その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2018年08月

 しばらくすると、声が聞こえてきた。
「放せよ、引っ張るなよ」
 松岡さんが手首をつかんで歩くのを、抵抗するように突っかかりながら歩いてくる。
 ショートボブに、ビビッドな口紅。白黒画像ではっきりとは分からなかったが、間違いない。さっき教室であった|娘(こ)だ。
 冴島さんは、霊圧を発生する機械のスイッチを切って、松岡さんの方へ進む。そして俺を手招きする。
 ショートボブの女は、冴島さんを警戒して睨みつけた。
「あなたがさっきの霊弾を?」
「……」
 言葉では答えず、首を縦に振る。
「危ない、ってことは分かっててやったわね」
「……」
「影山くんとはどういう関係?」
 冴島さんの問い詰め方が変な感じがして、俺は慌てる。
「どういう関係もさっき初めて話したぐらいですよ」
 俺がバタバタしていると見ると、冴島さんは手の平をこっちに向ける。
「黙って」
 完全に命令(コマンド)が入ってしまい、俺は口が開かなくなった。
「どういう関係?」
「別に……」
「……影山くん。この前の家族の写真を見せて」
 スマフォに入れている写真を表示させて、見せる。
「違った」
 当たり前だ、と言いたいが、命令が入っていて話すことが出来ない。
「あなた、お名前は」
「……」
「ごめんさいね。私は冴島麗子。除霊士よ」
「!」
 その|娘(こ)は急に体が震え始めた。
 やばい、何かしでかす気だ。
 けれど喋れない。
 俺はもう一度意識を集中する。
「冴島さん、危ない!」
「えっ?」
 俺の声に、冴島さんは振り返ってしまった。
 松岡さんが押さえていた腕を振り切って、その|娘(こ)が冴島さんに突っ込んでくる。
「冴島さん、後ろ!」
 冴島さんはその|娘(こ)の方を振り向くが、もう遅かった。
 バチッと二人の体が重なり合ってしまった。
「大丈夫ですか!」
 慌てて駆け寄る。まさか、ナイフか何かを……
「麗子おね~さまぁ…… まさかお会いできるなんて……」
「?」
「ど、どういうことですか?」
 その|娘(こ)は顔を冴島さんの肩や胸にこすりつけるようにしている。
「さあ、私にも分からないけど」
「私、冴島さんのファンなんです」
 その言葉に、香山ユキファンである俺の魂が叫ばずにいられなかった。
「お前、冴島麗子ファンと言うのなら、もっと早く気づいてるだろうが!」
 全く意に介さず、という表情だ。
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「だ、か、らぁ〜 そういうのが、セクハラだって言ってんだろ!」
「……」
 冴島さんが俺の背後に回った。
 俺の肩、腕を触って上下させる。
「ピンポイントに集中させたければ、指を伸ばしてその先端から。広範囲に広げたければ拳全体から。そういう使い分けも出来るように」
「……この前やってみたようにしていいですか?」
「やってみて」
 冴島さんがうなずくと、俺は川下を見て指で銃の格好をつくる。
 集中して、霊を、霊圧を感じながら……
「ポチャッ」
 真下、というほどすぐそこではないが、霊弾として機能しないぐらいすぐ近くに落下した。
「……」
 冴島さんは正直な評価を言っていいか悩んでいるようだった。気を使っているということだ。
「いや、あの、こんなはずじゃ……」
 あの時、コンビニの駐車場から式神を狙ったときは、撃てた。もっと直線的に飛んで、式神を貫いた。ただ、式神にダメージはなかったが。
「もう一度」
「うん」
 少し遠くに飛ぶように。少し上目に狙いをつけて……
 ポチャッ、とすぐ近くの水面に霊弾が|落ちた(・・・)。
「大丈夫。初めてはこんなもんよ」
「なんかその慰めかたはやめてください」
 その時、俺の横の水面に何か着水した。
「!」
 続けて、もう少し近くに、チャプン。
「霊弾……」
 まるで本物の弾丸が撃ち込まれているような音がする。
