真琴の中で、いなくなったもの、と決めつけていた。だから、薫の名前を聞いた途端、涙が頬を流れていた。それも、全く繋がるべきでない単語と共に語られたことで、真琴の頭の中は混乱に陥ってしまった。
 真琴は言われた言葉を繰り返すだけだった。
「薫が脅迫?」
「ありえないわ」
 と、たまちが言った。
「薫の騙る人物は『リンク』で直接メッセージを送ってきた。もし偽装だとすると、相当手が込んでる。警察の人がそう言ってた」
 涼子はスマフォをテーブルに置き、そのメッセージが全員に見えるようにした。
「これから二十四時間。その間にあなたを殺す、って。なんかちょっと言葉が足りないような気がするけど……」
「そうね。『あなた』としているのが不思議よね。薫なら涼子のことは知っているのだから、わざわざ『あなた』と書くんだろうか、って思うと、変よね」
「ボクには判らない」
 涼子がスマフォを手に取って、そのメッセージについて言った。
「相手を殺そうと思うのであれば、涼子、という言い方はしないかもね。『あなた』になる可能性はあるんじゃない?」
「ボクの記憶が正しければ、薫は携帯を解約している。だから、『リンク』も出来ないんじゃない?」
「確かに携帯番号にはかからなかったのは私も覚えてるよ、けど、これは『リンク』だから。『リンク』のIDだけもってけばパソコンでもタブレットでも出来る」
「けど、いままで何度も薫に宛てて『リンク』に書いたよ。ボクには返事してくれないのに、涼子に脅迫してくるの?」
 真琴は涙で前が見えなくなっていた。
「真琴のスマフォ貸して」
 たまちが言った。
「ID消えてたら、メッセージした時の応答が違うはずだよ。ちょっと見せて」
 真琴はロックを外してから、たまちにスマフォを渡した。
「ちょっと勝手に見ちゃうよ」
 真琴は頷いた。
 たまちと涼子が真琴のスマフォを操作しながら、メッセージを一つ一つ確認していた。
「あ…… やっぱり」
「何か分かったの?」
「一時期というか、薫が居なくなった直後、IDは完全に消えていたよ。システム的に」
 真琴が聞き返した。
「けど、今そのIDで脅迫が来ているんでしょ?」
 たまちが人差し指を立ててから言う。
「そう。そうなんだけど、『リンク』ではIDが枯渇しないように、一定期間すると、削除したIDを取れるようになるんだ。私達がずっと消さなかったから、だから薫が復活したかのように見えるんだけどね」
「そ、そうなの?」
「それでも簡単なことじゃないよ。薫のIDと、少なくとも涼子のIDがバレてる。それと私達の最近のメッセージは、この薫のなりすましに読まれている可能性が高い」
「つまりそれって本人じゃないの?」
「そうね。これでは証明、という訳にはいかないから、本人ではない可能性もある、という程度ね」
 真琴はそれをどう受け取っていいのかわからなかった。薫が脅迫した人物でないことは、同時に薫の存在が遠くなることだったからだ。逆に、薫がいるとすれば、脅迫してきているのは薫ということになる。
「……」
「これからの二十四時間の間に、薫なのか違う人物なのかハッキリするわ」
 たまちが訂正した。
「正確には後二十二時間四十分ね」
「で、どうやって涼子を狙ってくる奴を捕まえよう?」
「さあ……」
「それが問題ね……」
 そ、それを誰も考えていなかったのか…… 真琴は額を手で押さえた。


 ーーー
いつもありがとうございます。
お手間でなければクリックをお願いします→にほんブログ村