科学的潜在力女子2


 さして高くない山々に丘、何を作っているのか分からない、雑草だらけのぼんやりとした田畑。たまに通る車は、軽のトラックか、農業用のトラクターだった。のんびりした田舎町、と言えば印象がいいが、それは刺激がない、変化がないということを意味していた。
 そんな閑散とした街、いや村の風景に、突然、大勢の女子高校生の流れがあった。
 制服を着た女子の行列は、学校と、その近くにある同じぐらいの大きさの寮の間に発生する。
 おそらく、男はこれに奇妙な興奮を覚えたのだろう。
 二人で並んで歩いている女子高校生の後ろをつけはじめた。
 男に気が付いた女生徒が「気持ち悪いね」と言ったのが聞こえたかどうかはわからないが、急に女生徒を追い越し、前に回ると、いきなり立ち止まって灰色の服のチャックを下げ、ごそごそと何かを取り出した。
「キャー」
 男はその声にひるまず、そのままズカズカと歩み寄り、女生徒の手を取ると、自分の股間へ引き寄せた。
「いゃぁ!」
 声に反応して、一人の女生徒が男性を突き飛ばす。
 いや、それは正確な表現ではない。
 |手を触れずに(・・・・・・)男を吹き飛ばした。
「美優、大丈夫だった?」
「き、キモかった…… 急に跳ね上がってきたし」
 亜夢は飛び込んでくる美優を抱きしめた。  
「お、お前……」
 灰色の服の男は、亜夢を知っているようだった。
 亜夢も、男の顔をみて言った。
「あっ、あんた、もしかして、小林じゃないの?」
 亜夢の後ろから、ひょい、と顔をだした奈々が確認する。
「ほんとだ」
「アキナ、小林って捕まったんじゃなかったの?」
 前方を歩いていたウエーブの髪の女生徒が、振り返る。
「えっ?」
 亜夢と奈々が小林を指さす。
「あれ? こいつなら、ちゃんと警察に引き渡したよ」
 アキナがゆっくりと道を戻ってくる。
「あっ、お前……」
 逃げ場を失った小林は車道側に下りた。
 そして、パパッと走って道の反対側にわたる。
「覚えてろよ」
 亜夢たちに背中を向けて、出していたものをしまうと、学校と反対側へ走って逃げて行ってしまった。
「……なんなの?」
 美優が言うと、
「変態ね」
「チカンよ」
「露出狂」
 全員が顔を見合わせ、一瞬の間があってから笑顔を見せた。
「つーか警察はなにやってるのよ」
「学校でナイフ使って人質とったりしたんだから、刑務所いきじゃないの?」
「そうだよね」
「ああいう変態が野放しなのは怖いね」
 美優が震えるように言った。
「ほんと怖い」
「大丈夫」
 亜夢が美優の体を引き寄せてそう言った。
「私達が守るから。ね?」
「まかしといて」
 とアキナが言った。奈々は口元に人差し指を当てて言った。
「えっと…… 私は|潜在力(ちょうのうりょく)ないけど、応援する」
「えっ?」
 美優は、興味を持ったように奈々を見つめた。 
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 チアキとミハルにメッセージを書いて、扉の外に貼っておく。
 扉を閉めて、鍵をかけ、机をずらす。
「何やってるの……」
「マミ、しゃべらなくていいから」
「けど……」
「今入って来られたら、色んな事を色んな人に説明しなきゃならないでしょ?」
 机を扉まで動かして、マミのところへ戻る。
 玉のような汗が噴き出している。
 何か、飲み物…… カバンの中からペットボトルを取り出して、マミに渡す。
「あ、ありがとう…… けど今は飲めないよ」
「けど、こんなに汗かいちゃって」
「ああっ……」
 マミがバタバタと足を動かす。
 スウェットの腰の位置がずれるほど盛り上がっている。
「ちょっとこれ脱がせていい?」
 鍵もかかって、机を寄せているから部屋には誰も入ってこれない。マミが良ければ、だが。
 マミが苦しそうにうなずく。
 スウェットのゴムをギリギリまでひっぱると、ようやく腰を抜けた。
 スウェットの下は何も身に着けていなかった。
 出かかっているコア。
「マミ……」
「あっ、あっ、あっ!」
 物凄い声でマミが叫ぶ。私も血が頭に上って、何かしなければならない、それだけがグルグルと駆け巡る。
 私は思わずコアを掴んで引っ張った。
「……」
 私の両手に、コアが取り出された。
 コアにも、布団にマミの大量の体液が掛かっている。
『かなり迷惑をかけてしまったようだな』
『そうよ。なんで入るときはアッチでもこっちでもスッと消えるように入っていくのに、出るときはここから出てくるのよ』
 私はコアにそう言いながら、マミの股間を指さした。
「キミコ?」
『さっきもいったろう、一番出やすかったんだ』
「キミコ? もしかして、コア、出た?」
『そうよ。今私の手の中』
 |思念波(テレパシー)で話しかけるが、手ごたえがない。
『あれ?』
『木更津は私と完全に分離したからな。|思念波(テレパシー)は届かないぞ』
 マミの目は開いている。
「マミ、見える?」
「?」
 私はコアを手に持って、マミに見せていた。
 まぶたをしっかりと開いていて、こちらかはマミの瞳が完全に見えていた。
 まさか…… 失明?
「マミ? もしかして、見えない?」
「……」
 手が震えているのに気付く。
 慌ててコアに問いかける。
『あなた、マミに何かした?』
『出産に匹敵する苦しさだったと思う。この失明のような状態は、精神的なものじゃないのか?』 
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 黙ってしまって切れかけた話しを奈々がつなぐ。
「じゃあさ、その亜夢が怖くなるほどの人間が、都心にはいるってこと?」
「!」
 亜夢は想像して、寒気がしていた。
 力を集中させ、銃弾を弾く能力…… |思念波(テレパシー)で|精神制御(マインドコントロール)するテロリスト。
 超能力干渉波によって守られているはずの都心部に、もっとも強力な超能力者が隠れている可能性がある。
「どうしたの亜夢。顔色悪いよ」
「ちょっと思い出しちゃった」
「その弾丸を弾いた|娘(こ)のこと? かわいい子なんでしょ」
「それはそうなんだけど……」
 本当にこっちに戻ってきてよかったのだろうか。亜夢は思った。
 事件が解決したわけではないのに。
「あっ、こんな時間。連ドラマ始まるよ」
 奈々がそういうと、皆で部屋を出て、寮の食堂へと移動した。
 そうだ、と亜夢は思った。|思念波(テレパシー)で美優の力を操れるならば、そいつがどこにいても、美優がどこにいても、捉えてしまう。だから、美優に|精神制御(マインドコントロール)を防御する術を教えなければ、きっとまた利用される。それを出来ることができるのは、この国にはきっとここ…… ヒカジョ、しかない。
「私。間違っていた」
「?」
「どうしたの、亜夢」
 亜夢はアキナの声は聞こえていたが、反応できなかった。
 西園寺所長の家のキャンセラーを外すのはかわいそう、というのは違う。キャンセラーを外し、テロリストと戦う覚悟をもたなければ、また美優は利用されてしまうのだろう。
 亜夢は立ち止まって、廊下の窓から夜空を見た。
 その空の下にいるであろう、美優を思っていた。
「……」
 
