あかねは一通り意見のまとめと、理由についてノートに書き留め、想定される質問に対しての答えも追記した。これがないと、あの人数の女子を相手に戦えないような気がしていた。
 すべてを書き終えてから、あかねがふと横を見ると、突っ伏していた美沙が顔を上げた。
「どう? 終わった?」
「うん。これならなんとかなりそうだよ。美沙のおかげだよ」
「良かった」
 一瞬、美沙の目が明るくなったかと思ったが、すぐに暗く重い闇に包まれたように思えた。美沙の相談は、きっと、すごく重い、とあかねは思った。
「美沙、美沙の相談の番だよ」
「そうね。それで来てくれたんだもんね」
「いや、ごめん。元々は私が……」
「いいの」
 美沙は顔を伏せるようにしながらそう言って、言い終えると顔を上げた。
「で。ちょっと前のこと、というかさっきの事、なんだけど」
 あかねはうなずいた。
「それって、バスルームでのことね。それも、私が具合悪くなっちゃったこと。あれね。あれ」
 あかねはまたうなずいた。
 少し頬が熱くなったような気がした。
「あれなんだけど、私」
「うん」
「……なんだと思う?」
「え、何だって言われても。貧血かのぼせたのか、そんなところじゃないの? ……まさか」
 まさか凄く重い病気とか……
「凄く重い病気か何か? って顔をしてる。多分、私がそんなことになったら…… どうだろう? そんなに強くないからさ。もっと早くにバレてると思うよ」
「じゃあ、病気とかじゃないの?」
「病気、って言ったらそうなのかも」
 とすると、美沙が女の子を好きな人だってことだろうか? それが美沙の相談?
「けど、病気じゃないから。なんか変な誤解されそうだからはっきりしとかないとね。病気、ではないの」
「けど、私のこと、なんか、色々触ってきたよね」
「うん。私…… 私、あかねのことが好きなの」
 えっ? えっ? 女の子が好きってこと? それじゃ私と同じじゃん。
「あ、誤解しないでね。女の子が好きなんじゃないんだよ。だって女の子みても欲情しないもん」
 いや、そんなこと言わないで。実は私がそういう人なんだよ。しかもつい最近からそんな感じになってるんだよ。あかねは喉から出かかっていたが、言わなかった。
「だけど、好きなのがあかねのせいだからなのか、女の子と女の子がえっちなことをしているのを想像してしまったりするの。もう、どうしようもないくらい」
 うん、なんか判るような気がする。
 あかねは、ふと重大なことを流していることに気がついた。
「私のことが好き? って? けど女の子は好きじゃないって、どういう意味? どういう意味なの?」
「ああ、もちろん友達、という意味でもあるし。恋愛の対象としてでも。性交渉の相手としても、という総合的な意味で」
「へ?」
 サラッとエロい意味も含めてきた、あかねはやっぱり予想通り、平穏なままこの家から帰ることは出来ないな、と思った。
「あのさ、その、あかねとね。ここで、さっきのお風呂でしてたようなことの続きがしたいの」
「え? いきなり、そんな単刀直入に?」
 美沙があかねの腰に手を回してきた。
「うん。私はいきなり、じゃないんだ。さっきからずっとそんな感じだったから。ごめんね、なんか色気なくて」
 美沙があかねの肩に頭をのせてきた。
「どう? あかね?」
 耳に息がかかって、ゾクゾクした。
「えっ…… う、うん。ちょっと考えさせて」
 あかねが美沙の左手を腰から退けようとすると、美沙は頭をのせてくるのを止めた。
「……」
 美沙の顔は泣き崩れそうに歪んだ。
「ちがうよ、ちがうんだよ。本当に考える時間をちょうだい。お願い。もう少しだけ」


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