 振り返ると、草むらに人影が見える。
「女?」
 冴島さんは姿勢を低くして、紙を取り出して、陣を書き込み、水平に紙を放る。
 紙はそのまま舞い上がったかと思うと、頭、羽根、尾のように十字の形をつくると、草むらの人影の方に飛んでいく。
「これが式神ですか」
 冴島さんが手にもつ、もう一枚の紙には墨絵が描かれている。その絵は、式神の動きに合わせて絵柄が変わる。初めは何のことか分からなかったが、書き換えスピードが遅い白黒動画だ。
 冴島さんが、スッと手を下げると、式神が急降下した。
 式神は霊弾を打ってきた人物の姿を映し出す。
「あれ?」
「もしかして知り合い?」
 冴島さんは人差し指と中指を伸ばし、くるっと手を回した。
 式神がまた急上昇してこっちに戻ってくる。
 冴島さんの手の平に止まると、十字の形が元の四角の紙の形に戻る。
 それをポケットに入れると、冴島さんが言った。
「松岡、連れてきて」
「はっ」
 松岡さんが会釈すると、すばやく藪の中を走っていった。
 以前、松岡さんは『忠犬』なのだ、と聞いたことがある。まさにそんな様子だった。
「あの、知り合いっていうわけじゃないんです。さっき大学の教室で顔をみただけで」
「顔を見たことがあるなら、十分よ」
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「燃えていた、と聞いて安心したけど、燃えてないんならかなりヤバかったわ。まさか成長するのを作っちゃうとはね。つーかさ、普通式神生きてるなら、作り出した本人が何か感じてもよさそうだけど?」
 俺は首を振った。
 本当に何も感じなかった。本当なら畑を進んで行って、偵察した結果を知りたかったのに。
「感じないのか…… だとすると本当に式神は禁止。完璧になるまでは作ろうとしちゃダメよ」
「はい」
 冴島さんは腰に手を当てて、首を傾げた。
「さらっと言ったけど、式神の話のなかで、霊弾を撃った、って言ったわね。この前は意識させるまで霊弾自体見えなかったのに……」
「でも。式神には全然効かなかったんです」
「それは状況によるし、どんな霊弾だったかにもよるけどね」
 ガラガラと音が聞こえてきた。
 振り返ると、松岡さんが車輪のついた大きなバッグを引っ張ってきた。
「なんですか? あれ」
「実は、ちょうど霊弾の撃ち方を教えようと思ってたの。松岡の持ってきている機械は場の霊圧を高めて霊弾を撃ちやすくするものよ」
「へぇ」
 よく野外で電気を使うときに使う機械や、空気を圧縮する機械とか、無骨さがそんな感じだった。
「とにかく水辺まで行くわよ」
 俺たちは水辺に行き、川下の方へ向いた。
「ほら、この方向なら川しかない」
「確かに…… けど先には自動車や電車の橋がかかってますけど」
「一キロは無いにしろ、相当の距離があるのよ。まずそれまでに水に入っちゃうわね。安心して撃っていいわ」
「はい」
 冴島さんは理屈の説明を始めた。周囲の霊圧を使って、取り込んだ霊力を弾丸のように射出する、というのが基本だ。霊力が弱くても、霊そのものを投げつけるような気持ちでも同じようなものが撃てる、ということだ。
「霊そのものを取り込んで撃つような場合は、その霊の性質も出てしまうから、性質が合わなければ何も効果がない、ということもある」
「電圧と電力と電子、って置き換えてもいいんですか? まあ、電子なら性質は一定だと思いますが」
「……ごめん、そういう例えは良くわからないの」
 冴島さんは川下の方を向いた。
「軽く撃ってみるから。松岡、場を作ってくれ」
 松岡さんが、紐を引っ張ってエンジンを回す。本当に発電機のようだった。
「まずはみて覚えるんだ」
 冴島さんも、簡単に『みて』というのだが、霊弾はそもそも霊視出来ないと出たのかすらわからないものなのだ。俺も除霊士の訓練を始めてからは、霊視が出来るようになったから、それなりには見えると思うのだが。
「はい」
 冴島さんの手の先から、白い、炎のようなモノが水面を飛んでいく。そして数十メートル先でスッと消えた。
