真琴は目が覚めた。
 それが本当の事か、まだ分かっていなかった。
 天井がボンヤリと見えた。
 ここ何度か、覚醒した時は点のような明かりが見えているだけだったので、これは画期的な変化だった。
 蛍光灯や送風口があることから、家ではないことが分かった。
 真琴は首が回るかどうか、確認するようにゆっくりと左を見た。
「たまち?」
 真琴は自分の声が辺りに響くことが分かった。自分のしたことが、闇に吸われるだけではなく、応答するものだとあらためて気がついた。
 真琴は考えた。
 これは何時のことだろう?
 ああ、緑川を見つけた時に、意識が遠くなって倒れたな…… とするとここは学校の保健室だ。まさか、あの時……
「まこと」
 たまちが目を閉じて唇を重ねてきた。
 真琴は、自分の体の上に載ってきたたまちを見ていた。
「まこと」
 たまちはそう言うと、真琴の制服を脱がし始めた。
 いや、まて。
 こんな記憶はない。
 まるで体を抜け出たように、スッと視点が上がると、真琴は完全に自分の体を見下ろしていいた。真琴はその姿を見て愕然とした。
 両腕がもげていた。
 もげていたかは正確には分からなかったが、制服の袖がくしゃくしゃと、中身が入っていないようだった。やがて、たまちが真琴の制服を完全に脱がし終わると、そこにある腕の付け根は焼けただれた皮膚で覆われていた。
 たまちは『まこと』のブラジャーを外し、胸の膨らみを粘土遊びをするように手でこねていた。そして舌先で乳首に触れ、吸い付くように唇を重ねた。
 視線は体を抜け出ているのに、真琴は感じていた。
 自分を完全に見下ろしていながら、まるで体と意識がWiFiで繋がっているかのように、たまちの唇が触れるのを、口の中で動かす舌で転がされる乳首を、感じていた。
 ボクは、どうなっているの?
 これは、何時のことなの?
 ここはどこなの?
 真琴はいっそこのまま霊体のような視点の状態で、学校を動き回れないか念じてみた。意識でなんとかなるのかやってみた。
 しかし、全く動かない。
 夢、ではないのか?
 下に見える自分の顔は、目を開けてたまちの方を見ていた。しかし、真琴は、たまちに弄ばれる、まこと、を見ている。そして、その場所を動くことも、別方向を見ることも出来なかった。
「ああ、感じる」
 確かに気持ち良くて、ゾクッとするように感じた。
 それだけではない。
 自分の声を聞いた。
 録音した声のようではなかった。
 つまり、自分が発した音をその体で受け止めた、ということだった。そして何故自分がそんな事を言ったのかが、下に見えた。
 たまちは、まことの太ももに顔を埋め、突き出した舌を這わせていた。両手はパンティに掛けられ、少しずつ足先へと引き下げられていった。
 自分が官能的な声を上げている。
 自分の入っていない体が。
 気が狂いそうだった。
『そう? これがお望みではないの?』
 誰かの声が聞こえた。
 それは耳からの感覚ではなかった。
 あたかも自分が考えたように、その言葉が問いかけられた。
『ならば死ね』
 気がつくと、目の前のたまちが、手にナイフを持って、まことの首に突きたてていた。白いシーツ、枕カバー、ついたてが血塗られた。
 真琴も激しい痛みとともに、すべての感覚が鈍くなっていき、急速に保健室の風景が遠く離れて行った。
 保健室の周りは全て闇だった。
 再び闇の奥に小さな白い明かりが見えるだけの世界に戻ってしまった。
 真琴はゆっくりと言葉をつないだ。
 さっきまでのほうが、ここよりいくらかましだった。
 ここはまったくなにもない。
 しこうさえもくらくつめたくにぶくなっていく。
 真琴は意識を失った。


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