あかねが教室につくと、机の上に封筒が三通置いてあった。これで計五件の意見書があかねの元に集まってきたことになる。あかねは一つ一つ封筒の中身を開いて、女バスの意見書であることを確認した。
 正直いって、自分一人でまとめる自信はなかった。
 かといって、誰か入ってもらおうと考えても、女バスの中には適任がいない。町田や上条は意見書を持ってきたほど一方的な主張をしてくるので、意見のまとめに入ってもらう訳には行かなかった。やっぱり、美沙にお願いするしかないか、とあかねは思っていた。
 昼休みに美沙があかねのクラスに来ると、そのまま廊下に出た。
「美沙、今日、美沙んとこに行けないかな?」
「? 家(うち)?」
「うん……」
「けど、部活は?」
「部活終わってから行くんでもいい?」
「そんなだと時間が遅くなるけど、あかね、大丈夫?」
「うん」
 とにかく意見をまとめておかないと、ぐっすりと寝れない。土日、美沙には川西のことを追ってもらうわけだから、今日しかないのだ。
「何か頼みごと…… だよね?」
「ご、ごめんね。そうなんだ。この前言ってた、女バスの意見のまとめ、手伝ってくれない?」
「いいよ。いいけど、そんなに期待しないで」
 美沙が少し暗い表情になった。
「……」
 私、美沙に頼りすぎてた? 私が声を掛けるときは相談事、ってこと? 私はやっかいな話を持ってくる嫌な子ってこと?
「部活終わるのって何時ごろ?」
「あ、やっぱりいいや。自分でまとめるよ。悪いよね。いつも自分の問題ばっかり手伝ってもらっちゃって」
「え? いいよ、大丈夫だから」
 美沙があかねの手をとってそう言った。
 あかねはうつむいて、首を振った。
「ごめん。頼りすぎてるよね。この前、その前もお願いをしているのに……」
「いいって、大丈夫!」
「ここまで頼るわけには」
 あかねは手を振りほどき、教室に振り返った。
 美沙が回り込んであかねの前に立った。
「じゃ、私も、あかねに相談があるから、部活が終わったら私の家に来て。それならいいでしょう? 相談にのってくれるよね?」
 美沙はじっとあかねを見つめた。
「美沙の相談にのるってこと?」
「そう。私も悩みがあるの。だから、今回はお互い様ってことで。ね?」
 あかねは美沙を見つめ返した。
 とても真剣な顔だった。
 とってつけたような相談ではない、あかねにはそう感じられた。相談とは、なんだろう? 美沙が悩むほどのことを、自分に解決出来るのだろうか。
 あかねはうなずいた。
「良かった。じゃあ、待ってるから。必ず来てね」
 あかねはもう一度うなずくと、教室に戻った。椅子に座って、机に突っ伏すようにして軽く睡眠をとった。

 放課後になり、部活が始まったが、あかねは練習に集中出来なかった。美沙の相談というのが気になっていた。とは言え、自分の抱えている意見のまとめのことが、練習に集中出来ない最も大きな要因だった。
 その上、今日のあかねは、女子が普段の通りの女子として見えていなかった。
 昨日の自慰のせいだ、とあかねは思った。良く考えると自分の周りは女の子だらけだ。女バスに入ったきっかけも、遠山美樹という『可愛らしい』プレーヤーに見蕩れて入ったのだ。
 いつもは気にしていなかった、服の隙間から見える肌や、練習中に不意に触れる胸やおしりが、妙に新鮮に感じていた。
 これじゃ、私も川西と同じだ…… あのセク川と同じ。あかねは、部長に話し−−と言っても悶々とするから練習出来ません、とは言わなかったが−−練習からはずれて、少し隅の方で気持ちを落ち着けようとした。
 そうして、しばらく座っていると、町田愛理が近づいてきて言った。
「あかね、どうしたの?」
「体調が悪くて」
「帰った方がいいよ、こんなところに座っていても良くならないし」
「うん」
 前かがみになった町田の襟元から、ブラと胸の膨らみが見えてしまった。あかねは、本当にすまない気持ちになって、うつむいた。
「え? 大丈夫? あかね」
 いや、具合が悪いんじゃなくて、愛理の胸を触りたくてモンモンとしているんだ、とあかねは思った。だからうつむいただけなのだ。
「……うん。やっぱり、帰るね。ありがと」
 このままだと変なことばかり考えてしまう。帰ろう、と思った時に、川西がやってきた。
 あかねは、顧問である川西に早退する事を話しに行った。
「先生」
「どうした岩波?」
「気分がすぐれないので、これで帰ります」
「ど、どこか打ったのか?」
 川西の手が妙な高さで近づいてきたので、体を触られる、と思ったあかねは、川西の手を払うような仕草をした。
「大丈夫ですから。打ったりしてません。気分が悪いだけです。すみません。帰ります」
 そう言って、部長にも会釈をしてそそくさと体育館を出てしまった。
 部室で着替えると、そのまま鞄をもって学校を出た。あかねは自分の家もどらず、そのまま美沙の家に向かった。

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