 
 
 翌日、亜夢のクラスは午前の授業が終わり、各々が、お弁当を出したり、学食へダッシュしようと教室の扉を開けようとしていた。その時、担任が割り込んできた。
「すまんすまん、席に戻って、少し話しを聞いてくれ」
 ガタガタと聞こえていた音が、一瞬止まった。
 そして、あちこちからブツブツと文句が出る。
「先生、お弁当食べてからじゃダメだったの?」
「A定がなくなっちゃうよ~」
「TPOを考えろって、このま先生いってたじゃん」
 文句をいいながらも、皆、ぞろぞろと席に戻っていく。
「……」
 席でつっぷしていた亜夢は、何かを感じ取って、先生の横をじっと見てた。教室の外に…… 誰かいる。
「!」
 うっすらと扉に映る影に、亜夢は反応した。
「乱橋! こらっ、立ち上がるな」
 担任の言葉を完全に無視して、その扉を開けた。
「美優!」
 開けた扉の先には、都心の学校の制服のままの美優が立っていた。
「亜夢!」
 二人は飛びつくように抱き合った。
「なんで?」
「お父様が、転校しなさいって…… 亜夢、亜夢の学校って、|ここ(ヒカジョ)だったのね!」
「そうなの…… 黙っていてごめんね」
「確かに言いづらいよね。けど…… よかった。一人じゃなくて」
 美優は亜夢の顔を見つめながら涙を流した。
「よろしく。亜夢」
「こちらこそよろしく」



