ようやく、父と携帯ショップに並んで、スマフォを手に入れた。前回までの携帯会社のポイントやその他もろもろを活用し、父が言っていたギリギリの安い旧機種ではなく、友達が使っているような新型機種で契約出来たのだった。
「ありがとう、お父さん」
「いや、それはいいんだ。もう壊さないでくれよ」
「うん。大切に使う」
「そうだ、ここまで来たんだから、お茶でもしていくか?」
 父が指差したのは、色んなドーナツを出す店だった。一年近く前、話題になった時、父が行きたがっていたのは知っていた。
「あそこドーナツの店だよね?」
「結局、行けてないから、この機会に行ってみたいんだけど」
「いいよ」
 あかねはついでにその店でスマフォのセットアップをしてしまおうと思った。
 二人は向き合って座って、いつものように軽く学校の出来事を話し、その代わりに、父の思い出を聞かされた。時代が違うせいか父の話や印象を聞いても、あまりピンとこなかった。逆に父は、あかねの話を面白がって聞いてくれた。
 お互いの持ちネタがなくなると、ようやくドーナツを食べたり、コーヒーを飲んだりする時間になった。
「お父さん、ちょっとこれセットアップしていい?」
「充電してないけど大丈夫なのか?」
「前に買った時もそうやって出来たから大丈夫じゃない?」
 とにかく、早く使えるようにしないと、明日からのまとめの発表と投票に支障が出てしまう。
「そう? それならいいよ。父さんも少しネット見てるから」
 父もスマフォを取り出して、何やら見始めた。あかねは箱から新しいスマフォを取り出して、電源を入れた。
 メールアドレスを設定して、クラウドのバックアップから復元する、を選択すると、後は今まで使っていたスマフォと同じ設定に戻っていった。ダウンロードには時間がかかるようで、画面に現れたそれぞれのアプリのアイコンに、クルクルとインジケータが回っていた。
 四十七分の二から、三になるのに、二、三分かかったの見て、このペースで動作したらバッテリーが持たないかも、とあかねは不安になった。
「父さん、やっぱり充電もたないかも。バッテリーない?」
「やっぱり。じゃ…… これつかいなさい」
 父がカバンからUSBの口がついたバッテリーを取り出した。
「ケーブルはあるよな?」
「うんさっき箱の中に入ってたよ。ありがとう」
 父さんは得意気な顔をしていた。
 あかねは、ダウンロードが終わったアプリの起動してみた。
 問題なく使えるものもあれば、再設定しないと使えないものもあった。面倒だったが、それらを一つ一つやっていった。
「父さんもう一つドーナツ食べるけど、あかねはどうする?」
「じゃ、私もヨーグルトクリームのやつ二つ」
 父は追加のオーダーをしにカウンターの列へならんだ。
 あかねは『リンク』の設定が終わったので、恐る恐る開いてみたがメッセージも何も入っていなかった。設定し直しているので、当然なのだが、あかねはほっとした。スマフォを壊してしまった日の、あの変なメッセージが入ったままだったらどうしよう、と思ったのだ。
 あかねは同期した電話帳から、一つづつ慎重に『リンク』へのアクセス許可のチェックを入れ、都度動作を確認した。
『あかね、スマフォ買い直したんだね』
 さっそく美沙からメッセージをもらい、あかねはすぐ返した。
  『電池持ちのいいヤツ買ったんだ。良く充電忘れちゃうからさ』
『あ、それって茅場サオリがCMやってるやつじゃん』
  『するどい! どっちかというとそっちが主な理由』
 あかねが美沙とやり取りしていると、父がドーナツを持って帰ってきた。
「どう? サクサク?」
「うん、想像してたより良いよ」
 あかねは目の前に置かれたヨーグルトクリームドーナッツを頬張った。すると、スマフォがブルっとしたので、右手で操作した。
「あかね、口にクリームつけたままじゃ格好わるいぞ」
 あかねはスマフォに送られて来たメッセージを読んで怖くなった。スマフォを落として壊してしまった時のメッセージが、再びあかねの元に届いていたのだ。
 スマフォを変えて、IDはもうバレていないはずなのに……
「あかね、ほらこれで口を拭きなさい。 ……いったいどうしたんだ?」
 あかねは父に口を拭われながら、ドーナツをそっと皿に戻した。
「帰ろう父さん。早く帰ろう」
 そう言っていきなり立ち上がったあかねに、父は困惑したような表情で慌てて言った。
「じゃ、ドーナツ包んでもらうから、ちょっと待ってろ」
 あかねは力いっぱいスマフォの電源ボタンを押し続けた。


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