真琴はフロアから逃げ出した。
 重い扉を開けて外に出て、化粧室の前まで来て後ろを振り返ったが、誰も追ってこなかった。
 真琴はそのまま化粧室に入ると、古谷が鏡の前に腰掛けていた。
 古谷は言った。
「あなたがどんな様子か、鏡を見てみなさい」
 真琴には、言われた意味がわからなかったが、進み行って、鏡を見た。
「!」
 鏡の中の真琴は、髪の色が緑色になっていた。
「どういう意味か分かる?」
「わかりません」
「そうありたい、ということ」
「?」
「緑の髪の自分でいたい、ということよ」
 真琴は何故ヒカリのようになりたいのか、理解出来なかった。真琴はヒカリのようになりたい、と思ったことはない。
「一体でいたい、とは思っているかもしれないけれど……」
「じゃあ、そういうことなんじゃない?」
 古谷は言った。
「そう言えば、何故、古谷さんがここに」
「私はあなたの幻影よ。本当のクラブ・ヴェトロにいた古谷じゃないわ」
 そういうと、古谷の姿は霧のよう小さい粒子のようになって何処かへ流れて消えた。
 一体になりたい、と思っている。
 ヒカリと一体になりたい。
 私が? いやそんなはずはない……
 それともヒカリが?
 一体になりたい、という気持ちが自分自身の意思なのか、ヒカリの精神の影響なのかは分からない。
 ただ、この自身の中に敵を包含する状況を脱するには、そんな風に融合するしかないという感覚もあった。
 もしかしたら、敵は融合しているかもしれない。今までのように乗っ取るのではなく、融合されてしまったらどうやってエントーシアンだけを倒せばいいのか分からない。
 同じように、自分が融合していたら、本当に自分の意思で行動しているのかもわからなくなる。本当に人類の味方になっているのかどうか。それすらわからなくなってしまう気がする。自分の意思で行動しているのか、ヒカリの意思なのか……
 けれど、今の時点でも自分の意思、というものが不明確だった。
 もう長い間ヒカリと共に過ごしていて、影響されているのかどうかは判別不能だ。だから、いっそ融合してしまうことで、ボクを殺そうというヒカリの反乱は抑えられるのかもしれない。
 だが、それは人類にとっては、正しい解決ではない。
 敵対するなら倒す。
 利用出来るなら活かす。
 結局、ボクは全てと戦うしかないのか……
「あっ」
 真琴は思い出した。
「ロン毛の白シャツが言っていたこと……」
 真琴は鏡に向かってそう言った。
 田畑だろうが、ヒカリであろうが、敵対するものとは戦わなければならないのだ。ヒカリが敵、味方、のどちらかなのかを確認する意味はない。
 ヒカリを倒し、田畑のエントーシアンを倒す。
 それしか人類にとってのプラスはない。
 真琴は鏡の自分の髪色が、スッと黒くなるのを確認した。
 そしてフロアにいる田畑に立ち向かう方法を考え始めた。


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