カツン、と音が聞こえた。
 その音で、真琴は覚醒した。
 再び、カツン、と音が聞こえた。
 明らかに耳から聞こえたように感じる。
 目を開けたが、そこは全くの闇だった。
「真琴、聞こえる?」
 ……誰だろう。とても聞きおぼえがあって、大切な人の声だった。
「真琴、今助けるから」
 薫。薫の声だった。
「!」
 声が出なかった。
「真琴、立っているなら座って」
 ボクが立っているのか、座っているのかも分からない。すべての感覚がおぼろげで、良くわからなかった。
「いい? 大丈夫?」
「!」
 また声が出ない。
「薫、危ない!」
 別の声がした。
「くっ!」
 薫の声がした。
 薫、無事でいて。
 ボクもそこに行くから。
 そう思って伸ばした手が、壁に触れるのを感じた。
 長らく腕なしだった真琴は、その感触が非常に異質なもののように感じた。手なのに、まるで足先が触れているような、遠く鈍い感覚。
 そのうちその壁の感触に慣れてくると、背中やおしり、足が、何かに触れているという感覚が、一気に戻ってきた。
 ボクは手足や体を丸めて座っている。
 いや、寝ているのか?
 そして、ここは何か、湾曲した壁に囲まれている。
「大丈夫! 座っているから!」
 今度は上手く口を、そして喉を動かせた。
 自分の声が壁に響いて、自分の耳が痛くなった。きっと、かなり狭い空間だ。
「わかった。今助けるから」
 小さい声が、湾曲した壁を伝って聞こえてきた。真琴は動かないよう体に力をいれた。
「エナジー・カッター」
 確か円盤型の光輪を使って、ものを切る方法だ、と真琴は思った。同時に、これは夢のなかだ、と意識した。
 真琴の見ていた暗闇に、一文字に光が入った。すると、直後からもの凄い轟音が耳を襲った。光のすじから、火花が入って落ちてきた。音に慣れたころには、この湾曲した闇の中に光輪自体が入り込んできているのが目に見えた。
 光輪がノロノロと回転するように見え、気づくと今度は逆回転しているように思えた。まだ目に入るものは、闇とそれを切り裂く回転する光輪だった。
 光輪の輝きが消え、轟音が突然止まると、何か外から声が聞こえた。と、同時に切り取られた闇が真琴に落ちてきた。
「うわっ!」
 慌てて手を突っ張って、それが落ちてこないように支えると、失われた闇の部分から外の光が差し込んできた。
 切り取られた闇を、上へ押し戻すようにしながら立ち上がると、真琴は闇の切れ目から外の風景を見た。
 初めはまぶしすぎて、すべてがおぼろげだった。
 次第に目が慣れると、人の姿が見えた。
 そこには涼子と、薫がいた。
 二人共今にも泣き出しそうな表情をしていた、かと思うと不意に笑い始めた。
 真琴は恐怖した。
 真琴の表情を読み取ったのか、薫が近づいてきて言った。
「ごめん。それをずっと持ち上げている格好が可笑しかったからさ」
 薫は真琴が支えている頭の上を物体を指差した。
「それ、こっちに渡して」
 真琴は両手をまっすぐに突き上げ、支えていた、たまごの殻の上部分のようなものを、ようやく下ろし、薫に渡した。
 薫は受け取るとそれをどこかに放り投げた。
「真琴、出てきなよ」
 真琴が動こうとした時、それがぐらぐらと動き始めた。
「そっか。涼子、手伝って」
 涼子も真琴の入っている、上が切れた卵のようなものに近づいてきた。
「真琴はもう一度しゃがんで」
 言われた通り再び湾曲した底に腰を下ろした。
「せーの」
 大きく揺れた、と思うと上の方に開いていた穴が横になった。おそらく、立っていた卵型のものを横倒しにしたのだ。
「真琴大丈夫? これなら出てこれるでしょ?」
 四つん這いになりながら、その切り口の方へ進み出た。
 そこには地面のようなでこぼこがあり、空は雲ひとつなく青かった。建物と呼べるような構造物は全く存在しなかった。
 真琴は立ち上がると、薫に抱きついた。そばにいた涼子にも腕を回し、三人で固まって飛び跳ねた。
「やった! 助かった!」
「真琴が帰ってきた!」
 何から助かったとか、どこに帰ってきたのかとか、疑問はまだかなり残っていたが、おそらくこうだ。誰かの中のエントーシアンに勝利した、のだ。


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