父が心配して、何度も問いかけてきたが、あかねは答えなかった。事情は話せないし、複雑だった。それにこの変なメッセージを送ってくる仕組みや、送り主の知識がないため、説明出来なかった。
「そうか。言いにくいこともあるよな」
 父はそれ以上尋ねてこなかった。
「ありがとう。詳しくは言えないけど、大丈夫だから心配しないで」
 あかねはそう言うのが精一杯だった。実際は不安で仕方なかったからだ。美沙に会いたかったが、自分から訪ねていく心境ではなかった。
 あかねは恐る恐るスマフォの電源を入れ、『リンク』で美沙にメッセージを送った。
『家に来れない?』
 そのメッセージは、あかねが駅から自分の家へ歩いて帰る時に『既読』に変わった。
 あかねの様子を見ていた父が言った。
「歩きスマフォ、危ないぞ」
「うん。わかった」
「そういうのに振り回されてるとつい、他に世界はないような気になるけどな、現実は車も自転車も、知らない歩行者もいる」
「……」
 あかねはうなずいた。
 父はあかねの前を歩くようになった。
 家につくなり、あかねのスマフォに着信があった。美沙からだった。
「あかね、どうしたの? 今から行けばいい?」
「うん、来て。相談したいことがあるの」
「何があったか分からないけど、支度したらすぐでるから」
「ごめんね。お願い」
「じゃね」
「うん」
 先に靴を脱いで上がっていた父が心配そうに見つめていた。
「大丈夫。友達が来てくれるの」
「そうか」
 父は少し寂しげだった。
 何か娘の力になれれば、と思ってくれたのだろうか。あかねは、少しだけ、悪いことをした、と思った。
 父は一人で居間へいくと、あかねはそのまま自分の部屋に入った。
 スマフォの画面を見ながら、なぜ新しく買ったばかりなのに、IDバレしているのかが不思議だった。大体、電話帳から『リンク』へ追加しているのは数人なのに……
 あかねは『リンク』へ追加した友人の名前をもう一度確認した。
『安村美沙』
『橋本真実(まみ)』
『征野(せいの)なな』
『上条麻子(あさこ)』
 たったこの四人だ。
 この中に、学校のWiFiと同じような、業者にIDを渡してしまうような子がいるのだ。それともスマフォがウイルス感染してしまっているのだろうか。
 安村美沙。
 まぁ、あれだけ知識があるんだから、ウイルス感染なんてないだろう。本人がIDを渡すこともない。だって、私と美沙は……
 橋本真実(まみ)。
 女バスの部長だ。美沙の次に信頼のおける人物だ。学年が違うのに、上から物を言うことがなく、りっぱな人物だと思う。この人が部長でないと、今、部活は成り立たないだろう。
 征野(せいの)なな
 この娘(こ)にも何も疑惑はない。あかねが、最初に美樹先輩の動画をダウンロードする時、あのWiFiに繋いだ時にいたメンバーではある。つなげつなげとけしかけたかもしれないが、悪意があってのこととは思えない。
 上条麻子(あさこ)
 確かにWiFiに繋ぐときにいたメンバーだ。疑うとすると『なな』か『麻子(あさこ)』になる。本当に、こういうことになるのを分かっていてやっていたのだとしたら、最悪だ。
 いずれにせよ、このスマフォはもうアウトだ…… あかねはこの状態で使い続けるしかない、と思うと、悲しくなった。数時間前はあんなに嬉しかったのに。
「あかね、あかね。そろそろご飯だけどうするの? 美沙さんくるんでしょ? 美沙さんの分のご飯つくってないんだけど……」
 部屋の外から母が問いかけた。
 どうしよう、そんな時間だったのだ。
「忘れてた。じゃ、美沙と一緒に外で食べる」
「お金あるの? 出そうか?」
 あかねが扉をそっと開けると、母がにっこり笑った。
「はい。これ渡しとくね。レシートとお釣りは返してね」
 母から五千円札を渡された。
 あかねはうなずいた。
 そのタイミングで家のチャイムがなった。下からやまとの声がした。
「美沙さん来たよ」
 あかねは母に言った。
「ごめんなさい。それじゃ行ってきます」


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