真琴が走り出そうとすると、薫と涼子が腕を取って止めた。振り切ってでも洞窟に行かないといけない、と真琴は足に力を入れて振り切ろうとした。
「ヒカリが!」
「何故、ヒカリがあの中に入っているか、考えて」
「真琴は殺されかけたんだよ」
 そんな馬鹿な。
 真琴は走ろうとするのを止めた。
 涼子を、そして薫を振り返った。
「薫、本当なの?」
 薫がうなずいた。
「うそ!」
 涼子の方を見た。
「本当だよ。薫はそれにいち早く気付いて、助けに来てくれたの」
 ボクを殺そうとした……
 真琴は薫の方を向いた。
 薫は黙ってうなずくと、言った。
「……今から話すから、とにかく座って。落ち着いて」
 走らないと判断したのか、薫は真琴の腕を離した。
 真琴も向き直って、三人とも座った。
 涼子は正座を崩したような座り方をしてた。薫は正座をしていて、真琴は胡座だった。
「気づいたのは、山本昭二さんからのシグナルがあったからよ」
「おじいちゃんの?」
「うん。最初は、お祖父さんにアクセスしようとするエントーシアンがいるっていう話だった」
 薫は言葉の形を取るのを止め、直接真琴と涼子に話を伝え始めた。
 ここは夢の中なので、テレパシーのように直接思考を伝えることが出来るのだ。
 お祖父ちゃんに入り込もうとしたエントーシアンは、常時覚醒している肉体・システムを探していたようだった。お祖父ちゃんのシステムを乗っ取ろうと、何度も基幹システムにアクセスしようとしていたし、権限昇格を何度もトライしていた。
 真琴には意味が良くは分からなかったが、侵食しようとしているイメージが伝わってきた。
 おかしいと思ったお祖父ちゃんは、薫へ助けを求めた。
「最初はこんなメールおかしいと思った。自分の頭がおかしくなったか、と思った」
 急に声で聞こえてきて、真琴は一瞬、戸惑った。
 そんな風に思っても、薫は薫の父に相談し、そのメールに対して対応を取ってくれた。
「そのエントーシアンは誰か。お祖父さんが推測してくれたわ。アクセスログを確認して、以前も一度、間借りしたことのあるエントーシアンだった…… つまり、『ヒカリ』よ」
 既に分かっている事実だったが、そんな前からだったのかと思うと、真琴はショックだった。
「お祖父さんのシステムの乗っ取りが叶わないと分かると、今度は急に方法を変えたのよ」
 どうやら、それが『真琴』を乗っ取ることだった。ヒカリは最初に精神生命体の乗っ取りを、真琴に知らせてくれた精神であって、まさかそのヒカリが侵略をしてくるエントーシアンと同じく乗っ取りを仕掛けてくるとは思ってもいなかった。
 そもそも既に受け入れられているヒカリは、真琴を奪うことは容易かった。
 ここ最近、意識を失うことが多かったのは、ヒカリが感覚を奪う為の仕掛けだった。あたかも意識を失うような感じを再生して、注意をそちらに向けている間に体の感覚を奪っていたのだという。
 更に、お祖父ちゃんが気付いていることを察知したヒカリは、部屋のパソコンを焼いてしまうことを計画した。
 真琴の体を操ってパソコンに火がつくように仕掛けた、というのだ。
「そんな。ボクが自分で開けたとしたら、その扉を、あれ? 変だなって思うのは何故?」
「ヒカリが感覚・意識を奪っている間の記憶は、真琴からは思い出しにくいのよ。アクセスは出来るはずだけど」
 涼子が続けた。
「私も同じだったから、間違いない」
 そうやって真琴の体のコントロールを徐々に大きくしていって、完全に乗っ取ろうとしたところを、お祖父ちゃんから連絡を受けていた薫と、後で手伝うことになった涼子によって解決したというわけだった。
「ヒカリが……」
 真琴は受け入れ難かった。
「一応、説明するけど」
 薫が言った。
「ヒカリを潰さないのは、ヒカリがいないと、今後、真琴が戦えないからよ。真琴と同じに、ヒカリは自力であそこから出れない、と思う」
「?」
 真琴は自分が何故救われたのかを考えた。そして言った。
「待って。じゃ、薫と涼子はどうしてボクを助けられたの?」
「それは……」
 薫が目線を落とすと、真琴は息をのんだ。



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