最初は緊張感から、あかねも真剣に聞いていたが、美沙が上手く説明しているようだったので、あかねは冷えた体を温める為にシャワーを全体に掛けてから出た。
 出るのを待ち構えていたように、美沙が呼びかけてきた。
「あかね、シャワー終わった?」
「うん」
「お父さん達がね、帰ってきたの」
 美沙は、母の方へも聞こえるように言った。
「そうだったの? お母さん、すみません、お風呂お借りしてます」
 あかねも、合わせるように美沙の母へ向かってアピールした。
 美沙の母の声が聞こえた。
「(お父さんは、二階に行っててください)汗は流せたかしら」
「はい、ありがとうございました」
 あかねは着替えて部屋に入ると、美沙のお母さんが立ち上がった。
「あかねちゃん、お久しぶりね」
「おじゃましてます」
「お風呂上がりで気持ちよさそうね。私もシャワー浴びたいわ」
 美沙が手で合図した。帰ってくれ、という意味にとれる。
 美沙の母の発言自体からも同じ意図を感じた。
「あ、すみません。すぐ帰りますから」
「そう? 何か悪いわ」
「待って。あかね、部屋にスマフォとか色々あるから」
「急がせちゃって、ごめんなさいね」
「いえ、すみませんでした」
 あかねは美沙と一緒に部屋に戻った。
「ごめんね。急いで帰ってもらっていいかな」
「私の都合で美沙の家にしてもらっちゃったんだし。気にしないで」
「なんで急に帰ってくるんだろう。せめて前もって帰ってくる時間が分かってれば」
 うつむく美沙の顔を、両手で挟むように持ち上げ、あかねは軽くキスをした。
「じゃあ、明日、学校でね」
 あかねと美沙は階段を降り、美沙の母にお礼をして家を出た。
 美沙はあかねが曲がり角に差し掛かるまで、玄関先に立っていたが曲がろうとしたあたりで家へ戻って行った。
 あかねはスマフォがダメになり、美沙との至福の時間も中途半端に終わり、不満が溜まっていた。何か買い物でもして気を紛らわしたかったが、さっきの五千円は使い切ってしまったし、お小遣いはやまとのバイト代を払ったせいか、来月分を待つしかなかった。
 後は部活で体を動かせればそれでなんとなく吹っ切れたかもしれないが、例の川西の問題の為に、このところ、土日の部活は中止になっていた。
 あかねが自分の家の前の通りを歩いていると、前を神林達が歩いていた。あかねは距離を詰めずに、遠くから見ていると、他の二人は町田、山川の三人だった。
 三人は、あかねの家の前で立ち止まった。どうやらチャイムを鳴らすかどうかを迷っているようだった。
 明らかにヤバイ状況だったが、美沙を頼る事は出来ず、スマフォで誰かに連絡することも出来ない。あかねは決断した。
 あかねは堂々と正面から家に戻る道をあるいた。
「あかね!」
 山川が一番先に気づいて声を上げた。
 あかねは近づくまでそれに応えなかった。
 充分に近づくと、あかねは神林を睨みながら言った。
「私の家に何か用?」
「あなたに用があるのよ」
「ここで話してよ」
 あかねがそう言うと、町田愛理が言った。
「河原まで行くから。そこで話すから来なさいよ」
「なんでそんなとこ行かないといけないのよ、馬鹿じゃないの? 河原なんて。何かされるに決まってるでしょ?」
 神林が言った。
「あかね、あんたは来なきゃいけなくなるわ」
「何でよ。力づくでそんなことするなら、大声だすわよ」
「美沙」
「?」
「美沙は河原に来るわ」
「え? そんな訳ないでしょ」
 だってさっき両親が帰ってきたばかりで、家を出られる訳がない。
 山川が言った。
「そんなわけがあるのよ」
 三人はニヤリと笑った。
 人差し指を立てた町田が自慢気に話し始めた。
「だって川西先生が呼び出し……」
「バカ! 愛理、黙りなさい」
 神林が町田の腕を引いて黙らせた。
「聞こえたわよ、今、川西先生って」
「どう、河原に来る気になったかしら」
 あかねは町田が天然ボケなのか、ひと芝居打ったのか、全く分からなかった。
 どうしよう……
 あかねは必死に考えを巡らせていた。


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