緑川は真琴の方を見ていた。
「お前に、いや」
 言いながら前に出てきた緑川に、真琴は少し後ろに下がった。
「王子に、助けられた、と噂になってしまった」
 たまちが、横で、プッと吹き出した。声を上げて笑うのは堪えたようだった。
「たまち、ちょっと黙ってて」
「つーか、お前何故王子と呼ばれてる? 新野? ではなかったのか?」
 たまちが堪えきれずに大声を出して笑い始めた。
「たまち!」
 ボクの方が恥ずかしいよ、と真琴は思った。
「とにかく、俺は、お前に助けられたようだ。礼をいう。ありがとう」
 立ち去ろうとした緑川を真琴は引き止めた。
「あ、ちょっとまって」
 緑川は素直に立ち止まって、振り返った。
「ちょっと聞きたいことがあるの。もしかして学校で話すのがダメなのかしら?」
「……」
「それともここで聞いていいかしら?」
「……ここではダメだ」
 やはり何かあるようだった。真琴は涼子のお祖父さんの店を提案した。
「……そこならどう? 場合によっては店長にも聞かれないようにすること出来るけど」
「ああ、それならいい。後は」
 今までのアプローチが全てダメだったのは、場所が悪かったのでは、という予想は当たったようだった。しかし、更に条件が出されるとは思わなかった。
「後、何かあるの?」
「お前たちがどこまで口が固いか、だが」
「何も言わない」
「……」
「ああ。この前の件で、なんとなく分かった」
「この前の件って?」
「俺が助けられたことだ」
 不良に絡まれた緑川を、人を呼ばずに解決したことで信用された、ということだろうか。こんな出来事一つで、口が固いかどうかは分からない、と思うけど…… と真琴は思った。たまちも真琴も、どちらもその話題を広めたりはししていない。そういう意味では、べらべらとそういう事を話したりしない、ということが分かったのかもしれない。
「とにかく、そこに行こう。話しはそれからだ」
 話があるのは、ボク達の方なんだけどね、と真琴は思った。とにかく聞きたいことに答えてくれるのなら助かる。
 三人は中居寺へ行く為、学校を出て駅に向かった。
 電車が来て、椅子が開いていたが、緑川は反対側の椅子に離れて座った。
「こっち空いているよ?」
 と真琴が言うと、緑川は全く聞こえないように吊り広告を見つめていた。
「聞こえてる?」
 緑川の様子は変わらなかった。
「気にしないでいいよ」
「昔からあんな感じなの?」
「いや、昔のことは覚えていない。けど、ほっときゃいいよ、どうせ男の子なんて興味ないでしょ?」
 字面通りの意味ではそうだが、言葉に出して発言されると、何か別の意味を含んでいそうでいやだ、と真琴は思った。
「ま、まぁそうだけど」
 緑川は難しい顔をして吊り広告を睨んでいた。真琴は電車の中で話すことは諦めた。
 三人は中居寺の駅につくと、真琴とたまちが先を歩き、緑川がついてくるような形になった。ちらちらと真琴が振り返るが、緑川は都度、そっぽを向いて関係ないフリをし続けた。
 よっぽど女の子と話している、ということがバレるのヤバイのか、と真琴は思った。それとも、女の子、なのが問題ではない場合、ボクと話ししていることがバレると問題、ということになる。
 真琴は街中の店のガラスに自分とたまちが映っている姿を見た。ショートカットの真琴に、背の低いたまちが絡みつくように真琴の腕に寄り添っている。
 仲の良い女の子通し、それ以上でもそれ以外でもない。少しは、たまちとキスしたいと思ったり、抱きしめたい、とは思ったりしたが、夢のなかではしたものの、実際に行動には移していない。たまちとボクは清い関係だ、と真琴は考えた。だから、ボクらと距離置く理由はないだろう。
 男の子はそういう女子の関係が分からないのだろうか、と考えた。男同士は、手を繋いだりしないのか。だから女の子同士が手をつないでいると、異様に思えるのだろうか。真琴はそんなことを考えながら、街を歩いていた。

 
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