 消えてから少し遅れて、川でポチャ、と魚が跳ねたような音がした。
「?」
「さあ、手の先から出すんだから、そこに意識を集中するの」
 冴島さんが俺の手を両手で包むように触れ、指先の方へ絞るように滑らす。
「あっ……」
「変な声をだすなら、セクハラで訴えるぞ」
「すみません。変な想像をしてしまって……」
 冴島さんは頭を下げて、ゆっくりと言った。
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 通話を切ると、広げていた教科書とノートをしまって席を立った。
「ちょっと!」
 俺は呼び止められて、振り返った。
 やけに濃いメイクの女子だった。おかっぱ頭というぐらいのショートボブ。ビビッドな口紅に強い色のアイシャドー。大学でよく見かける娘(こ)だが、知り合いではなかった。
「キミ、最近引っ越した?」
 この人に話しかけられることはない、と思っているため、自分自身を指でさして問い正した。
「俺?」
 その女子は手を広げた。 
「他に誰が?」
「……ああ、引っ越したよ」
「ふーん……」
 しばらく立って、次の会話を待っていたが、何も言われず、素敵なハプニングも起こらなかった。わざとどこに引っ越したとか、そういうことを言わずにいたのだが、聞き返してくることもなかった。
 なんだろう。俺に興味があるんじゃないのか、と思った俺は、首をかしげてから言った。
「他にないの?」
「引っ越したか確認したかっただけよ。それ以外は別に」
「別に?」
「ない! ないって言ってる!」
 そう言うと、バチッと教科書を机に叩きつけ、席に座った。
 音にビビって周りを見回すが、この教室は次の時間は空きになるようで、もうほどんど他に生徒はいなかった。
「な、なんだよ……」
「じゃあね」
「じゃあな」
 また一瞬ではあるが、モテ期のようなものを期待した俺が間違っていた。
 どうして愛やら恋やらはいつまで経っても始まらんのだろうか。容姿には難があるのは分かるが、性格とかにも問題があるのだろうか。さまざま自問自答しながら、川原についた。
「野球場ってどこだ?」
「ちょうどいいところだった」
 振り返ると、冴島さんが立っていた。どこで着替えたのかスーツではなく、ベージュのサファリジャケットを着て、しっかりしたブーツを履いている。
 前方にいつもの黒塗りの車が、土煙を巻き上げながら進んでいく。
「こんなところで何を勉強するんですか?」
「実地訓練ね。なにか戦う手段を教えておいた方がいいかも、と思ったの」
 俺は川の近くへ下りていく途中、話し始めた。
「このまえの式神の話、続きを言ってませんでしたよね」
「えっ、なに、続きって?」
 あまりの驚きように、俺は言わない方がいいのか、と思って口を閉じた。
「……」
「ねぇ? どういうこと。続きがあるのね?」
「いえ……」
 冴島さんは立ち止まって、俺の顔の方に手をかざした。
「ほら、話しなさい。事によってはすぐにバイト先のコンビニに行かないといけないかもしれない」
「作った式神が三、四メートルの大きさの『やっこさん』になって、『ヴォォォーーー』とか言って。俺は霊弾を撃ったんだけど何の役にも立たなかったんです。そこに赤ジャケの男が現れて、式神を燃やしてしまった」
「……何故、その前には連絡をいれてくれてたのに、その後は連絡を入れなかった?」
 俺は探すように空を見上げた。
「えっと、次の休憩時間って、深夜でしたので」
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 と店長の声がした、と思ったら店長は店の奥へ引っ込んでしまう。
 『やっこさん』の頭のような部分が、ぱっくりと割れた。
「くち?」
 上村さんを食べよう、いや、飲み込もうというのだろうか。
「もう一回!」
 俺はもう一度、手で銃のような形をつくって、霊弾を打つ準備をした。
 さっきも、しっかり撃てているはずだ。狙う場所が間違っているだけだ、と俺は思った。
 で…… どこを狙う?
