真琴は、自分の姿を丸写した、その人物呼びかけた。
「ヒカリ?」
 相手はうなずいた。
「ボクを助けてくれるの?」
 こちらの見たままだった。
「……どうしたの」
 真琴は何も話さないヒカリに、何があったかたずねた。
「これ」
 何かをすくったように、手を皿のようにくぼませていた。
 真琴はヒカリに近づき、その手の中にあるものを確かめた。
 何もない。
 ただ、少し濡れているだけ。
 不思議に思った真琴がたずねた。
「何?」
 ヒカリは自分の手のひらを確かめるように覗き込んだ。
「頬から落ちた」
 ボクの感情は、すべてヒカリも感じているのだと思っていた。
 ボクの思考はすべてヒカリも同じように考えられるのだと思っていた。
 体はコントロールできるし、笑うことだって出来た。だからヒカリはボクと入れ替わることが出来るはずだ。
 なのに、涙、が理解できていない。
 真琴は言った。
「これは涙と言って」
「知ってる」
 ヒカリは真琴を睨みつけた。
「知ってるの。どういう感情で流すものなのかも」
 真琴は何が知りたいのか分からなかった。これ以上説明出来ることは無かった。
「じゃあ……」
「何故、完璧に体を支配していたはずなのに、あなたは涙を流すことができるの?」
「!」
 ヒカリはボクの首を締めてきた。
「死になさい。完全にボクの中からいなくなりなさい」
 真琴の中で、涙が流れるような感情が湧き上がってきた。自分の中にあるものではないことが、不思議にハッキリ判っていた。なぜなら、目の前にいるヒカリが泣いていたからだった。
「どうしてボクまで悲しくなるの? この体は何なの? ボクと真琴はどういう関係なの? 教えてよ……」
 首を締める力が急に抜け、ヒカリは崩れるようにしゃがみ込んでしまった。
 真琴の頬にも、涙が伝っていた。
 もちろん、これが実際の感覚なのか、この夢のような映像のなかだけの事象なのか、区別がつかなかった。
 確かなことは、ヒカリは敵対しないだろうということだった。
 ヒカリとボクはその場で泣きあった。
 泣くこと自体はヒカリも知っていて、真琴が泣いていることも、意識下にいる時には経験しているはずだった。
 けれど肉体が震えるように反応した、涙という行為を、ヒカリが体を支配している時に経験したのは初めてだ、と語った。
「いつも、真琴が体の感覚を戻そうとするのとは、全く違う感覚だった」
 ヒカリはそう言った。
「まるで異次元から突然現れたUFOからレーザーで撃ち抜かれたような感じ」
 ヒカリは胸を打たれて倒れるような仕草をした。
「頭がおかしくなったのかと思った。さっきの薬のせいかなにかで」
 涙がそんな、肉体と精神を繋ぐ何かだとは思えなかった。しかし、今確かにその力によってヒカリと和解できるのだ。
「ボクは真琴と同じ体にいる。だから涙はボクと真琴の絆だ。ボクと真琴はつながっているんだ」
 ヒカリが真琴の体を引き寄せた。
 真琴も膝立ちになって、ヒカリの体を抱きしめた。



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