「試してみる?」
 田畑は、小さなスキットルを取り出した。
「それは?」
「ああ、ブランデーを入れているボトルよ」
「ぶ、ブランデーはちょっと」
 真琴はこの手渡された薬を飲むことは、なんとしても避けねばならなかった。
「じゃ、のみものなくても口に入れて噛み砕けばいいわ」
 田畑はボトルをしまうと、真琴の手を抑えて薬を奪い取った。
 そして袋から錠剤を取り出し、真琴の口に薬を入れようとした。
 体が密着して、田畑の大きな胸に押し込まれ、真琴は扉に体を預けた。
「ん!」
 真琴は歯をくいしばって薬を口に入れるのを拒んだ。
「?」
 田畑はくびをかしげた。
「欲しかったんじゃないの?」
 錠剤をつまんで、真琴の目の前にかかげた。
「じゃあ、私が」
 田畑は、薬を自分の口に入れた。
 そして真琴の後頭部に手を回してきた。
「!」
 何も抵抗出来ないまま、田畑にキスをされていた。
 真琴は条件反射的に目を閉じてしまい、そして、舌先が入ってくると、真琴も迎え入れるように舌を絡めた。
 田畑のふくよかな胸の感触が気持よかった。
 そうしているうち、田畑の舌から薬剤が押し込まれた。真琴は拒もうとするが、お互いの舌の上で、薬剤はおしくらまんじゅうのように行ったり来たりするだけだった。
 顔をそむけて薬を吐き出してしまえばいいのだが、強引なことをすると田畑の舌を切ってしまう恐れがある。
 その上、顔を抑えている田畑の腕力が強くて、思うように動けなかった。
 お互いの混じり合う唾液のなかで、薬剤は溶けていく。
 そうだ。
 この唾液を飲まなければ大丈夫。
 真琴はそう思っていたが、口が塞がれ、ぐいぐいと押し込んでくる田畑の顔に鼻の呼吸だけでは追いつかなくなっていた。真琴は息を吸うタイミングで、無意識に唾液を飲み込んでしまった。
「!」
 真琴は思わず目を開けた。
 田畑も気づいたのか、真琴が目を開けるとすぐに田畑も目を開けた。開けると同時に、キスの圧力が弱まった。田畑の瞳が、笑ったように細くなり、再び閉じられた。
 真琴は田畑のキスが強くなった為、再び目を閉じた。
 夢の中では戦ったことがあるが、現実では運動オンチの真琴は、田畑の体から離れることすら出来ない。
 このままでは薬が効いてきてしまう。
 田畑がもし【鍵穴】でなくとも、薬によって真琴が弱ればヒカリの覚醒を促し、真琴は消滅するか、無感覚の世界に幽閉されてしまうだろう。
 田畑が【鍵穴】であれば、このまま生物として抹殺されることもありうる。
 必死にもがく真琴の中で、頭痛が始まっていた。


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