翌朝、あかねは少し自己嫌悪になった。ベッドに色々と残したままだったとこに気が付き、やりっ放しで寝てしまった昨日の自分を思い出したせいだった。そんなことで落ち込んで学校を休むわけにも行かないので、一つ一つ学校へ行く支度を続けた。
 一階に降りた時には、父は既に出かけており、母が食卓ででテレビを見ていた。
「あかね起きたの。ご飯食べるでしょ」
 母がテレビを消して立ち上がり、台所の方へと行った。
「うん」
「めずらしいわね。もう支度しちゃったんだ」
 確かにいつもなら着替えて下りてくるだけで、鞄やらはまた二階に戻って支度するのが常だった。今日は時間的にも普段より余裕がある。
 母は大盛りのご飯と、納豆と生卵をあかねの前に出した。そしてそのまま、あかねの横に座った。
「あかね、朝から聞くことじゃないかもしれないけど」
「なに?」
「美沙さん、女の子が好きなんじゃないかしら」
 これが漫画なら牛乳かコーヒーをブーっと噴き出しているところだ、とあかねは思った。自分の食卓には残念ながらそのような汁物がなかったのが幸いした、とも思った。そして、自分自身に対し、意外に冷静だな、と感心した。
「美沙が? そんなことないんじゃない?」
「昨日、買い物していたらなんか、ゾクっとするような気持ちになって。何でだろう、あかねに何かあったかしら、とか考えていたのね」
「え、美沙ってなんかそんな感じあったっけ?」
「確かに直接的にそんなことはないんだけど。なんか、女性に接する時の感じが普通じゃない気がするんだよね。後さ、やまとも言ってたんだよね。『姉貴は美沙さんが恋人なんじゃないか』って」
「……」
 あんにゃろ、何を見てそんなこと言ったんだ! とあかねは思った。
「心配ないよ、母さんが買い物行ってる時だって何も無かったし」
「本当? あかねも女の子のアイドルにハマってるから、なんかそういうことになっていないか心配で」
「大丈夫だって。全然そういう気ないから」
 自分が昨日の晩に何を想像して自慰をしていたのかがチラリと脳裏によぎったが、母の様子からするに、表情には出ていないようだった。
「うん。それだけ聞ければいいかな」
 母は笑った。
 あかねはほっとした。
 さすがに自由な国とは言え、まだまだ同性愛というのは認知されていない。差別もされてしまう。
 国内にいるのが殆ど同じ人種なので、人種による差別が発生する確率が低い分、そういう性質や行動やちょっとした違いを見付けては差別するのだ。
 テレビとかを見ていると、どこの国でも、そいういう違いを見付けて攻撃したり、逆に褒め称えたりしている。人間の行動はしょせんそういうものなのかもしれない。特別なこと、というのは社会にとって貴重な資源でもあり、同時に異物でもあるのだ。
「ごちそうさま」
 食器を重ねて、台所にもっていき、そのまま鞄をもって玄関に行った。母が珍しく玄関先まで来て言った。
「いってらっしゃい」
「行ってきます」
 そう行って家を出て、学校に向かった。
 家の前の小道を曲がると、女バスの後輩がそこに立っていた。
 女バスの後輩なのは間違いないけど、だけど、えっと…… 誰だっけ……
「先輩!」
 後輩は、不意に目をつぶって間合いを詰めて突っ込んできた。目をつぶっているこの子を避けてしまったら、生け垣に衝突するか転んでしまう。とっさにそう思って、そのまま受け止めることにした。
 さっき大丈夫だよ、と母に言った手前、こんな状態を見られてはいけない、とあかねは思った。加えて、弟のやまとにも。
「ど、どうしたの? 何かあったの?」
「先輩……」
 あかねはピッタリとくっついてきたこの子の名前を思い出そうとしていた。確か、さ……
「さとみ?」
「?」
「さとみじゃないんです。紗英です」
 そうか、さえ、か。
「紗英が酷いことをしてきたんです」
 ……違った。この子の名前が紗英ではないのか、また振り出しだ、とあかねは思った。


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