 終わり
 
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 二体の〈転送者〉は挟み撃ちをしようと、私を中心に常に対向の位置に動く。一方を向くと、後ろ側が近づいてくる。半身になれば、両側から迫ってくる。
 しばらく間があってから、鬼塚から答えがくる。
『今、動けない。なんとかなるか』
 なんとかなるか? マミが|危機(ピンチ)で、早く寮に帰らなければいけないのに。すでに一体倒したとは言え、鬼塚は、後二体も私一人で倒せというのか。
『無理です! 助けてください』
『こっちだって動けない時があるんだ。何とかしろ』
『なんとかしろって、どうにもならないです』
『動けない。いいか、繰り返すぞ、俺は動けない』
 警察なのに、キメラの力があるのに、ここに助けに来れないって……
『もういい!』
 私は鬼塚の応援を諦め、新庄先生に|思念波(テレパシー)を送った。
『新庄先生!』
 まったく反応がない。
『新庄先生!』
『キミコ…… 助けて』
 マミが私に助けを求めてきた。
『新庄先生!』
 一番近くにいるはずの新庄先生は、まったく反応を見せない。
 |思念波(テレパシー)は届いているはずなのに……
『キミコ…… 苦しい』
 しかたない……
 私は、翼を広げて飛び上がった。
 通学路を離れて、誰も住んでいない住宅街の上空へ飛ぶ。
 そもそも〈鳥の巣〉周辺のこの一帯は、住人が家を破棄しており廃墟となっていた。
 〈転送者〉は私を追いかけて、道を進み、邪魔なら家を壊しながら進む。
 私は〈転送者〉位置を確認し、その距離を見ながら、高度を下げていく。
 奴らが見えない高さに下がると、細い道路をスピードを上げて飛び、〈転送者〉に気付かれないように通学路へ戻った。
 これで、しばらくの間、時間が稼げる。
 意味もなく無人の家を壊したり、私を探し回って住宅街をウロウロするだろう。その間に私は寮に戻ってマミを助けることができる。
 誰も助けてくれなければ、私が|殺(や)られる可能性だってある。逃げる選択だってあっていいはずだ。
 気付くと、寮の近くまできていた。マミ以外の寮の人間に気付かれる可能性もある。私は翼を収め、通学路を走り出した。
 寮につくと靴を履き替えて、マミの部屋に向かう。
 ドンドン、と扉を叩く。マミと私は同じ部屋だったが、今、私は市川先輩と同部屋に移動になっていて、元々私の居た部屋の鍵を持っていないのだ。
「マミ、大丈夫?」
 苦しそうな声が聞こえる。
 カチッと鍵の開く音が聞こえる。
「入るね?」
 そう言いながら、そっと扉を開ける。
 扉の近くで、マミが苦しそうに床に座っている。
「大丈夫?」
「はぁ…… はぁ…… ママが、私を生んだ時もこんなだったのかな……」
 とりあえず、マミに肩につかまってもらって、立ち上がり、ベッドまで運ぶ。
 誰も入ってこれないように、鍵を……
「そうだ」
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『マミ、分かる?』
 距離が離れすぎていると|思念波(テレパシー)とは言え、うまく会話ができない。相手の識別が難しいからだ。
『マミは考えるだけでいいから』
 |思念波(テレパシー)で自分の考えを送る方が難しいのだ。
『マミ、調子はどう?』
『半分までいかないのよ…… 痛いし、苦しくて』
『えっ? コアが言っていた時間って、もうすぐじゃない?』
『そうなんだけど……』
 持っているスマフォが耳から離れてしまった。
『今どこ?』
『痛くて歩けないから、ずっと部屋にいるの』
 まずい。思ったより難産だった。
 私は先に部屋に入ってマミの秘密を守る手を打たなければならない。
『マミ、頑張ってね。私、急いで戻るから』
 今の時間、成田さんのマイクロバスは動いていない。
 〈転送者〉が出るから、ということで、今、登下校にマイクロバスを使うことになっているが、それを待っていられない。し、他の誰より早く寮にもどらなければならない。となれば、歩いて帰るしかない。
「佐津間、私、寮に戻るから、先生にそう言っといて」
「えっ? なんで?」
「頼んだわね」
 私はカバンを背負うと、そのまま走り出していた。
 周りに誰もいなくなれば、翼を使って戻っても……
 階段を降り、靴を履き替えると、通学路を全速力で走った。校舎から見えなくなった頃、私は黒い翼を広げて加速した。
 あまり上昇すると、学校から目撃されていしまうかもしれなかった。だから低空を飛んだ。
 低空をずっと飛びづ付けるには、滑空する回数を減らさねばならず、体力が必要だった。
「!」
 E体が両腕を振り上げ、上からブロックするように手を下ろしてくる。
「〈転送者〉が出たっていうこと?」
 ドン、と両腕がアスファルトに叩きつけられた。
 気が付くと、E体はその一体だけではない。
「こんなの無理だよ……」
 一体ならなんとかなるが、二体、三体といる場合は私一人で|殺(や)れるか怪しい。
「えっ?」
 両腕を叩きつけたE体の腕が、もう一体のE体を捕まえて持ち上げる。
 持ち上げたE体を、自分の肩にのせた。
 下のE体の頭部分と、上のE体の足ば融合していく…… まさか。
 私は翼を使って全速力で、E体の体を下から上へ盛り上がりながら動くものめがけて足の爪を突き立てた。
 二体のE体は融合し、下のコアを上に移そうとしていたのだ。
「壊れろぉ!」
 頭と足が融合している、薄い部分をコアが通過しようとした瞬間、私の爪が突き刺さり、コアがアスファルトに叩きつけられた。E体の体を抜けた私は、アスファルト上のコアを捉え、割った。
「あと二つ!」
 下の部分のE体が、黒い霧状に消えていく。
『どうした?』
 それは鬼塚刑事からの問いかけだった。
『E体が…… 後二体います』
『場所は?』
『百葉高校と寮のちょうど中間地点です』
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 中谷が口を開く。
「署長。我々は、あの、乱橋さんには確認したいことが……」
「メールでも電話でも、確認だけなら、やりようがあるだろう。|都心(こっち)にいると超能力者には負担が大きいと聞く」
 おそらく署長は美優の超能力に何となく気付いているんじゃないか、と亜夢は思う。
 中谷は署長にキャンセラーのことは言い出せず、上げかけた手のやり場に困ったようだった。
「いいな?」
「はい」
 清川と中谷はそう答えると同時に、姿勢を正した。
 