「ボス」
 上村さんが、そう言った。俺に言ったのか? 上村さんの視線は全く違うところを見ている。
 俺はその視線を追うと、男が一人立っている。
 どうやらそいつが『ボス』らしい。
 真っ赤なジャケットに赤いシャツ。なぜそんな組み合わせなのか分からないが、男はジャケットの内ポケットからウイスキーを入れる金属のボトルを取り出して、一口あおった。
「世話の焼けるやつだ」
 ボスと呼ばれた赤ジャケのお琴は、両手を広げて目をつぶり、胸の前で手を合わせた。
 合わせた手の平をゆっくりと広げると同時に、目を開ける。
 手のひらの間に赤い光が見えた。
「焼き尽くせ」
 言った瞬間、赤い光は生き物のように宙を走り『やっこさん』の腕のぐるっと回った。
 回った腕に火が付き、黒焦げになると、上村さんごと腕が落ちてくる。
 赤ジャケの男は上村さんを抱きとめ、そっと駐車場に下ろした。
「……」
「ヴォォォォーーーー」
 三度目の咆哮。
 それは断末魔の叫びだった。
 赤い光が『やっこさん』の身体のあちこちを走り回り、触れた部分が燃え始めていた。
 あっという間に全身に火が回り、黒く焦げた紙がヒラヒラと舞って、落ちてきていた。
「すげぇ」
 気が付くと、赤ジャケのボスと上村さんの姿は見えなくなっていた。
「……」
 色々なことが一度に起こって整理がつかなかった。
 未熟なうちに式神を扱うと危険なこと。俺にも霊弾は撃てるが、威力が低いこと。上村さんという女性はどうやら、美紅さんと同じ類の者であること。そのボスである赤ジャケの男が赤い光を操れること。
 そのボスに、見逃されて助かったこと……
「ほら」
 声のした方に振り返ると、店長が箒とチリトリを差し出していた。
「駐車場をよごすんじゃないよ。まったく」



 仮眠を取って、コンビニから直接大学へ向かった。
 大学の授業が終わると、スマフォに着信があった。
「もしもし」
『ちょっと仕事が空いたけど、除霊士の勉強する気ある?』
 体は疲れていたが、不思議とやる気はあった。
「はい、よろこんで。いくつか確認したいこととかもありますし……」
『なに、確認したいことって…… なんか嫌な感じがするけど。まあ、いいわ。そこの大学から川原の方に行ったところに野球のグランドあったでしょ? そこに行くから』
「はい」
『野球場は待ち合わせに使うだけよ。千本ノックとかじゃないからね?』
「はい」
『ノリが悪いわね』
「……す、すみません」
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 女性は誰に向かってか、言った。
「あの、外、外に大きな『やっこさん』が」
 『やっこさん』という言葉が、すんなり頭の中で映像に構築されなかった。
 レジに隠れて、スマフォで『やっこさん』を検索する。『やっこさん』というのは『奴』つまり江戸時代の武家の中間(ちゅうげん)のことらしい。余計にわからない。
 検索結果を、画像、に切り替えてみる。
 なにやら人の顔がいっぱい出てくる。『やっこ』が愛称なのだろう。これのどこが江戸時代の中間(ちゅうげん)だというのだ。
 ふと、画像のなかで折り紙の『やっこさん』が表示されていて、俺は急に重大なことを思い出した。
 上村という女が言っている『やっこさん』とは、|俺(・・)|が(・)|作った(・・・)|式神だ(・・・・・)。
「まずい!」
 カウンターを飛び越え、コンビニの外へ出た。そして、畑の方を見る。
「……デカくなっている」
 さっき手の平から飛び立っていった式神は、俺の手の平に収まるほどの大きさだったが、今はバスケットボール選手が肩車しているほど、三、四メートルというところだろうか。
「なんで……」
 呆然としてしまった俺を、上村という女性がつっつく。
「あれ、あなたが作ったの?」
「えっ? いや、違……」
「……」
 上村さんが俺を疑うように見つめる。
「違います」
