あかねは教室に戻りながら考えた。
 美沙に好きと言った自分と、今、笹崎先生を好きだという自分。
 どうしてこんなことになっているのだろう。どちらかだけが好きでないとイケナイ気がしているのに、今も美沙の事が好きだ。かといって笹崎先生はどうでもいいわけではない。先生にも惹かれている。
 同時に好きではダメなのだろうか。
 辺りで話している女生徒の顔をみても、美沙や笹崎先生と会う時のような気持ちにならない。
 だから少なくも無差別に欲情しているわけではなく、何かちゃんと理由があるからだ。あかねは必死に言葉を選んだ。
 美沙は同世代でもあるし、やわらかな雰囲気が好きだ。
 笹崎先生は、大人の魅力があり、透き通るような肌や、スタイル抜群なところが好きだ。
 自分の選んだ言葉をもう一度考え直し、美沙に対しては感情的な好きがあるが、笹崎先生に対しては、肉欲的な好きしかない。ただエッチな感情だけの、ある意味不順で、純粋な気持だった。
 そんなことで人を好きになるのだろうか、そんな自分は異常なのだろうか。
 あかねは誰かに確認したかったが、それを相談出来る相手がいなかった。
 こんなことを美沙に言ったら……
 美沙のことをそういう目で見ていると思われてもイヤだし、正直にすべてを話してしまえば、同時に二人を好きな自分を知られてしまう。
 だから適当に関係が薄い相手で、かつ、口の硬い人に相談するべきだ。あかねはそんな人物が思い浮かばなかった。
 考えごとをしながら歩いていると、目の前に青葉系アイドルのような娘(こ)が目の前を通り過ぎた。
 あかねは考えを止め、その姿を目で追った。
「岩波先輩!」
 その美少女が振り返って、自分を呼んだ。
「?」
 誰という意識の外から呼びかけられ、それが香坂美々という名の後輩で、自分を探しにここに来ていることを把握するのに時間が掛かってしまった。
「香坂さん。どうしたの?」
「先輩!」
 いつかのように、香坂は体を預けるようにあかねに飛び込んできた。
 あかねは彼女の迎え入れるように抱きしめた。
 既視感があった。
「ねぇ、いったいどうしたの?」
 走ってきたのか、香坂の息づかいは荒かった。
「先輩……」
「さっきから先輩としか言ってないよ。何があったの?」
 通りかかった同じクラスの男子が、奇異な目でこっちを見ていた。
 少しでも目立たないように、廊下の端に寄るように体の位置を変えた。
「先輩…… あの…… あのですね……」
 大きく息をする香坂の体を感じ、何気なく視線を落としているそのうなじから、上がってくる湯気のような空気の香りに、あかねは欲情していた。
 さっきまで二人を好きでいいのか、と悩んでいたのに。
 これじゃ、ただのスケベ女だ。
「うん。落ち着いて話して」
「前に相談した、変なメッセージが届くようになって」
「内容から紗英しかいない、って言ってたメッセージのこと?」
「もっと酷いものが来るようになったんです」
 香坂はそう言った。
 あかねに抱かれている香坂は、目を伏せ、まるでキスを待っているかのようだった。あかねはまともに相談に乗れるのか、不安になった。
 今すぐにもキスをしてしまいそうだったからだ。
「どういうこと」
「なんか……」
 声がどんどん小さくなった。
「耳かしてください」
 あかねが右耳を香坂の方に向けると、小さな声で囁いた。
「エロいバイトの誘いとか、エンコーとか」
「!」
 あかねは過去、自分のスマフォにそういうメッセージが来たことを思い出していた。


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