あかねは香坂の両肩にそれぞれ手を掛け、少し体を離した。
「美々ちゃん、もしかして、変なWiFiにつないだ?」
 急に声の調子が変になったのを敏感に感じ取っていた。香坂は怯えたような感じだった。
「確かにつなぎました。なんかバスケ部の伝説の先輩の動画が見れるとかで」
 私と同じ理由だ。
 何故、どうしてこの娘(こ)まで同じ目に会うのだろう。
 誰がこんなことをさせているのか……
「WiFiの設定ってまだある? ちょっと見せて」
 香坂はスマフォを取り出して設定画面を出した。
 bitchとある。
 あかねはその画面をみて確信した。
「同じだ。私と同じ」
「え?」
「私もそんなメッセージがどんどんくるようになって…… 結局、スマフォは壊れててしまったから今はなんともないのだけど」
「え、そんな。買い換えるしかないんですか?」
「買い換えても同じメアドで設定すれば同じことよ。買い替えるのではなくて、メアドも『リンク』IDも作り直さないと」
 香坂はうつむいた。
 あかねはその気持が良くわかった。
 メアドだけならともかく『リンク』のIDを作り直しは痛い。
 複数作っていたら、全部もう一度作り直しだ。スマフォ内で設定していたIDというIDの再作成が必要なのだ。
 再作成してしまえば、今までの『リンク』はすべて消える。思い出も、写真も。
「ID作り直しなんて酷いですよ」
「けど、さっきのWiFiだと私と同じことになっているに違いないもの」
 香坂は泣き出してしまった。
 やたらと男子生徒が二人の方をジロジロみているようだった。あかねは気にしすぎているかとも思ったが、このままここで話しを続けてはいけないと思った。
「ちょっと渡り廊下まで行こうか」
 香坂が泣きながらうなずいた。
 あかねは香坂の小さい肩を抱きながら、渡り廊下まで連れて行った。
 窓が少し開いているせいか、ひんやりした空気が流れていた。
「どうしたらいいですか。いろんなスタンプとか買っちゃってるんです」
「……けどそれを使うにはこの変なメッセージを我慢しないといけなくなるよ」
「ブロックできないんですか?」
 香坂は、あきらめがつかなさそうにそう言った。
 あかねは自分もそうだったから、香坂が何を確かめたいか知っていた。
「もう、ブロックしてみたでしょ?」
 香坂は返事をしなかった。
「ダメだったから、私のところに来たんでしょ?」
 香坂はやっとうなずいた。
「私もスマフォとか詳しい友達に色々みてもらったけど、どうにもならなかった。新しい携帯にしただけでもダメで、ID全部作り直しだった」
 あかねは香坂の力になってあげたい、と思った。
 けれどこれ以上専門的なことはあかねにには出来ない。初期化してやり直すしかしらない。
 どうすればいいんだろう。
 美沙に相談しても同じ結果になることは分かっている。もっと詳しい人に聞かないと。
 そうだ。笹崎先生は理科の先生だし、もしかしたら詳しいかもしれない。
「心当たりのある人に聞いてみるから。もう少し我慢してね」
 香坂は小さくうなずいた。


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