 折り紙の形の巨大な『やっこさん』が畑で、天に向かって叫んだ。
「ヴォォォ----」
 低く、唸るような声。俺は恐怖のせいか、背筋に寒気が走った。
「えっ?」
 『やっこさん』が何かを見つけたように、こっちに向かってやってくる。
 ゆっくりと、一歩一歩進んでくる。
「どうするの?」
「……」
 俺は畑の方へ進み出た。
 霊力で動いているなら、俺の霊力で破壊できるのではないか。
 撃ったことはなかったが、見よう見まねで霊弾を試してみようと思った。
 手でハンドガンのような形を作り、人差し指を『やっこさん』に向けた。
「……いけっ!」
 指先から何か光るものが走って、『やっこさん』の中心を貫いた。
「やった」
 俺は確信をもってそう言ったが『やっこさん』は全く変わらず、こっちに迫ってくる。
「ヴォォォォーー」
 再びの咆哮。
 立ち止まったかと思うと、急に怒り狂ったようなスピードでこっちに走ってくる。
 駐車場の下あたりで、ジャンプする。
 高く飛び上がった奴が、コンビニの駐車場に着地する。
 俺はバックステップして、十分な距離を保つ。
 『やっこさん』が降りた場所が、軽くひび割れてへこんでいる。
「助けて……」
「えっ?」
 折り紙の『やっこさん』の太い手が、上村さんを持ち上げている。
「助けてよ!」
「何を……」
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「……」
 俺は店長から箒とチリトリを手渡され、駐車場の掃除を行った。
 不良のような連中が溜まる場所は決まっている。食べかすも落ちているし、紙くずも散らかっていた。
 俺は箒でそれらを履いていると、不思議なことに気付いた。
「あれ、渦を巻く……」
 掃いたポテチのクズや、小さな紙の切れ端、枯れ葉などが、掃いた方向から少しだけずれる。それを追うように箒で掃くと、再びクズや塵の方向がずれる。結果として、ぐるりと輪というか、渦を描いた。
「ここに何かある?」
 何か術を仕掛ける時に、陣を描いたりすることがある。この駐車場にそういう五芒星や何かが描かれているのかもしれない。その力が不良を召喚している? のだろうか。
 さらに掃き進めていくと、渦の中心が分かった。
 俺は道端まで行き、石を見つけてきて中心にバツ印を入れた。そして、ゴミをチリトリに掃き入れ、袋に捨てた。
 駐車場を見ながら店に戻ると、店長にぶつかってしまった。
「す、すみません」
「駐車場の掃除をするのに何分かかるんだ。まったく」
「サボっていたわけでは」
「サボっているのとかわらないだろう」
 手を腰に当てている店長越しに、俺は店内の時計を見た。
「あ、もう休憩していい時間ですよね」
 店長も振り返って、時刻を確認する。
「……」
「休憩入ります」
「そういうのはいっちょまえだな。まったく」
 俺はバックヤードに入って、冴島さんに電話した。さっきの式神の失敗の原因を知りたかったのだ。
「……というわけなんですよ。やっぱり冴島さんみたく九字印を切れないとダメなんですかね?」
「そんなことないよ。変に力もないのに印だけ切ってると痛い目に会うっていうし。ちょっと細かいところを見てないから原因まではわからないな。今回は『やっこさん』だったから良かったけど、変なものが出来た時に処置できないだろうから、私がしっかり教えるまでは式神を作るのは禁止ね」
「は、はい…… それと」
「それと何?」
 俺はコンビニの駐車場でゴミが渦を巻いた話をした。
「……それ、今回の課題にしようか。陣があるんじゃないか、という見立ては間違えじゃない。そこを無力化するのをやってみて。そっちはどうやっても変なことにはならないだろうし。自分で調べて、工夫してやってみなよ。勉強になるから」
「ハイ!」
 何か認められた気持ちになって、うれしかった。
 除霊士を目指すことにはしていたが、自分にそんな力があるのかどうもピンとこないせいで、やる気が出ないこともあった。こうやって冴島さんに認められるなら、一つ一つやっていこう、俺はそう思った。
