あかねは、先生にやさしく諭されて、とにかく部活にでる為に、一人で部室へ行った。更衣室で着替える娘(こ)も多かったが、あかねと同じように部室で着替える娘も多かった。
 あかねは部室に入るなり、部長に声を掛けられた。
「どう? 意見まとまった?」
 それは、あかねにだけ話しかけるような声の大きさではなかった。明らかに部室にいる全員の気持を代弁する為に声を掛けたようだった。
「あ…… それなんですが」
 あかねが話し始めると、途端に部室の中から話し声が消えた。
 自分の声も、部長にだけでなく、部室の娘全員に聞こえるように言っていた。
「今日、笹崎先生が部活が始まる前におな話してくれます」
「?」
 あかねは、自分が『笹崎』という名を聞いた時の印象と同じことを、この部室全員の人が思っていると感じた。
 お互いの顔を見合わせたり、思い出すような仕草をしている姿が見えた。
「女バスの、『もう一人の顧問』の笹崎先生が話してくれます」
 ようやく、全員、あかねの言った意味が判ったようだった。
「少なくとも、笹崎先生には川西のことが伝わったんだな」
 あかねは、笹崎先生預かりになっている事実を、この場で説明したくなかった。
「いえ…… まだ信用してもらえていないというか……」
「え、どういうことなの?」
 あかねは慌てて手を振った。
 今話してはいけない。
 今話したら大変なことになる。
「先生から話してもらうことになったんです。笹崎先生がくるので、そこで話します」
 あかねはそう言ってうつむいた。
「わかった。それならそうと早く言ってくれれば済むのに」
 橋本部長は、そう言って事態を収束させてくれた。
「岩波も早く着替えて集合ね」
 部長についていくように、何人か部員が体育館へ向かった。
「あかねお疲れ」
「ありがと」
 あかねはそう言って微笑み返そうとしたが、頬が引きつったように固くなっていて、笑えなかった。何か嫌な緊張感が高まって、しばらくの間、シャツのボタンが上手く外せなかった。
 部員が次々に体育館へ移動していく中、あかねはそうやって着替えをしていると、最後の一人が出ていった。
 そして入れ替わるように香坂が部室に入って来た。
 香坂は、だまってあかねを見つめていた。
「どうしたの? そろそろ準備終わるから私も行くよ」
「あの」
 あかねはその声を聞いて、バッグを担ぐのを止めた。
「先輩、私のスマフォのこと、最初から笹崎先生に話そうと思っていたのですか?」
「……そうだけど」
「そうですか。それなら良いんです」
 香坂が目を伏せるようにしてうつむいた。
 あかねは慌てた。
「ま、まずかったかな。誰に相談するか始めに言っておけばよかったね」
 香坂は首を振った。
「いえ。気にしないでください。さあ、部活に行きましょう」
 あかねはバッグを担いで部室の鍵を手にした。
 二人が一緒に体育館への通路を歩いていると、香坂が言った。
「なんとなく……なんですが。笹崎先生って信用できるんでしょうか……」
 声が小さく、あかねはどう返事してい良いか分からなかった。
「なんかあったの?」
「いえ、特に何も。ただの気のせいです」
 あかねは本当に答えに詰まってしまって、そのまま体育館まで香坂に声をかけられなくなってしまった。


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