時間がただ過ぎていく状況に、真琴は耐えられなくなっていた。もう酔っていない、と思い込んででも、店に戻るしかない。店内に戻って、すぐに戦闘とはならないだろう。であれば、店員の休憩室で酔いが覚めるのを待つなら、フロアに戻って偵察をしている方がマシだった。
 真琴が立ち上がると、部屋の扉が開いた。
 開いた先から、名越(なごや)が入ってきた。
「ん? なんでこんな所にいる?」
「カウンターの人に休んでいろと言われて……」
「ああ、そうか。何かそんなこと言ってたな。まあ、いいさ。……くれぐれも、トラブルだけは起こすなよ」
「……」
 ボクはどうもこの人が嫌いだ。
 明確に理由を説明せずに、ボクがトラブルの種になると思っている。
 真琴は返事をせず、軽く会釈をしてその場を去った。
 フロアに戻ると、再び大きな音に圧倒された。さっきよりは慣れるのが早かったが、音楽として聞くことが出来ないのは変わらなかった。
 真琴は踊っている人の中を縫うように歩き、人が少なく、壁によりかかれる場所を見つけた。
 そして人が音楽を楽しんでいるところを眺めながら、田畑の姿を探した。
 頭痛がする。
 ボクには、これがただの頭痛ではないことを知っていた。
 変だ。この頭痛は【鍵穴】と接触した時のもののはず。
 ボクはただ壁に寄りかかっているだけだ。
 真琴は左のこめかみを押さえながら、必死に考えた。
 もう一つだけ、この頭痛を引き起こすモノを知っている。
 ヒカリだ。ヒカリが覚醒したのだ。
 真琴はヒカリが手足の感覚にアクセスしてくるのを感じていた。
 全く無痛で、感覚が一つ一つ奪われていく。
 室内にかかっている大音量の音楽が、小さく聞こえたり、大きくなったりを繰り返す。それと同期するように、体が曲がっているのか、寝ているのか、立っているのかが分からなくなる。
 壁に触れている背中や手の感覚も奪われると、急に体がひっくり返って落下するような錯覚が始まる。
 すべては意識と体が着いたり、引き離されたりするせいだ。
 真琴は、気づくと、フロアの真ん中を歩きだしていた。ヒカリがそうさせているのか、感覚がめちゃくちゃな為に、結果としてそうなったのかは分からなかった。
 フラフラと一歩進んでは戻り、右に左によれながら、フロアを抜けていた。
 何度か奪い返す感覚で、どこにいるかを把握するのだが、誰かに腕を取られているようだった。
「…んたにい…まこ……ね…こ……き…」
 真琴が取り戻した視覚で、横にいる人物の一部が判った。
 肩出しのボーダーのトップス。
 加えて巨乳。
 田畑まさみだった。
 こっちの存在がバレてしまった。
 だから、ボクをどこかに連れ出そうとしているのか、と真琴は思った。
 最悪のパターンは、田畑まさみが【鍵穴】であった場合だ。単純に真琴の肉体を殺すか、ヒカリと共に真琴の意識を殺すだろう。意識だけをヒカリにすれば、真琴の体を使って、薫や涼子に近づくことも可能だ。
 田畑が全く無関係だとしても、このままヒカリに意識を奪われてしまう。この状況で、ヒカリが田畑に対して何をするか。当然、田畑に仲間のエントーシアンを誘引され、田畑さん本人がいなくなってしまう。
 あまりに無力だった。
 感覚をカットされ、ただ闇の中に放り出された真琴は、デタラメに走りまくるイメージをした。それでも闇が終わらない為、飛行するイメージに変えた。闇の終わりに、世界の端に到達する為に。ヒカリに閉じ込められた闇を脱する為に。
「!」
 突然、嗅覚だけが戻ってきた。
 さっき嗅いだことがある匂いだった。色んな香水が混じったような匂い。
 真琴はその匂いをきっかけに感覚を奪い返す戦いを始めた。


 ーーー
いつもありがとうございます。
お手間でなければクリックをお願いします→にほんブログ村