真琴とたまちが先にOrigamiに入り、ちょっと後に緑川が入ってきた。いつものように他の客はいなかった。そして、いつものように、マスターはカウンターから微かに頭の先が見えるような状態だった。
「ここよ。静かだし、誰にも聞かれない」
「……」
「何か注文したら? ボクがおごるよ」
 真琴は緑川の前にメニューを置いた。
「ブレンド」
 マスターがカウンターから出てきて、真琴達の席のところにやってきた。
「オリジナルブレンドでよろしいですか?」
 緑川は頷いた。
 マスターは三人の注文を聞いて、カウンターへ戻った。
「これでいい? これで、ボクが聞きたいこと、聞いていい?」
 緑川はまた頷いた。
「別にあなたを責めるとかそういう気は一切ないの。あなたのお兄さんが薬を手に入れた方法が知りたいの」
「知らない」
 真琴はカマをかけた。
「あなたに薬のことを聞いた、という話しを聞いたわ」
「それは正しくない。俺に薬のことを聞いてきた女がいる、という言い方が正しい。俺は薬のことは知らないから、今と同じように、『知らない』と答えた」
 薬のことを聞いたのではなく、薬のことを聞かれた、だけなのか?
「本当に? 聞かれた、というだけ? そのこが聞いたわけではないの?」
「だって俺は言ってない。薬のことなんて知らないからな。俺がどう答えたのかを知らず、俺に薬のことをたずねた、という事実だけが噂されたんだ」
 本当にそうなのだ、としたら、その聞いてきた女の子の方が薬に接近しようとしていることになる。
「その子は誰?」
「……」
 緑川はちょっと考えている風だった。
「今、その名前を君たちに話したら、という条件でだけど」
 真琴は唾を飲み込んだ。
「それで?」
「次に、別の人に同じことを聞かれた時、あんたの名前も出すぜ。それでもいいのか?」
「なんだ…… そんなこと。いいよ」
「私もいいよ」
 たまちも同意した。
「ちょっと考えれば判ると思うけど、それだけじゃ平等にならないけどね」
「平等とかそういう事を考えていた訳じゃないけどな。後から警察や、同じような質問をされたら、俺は答えるぜ、ということを知らせておきたかったんだ。じゃあ、話そうか」
 緑川はスマフォを取り出してカレンダーを見ているようだった。
「夏休みの、この日だ。兄さんの事件後、三日ほどたって、この田畑まさみ、って女が来た」
「たばたまさみ!」
「やっぱり……」
 WiFi、ドラッグ…… 状況的に、田畑まさみは真っ黒けだ。完全に敵と思って間違いなさそうだった。
 緑川に続けて話を聞いていくと、どうやら田畑まさみは薬の入手経路が知りたかったらしい。緑川はそもそもお兄さんの薬については本当に寝耳に水といった状態で、全くわからなかったので、最初、帰ってくれと言いつづけたそうだ。
 だが田畑は帰らず、薬を使ったお兄さんの様子を詳しく聞いてきたのだそうだ。単に薬が欲しいだけではなく、何か薬の効果というか、そういうものまでを知りたかったような気がする、と緑川は言った。
 とにかくしつこかったから、聞かれることを全部話したそうだ。家からも出ず、とにかくふさぎ込んでいたせいか、田畑には言わなかったが、実際、そうやって話してしまうことで緑川も救われた部分があったのだという。
「そうなんだ」
 真琴は田畑が何を知りたがっていたのか、そしてその後、田畑は薬を入手したのか、という部分に興味が移っていった。
「その後、田畑さんとは話したりした?」
「いや。ないね」
「じゃ、まったくわからないの?」
「同じクラスだからな、二学期が始まれば顔は合わすけど」
「変わった様子は?」
「そもそも」
 緑川は椅子の背もたれに体をあずけた。
「俺と話しをすること自体が変なんだ。細かいしゃべり方を知っていた訳じゃなかったから、そこらへんの違いは分からないけど」
 たまちが言う。
「まぁ、薬の件があるまで喋る必然性がなければ喋らないわよ。そんなもんでしょ?」
「そうね。そうかもね」
 真琴は考えた。別人だからという単語でそのまま【鍵穴】とかエントーシアンとかと結びつけるのは気が早すぎる。
「帰っていいか?」
「……」
 真琴は悩んだ。
 しかしもうこれ以上のことを聞き出せそうにもない。後は田畑まさみ、という名前から次の情報を集めていくしかないのだ。
「うん。ありがとう」
「じゃな。ごちそうさま」
 緑川は立ち上がると、全く振り返ることなく店を出ていってしまった。
「う〜ん」
 真琴は腕を組んで首をひねった。

 
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