笹崎先生は、まず自らが女バスの顧問にどういう経緯でなったか、ということと、どうしてしばらく部活にこれなかったかを流暢に説明していた。あかねはその経緯やこれなかった理由は初めて知ったが、部活に顔を出せない理由はよく理解出来なかった。それは良くある大人の言い訳のようにしか思えなかった。
 反対に先生が顧問になった理由には興味を惹かれた。
 過去のクラス対抗の球技大会の際、あまりに強いクラスがあった為、球技大会の時間が余ってしまい、余興として急遽やることになった教師対優勝クラスのエキシビションマッチで、当時教員になったばかりの笹崎先生が活躍した為、直後の職員会議で顧問になってしまったということだ。試合は、教師チームのぼろ負けだったようだが。
「先生、バスケやるとこ見せてください」
 先生の話が終わっていない内に、麻子が言った。
「私もみたい」
「見た~い」
 軽いノリの声がちらほらわき上がり、先生は説明の途中だからと言って、押さえるような仕草をしたが、『活躍した』と自分で説明してしまっている流れで、なにも見せないというのは、部員達からすれば納得出来ないだろう。
 あかねも先生のバスケには興味があった。
 だから、先生の側に立ってこの騒ぎを治めようとは考えなかった。
「困ったな……」
 そう言って先生が弱っているところに、橋本部長が立ち上がって、言った。
「じゃ、私パス出ししますから、ドリブルシュート見せてください」
 部長は、人差し指を立てて、一回だけ、というような意味を付け加えていた。
「全然やってなくて…… だから、失敗しても笑わないでね」
 部員が一斉に拍手した。
 あかねは失敗しないでください、とだけ願っていた。いや、失敗してもいいから、ブザマに転んだり、つまずいたり、笑われるようなことにだけはならないで欲しいと願った。
 皆に笑われてももちろん先生のみかたです。けれど出来れば笑われないで……
 笹崎先生は、準備運動を始めた。
 あかねはそれを見て、ハードルが一つあがってしまった、と思った。
 これで出来ないと、時間を取った上に大したプレーでもない、という印象になってしまう。
 失敗したり、転んだり、足をくじくなら、準備運動などをせず、時間を空けずにプレーした方がましだ。言い訳が出来る。
「先生」
 部長が何気なくパスを出した。
 あかねは息をのんだ。
 素人を試すようなボールのスピードだった。
「おお……」
 先生は、しっかりとキャッチして、両足で着地した。
 あかねは、静かに息を吐いた。
 あかねが気にするほど、下手ではないかもしれない。運動下手な疑いが晴れたわけではないが、なんとなくそう思わせるような捕球だった。
 チェストパスで部長にボールを戻すと、先生は後ろ向きに走りながら手を上げてボールを要求した。
 部長が的確にパスを出すと、キャッチしてすぐドリブルが始まった。そして、そのままゴールへ入っていくと、レイアップシュートし、ボールはボードに当たってネットを揺らした。



 ーーー
いつもありがとうございます。
お手間でなければクリックをお願いします→にほんブログ村