真琴は薫と共に歩きながら、緊張した状態で学校へ向かった。それは、田畑まさみが一体どんな仕掛けをしてくるか、分からなかったからだ。二人は授業開始までの間、廊下で周りを見ながら過ごした。
 そして教室に入って、朝礼が終わり授業が始まっても、何も起こらなかった。一時間目の授業が終わった後、真琴が田畑のクラスに行って確認すると、今日は休んでいるという。
「ありがとう」
「まさみになんか用?」
「ごめん。大丈夫。今度会った時に話すから」
 真琴はそう言って自分の教室へ戻った。
「真琴、もしかして田畑さんのクラスに行ってたの?」
「うん。休みだって」
「急に襲われたりしたらどうするの?」
「あっ、そうか。そんなこと何も考えてなかった」
 薫は呆れたような顔になった。
「気をつけて、というか、私に一言声掛けてよ」
「そうだったね。二人で行けば良かったね」
「今までの私じゃないんだから、真琴一人で戦わせないよ。ね。今度から本当に単独で行動しないで」
「うん」
 けれど、今日の放課後は、薫は実験に参加する為にラボに行くと言っていた。今日の午後は、ボク一人で行動するしかないではないか。
 薫は何か考えているように黙った後、教科書のカバンとは別の、布のカバンからお祖父ちゃんのくまの縫いぐるみを取り出した。
「真琴、私がラボに行く時は、おじいちゃんを預けとくよ。必ず一緒にいてよ? 後、単なるぬぐるみ、という訳じゃないから無くさないでね」
「え? いや、いいよ。この前の話も良く分からなかったし」
 お祖父ちゃんがいれば、一人で行動したことにならいと言うのか。
「大丈夫。単純に一緒にいるだけでいいわ。カバンがいるなら、カバンごと預ける。後、夜帰ったらスマフォのケーブルでいいので充電してね」
 薫は、真琴の手を取り、くまの縫いぐるみの首の後ろを触らせた。
「ああ、ここに挿せばいいのね」
「お願いね」
「うん。わかった。じゃ、カバンも貸して」
 薫はカバンを真琴に手渡した。
 とても見えているように思えない目や鼻の作りを眺めながら、真琴はくまの縫いぐるみをカバンに入れた。
「一応、取説送っておく」
「何の?」
「そのくまの縫いぐるみのだよ。暇なときでいいから読んでみてね」
 スマフォに薫からメールが届いた。
「え、何これ重いね」
「ネットだといざという時見れないかもしれないから、ダウンロード出来る時に落としといてよ」
「今?」
「うん」
 操作すると、何か随分とゆっくりとしたメーターが動き始めた。
「結構時間かかりそう……」
「次の授業までには終わってるんじゃないかな」
 見てはいないが、果たしてそういうハイテクなものを使いこなせるようになるのか疑問だった。そもそもスマフォ自体もまだ今年買ったばかりで、良く理解していないのに。
「そうだ。後、ラボにいる時は電波届かないことも多いし、スマフォを見れないかもしれない。ラボの連絡先を入れとくから、そっちに電話して呼び出して」
「いいの、そんな所に連絡しても?」
「私が出れなくても、エントーシアンのことなら伝えてくれて構わないわ」
「本当? ラボの人たちはボクのこの話を信じているの?」
「当たり前よ。それもこれも、真琴のお祖父さんのおかげね」
 真琴は机に置いたカバンの中をちらっと見た。このくまの縫いぐるみのおかげ…… いや、もともとお祖父ちゃんはこんな姿ではないのだが。
「話は変わるんだけど」
 真琴は昨日のテロの事を話そうと思った。
「なに?」
「昨日ニュースを見てたんだけど。海外で自爆テロがあったって。あれって、実はエントーシアンってことはないの?」
「……どうかな。どこまでこの精神侵略が進んでいるのかわかっていないのよ。確かに、出来なくはないんだけど」
「そういうのは、やっぱり分からないの?」
「ラボに行った時に聞いてみる」
「うん……」
 エントーシアンであれば出来るからと言って、それがイコールエントーシアンの仕業、ではないのか。確実にエントーシアンにしか出来ないことであれば、決定的なのだが、エントーシアンの存在を確認する前から自爆テロはあったし、エントーシアンの力がなくても、そういうテロ行為は実現可能なのだ。
 そう考えると、真琴は肩の荷が降りたような気がした。
 現時点では、エントーシアンとの戦いは、全人類を恐怖に陥れるような大きな組織との戦いではない。それに戦えるのも、真琴だけはなくなった。
 おそらく、昨日の暗い気持ちはそういうことだったのだ。
 教室にチャイムの音が響き、真琴は席に戻った。


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