たまちも、真琴のふとももをなで上げながら、二本の足の奥の小山を指でなぞるように何度も動かした。
 合わせた唇と唇の間から、耽美な吐息が漏れると、二人は体を少しずつ横に倒していった。
 次の瞬間。
 ボン、と音がした。
 音は玄関方向から発せられたようだった。
 下になっていたたまちは、ビックリした表情で真琴を見つめた。
 真琴は立ち上がると、さっきからの匂いが強くなり、色の付いた煙として流れてきているのに気付いた。
「火事かも!」
「え?」
「とにかくガスを吸わないように、ハンカチかなにかで口を抑えて」
 真琴はキッチンに向かった。
「そっちじゃないわ」
「ちがうの! 消火器があるの!」
 真琴はキッチン脇にある小さな消火器を持って、煙を追って入り口方向へ向かった。
 煙は、入り口そばの部屋から出ていた。
 ようやく、火災報知機のブザーが鳴り始めた。
「お祖父ちゃん!」
 真琴は扉を開けると、白い煙で部屋の上半分は見えなくなっていた。慌てて体を屈めるとパチパチと何か爆ぜる音が聞こえ、その先に火花や赤い炎がチラついているのが見えた。
 そこを狙うように消火器のハンドルを握るが全くビクともしない。
「何ででないの!」
 真琴は大きな声で叫んだ。
「ピンがあるはずよ、まずピンを抜いて」
 たまちの声に、真琴はハッと気がついて黄色いピンを抜いた。そして先で狙いを付けてレバーを引いた。
 消火剤が勢い良く飛び出ると、その小さな炎はあっという間に消えてしまったが、真琴は怖くなって、お祖父ちゃんのパソコンの周りを右から左から何度も吹き付けた。
 炎も、真琴の気持ちも収まったが、充満する煙の為、それが引くまで何も見えなかった。
 外側の窓を開けたが、なかなか煙は出ていかなかった。
 マンションの管理人が来て、消防署を呼んだからと言われた。真琴は慌てて母に電話をし、火災までの経緯を話した。
「とにかく、すぐ帰るわ。もう大丈夫なのね? やけどとか、煙を吸ったりとかはないの?」
「大丈夫だよ、煙は多かったけど、炎までは上がっていないから」
 やがて消防車や消防署の人たちが真琴の部屋へやってきた。
 真琴は管理人と消防署員と、出火元とみられるパソコンのあたりを一緒に見て回り、彼らの質問に答えた。完全に二十四時間電気入れっぱなしであることが悪いかのような言い方で、コンセントの辺りのホコリのことや本体を濡れた雑巾で拭いたりしないか、ということを質問された。
 その間、たまちは居間に残ってもらっていた。
 消防署員と管理人が帰った後、ようやく真琴の母が部屋にやってきた。どうやら、管理人室前で管理人から説明を説教をされたらしく、パソコンを今後もここに置くことは出来ないかも、という話しだった。
「え? だってパソコンはお祖父ちゃんだって…… パソコン置けなかったらどうなるの?」
「そうだけど、ここは一軒家じゃないんだから、規則に従わないと」
 火災の時には動転して気がついていなかったことを、自分で口にして改めて気がついた。
 付けっぱなしのパソコンはお祖父ちゃんの意識が受信されて動く、お祖父ちゃんそのものだった、のだ。それが焼けて壊れている、ということは、イコールお祖父ちゃんの死を意味する。
 真琴は勝手に涙が頬を伝うのを感じた。
「お祖父ちゃん」
 真琴はパソコンのラックに手をかけ、泣き崩れた。
「もうこれは壊れてしまったわ。広大(こうだい)さんなら、もしかすると直せたかもしれないけれど…… 今の私達ではどのみち直せない」
 広大、それは真琴の父親の名だった。
 母が真琴の肩に手をかけ、言葉を継いだ。
「だからこれはもう電気を入れないし、管理人さんの『撤去する』という決定に逆らうこともしない」
「そんな……」
 泣いている真琴の横にたまちも座り、手を握ってくれた。
「たまち……」
 たまちの肩で、真琴は泣いた。


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