 休憩時間はそんなことをしている間に終わってしまった。
 部活帰りの学生やら、タクシーの運転手、残業確定の会社員…… と言った順に客層が移り変わっていくと、また外に不良たちがたまり始めていた。人数はまだ三人ほどだった。
 駐車場のあのバツ印が入ったあたりを中心に集まっている。
「……やっぱりあそこの下にあるんだな」
 そう思って、不良たちをみていると、女性客が入ってきた。
「あっ……」
 さっき来た、上村と名乗る女性だった。
 女性は、すこし垂れ目で、顔はスッキリとほそい感じだ。
 その女の人が、コンビニの入り口あたりで店を見渡して、俺を見つけると近づいてくる。
「かげやま……」
 やばい。俺は店長に何を言われるかを考えて、女から逃げるように店内を動き回った。
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「お待ちのかたどうぞ」
 そう言って、次々に会計をしていく。
 コーラ、缶コーヒー、ポテチ…… 本当に統一性はなく、金額も大したものはなかった。しかし全員が購入し、また外の駐車場へと戻っていく。一人座り、二人座り…… かかとをべったりと付けて。
 俺は店内の客がいなくなると、また窓際に行ってそとの様子を確認する。
 見ていると、背中をつつかれた。
「刺激するなって」
 店長だった。
「駐車場が埋まっている訳じゃないんだから、刺激すんなよ。見た感じ乱暴な連中だから、恨まれたら店壊されちゃうよ」
「……」
 言われるまま窓際を離れたが、間もなく各々が買った菓子やら飲み物が終わると、急に一列に並んで入ってきた。
 中のゴミボックスに仕分けて捨て、出ていく。また仕分けてゴミを捨てて、出ていく。
 順番に八人がゴミ捨てを終えると、駐車場には戻らず、どうやら奥の畑の方へ進んでいく。
「ちょっと駐車場を掃除……」
 と言いながら俺は走って外に出る。
 連中は駐車場を降りて下の畑の中の道を歩いていく。ちょっと前の行動と同じだ。
 俺は店長が来ないかチェックしながら、畑の先に誰かいないか確かめる。
「!」
 誰かいる。しかし、遠すぎて見えない。
 うろ覚えの式神の知識を総動員する。たまたまポケットに入っていた紙にボールぺんで書く。
 俺はまだ、九字の印は分からない。
 額に人差し指と中指を着け、集中して想像したものを、頭から紙に動かすように指を当てる。
「動いた?」
 風で動いただけかもしれなかった。いや、風なんか吹かなかった。
 俺はもう一度気持ちを集中して、それを指を使って紙に伝える。
「えいっ!」
 自然に声が出ていた。
 紙が生きているようにビクビクと動き出すので、俺は怖くなって手を離した。
「えっ?」
 バタバタバタ、と音を立てて飛行し、紙は俺の指に戻ってきた。
「鳥? かな?」
 鳥、というより折り紙の『やっこさん』のような形だった。
 俺は懸命に念じる。
「あそこの様子を俺に伝えろ」
 手を振って、その紙の『やっこさん』を飛ばそうとする。
 バタバタバタ…… としばらく滑空して畑の方へ下りていくが、力尽きたように止まってしまった。
「ふう……」
 どうしよう。もう一度チャレンジするか……
「こら、早く駐車場掃除しちゃって」
 振り返ると店長が箒とチリトリをもって立っていた。
「ちょっと時間を与えるとサボろうとするのはやめてくれないか。まったく」
「サボってたわけでは……」
「私が箒とチリトリを取るのにも気づかなかったのに?」
 そう言われると変だ。俺は箒とチリトリを取りに行くフリをしてここにいる。ホンの一、二メートルのところを歩いて行き、扉を開け、箒とチリトリを取り出す。そんなことが出来るのか。そして、なぜ俺は気づけない?
「店長、何者ですか?」
「ただの店長だよ」
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