放課後、体育祭の準備の為、真琴は生徒会を手伝いに行った。薫はラボに行く為に先に帰っていた。
 会長が言った。
「今日は入退場門用に使う角材、模造紙、カラーマーカーペンが納品されるので、それを体育倉庫まで運んでもらいます。模造紙とマーカーペンは各クラスに配布出来るようそれぞれ箱に分けてください」
 真琴以外は、ミキサキと副会長とだけだった。つまり、男は副会長だけだった。角材をどれくらい持って歩くのかわからなかったが、ちょっと心配になった。
 駐車場にトラックがついたと連絡が入ると、真琴達はそこに向かった。
 トラックから降りてきたおじさんは、荷台から軽々と角材を下ろしたが、真琴達の顔を見て、不安に思ったようだった。
「お嬢ちゃんばっかりで大丈夫? 言ってくれれば持って入るよ」
「大丈夫ですから」
 真っ先に会長がそう答えてしまった。
 真琴はびっくりして、会長の顔を見つめた。ミキサキもあからさまに驚いたような顔をしている。
 真琴が言った。
「え? 運んでもらいましょうよ」
「そうだよぉ、遠慮しなくていいよぉ」
 おじさんも運ぶ気満々のようだ。
「いえ、ここから先に入るには手続きがいりますから。ご厚意はありがたく頂戴します。申し訳ありません」
 そういうことなのか、と真琴は思った。
 だから駆り出されたというわけか。
「分かったよ。気をつけて運ぶんだよぉ。ムリしないで先生とか呼ぶといいぞ」
「お気遣い、ありがとうございます」
 トラックのおじさんは、荷物を下ろすだけ下ろすと、帰って行った。
 ミキサキで四本、副会長と真琴で四本運び、二回往復すれば運び終わる。会長は模造紙、次がカラーマーカーペンを運ぶことになっていた。
 運び終われば、真琴の役目は終わりだった。副会長は平気な顔をしていたが、真琴はしっとりと汗をかいた。
 二回目の角材を倉庫に入れてから、真琴は言った。
「お疲れ様です。私はこれで失礼します」
「ありがとう、真琴さん。助かったよ。お疲れ様」
 真琴はそのまま生徒会室に置いてあったディパックを持って学校を出た。今度の土日までの間に、各々が調査せねばならないことがあるのだ。
 中居寺の駅につくと、真琴は昨日のニュースでやっていたクラブを探した。
 いつもならOrigamiに入る所を、そのまま通り過ぎ、角を曲がって奥へと入っていくと、店の看板の質ががらっと変わっていた。
 そこはキャバクラとか、パブとか、そういう夕方におじさんがブラブラしているような店が並ぶ通りだった。しかし、まだ時間が早いせいか、人通りも少なく、呼び込みするような店員もいなかった。
 真琴は角を曲がって少し歩くと、そろそろこのあたりだ、と思って看板を見ながらゆっくりと歩いた。
 クラブ・ヴェトロ、とある。
 これか、と思った。そこは地下に降りるのか、二階にあがるのか分からなかったが、細い入り口になっていた。入り口は、まだシャッターが閉まっていた。
 真琴はシャッターの前に立ち止まってじっと見ていると、どこからか視線を感じた。後ろを見てもだれもいない為、またしばらくシャッターを見ていた。開店するのは何時だろうか、他に何かないかと思っていていると、やはりどこからか見られている気がした。
 今度は振り向かず、何かが分かるまでじっと耐えた。
「あのさ」
「!」
 真琴は声のする方を振り返った。
「君みたいのがくるとこじゃないぜ」
 男は痩せていて手足が長く、髪も長かった。と言っても、女の子のように長いわけではなく、真琴よりは長いくらいだった。
 男は右耳に掛かる髪を、耳が出るように指で後ろに直した。
「……」
「制服でここにくるような娘(こ)の来るところじゃない、ということだ」
 白いシャツを着ているのだが、それが余っているように見え、余計に体の細さと長さを強調していた。
 真琴は言い返した。
「このままの格好じゃこないけど?」
「う〜ん。なんか違うよな。ここにくる感じの娘(こ)じゃない。何が違うんだろう、よくわからんが」
 何が言いたいんだろう。
「高校生だ。そう、高校生が遊ぶところじゃないんだよ、ここ」
「ボク、高校生じゃありません」
「嘘つけ! 高校の制服じゃん、なに、それコスプレだとでも言うの?」
「コスプレです」
「ダメダメ。そんなコスプレで中入れないから。わかった?」
 男はそう言うと、ふんぞり返って、人差し指を立てて振った。
「どうしても入りますから」
「お、そうきた?」
 急に腰を曲げて真琴に顔を近づけてきた。
「なんなんです?」
「良い方法があるよ」
「だから、何なんです?」
 真琴は、寄せてきた顔の分だけ体を後ろに引いた。
「同伴さ。常連との同伴ならチェックなしだ。どうだ」
「へぇ、良いこと聞きました。じゃ!」
 真琴は一度家に戻って着替えようと考えた。駅方向へ帰ろうとするところを、男に腕を取られた。
「だから、何なんです?」
 男はしきりに親指を立て、鼻に当てていた。
「……それじゃ」
「だから!」
 男は両方の人差し指を自分のそれぞれの側の頬に当てた。
「? 意味わかりません」
 再び歩きだそうとすると、再び腕を引っ張られた。真琴は振り返る。
「なんでわかんないかかな。俺だよ。俺と一緒に入ればいいだろ?」
「あなた常連なんですか?」
「常連だよ。そうじゃなきゃ、こんなこと言わないだろ」
 男は胸を張って手を腰に当てた。
「ふぅん」
 真琴は男の頭のてっぺんからつま先まで、じっくりゆっくり、舐め回すように見つめた。
「嫌。お断り」
 真琴は急いで駅前のロータリーへと向かった。腕も掴まれなかったし、追ってくる様子もなかった。
「あのいっときの粘りは、なんだったのかしら?」
 真琴は来た道を振り返って、そう言った。何事もなかったように、あっさりとバスに乗ると、真琴は自宅へと帰った。


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