「何、びっくりするじゃない。ということは、図星なのね?」
 真琴はうなずいた。
「悪いけど、私が薬を持っているとか、この店が加担しているわけじゃないよ」
 頭を上げて、目を開いて古谷の方を見ると、古谷は真琴のまぶたを撫でて目を閉じさせると、そっと頭を肩に戻した。
「薬を売る客がいるらしいの。どいつか分かっていれば通報するんだけどね。この前のニュース映像には、こっちもビックリしたよ」
「ボクも見ました」
「そう。……っていうか、あんたは自分のこと『ボク』なんだね。私的にはそれもびっくりだ」
「なんとなくでもどの人なのかわかりませんか?」
「分からないよ。あれだけ鋭いミツルさんも分からないんだ」
「入口に座っていた方ですよね」
「そうだよ。あの人、この店のオーナーの息子なんだよ。あそこで廃人のように座ってるけど、しっかり通る客の質を見ているのさ」
「『質』なんて見て分かるんですか?」
「あの名越(なごや)にだってある程度は出来るんだから、ミツルさんならもっと精度が高く同じことが出来るんだろうね、よくわからないけど。そう。経験と勘ってやつなんじゃない?」
「そんないいかげんな」
 古谷は真琴の太ももを撫で始めた。
「な、何するんです?」
 真琴は頭を持ち上げて言った。
「ミツルさんの事を『いいかげん』とかいうからさ」
「それ、関係ないですよね?」
「うん。関係ない」
「女の子好きな人ですか?」
 そこまで言われても、古谷は手を止めなかった。
「あんたはどう思うの?」
「……」
「まあいいや。なんか気持ちよくてさ。若い肌ってのは良いねぇ」
 そしてもう一方の手で真琴の頭を自分の肩に戻した。
「で、何で『薬』を探してる? そういう遊びをする雰囲気の娘には見えないけど」
「……」
 太ももを撫でていた手が止まった。
「そりゃそうだよね。言えないよね」
 古谷は何か思い出すように言った。
「でも聞くけど。もしかしてあんた警察の手先、とかでもないよね?」
 真琴はうなずいた。
「とにかく言えないんです」
「そうか。わかった」
 寄りかかっている真琴の頭に、古谷がキスをした。
「なんなんです?」
「わかった、ってこと」
 しばらく二人は無言のままソファーの上で過ごした。
 古谷は思い出したように真琴の太ももを触った。
「それじゃ、私は休憩終わるけど。そうだ。あなた、この店でお酒のんで酔ったなんて、他所で言わないでよ」
「はい」
「じゃね」
 休憩が終わって、古谷が去っても、真琴の酔いは覚めなかった。
 その後も、何度かペットボトルから水を飲み、じっと回復を待ったが酔いは醒めなかった。
 もう、かなりの時間をロスしてしまっている。
 真琴は焦りを感じはじめた。
 だが、このままでもまずいが、酔った状態で敵と相対するのもまずかった。
 酩酊状態では、表の意識が影響を受けるは間違いない。裏の意識であるエントーシアンは、体の影響を受けない分、力が強力で、かつ正確に使える。
 抑制できない真琴の意識に漬け込み、敵エントーシアンにヒカリを利用されるパターンもありそうだった。
 だから完全に酔いがない、と確信出来ない状態は危険だ、と真琴は思っていた。
 一方、酔ってこの部屋に来たおかげで、古谷から薬に対しての情報を得れたのは良かった。それまでの先入観で、店側の方に気がいっていたら、客同士のやり取りに注目しなかったかもしれない。
 真琴はスマフォで『リンク』を確認した。
 バッグの中で待っているくまの縫いぐるみ−お祖父ちゃんからのメッセージが増えていただけだった。


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