 
 
 陽が傾きかけたころ、亜夢は軍の飛行場にいた。
 加山は別件があってこれず、清川は業務上、ヘリには乗れなかった。中谷が一人、非科学的潜在力女子学園までヘリの旅についてくることになっていた。
 激しい超能力干渉波のせいで、亜夢は顔をしかめていた。
「つらいかい? キャンセラーは、大ぴらになるとまずいから、持ってこれなかったんだ」
「きついけど、だいじょうぶです」
「ヘリに乗れば、またあの南国の楽園さ」
「今回は、中谷さんは出てこなくていいですから」
「ああ。これ以上乱橋君に迷惑かけるわけにはいかないからね」
「……」
 亜夢は少し拍子抜けした。
 調子にのってまたこっちのVR世界に入ってくるだろう、と思っていたからだ。
 用意されたヘリに乗り込むと、亜夢はVRゴーグルをつけられた。
「規則だからね」
「はい」
 超能力者を航空機に搭乗させる場合、安全な飛行の為と他の乗客の安全を守るために超能力者にVRゴーグルをさせる決まりがあった。超能力者に起こる心の不安や、同様が航空機の安全に影響があるからだ。VRゴーグルは、それらをシャットダウンし、心の平静を保つためのものだった。
 中谷が亜夢の付けたVRゴーグルのスイッチを入れると、目の前に南の国の映像が現れた。
 左を見ても、右をみても、透明度の高い海と白い砂浜、青い海、青い空がどこまでも広がっている。
「ちゃんと見えてる?」
「はい」
 中谷はパイロットに合図すると、爆音とともにヘリは上空へと飛び立つ。
 亜夢の頭の中には、目に見える南国の楽園ではなく、美優の姿があった。
「さようなら、美優」
 もう会うこともないだろう。



