真琴は駅につくと、少し遠回りになるがOrigamiの通りを通って、目的のクラブへと行くことにした。通りを行き交う人の質が明らかに違うからだった。
「なぜ遠回りするのじゃ」
「(お祖父ちゃん、バッグの中から見えるの?)」
「GPSがあるから、どこを通っているか程度は分かる」
「(本当にスマフォみたいね…… あっちの道はおっさんばっかりで嫌なのよ)」
 真琴はそうい言いながらも、時間帯なのか、服装のせいなのか、視線を集めていることが面倒になっていた。
 男の人はどんな女性に対しても、性的興味だけはあるのかしら、と考えた。露出があればどんな女でも構わないような、そんな感じに思える。だとすると、露出度の高い服を好んで着る女性はどんな気持ちなのだろう。
 真琴はすれ違う人の目線を見ながら、そんなことを考えていた。
 クラブ・ヴェトロが近づいてくると、道を曲がった。曲がった先の通りには、おじさんばかりではなく、若い男女も歩いていた。まだクラブは始まっていないらしく、客と思われる人々は、店前の通りをブラブラをしているようだった。
 真琴が店の入り口を見ると、シャッターは開いていた。人は並んでいなかったので、とりあえず、地下の入り口まで入って見ることにした。
 地下への階段にもところどころ、開店を待っていると思われる若い男女がタバコをくゆらせていた。
 真琴が階段を降りようとすると、覗き込むようにしてから、ニヤッと笑った。
「一緒に飲もうよ」
 真琴はどう返事をしていいのかも分からず、無視して通り過ぎた。
「(なんて返せば良かったのかな)」
 階段の踊り場を過ぎてから、小声でお祖父ちゃんにたずねた。
「間に合ってる、とかでいいじゃろ。こんな場面でそんなこと言われた経験なんかないんでよくわからん」
 真琴が階段を降りきると、入り口付近でも男が二人タバコを吸っていた。一人は足を放り出して座っていて、もう一人は壁に寄りかかっていた。
 真琴は扉に準備中の札を見つけた。
 まだ扉の向こうのことは何も分からないが、何も動きを感じなかった。しばらくかかりそうな様子だ。真琴はそのまま壁際に立って観察した。
 座っている方の男は、寝ているのか、起きているのか分からないような表情だった。時々、床につけている手が口元に動いて、タバコを吸い、また脱力したようにペタン、と手をもどしていた。
 それらの行動や、表情から、吸っているのはタバコではないのでは? と真琴は思った。
 壁に寄りかかっている方の男は、真琴の顔や胸元、太ももの方まで舐めるように見た後、言った。
「どうだい、俺と一緒に飲もうよ?」
「……間に合ってる」
 なんとかそう言ったが、煙くて咳き込みそうだった。
 観察はやめにして、一度、通りに出よう、と真琴は思った。
「じゃ、間に合わなくなったら声かけてくれよ」
 真琴はその言葉に反応せずに階段を登った。
 地上に出ると、さっきより人が集まっているようだった。周辺の、別の店の呼び込みの為、女の人やボーイ風の男の人が通り掛かるおじさんに声をかけていた。
 真琴は待つ場所を探して、フラフラと反対側の店の壁へたどり着くと、寄りかかるように背中をあずけた。
「苦しい。バッグが潰れとるぞ……」
 と、お祖父ちゃんが言った。
 バッグごと、縫いぐるみを押し潰していたのだ。
「(ごめん。ちょっとお話するのはここまでね)」
「じゃ、コードを抜いといてくれ」
 真琴はバッグをおろして、ヘッドセットのケーブルを外して巻き取った。
「びっくりしたよ、見違えるね」
 そう言って、ロン毛の男が正面で手を上げた。下見に来た時にしつこく誘ってきた男だった。



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