「残念だけど。俺、約束入っちゃってさ。また今度ね」
 男は、さっきと同じ白シャツで、細いからだを強調したスタイルだった。
 真琴の方を見ると、
「君も結構いけてんだけどね」
 視線が胸元にきていることを感じて、真琴は手で隠した。
「今日は巨乳ちゃんが来てくれんだって」
 そう言うと、手を振って、クラブ・ヴェトロの方へ戻っていった。そこに男女数名がたむろしていた。どうやら、その何人かで遊ぶらしい。
 真琴はその男の事なんて気にもしていなかったのに、そういう扱いをされると少し悔しく感じ、なにかイライラしていた。
 真琴はその白シャツの男の行動を目で追いかけていた。
「!」
 その時、白シャツ男のグループに一人の女性が加わった。
 真琴はその人物に気づくと、思わず別の店の壁に隠れてしまった。
 加わった女性は、田畑まさみだった。
 このクラブが、今回の事件の中心となるに違いない。
 真琴はそう確信した。
 後は田畑がクラブ内でエントーシアンを増やす行動に出るかどうかですべてが決まる。
 真琴は『リンク』で薫らのグループにメッセージを入れた。
 メッセージは入れたが、皆は来れないだろう、と真琴は思った。昨日話した感じだと、涼子は撮影だし、薫はラボだし、たまちは応答ないし、とにかく、今日のところは一人でやるしかない。
 気持ちを入れ直して店の側をのぞき見ると、例の白シャツと田畑のグループが店の入り口を降りていくところだった。周りの客と思われる連中も、入り口の方へ進んでいた。
 真琴も時間をおき、田畑とは距離を置いて店の入り口に向かった。どうやら、順番に入れているらしく、行列が階段の上の方まで出来ていた。
 真琴が並ぶと、その後ろにも数人の男女が並んだ。
 待っていると、前に並んでいる連中の話しが耳に入ってきた。
「ねぇねぇ、今日はね」
 ポニーテールの女性が言った。
「今日は、『あれ』あるって」
 もう一人の長い髪を垂らした女の人がそれに応じるように、
「何かテレビで流れちゃったとか言ってたよ。だから今日が最後じゃないかって」
 というと、ポニーテールが、
「何それ、最後になるなんて聞いてないよ」
 黒いシャツの男が、タバコに火をつけてから言った。
「マジかよ」
「警察来たりしてな」
 もう一人のアクセサリつけ過ぎ男が言った。
「マジかよ」
 その四人の会話を聞いて、真琴は自分の進学のことがチラっと頭をよぎった。
「やだよ、警察きたら逃げるからね」
「健介だけ差し出して逃げるか?
「マジかよ」
 まったく同じリズム、声のトーンだった。この男、『マジかよ』しか言わないのか、と思うと真琴は笑いそうになった。


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