玄関側から鍵が開く音がして、続いて扉が閉まる音が聞こえた。
「ただいま」
「おかえり」
 真琴は玄関へ向かい、母の上着を受け取り、いつもの場所にかけた。
「なに、テレビ見てたの? 珍しい」
「ちょっと行き詰まってて」
「何に行き詰まってんのよ? 変なこと言うのね。今日夕飯、ママの当番だったよね。すぐ作るから、買ってきた惣菜だけ、お皿に出しといてもらえる?」
「うん」
 惣菜を二つの小鉢に分けて入れると、真琴はまたテレビを見ていた。ニュースは変わって、テロが頻発する国際情勢について解説していた。
「またテロなの? 怖いよね。ああいう自爆テロって、宗教っていうか、洗脳のようなことをするっていうじゃない」
 真琴は、爆破された様子を映し出すテレビを見ながら、母に言った。
「宗教的に救われたりするから、とかじゃないの?」
「それだけじゃないらしいよ。薬とかを使って幻覚を見せたりしてね。それしか救いがないように追い込んでいくみたいね」
「……酷い」
「ちょっと考えてみてよ。爆弾を抱えて死ぬんだよ、普通の心理状態で出来ることじゃないでしょ?」
 真琴はなんとなく自爆テロの話とエントーシアンの話を混ぜて考えてしまっていた。もしかして、世界で起こっている自爆テロも、そういう世界の乗っ取りを考えているような連中の仕業なのかも。
 そして、爆弾を持って命令された場所で爆破される心理を想像した。確かに、正常な心理状態でそれをこなせるとは思えなかった。もう完全に狂ったような世界に支配されているような、幻聴や幻覚が襲っているような状態でなければ、自殺以上に恐ろしいことを進んで実行するなどありえない、と真琴はひとり納得した。
「そうだよね…… どう考えても正常じゃないよね」
「さあ、出来たよ。真琴はお米食べる? 食べるなら温めるけど?」
「いらない」
「そう」
 母は肉野菜炒めと、野菜スープを真琴が置いた小鉢の横に並べた。
「おまたせ。お腹空いたでしょ。さあ食べましょう」
「いただきます」
 真琴はご飯を食べながら、エントーシアンとテロが関係していたらどうなるかを考えた。もし自分がテロの首謀者で、人を使って爆破テロをするとしたら…… 可能だ。人に思ったことをさせることが出来るのだから。実際に、たまちと対峙した時、クラスの皆をコントロールしたし、さらに強い支配ができれば、自爆テロも可能だろう。
 首謀者が【鍵穴】で、やがてその人間を完全に支配し、そして次の【鍵穴】を探し、テロ集団をつくっていく。コントロールが効きやすくする為に薬を使う……
 真琴は箸を止めた。
 あまりに符合しすぎる。
 他国で起こっている事件が、エントーシアンの仕業だったら、もう既に相当数の敵がいて、ボクが頑張ってももう世界は救えないのではないか。
「どうしたの? 美味しくなかった?」
 真琴は首を振った。
 そして立ち上がり、ソファーに放おっていたテレビのリモコンを手にとると、母に言った。
「消してもいいかな」
「どうぞ」
 真琴はテレビを消した。
 この世界で起こるテロや戦争が、ボクの戦っているエントーシアンのせいだったらとしたら。もう世界は飲み込まれてしまっているのかもしれない。自分や薫や涼子のような、エントーシアンの力を使える人を増やさないと、対抗できない。
 薫はもしかして、エントーシアンに『対抗する』ための研究の為に、実験に協力しているのではないか。真琴はぼんやりとそんなことを考えた。
「本当にどうしたの?」
「ごめんなさい」
「?」
 母はしばらく黙ってから、言った。
「なんか変な味でもする?」
「あ、違うよ。さっきのテロの話」
「大丈夫よ。この国ではめったにないことなんだから」
「そうね。けれど今後もそうとは限らないじゃない」
 だからボクが守らないと。
「これから酷くなるとは決まってないじゃない。ずっと同じかもしれないし。あまり暗い方向にばかり考えないことね」
「そうだね」
 真琴は母を心配させないように、すこし笑顔を作って、ご飯をいつも以上に美味しそうに食べた。


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