あかねは河原近くの公園で口をゆすぎ、服についた汚物を可能なかぎり落とした。しかし、家を出たときのピカピカの姿には戻らなかった。
 家族に見られた時の、何か、言い訳を考えなければならない。
 親に言ってしまえば、次は川底だ。誰かに相談するのは、自分が絶対にやられない裏打ちが出来た時だ。今はまだ黙って従うしかない。
 こんなに汚れる理由が、何も浮かばなかった。
 転んだって?
 全身泥だらけじゃないか、いったいどこで転んだって言うんだ。小さな子供じゃないのだ。
 ダメだ…… 何も思い浮かばない。
 あかねはそのまま公園のベンチに座っていた。
 小さな子供が追いかけっこをしていた。
 その親が、あかねを見て、変な顔をした。親同士が何か話し合っているようだった。私はどう見えるのだろう。いじめにでもあったように見えるのだろうか。
 まぁ、いじめには違いないか。
 あかねは吐いてしまったせいか、お腹が空いてきた。
 ゴロゴロ、と響く音がした。
 あかねは自分のお腹を抑えた。
「かみなみ、かみなみひかった」
 小さな子供が空を指差して母親のところへ駆け戻った。
 あかねはその指差す方の空を見ると、遠くで稲妻が走った。
 自分の腹がなったのではなく、この音だったのだ。
 あんなに晴れていた空に、急に雲が走っていた。
 ああ、こんな体中が痛くて、汚れているのに、神様は追い打ちをかけるように雨を降らすのか、とあかねは思った。小さな子供達は、母親の押すベビーカーに乗って急いで公園を離れていった。
 いや、そうじゃない。
 私の為に、服が汚れた理由を作ってくれようとしているのだ。雨に濡れまくれば、服の汚れなんて気にしないだろう。
 神がいるなら、私に救いの手を差し伸べてくれているのだ、とあかねは思った。
 ぽつり、と手甲に雨を感じた後は、土砂降りになるまでそう間はなかった。充分濡れるまで公園で待とうか、などと悠長なことを考えている降りではなかった。
 あかねは、急いで公園を飛び出した。
 歩いていると、殴られたお腹が痛む。
 走り出してくても、どうにもならない。
 家につくまでのほんの十数分で、肌着まで、水に浸したように濡れた。
 あかねは家につくと『ただいま』も言わず、着ているものを脱ぎ、風呂でシャワーを浴びた。
「あかね? 帰ってたの?」
 母の声がした。
「うん、美沙のご両親が帰ってきたから、一人で散歩してたの。そしたら、ゲリラ豪雨にあっちゃって」
「そう。大変だったわね」
 いつもの会話に過ぎなかったが、あかねは、何か、そのいつもさが大事だ、と感じてしまった。そう考えると、奥底から湧き上がってくる感情を抑えられなくなった。あかねは頭からシャワーを浴び、泣いていた。
 体を一通り拭いてから、タオルを体に巻きつけ、自分の部屋へと向かった。
「あかね、バッグもすごく濡れているけど、携帯大丈夫?」
「え? そんなに濡れてる?」
 あっ、まずい、とあかねは思った。
 あれだけ降ったら、水没したのと同じかも……
「それとも、その携帯って防水?」
「わかんない。お母さんバッグちょっと貸して」
 慌ててスマフォを受け取って、自分の部屋へと駆け込んだ。やっぱりお腹は痛かったが、母に体を見られたら大変だった。
 部屋に置いてあったスマフォの箱や、取説を見ながら、ある程度の防水機能が付いていることが分かった。
 あかねは自分の髪を乾かした後、スマフォの濡れてそうなところへ送風して水滴を飛ばした。
 これでスマフォもダメになってたら、やっぱり神様は酷いな。いくら服を汚した言い訳の為、雨を降らすにしても、限度ってあるんじゃない?
 思い切って電源スイッチを押し込み、起動させると無事にスマフォが動いた。あかねは、心の中で神様に謝った。


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