「そうなんだ、いいなぁ、私もいってみたいな」
 奈々がそうつぶやいた。寮の部屋で、亜夢は美優と出会った、ブランドショップの並ぶ大通りのことを話していた。
「私も、もう次はないかな」
「えっ、亜夢なんかやらかしたの?」
「そういうわけじゃないけど。きっと次は別の人がよばれるんじゃない?」
 あの署長がもう一度自分を呼ぶわけがない、と亜夢は思っていた。
「けどいいなぁ。昔の記憶しかないけど…… 私も都心に戻りたい」
 アキナもうらやましそうに言った。
「結構怖い目にも会ったって、聞いてた?」
「まぁ、それは…… 亜夢だからさ。それはなんとかなったんでしょ」
「どういう意味よ」
「まえ、校長室の前通った時にさ、校長先生の思考を読んで、亜夢の|能力(レベル)のことを知っちゃたんだ」
「?」
「学校で五本の指に入るって。他がだれかまではわからなかったけど」
 亜夢は自身の鼻を人差し指で押さえた。
「私が? 学校で?」
「そうだよ、みんなそう思ってたけど、亜夢はすごいんだよ。特別なの」
「……」
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「キミコ、そこにいたらマミが寝れないじゃない」
「大丈夫です」
「木更津さん、具体的にどこがいたいの?」
 オレーシャは布団の中に手を入れようとする。
「オレーシャ、あなた変態なの?」
 私は腕をとってオレーシャを押し返した。
「どこがどんな風に痛いのか確認しないと……」
「マミがいたがるから触らないでください」
「痛いところをさがして、どうすると痛いのか確認するのは常識……」
「大丈夫ですから!」
 オレーシャの言葉を遮って、マミが大きな声で言った。
 そのまま顔をかくすように布団をかぶってしまった。
「木更津さん……」
「薬も飲んでますから大丈夫です」
「……」
 オレーシャは手を広げて、首を傾げた。
「先生、学校に行きますから、なにかあったらちゃんと連絡するんですよ?」
 先生は立ち上がって、部屋を出ていく。
「はい」
『あぶなかった~』
『ほんとうだね』
 私はオレーシャの後ろ姿を確認しながら、マミにそう答えた。



 マミのいない教室。私の周辺だけあまり会話がないだけで、一見するといつもの教室と変わらない。私には|大事(おおごと)だったが、全体を見れはクラスの中の一人が欠席しているにすぎない。
 私が休んでいた間は、どう感じたんだろう、と思った。
 どう思っていたんだろう。マミは。
「木更津がいないから、静かだな」
 佐津間がこっちを向いてそう言った。
 近づいてくると私の横に立った。
「マミがいると、私が騒がしい、と言いたいの?」
「……気づいていなかったのか?」
 ガンッ。
「痛っ」
 佐津間の足を踏みつけようとして、膝を机の裏にぶつけてしまった。
「モーションが大きすぎるのさ」
 佐津間が目の前で膝を上げないで、狙ったところにかかとを落とす動作を実践してみせる。
「わかるか? こう……」
「そういうの、ムカつくのよ!」
 そう言って私は佐津間を叩いた。
「少しは元気でたじゃねぇか」
「別に元気よ」
 また机の上をじっとみつめていた。
「そんなにきになるんなら、木更津に電話してみろよ」
「!」
 そうか。
「そうね」
 私は教室をでて、外を見つめた。
 別に場所を変える意味はなかった。教室にいると、佐津間のように話しかけられるかもしれないから、それが面倒だっただけだ。
 スマフォを耳につけて、通話しているフリをした。
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