顔面に打ち込まれた拳を、真琴はすれすれで頭を下げてかわした。メラニーは真琴の下った頭を上から手で抑え、膝を蹴り上げてきた。
 真琴は体をねじりながら押さえつけてきた手を払い、顔面へ打ち込んでくる膝の直撃を避けた。
 あれ? ボク、こんなこと出来ない。
 真琴はこれが現実ではないことを知っていた。ただ、ここがどこの誰の中で、いつからここにいるのかがわからなくなっていた。まず、相手は誰なのか?
 真琴はカンフーヒーローのように構えてから言った。
「あなた誰?」
 メラニーの姿をした相手は、手の甲を真琴に見えるようにして、顔の前で腕を交差させた。両の手の甲に、また青白く炎のような梵字が浮かんで消えた。
「さあ? それを、お前が知る必要はない」
 交差した前側の腕が振り出されると真琴は右に首をかしげて避け、次の拳がくると、反対に首を傾けようとした。
 拳は避けられたが、間合いを詰められ、首に手を掛けられてしまった。同時に下腹部へ膝が蹴り込まれた。
 真琴の手は、首に掛かった手を外す為ではなく、次の膝の攻撃をかわす為に互いの体をゼロ距離にする為、相手の背中に回した。
 苦しいが、体を引き付けていれば、首を掴んでいる手にも力が入らないはずだった。これが背後から首を取って、テコの原理で喉を潰しにこられたらヤバかった、真琴はそう思った。
 真琴は次第に背後に回した腕を擦り上げて、首を締めるメラニーの腕を上に払うことが出来た。突き放して距離を取ってから、大きく息をした。
 そうだ、ここは浴室だ、誰か外にいるはずだ。真琴は叫んだ。
「涼子! たまち!」
 遠くで扉が開くような音が聞こえた。
「ふん、人数集めてもどうにもならんぞ」
「別に一対一でも、ボクは問題ないけど?」
 真琴は言った。
 だが、もっと違うことに気が付かないと行けなかった。いつかもこんなことがあった。この状況を端的に表した言葉で言い切ることが大切なのだ。
 浴室の扉が開いた。
「どうした?」
 そこには裸の真琴がいた。
 いや違う、それは違う、髪の色が違う、これは真琴ではない。
「誰?」
「ボクだよ。真琴だよ」
 何がこの世界を支配しているのか? 早く意識しないと、この二人に殺されてしまう。
「助けて」
「だから助けにきたよ? けどここには敵がいない」
「頭が痛い……」
 真琴は頭痛がした。
 頭痛、これは何かのきっかけとなる痛みのはずだった。
 メラニーが真琴の腕を取った。
 反対側の腕を緑髪の真琴が取った。
 腕が可動してはいけない方向に徐々に捻り上げられていく、軋むような感覚が腕と腕の付け根に走った。
 分かった!
「夢だ!」
 何も変わらなかった。
「夢でしょ?」
「夢だね」
「夢のようだね」
 痛みという言葉では表現出来ないような激痛が襲った。見ると自分の両腕がボッキリ、肩からもぎ取られていた。
 床は真っ赤で、壁中に血が飛び散って、全てが赤くなってしまいそうだった。腕が取れて束縛から解放された真琴は、自分の血で転びそうになりながら、開いていた浴室の扉から外へでた。
 出るなりバランスを崩して倒れてしまい、頭と足を使ってなんとか立ち上がると、浴室を振り返った。
 メラニーの姿をした女が言った。
「ここは夢なんだろ?」
 真琴は廊下へ出て、居間へと向かった。
 居間の扉が少しだけ開いていて、足先で引っ掛けて開けた。
「助けて!」


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