薫の家に入るなり、涼子はシャワーを浴びたいと言い出した。たまちが、一人で入るのは危険だから誰か付き添って、と言った。
「たまち、一緒に入る?」
「え、ちょっと私は恥ずかしいから」
「じゃ、真琴は?」
「え?」
 見ると、たまちは真琴を睨んできた。
「いや、ボクは遠慮しとく」
「じゃ、メラニー、入ろうか?」
 車を車庫に入れていたので、遅れて居間に入ってきたメラニーは、何の話をしているのか分かっていないようだった。
「シャワーを一緒に入って欲しいのよ」
「そういうことですか」
 メラニーは考えた後、
「公平にジャンケンというのは?」
「何よ、メラニー。皆、私と入るのが嫌みたいじゃない」
「そうではありません。私は組み合わせをジャンケンで決めれば良いのではないかと」
「じゃ、ロズリーヌとフランシーヌも呼んで来てよ」
 涼子はメラニーにそう言った。
「え、そんな!」
 たまちは叫びそうなくらいの声の調子でそう言った。
 たまちの声には耳もかさず、メラニーは二人を呼びに二階にいった。
「どうしてそんなにいやなの?」
 真琴はたまちに尋ねた。
「私はそんなに背も高くないし、スタイルも良くないし……」
「そんなことないよ」
 真琴は改めてたまちの容姿を見なおした。身長がそんなにないせいか、幼く見えてしまうのだが、しっかりとあるべきところに膨らみがあり、女の子っぽい体型だ。
「やめて。ジロジロ見られると恥ずかしい」
 たまちは体を捻じり、手で胸とか腰とかを見られないように隠した。
 メラニーと共にメイドの二人が居間にやってくると、どうやって組み合わせを決めるかで揉めた。ちょうど三組だからジャンケンのチョキ組、グー組、パー組で、とか。全体の順番を決めてからトップの人が指名していく方法とか。しかし、真琴がノートを二枚ほど切って、阿弥陀でいいでしょう、と言うと、すんなりそれに決まった。
 三本の線が引かれ、ジャンケンで決めた順番に自分のポジションを決めた。決めた後に、それぞれが思い思いの線を継ぎ足し、隠れていた部分をオープンした。
「メラニーと真琴…… 私とロズリーヌ…… だからたまちとフランシーヌね」
「チッ!」
「え? 誰? 誰が舌打ちしたの?」
「皆さん思惑がハズレれたようで」
「何故同級生が一緒にならないの?」
「この組み合わせが無難じゃない?」
「とにかく!」
 真琴が言った。
「さくっとシャワーを浴びましょう。涼子が浴びたいって言ってたんだから、一番最初でいいよね?」
「じゃ、ロズリーヌ、行くよ」
「あいよ」
 ロズリーヌの格好をよく見ると、今日は当番らしくメイド服を着ていた。
 ただ、着崩しているせいで、ぱっとみではカジュアルな普段着のようで気が付かなかった。真琴はたずねた。
「あれ? 今日はロズリーヌの当番なの?」
「そうだよ。真琴、気付かなかった?」
 当番なのに下のフロアにいないなんて…… 本当に問題メイドだ。
「それじゃ」
 そう言って、手を振ると二人とも居間を出ていった。
 真琴はしばらくシャワーを浴びている二人のことを考えていた。
「例の脅迫」
 真琴は誰に向かって言うでもなく言葉にしていた。
「もし犯人がロズリーヌだったら、このタイミングで実行するよね?」
「何のことですか?」
 フランシーヌが言った。
「あっ!」
 真琴はロズリーヌに犯人の可能性があるなら、フランシーヌにも、メラニーにも可能性があることに、今まさに気がついた。
 そして真琴は慌ててたまちを袖を引いて、居間を出た。
「聞こえたかな……」
「そりゃ聞こえたと思うよ。犯人でなければ何のことだか判らないだろうけど」
「けど、そういう可能性はあるよね?」
「ちょっぴりはね」
 たまちは親指と人差し指が着くか着かないかぐらいに間を作ってそう言った。
「本当にそう言えるかな?」
「だってさ。歳も違うし、東堂本高校の生徒じゃないし」
「WiFiアクセスすれば学校から脅迫は……」
「今薫は休学してるんだから、外国の人が学校入ってきたらそりゃみつかるっしょ?」
 真琴は気持ちが沈んできた。
「そうかぁ…… 全然的外れってことか……」
「念の為、お風呂場見てきたら?」
「うん」
 真琴はトボトボと廊下を進んだ。


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