あかねの気持ちは高ぶっていた。
 美沙の家には、高校に入ってからも、何度か行ったことがあった。今日みたいに学校帰りによることだって、普通にあったことだ。特別違うこととしては美沙の相談、を聞かなければならない、ということと、女バスの意見書をまとめないといけない、という二つの課題があることぐらいだ。だから、面倒な厄介事をこなしに美沙の家に行くだけなのに、気持ちが高ぶるのは変だった。
 けれど理由がないわけじゃない。
 昨日の美沙の態度だ。それに昨晩のあかねの妄想。最後は、今朝の母の一言だ。
『美沙さん、女の子が好きなんじゃないかしら』
 確かに美沙の態度が『普通』よりはベタベタした感じがすることがあった。手を繋ぐ時だって恋人つなぎをしたりする。美沙が言い出して、双子コーデで出かけたりもした。
 けれどそれは普通のことで、だから美沙が特別女の子が好き、ということにはならなかった。もちろん、あかねだって、男と女とどっちが良いか、なんて考えたこともなかった。
 それが、急に。
 昨日今日のわずかな間で、目の前にある避けられない現実として突き付けられたのだ。美沙はどうやら女の子が好き。そして、あかねも同じ……
 いや、自分の気持ちはまだおぼろで、輪郭もはっきりしない、あやふやなものだった。しかし可能性としてゼロではないことが昨日の行為で気付いてしまった。
 そんな気持ちで美沙の家に、美沙の部屋に行ったら、どんなことになってしまうのか、それを思うと、気持ちが落ち着かない。期待なのか不安なのかすら判らない、そんな状況だった。
 けれど足がすくむわけでも、気乗りがしない感じもなかった。あかねの足は、まっすぐに美沙の家に向かって歩いていた。
 目の前に美沙の家が見えた。
 あかねは少し前髪を整えて、制服の乱れを直した。
 インターフォンのボタンを押す段になって、あかねは今日初めて躊躇した。このまま進んだら、引き返せないような気がした。しかし、ここで引き返したら、意見のまとめも、美沙との約束も反故にしてしまう、と思い、そのままボタンを押した。
 インターフォンのライトが付いて、しばらくすると美沙、あるいは美沙の母の声が聞こえてくるはずだった。しかし待っても何も応答がない。
 美沙がいない? あかねは不安な気持ちになって、美沙の家の様子を確かめた。辺りはそろそろ暗くなり始めていて、家の明かりが漏れていた。まさか明かりがついているのに、留守ということもあるまい、と思いあかねはもう一度インターフォンのボタンを押した。
 しかし反応がない。
 あかねは嫌な予感がして、門扉を開けて美沙の家の敷地に入ると玄関の扉を引いた。鍵がかかっていない玄関が、あっさりと開き、あかねは自分の予感を確信した。
「美沙! 美沙! どこなの?」

 
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