意識だけが田畑まさみを見ていた。
 田畑はフロアの客に混ざって、ただ音楽に身を任せ、体を動かしていた。
 髪の長い、ひょろ長い白シャツの男が、田畑の背後から近付き、耳元で何かをささやいた。田畑はのけぞって、男に体を預けた。
 男はさらに何かを耳元で話し続け、田畑は目を閉じ、笑ったり、気持ちよさそうに吐息をもらしたりした。白シャツの男の左手は、田畑の体を這いながら腰から下へ向かっていった。スカートの裾のしたに行き着くと、今度は内ももに向かって指を沿わせた。
 右手は体に巻き付くように反対の腰に伸びたかと思うと、そのまま脇の方へあがって行き、田畑まさみの最高峰を目指して動いた。
 田畑は白シャツの腕を叩いたり、手を取り導いたりを繰り返した。だから、白シャツの手は未だに最終目的地へ到達していなかった。
『あれは何をしているの』
 意識の中のヒカリがたずねた。
『なんて言ったらいいんだろう』
 真琴はそう考えたままを口にだしていた。
 その後は少し言葉を選らんだが、結局適切な表現が見つからないまま、最初に思ったことを口にした。
『男が自分の気持ちいいことをしているのよ』
『触ったりすることが?』
『触られることもね』
 意識の中で、ヒカリがどんな風に受け取ったか分からなかった。お互いの顔や体が見える状態でないと、どう思ったか、どう思われたかが分からないのだ。お互い同じ体の中にいるのに、言葉を通じてしかやりとり出来ないことを歯がゆさを感じていた。
『こういうことよ』
 ヒカリと真琴は田畑のいる風景に姿を現した。
 真琴はヒカリの後ろに回り込み、白シャツの男と同じように抱きしめた。
「どう? 分かる?」
 真琴は囁くようにヒカリに言った。
「体が感じるのよ。これは意識的に感じるだけのものではないの」
 田畑のように手を戻したり、叩いたりしない為、真琴の手は容易にヒカリの胸の突起に到達していた。
「?」
 真琴は軽く摘まんで、引っ張るようにしてみたり、指と指の間を転がすようにして、刺激した。
 全く無反応だったヒカリは、ある臨界を迎えたように、急に声を上げた。
「あっ…… ん……」
 真琴はすぐに手を離して、ヒカリを引き倒すように強引に後ろに下げた。
 今、まさにヒカリのいたはずの床に、田畑の伸びて来た拳が叩きつけられた。
「?」
「気づいてたの?」
 そう言うと田畑の口元がニヤリ、と歪んだ。
「残念だけど、ヒカリはこっちの味方よ」
「こっちだって田畑まさみは味方だよ」
「ここにはいないのに?」
 田畑は急に笑い始めた。
「ここにいるさ。最初からずっと」
「まさか…… 癒着してしまっているの?」
 最悪の事態だ。
 頭痛もないのに、まるでエントーシアンに支配されたような言動をとるのは、区別がつかないほど精神が癒着、融合してしまっていたせいだったのだ。
 真琴は、田畑のように意識が融合してしまっている場合、どうやって倒せばいいのか分からなかった。この場での破壊は精神そのものの破壊に等しい。とにかく田畑の姿とエントーシアンの姿に分離して、エントーシアンのみを破壊しなければ、田畑まさみは助からない。
 真琴は答えを求めるように振り返ったが、ヒカリは首を振るだけだった。
「すまない。ボクにも分からないよ」



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