真琴は、母に、服を借りる事、夕飯はいらない事、をメールで連絡した。そして陽が落ちてから、家を出た。
 バス停までの道のりが退屈だったので、真琴は背中のバッグに入っている縫いぐるみに話しかけた。
「お祖父ちゃん、なんか話ししてよ」
「話してもいいが、大声出して背中のバッグと話しとると、変な人に思われるぞ」
「……そうだね。そうか。ハンズフリーのケーブル使おう。お祖父ちゃんには携帯電話のソケットみたいのはないの?」
「ああ、イヤホンとつながった小さいマイクで通話するやつか。ソケットならあるぞ」
「じゃ、ケーブルつなぐね」
 真琴はバッグを開けて、ヘッドセットとくまの縫いぐるみを取り出した。
「で? どこ?」
「ここじゃ」
 真琴は脇腹を触るが何もない。
「どこよ?」
「ここじゃ」
 やはり縫いぐるみは脇腹から背中のあたりを叩いている。
「口で言って」
「言えん。察しろ」
 縫いぐるみは両手を後ろに回した。
 なんとなく真琴は場所が分かったが、すこし意地悪をしてやろうと思った。
「背中?」
 首の後ろあたりからずーっと指で押したり触ったりしながら、下におろしていった。
「ないじゃない?」
「だから!」
 再びくまの短い手は脇腹の後ろあたりをトントンと叩くだけだった。
「おじいちゃん、ボクが触っているところ分かるの?」
「そういうフィードバックはない。そんなものがあったら、さっき蹴飛ばされた時に気を失っとる」
「ふーん」
 真琴は耳を引っ張って吊り下げた。
「で、どこよ。ハッキリ言って」
 くまは手を上げ下げした。
「……おしりじゃよ!」
「言えるじゃないの」
 言うなり、ブスリとプラグをお尻のソケットに差し込んだ。
「はぅう……」
「え、やっぱり何か感じるの?」
「そういうフィードバック回路はない。分かっとったろ? 途中で気づいとったじゃろ? そうじゃろ?」
「乙女は分かっていてもそんな事口にしないのよ」
 真琴は、ケーブルがはずれないようにバッグに縫いぐるみを戻し、ケーブルを前に回した。バッグを再び背中に背負うと、バス停まで再び歩き始めた。
「お祖父ちゃん、ボクがヒカリに乗っ取られそうだった時の話って全部知ってる?」
「まぁ大体はな」
「涼子が脅迫を受けていたじゃない? あれ、結局だれが出してたの?」
「薫が初めからずっと計画していたようじゃな」
 真琴が独り言を話しているように見えるのか、バス停の列に並んだ人から変な視線を感じた。
「学校から脅迫メールを送っていた、という情報もあったわ。あれは?」
「あれは偽装してたな」
「けど、警察の人が、偽装するのはそんな簡単じゃないって」
「出来んとはいっとらんかったろ?」
 バスが止まった。前扉が開いた瞬間、真琴はバス運転手から胸元を見られているような気がした。共通乗車カードをかざして奥の座席に行こうとすると、左手に座っているスーツのオジサンや、大学生風の男の人からも、同じような目線で見られた。
 真琴は自分の胸元に視線を落とすが、特に見えてはいけないものが見えているわけでもなかった。
 真琴は、窓際の席に座ると、外を見て独り言のように小さい声でお祖父ちゃんに言った。
「(なんだろう、胸ばっかりみられてる)」
「まぁ、それだけ寄せて上げてれば真琴の胸のサイズでも視線を集めることが出来る、ということじゃな」
「(失礼ね。やっぱり男の人は大きい方がいいのかしら)」
「というより、見れるものは見てしまおう、とそういうことじゃないかの?」
 真琴は上着の襟を直した。
 そしてお祖父ちゃんにこう言った。
「(やっぱり男の人は嫌い)」


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