真琴達は、Origamiという名の喫茶店で相談をしていた。店内は、いつものように客が真琴たちだけで、事情を知らない客がドアを開けて入って来た場合、客の少なさから危険を感じ、そのまま帰ってしまうに違いない。店の寂れた感じは、実際に提供される飲み物の美味しさと、大きなギャップがある店だった。
 話は大分進んでいて、もう何度も同じようなところをループしているような感じだった。
「で。田畑まさみのことなんだけど」
 涼子は続けて言った。
「私、さっき気づいたことがあるの」
「なに? さっきって、あの距離からチラっと見ただけじゃないの?」
「私はあの時初めて見たから」
「知識としてはあの娘(こ)が田畑まさみだって知ってたけど」
「……ちょっとまって」
 真琴は各々が次々に語り始めそうなので、そう言って一度鎮めた。
「で、涼子。田畑さんのことで、気づいたことがあるんだよね」
 真琴は向かいにいる涼子を見つめた。
「うん」
「で、どんなことなの?」
「田畑まさみって、巨乳だよね」
「え?」
「あ! 私も気づいてたよ」
「そうだったかな……」
「あれはそうとう巨乳だよ。着衣状態であれだもん」
 涼子は手で胸の膨らみを示した。
「ちょっと涼子!」
 このままでは話しがズレたまま戻らない。真琴はそう思って立ち上がった。
「いいですか。これから田畑まさみさんが巨乳ということを言ったらテーブルに百円ずつだしてもらいます」
「え? どうして」
 涼子が言った。
「相談が先に進まないからよ」
「そうね。確かに話しが分散してしまってるわね」
「私ももう少し大きかったらな」
 たまちは自分の胸を見ながらそう言った。
「だから胸の話は……」
「で、なんて言ったらテーブルに百円出すんだっけ?」
「巨乳、よ」
「はい」
「?」
「だ・か・ら・百円」
 涼子はテーブルを指さした。
「ボクは涼子に説明するために言ったのよ」
「だからなんて?」
「巨乳よ!」
「もう百円」
 再びテーブルを指差した。
「この!」
 真琴が拳を振り上げると、薫が止めに入った。
「だからさ。涼子はそういうの意味ないっていってるのよ。そういう特定の単語を言わなくても話しをズラすことは出来るし、ズレても何か有用なアイディアにつながるかもしれない、ってことじゃないかな」
 真琴は振り上げた拳を下ろすと、薫に言った。
「え、そんな意図でそう言ったの?」
「まぁ…… そんなところ。もうだいぶ真剣に話したわ。具体的な行動に移す段階よ」
「具体的な行動?」
「それが何だかは、わからないけど…… そういう話しをしなきゃいけない、ってことね」
 真琴は薫に制服の端を引っ張られると、落ちるように座った。
「ふぅ…… 薬は本当に田畑まさみの手に入ったのかしら」
「そこかもね」
 たまちが言った。
「やっぱり入手出来るのか、とか薬をやってる、とか。そういう情報を集めた方がいいのかも。田畑まさみ自体が薬を持っていたり、与えなくても、薬を使っている人を追っかければ、後はどうとでもなるんでしょ?」
「どういうこと?」
「確かに、田畑まさみが薬を持っていればすべての主導権は握れるわよね?」
 その通りだ。
 目の前にいる人間に薬を使い、誘起し、一時的に【鍵穴】化すれば、そこで接触して、肉体の支配を逆転すればいい。
「けれど、本人が売ったり買ったりと、そういう危ない真似をしなくてもいい方法があるわ」
「?」
「薬を使っている人を追っかけていれば、そのうち使うわけでしょ? 誘起した状態なら、接触して【鍵穴】化し、そのままエントーシアンにすることも出来るかも」
「そんな誰かにつけられている状態で薬とかを使うかしら」
「それじゃあ、パーティとか、クラブとか、で薬を使っていてもわからないようなところだったら?」
「!」
 そうか、薬をあえて入手する必要はない、というのはそういうことか。真琴はようやくたまちが言ったことを理解した。真琴は言った。
「たまち頭いいね」
 涼子が額に手を当て、うつむいてから言った。
「そうじゃなく、真琴がにぶい…… いや、やめとく」
 薫がまとめに入った。
「そうね。そういうような皆が騒いでる場所なら、体を接触させていてもあまり変に思われないだろうし。そういう可能性も含め、情報を集めましょう」
「そうだね」
「うん…… けど、そういう情報を集めるのって危なくない?」
「ボクもなんかそんな気がする。上手な情報収集のやり方を考えないと」
「私は事務所の人に聞いてみる。派手な遊びする娘(こ)もいるからさ」
 そう言って涼子はアイスティーを口に運んだ。
「まずはどんな情報が集まるのか、それぞれで工夫してみましょう。それがダメなら別の方法を考えると言うことで」
 薫は一人一人の顔を見ながらそう言った。
「いいかしら?」
「で、期限は?」
「週末でいいんじゃない?」
「2日しかないけど?」
「週末で思い出した、もう次の週の週末って体育祭だよね?」
 あ…… 体育祭。
 それは、ボクにとって、田畑まさみのこと、薬のこと、等々がすべて吹き飛んでしまうような言葉だった。
 すごく嫌なイベントだった。普段の体育で、ボクが運動が苦手である事は、クラスの人間にはバレている。それはそれでいいのだが、見かけで人を判断するタイプのその他大勢の人に、いろいろと誤解されているのだ。その誤解による期待と、長年の体育やら運動会で積み重ねられた失敗の蓄積が、真琴により強いプレッシャー与えていた。
 小学校の時は、ダンス、短距離走で意味もなくコケまくり、悪目立ちしてしまった。
 中学の時も筋力のなさから騎馬戦でコケるし、ダンスの時のリボンにグルグル巻きになるという、昨今アニメやマンガでもやらないような失敗経験を持っている。
 高校初となる今回は、通学時に『王子』などと言われてしまっている関係で、何か小さなドジでも踏もうものなら、その後、電車の中などで、散々な言葉を浴びせられるに決まっている。
 本当に、そういう連中ときたら本人に聞こえるか聞こえないかというところで悪口を言うのだ……
 もう完璧に開き直れればいいのだが、どうしても上手くやろう、としてしまうのがいけないのかもしれない。
「どうしたの急に渋い顔して」
 涼子が勘付いたように言った。
「いや、何でもない」
「確かに時間がないね。お互いがんばろう」
 たまちが話題をずらしてくれて、真琴は救われた。
「じゃあ、その話はここまでで」
 その時、真琴は薫に手伝ってもらおう、と軽く考えていた。


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